ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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今回からはしばし暗黒界側。


オリキャラ登場です。



楽しんでいただけると嬉しいです。





暗黒騎士イキシア

 

 

 

 

 

 

「──報告は以上になります。閣下」

 

 

 

 

 

 その男、暗黒騎士イキシア・イヴェガンは一本の芯が通ったような声音でそう言った。

 

 きっちり整えられた暗い金髪と、引き締まった凛々しい顔が勤勉さを醸し出している。

 

 部屋の照明に反射して深い紫色に輝く暗黒騎士の鎧に身を包み、伸ばした背筋には乱れがない。

 

 騎士の見本のような出立ちのイキシアに、閣下と呼ばれた男は小さくため息を付いた。

 

「そうか……侵略に失敗し、奴らはいきり立っているようだな」

「所詮、浅知恵しか働かない獣共といったところでしょう。奴らの殺戮への欲は増すばかりです」

 

 片手に携えた資料にある、《果ての山脈》北部からのゴブリン、オーク混成軍の侵攻作戦失敗を一瞥する。

 

 ほんの一日前、イキシアがとある筋から得た、確実な信憑性のある情報。

 

 古くより語り継がれた、人界と暗黒界を隔てる大門の崩壊に先じようとして欲をかいた者達の末路だ。

 

「うむ……騎士団内も、徐々に雰囲気が悪くなっている」

「はい。東の大門が崩れた暁に起こるであろう戦乱に、皆息巻いています」

「ふむ……長としては悩ましいばかりだ」

 

 暗黒騎士団長、またの名を《暗黒将軍》たるビスクル・ウル・シャスターは唸る。

 

 短く刈り上げられた頭髪や整えられた髭、四十を超えてなお筋骨隆々に引き締まった体。

 

 何より、座っているだけなのに醸し出される覇気が、称号に恥じぬ彼の威厳を表していた。

 

「それで。私の話を聞き入れそうな者はどれほどいる」

「並の騎士達は、閣下の威光があれば如何様にも。序列持ちの騎士達は……三分の一、といったところでしょうか」

「皆、己の剣に誇りを持っているからな。誉れを得る機会から退きはすまい」

「交渉によっては、もう一人二人程ならば抑えられるかもしれません。……そして勿論、私と〝彼女〟も」

 

 議論の余地もなく、慎重に機を見定めるというシャスターの考えに同意する。

 

 至極真面目な顔で意思を表したイキシアに、ふとシャスターは微笑んだ。

 

「礼を言うぞ、イキシア」

「いいえ。貴方に頂いた御恩に比べれば、この程度のことは当然です」

 

 胸当てに手を置き、軽く首を垂れる。

 

 

 

 

 

 イキシアは、十の頃に孤児となった。

 

 広大な暗黒界には非常に凶悪な魔物が数多く跋扈し、その内の一体に両親は命を奪われたのだ。

 

 その後、暗黒騎士であった父のよしみでシャスターに引き取られ、彼の元で育てられた。

 

 養父より剣の技と聡明さの全てを受け継ぎ、今や暗黒騎士第二位の地位にまで上り詰めた。

 

 名実ともにシャスターの副官として、彼の未来を憂いた考えに心から賛同している。

 

 その姿勢を見せたイキシアが頭を上げたところで、シャスターは真剣な面持ちになった。

 

「もはや、闇の五種族の軍勢は極上の餌を前にした飢える狼の如き様相だ。前回の会議では、人界の土地と財産、奴隷をいかにして分割するか大いに紛糾した程だからな」

「あれは悲惨と言わざるを得ませんでした。誰一人として未来のことなど考えていない、獣ばかりです」

 

 力こそ全てである暗黒界は、十人の諸侯を頂点として仮初の平穏を保ってきた。

 

 だが、五種族の未来を背負うべき者達は支配欲に溺れ、血で血を争う《鉄血の時代》が再来しようとしている。

 

 東の大門が崩れれば、人界との争いだけでなく、その後に数百年に及ぶ大乱が起こるであろう。

 

 ……だが、二人には()()()()()危惧していることがあった。

 

「それで……例の調査はどうだ」

「…………は。暗黒界中の魔物達が、異常な活性化を始めています。個々の力が増すのみでなく、その繁殖の速度もこの半年で大幅に増幅しました」

 

 自分にとって最も忌むべきその事に、イキシアは僅かに眉根を寄せて答える。

 

 ふむ、というとても重々しい相槌が、シャスターの口から漏れた。

 

 少し瞑目して考えたシャスターは、徐ろに次の言葉を彼へと投げかける。

 

「やはり、伝承は真実のようだな──覇邪竜の復活は、目前に迫っている」

「…………はい」

 

 

 

 

 

 

 

 ──それは、創世の時代より語り継がれる災厄の徴。

 

 

 

 

 

 

 

 大門が崩れ、光に恵まれし人界と闇に染まりし暗黒界が交わりし時。

 

 大地を染め上げる血と屍、吹き荒れる憎悪と欲望の中で、冥府より目覚めし邪悪たる覇王。

 

 その者は暗黒界の半分にも匹敵する体躯を持ち、神をも灰燼に帰する金雷を纏いし破滅。

 

 殺戮と死の象徴にして、終焉を言祝ぐ、遍く命の敵。

 

 伝説に刻まれしその名は──

 

「────ロヴィナ。かの竜が目覚めし時、魔なる者どもは歓喜し、王の復権に馳せ参じるが為に集まるであろう、か」

「……争いが起これば、確実にかの者は目覚めるでしょう。そして、我々も人界も、あらゆる命はロヴィナによって永久(とこしえ)に冥府へと誘われる」

 

 暗い表情で、二人は最期の刻を憂いた。

 

 子供でも知っている古い物語に大の男二人が恐る様は、一見滑稽にも見える。

 

 

 

 

 

 

 だが、それは単なる御伽噺ではないのだ。

 

 暗黒騎士団は、長年《果ての山脈》にて人界の整合騎士達と小競り合いを繰り返す傍で調査をしてきた。

 

 百数十年に渡る探求の結果、計測するのも馬鹿らしくなるほどの超巨大生物が、地底で眠っているのを確認している。

 

 何よりも。

 

 その生物の四つ首のうち一つが、岩山を削り出して造られたこのオブシディア城の地下深くにあるのだから。

 

「伝説では、人界を守護する四柱の竜が覇邪竜を討ち倒す、とあるが……」

「二つの世界同士の殺し合いになれば、共同戦線など望むべくもありますまい」

 

 ロヴィナには、シャスターやイキシアはおろか、人界最強の整合騎士達すら歯が立たないだろう。

 

 強力無比な力を持つ神器と精妙な剣技、不老の肉体を有する彼らでさえ、かの竜には羽虫に等しいのだ。

 

 希望はただ一つ──四柱が揃いし時、ロヴィナの絶大にして深淵なる魂を打ち砕くとされる聖竜のみ。

 

「ですが、そもそもロヴィナが復活しないという可能性もあります」

「闇の神ベクタの降臨と共に、その封印が解かれる、という話か……だが、不安要素を潰しておくに越したことはない」

 

 無限の天命を持つ鎖によって閉ざされた玉座の間が開かれることは、永劫にあり得まい。

 

 しかし、実際に魔物達の活発化が始まっている以上、その兆候は訪れているのだ。

 

「確かにそうです。しかし、山脈からの通り道を護っていた竜達は人界を統べる公理教会の最高司祭によって討ち果たされています」

「だが、望みは消えていない。そうだろう?」

「…………かの騎士のことですか」

 

 一瞬でとある人物のことを思い浮かべたイキシアへ、シャスターは頷いた。

 

 自分の想像が確信に変わり、彼は脳裏に描いたその人物に震え上がった。

 

 

 

 

 

 復讐の騎士、バルド。

 

 

 

 

 

 原初の整合騎士でありながら最高司祭に叛逆し、三百年の刻を生きる憎炎の騎士。

 

 その力は鬼神の如く、人界のみならず暗黒界にまで放浪するかの者に斬られた暗黒騎士は百人を優に超える。

 

 実際、シャスターも数年前に一度だけ剣を交えたが──あの時ほど死を感じたことはなかった。

 

 その様を間近で見たイキシアもまた、バルドの人域を超えた力をよく知っている。

 

「奴は、二つの守護竜の力を操っていた。そして整合騎士に一人、それらしき神器を持つやつがいる」

「ライオット・シンセシス・サーティーン……奴の妙技に敗れた屈辱、忘れてはおりません」

 

 彼にしては珍しく、対抗心やそれに類する感情を怜悧な瞳に表出させた。

 

 シャスターの一番弟子を自負する彼にとって、呆気なく竜の背から撃ち落とされ、命からがら逃げ延びた経験は苦いものだ。

 

 ある意味人間らしい、義理の息子のような騎士の表情にシャスターが悪戯げに笑う。

 

 それに気付き、一つ咳払いをしたイキシアはその感情を抑え込んだ。

 

「彼らに話が通じると思いますか?」

「竜が斃れ、その意志と宿命を受け継いだ担い手達……奴らの目的もロヴィナの打倒にあるはずだ」

 

 ならば、一時的にせよ協力関係を築くことは、全くの不可能ではないはず。

 

 他の諸侯の誰もが考えないであろう、暗黒界人の中では異質なその企みに、イキシアも首肯する。

 

「それに、騎士バルドはともかく、もし戦争になってしまえば騎士ライオットを確実に敵に回すことになる。そうすればいかに我らが数を揃えたところで、壊滅する可能性が高い」

「強大なる竜の力を宿した神器と、それを十全に扱いうる奴の技量……闇の軍勢五万を以てしても、閣下は御しきれぬとお考えですか」

「これまでに竜達が屠った闇の民の数は、数千ではくだらない。そこに他の整合騎士達もいるとなれば、一万も残れば良い方だろう」

 

 人界を守る四聖竜の勇名は、暗黒界においても名高いものだ。

 

 それに匹敵するライオットの力の程もまた、世代を経て暗黒騎士達もよく知っていた。

 

 語り継がれる忌み名は無情なる緋髪の騎士。または荒れ狂う竜爪の狩人。

 

 

 

 

 

 加えて、同等かそれ以上の力を持つ整合騎士達があと三十人もいるというのだ。

 

 どれだけ騎士やオーガ、暗黒術師などがいようと、良くて双方壊滅。

 

 下手をすれば、《十侯》を含めたあらゆる戦力は暗黒界から消え去ることとなる。

 

「もしもそこに、何かしらの理由で騎士バルドが加わろうものならば──」

「……全滅、ですか」

 

 先に答えを告げたイキシアは、無言でいるシャスターの眼差しから肯定を読み取った。

 

 過去、彼を傀儡にせんとした暗黒術師ギルド総長ディー・アイ・エルの全力の呪いすら、あの炎で容易く焼き滅ぼしたのだ。

 

 五種族全てが分け隔てなく、黒焦げの骸となって戦場に転がる様を明確に思い描くことができた。

 

 戦慄するイキシアに、両手を組んだシャスターは厳かに告げる。

 

「よって、我々の目的は二つだ。騎士バルドと敵対しない、あるいは利害関係を結ぶこと。そして、戦争を回避して騎士ライオットの助力を取り付けることだ」

「……茨の道と言わざるを得ませんね」

 

 騎士バルドは、こちらが仕掛けなければ戦うことはない。触らぬ神に祟りなしというものだ。

 

 だが、戦争への流れを止めるには何かしらの機──残り九席の諸侯を黙らせるだけのきっかけが要る。

 

 それが今すぐに都合よく来ない限り、イキシアには何年もかけて根回しする以外に思いつかなかった。

 

「闇の民の欲望で、アンダーワールドそのものを終わらせるわけにはいかん。何としても奴らと手を取り合わなくてはならない」

「どこまでもお供いたします、閣下」

 

 しかし、だからといって今更シャスターを諫めることはあり得ない。

 

 間髪入れずそう言った彼らに、養父は自然と笑みをこぼした。

 

「……ふっ。お前が支えてくれるならば、これ程心強いことはないな」

 

 父母の死に暗い目をするばかりだった少年が、いつの間にやら立派になったものだ。

 

 徐ろにシャスターが差し出した手を、少し目を見張った後にイキシアは握り返すのであった。

 

 

 

 

 

 直後、外から扉を叩く音がした。

 

 他の誰にも聞かせてはならぬことを話していた二人は、一瞬で警戒する。

 

 何重にも対策を施され、ディーですら盗聴できないであろうシャスターの居室。

 

 オブシディア城十八階に位置する、現行最高権力者の一人である彼を訪ねてきたのは──

 

「閣下、リピアです」

 

 扉を隔てて聞こえてきた声と名乗りに、二人はホッとした。

 

 その人物は、二人が互い以外に唯一信頼している者であったからだ。

 

「入れ」

 

 力を抜き、ソファーに体を預けたシャスターが大きな声で告げる。

 

 その際に目配せをされて、イキシアは彼の意図を察すると小さく微笑んだ。

 

「それでは閣下、私はこれで」

「ああ。何か分かったらまた報告してくれ」

「はっ。……それよりも。彼女との事、思い切ってください。今日こそはと決めたのですから」

「ぬう……わかっている」

 

 初めて威厳のある表情を崩し、少し照れくさそうにするシャスター。

 

 そんな養父に温かみのある笑みを向けて、軽く礼をすると身を翻した。

 

 扉のほうに歩いていけば、ちょうど入室してきた、灰青色の髪の美しい女騎士と対面する。

 

「リピア。任務ご苦労」

「イキシア。そちらも、閣下の副官として恥じぬ働きはしていたか?」

「無論。これにて私は失礼する」

「ああ。またな」

 

 気安い様子で言葉を交わし、リピアと視線を切るとそのまま部屋の外へと歩き出した。

 

 幼年学校時代の同期であり、男女の垣根を超えた友人である彼女に、少しの声援を心の中で送りながら。

 

 背後で扉が閉められる音がしたところで、表情に毅然としたものを取り戻す。

 

 そして、下階にある自室へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 皇宮の中は、程よい静けさに包まれている。

 

 主であるベクタがいない為にその利用目的は専ら《十侯》の集会となり、普段はこんなものだ。

 

 時折すれ違う政務官や商業ギルドの会員達は、何かしらの職務に忙しなさそうにしている。

 

 騎士達に対抗意識を持つ魔女達も、イキシアを見るなり憎まれ口を噤んでいた。

 

 それはオーガのような筋肉質の長身から醸し出される威圧感に怯み、また端正な顔立ちに好色を発するが故。

 

 自らに注がれる視線の一切を意識の外に追いやり、黙々と歩み続けた。

 

「………………」

 

 十八階を後にして下の階へと降りていくにつれ、人影も少なくなっていく。

 

 めっきりすれ違う人間はいなくなり、暇を持て余している衛兵達の数もまばら。

 

 そこまで来て、不意にイキシアは口を開き──

 

「──これでよろしいか、()()()()殿()

「──ええ。ご協力感謝します、イキシア様」

 

 呟くように言えば、()()()()()()使()()は鷹揚に頷いた。

 

 まるで最初から並んで歩いていたように、平然とオブシディア城を闊歩しているスワロウ。

 

 彼の存在に全くの驚愕も警戒もせず、イキシアは淡々と前だけを見ながら口を動かす。

 

「これで、人界と暗黒界の和平に一歩近づけた。()殿()()()()()()にな」

「イキシア様の存在があってこその結果です。私一人ではとてもここまで実現できません」

 

 よくもまあ、いけしゃあしゃあと言えるものだとその男を一瞥する。

 

 その気になれば、シャスターを操ることはおろか、自らの手で《十侯》達をも下せるだろうに。

 

 本人曰く、争い事は苦手であり、また他に為すべき事があるために、手を貸してもらう他にないらしいが。

 

「それで。リピアが持ち帰ってきたはずの情報は?」

「抜かりなく。半年前に最高司祭アドミニストレータは剣に倒れ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と」

「流石、と言わざるを得んな」

 

 イキシアは、感服とも呆れともつかぬ溜息をついた。

 

 

 

 

 

 三ヶ月もの間、人界へ斥候任務に赴いていた友が命懸けで掴んだ情報。

 

 それにもまた、スワロウが一枚噛んでいる。

 

 新たな最高司祭の存在は伏せ、シャスターが話ができる相手だと感じているベルクーリを表に出す。

 

 得られる情報を制限することにより、心的印象を操作し、ある一つの結論を導かせるのだ。

 

「人界との和平。それによる戦争と、ロヴィナ復活の回避…………上手くいくと思うか?」

「そうでなければ、この世界に未来はありません。私が四百年以上生き長らえてきた意義さえも」

 

 柔らかな口調でいて、そこには確固たる信念が宿っているように思えた。

 

 人界と暗黒界。アンダーワールドを構築する、相反する二つの世界の平穏。

 

 それこそが、イキシアがかつて当人から告げられて知ったスワロウの目的。

 

 聞けば、自分が生まれる数十年前にあった百年の戦乱、《鉄血の時代》の終結にも裏で尽力したのだとか。

 

 その全ては、確定された未来──光と闇の世界の戦いと、その最中で目覚める厄災の回避の為。

 

「……改めて聞くが。本当に、()()()()()()()は近いのだな?」

「誠に残念ながら、事実でございます」

 

 スワロウの答えに、イキシアは奥歯を噛み締めた。

 

 飢えと暴力に支配された暗黒界に住む、闇の民全てが待ち続けたその時が近づいている。

 

 だというのに、彼の心には冷ややかな絶望と焦燥ばかりがあった。

 

「知っての通り、ロヴィナの復活には三つの要素が必要です」

「……ああ、覚えている」

 

 イキシアは心の中で、創世記の神話に記されたその条件を反芻する。

 

 

 

 

 

 一つ。竜の魂を秘めた神器に選ばれし、騎士の誕生。

 

 

 

 

 

 ロヴィナを唯一殺すことのできる、白の貴竜、蒼の大竜、赤の蛇竜、黒の翁竜。

 

 その守護竜達が斃れ、長き眠りの果てに生まれるとされる、終焉を打ち砕く至高の騎士達。

 

 

 

 

 

 二つ。膨大な生物の死と、そこから生み出される〝負の神聖力〟とも呼ぶべき力。

 

 

 

 

 

 東の大門が崩れ、光の世界と闇の世界が剣によって交わる時、争いの中で散る無数の命。

 

 それらを吸い取り、かつて三女神によって地の底に封じられたロヴィナは力を取り戻す。

 

 

 

 最後の一つ。それこそが、闇の神ベクタの再来。

 

 

 

 絶望と破滅を望むかの皇帝の封印は、同時にロヴィナを抑え込む最大の要でもある。

 

 それがあるからこそ、自分達は今もこうして呑気に話をすることができているが……

 

「近いうち、ベクタと名乗る者が玉座に現れ、人界にいる《光の巫女》……あるいは《白の騎士》を求め、戦乱を起こそうとするでしょう」

「そしてロヴィナも覚醒する、というのか……なんということだ」

「であるからこそ、アドミニストレータの死という情報をもたらしたのです。ベクタがこの世界に降り立つよりも早く、戦争の火種を鎮める為に」

「……ああ、分かっている。貴殿の助力、無駄にはしないと誓おう」

 

 こめかみを揉んでいたイキシアは、重厚な決意の仮面を顔に被り宣言した。

 

 折角、大恩ある師にして養父たる男と、子供の頃からの友が結ばれようというのだ。

 

 破滅が見え透いた無為な闘争で、目前に迫った幸せを壊させなどするものか。

 

「私も、最大限の行動をお約束します。共にこの世界を守りましょう」

 

 そんな彼に、スワロウも神妙な表情で頷くのだった。

 

 

 

 

 

 二人は歩き続けていたが、やがてふと顔をしかめた。

 

 暗黒騎士第二位と、生まれながらにして高い能力を備えたメンタルヘルスケアAI。

 

 彼らの耳や肌、あるいは直感と呼ばれる心理的感覚が、異変を嗅ぎつける。

 

「……なんだ? 騒がしいな」

「──────ッ!!!」

 

 足を止め、怪訝そうに周囲を見回したイキシアの隣でスワロウが劇的な反応をする。

 

 凄まじい勢いで天井を振り仰ぎ、驚愕に目を見開いて硬直したのだ。

 

 彼を知ってからの八年、一度も見たことのない取り乱しように困惑する。

 

「スワロウ殿? 一体どうし──」

「────まさか。ありえない。こんなにも早く、暗黒界側のスーパーアカウントの存在に気付いたというのか」

 

 彼の唇から漏れた呟きの意味を、イキシアは理解することができなかった。

 

 だが、超越者たるこの男が全身で戦慄を表すほどに悪いことが起こったのだと、それだけは分かる。

 

「くっ、私としたことが予測を誤るとは……!」

「す、スワロウ殿、何が──」

「イキシア殿。私は緊急の用が出来てしまいました。また今夜伺いますので、それまでどうか()()()()()()()()

 

 それだけを告げ、答える間も無くスワロウは指鳴らしで姿を消した。

 

 目の前に漂う白い光の粒に、呆然とする。

 

 一体何が起こったのか。そう疑問を浮かべた瞬間、前方から走ってくる影があった。

 

「イキシア副団長! ここにいらっしゃったか!」

 

 全身鎧に包まれた体から大きな音を立て、やってきたのは暗黒騎士の一人。

 

 古参の騎士達を押しのけ、シャスターへの強靭な敬愛の念で若輩にして副団長にまで上り詰めた自分に従ってくれる良い部下だ。

 

 自分より歳を重ね、その経験によっていつも支えてくれる彼は、しかし見たこともない顔をしている。

 

 イキシアは、驚愕に包まれた心をどうにか落ち着けると彼に質問を投げかけた。

 

「その面持ち、ただ事ではないと見受けるが。何があった」

「一大事ですぞ! 場内にいる騎士は全員、集合せよとの報せです!」

「何? どういうことだ」

 

 次に、一拍溜めた後に彼が言った言葉に。

 

 

 

 

 

 

 

「玉座の間の鎖が、震えておりますッ! 我らが皇帝、暗黒の神が降臨なされるのやもしれませんッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 イキシアは、底なしの奈落に突き落とされたような絶望を得た。

 

 

 

 

 






読んでいただき、ありがとうございます。
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