ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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とりあえず暗黒領域パート、ラスト二話です。


楽しんでいただけると嬉しいです。


大義の為に

 

 

 

「……まずいことになった」

 

 

 

 自室で一人、イキシアは低い声で呟く。

 

 その顔には巌のように深い皺が刻まれ、蒼を通り越して白色になっている。

 

 心に渦巻くものを抑えるかのように、じっと窓の外の風景を注視し続けており。

 

 繰り返し脳裏にフラッシュバックするのは、先刻の玉座の間での一件。

 

 

 

(予想よりずっと早く、皇帝ベクタが降臨してしまった。これまで長い間積み重ねてきた工作が、全て無に帰するほどの事態だ)

 

 

 

 何年もかけて調査を行い、シャスターと議論を重ね、騎士団内でも説得を行ってきた。

 

 それが、ベクタの宣言一つで何もかも覆ってしまい。既に戦争の準備が本格的に始まっている。

 

 元より明日にもその時がやってくるかもしれないという、常に綱渡りの心持ちではあったが……

 

「よもや、和平に踏み出そうとしたこの瞬間(とき)だとはな……これも運命か」

 

 もはや、一刻の猶予もないことは明白だ。

 

 イキシアの目論見は、シャスターを《十候》の頂点に君臨させて闇の民の意見を束ねようというもの。

 

 しかしそれは、これまで一人の絶対的強者がいない状態だったからこそ成功する可能性のあった話。

 

 ベクタが帰還した今、それは叶わぬ泡沫の夢と化してしまった。

 

「あと残されている手立ては…………皇帝を斬る、か」

 

 暗黒領域の掟はただ一つ。力こそが絶対の正義。

 

 すなわち、皇帝よりも強い力を持つと証明できる者がいれば、必然的にその者が次の王となる。

 

「だが、そんなことは可能なのか……?」

 

 あらゆる術を消し去り、神に相応しい神器と天命を備えた闇の化身。

 

 そんな相手を万に一つでも殺せる可能性があるのだろうかと、イキシアは疑問を抱く。

 

 これで、相手が他の《十候》であればシャスターの敵ではないと断定できた。

 

 しかし。あの場にて参列し、直にベクタを見た今ではその確信も揺らいでいる。

 

 

 

(何より恐ろしいのは、強大な存在感や纏う武具ではない。あの目だ)

 

 

 

 あらゆる命に価値を見出さぬ、硝子の目。

 

 呼吸をするようかのような自然さで、容易に全てを蹂躙するだろうと思わせる、死の瞳だ。

 

 そこから感じられる、未来をも飲み込んでしまいそうな漆黒の意思を、イキシアは最も警戒していた。

 

 

 

(それに、あの側近の二人も油断ならない。特に、従者らしきあの女はどこか恐ろしいものを感じたが……)

 

 

 

 いずれにせよ、皇帝ベクタを玉座より退けねばこの世界に未来はないだろう。

 

「こうなれば、スワロウ殿にも協力を仰いで──」

「私がどうかしましたか?」

 

 驚きに眉間の皺を解き、背後へと振り返る。

 

 いつの間にか、部屋の中に白い使者が微笑みを湛えて佇んでいた。

 

「スワロウ殿! 来ていたのか!」

「ご無事で何よりです、イキシア様。こうして再び生きて会えたことは奇跡でございますね」

「ああ。まさか皇帝ベクタがこんなにも早く降臨するとは……」

「私としても予測を大きく上回る事態でした」

 

 相槌を打ちながら、スワロウは抱えていた人間大のものをソファへと横たえた。

 

 訝しげな顔をして、イキシアもその正体を知ろうと歩み寄り……

 

 フードの中から除いた知己の女性の顔に大きく目を見開く。

 

「リピア!? どうして彼女がこんな所に!?」

「こちらに伺った際、ベクタの居室より救出しました。どうやら暗殺を企てたようです」

「なんだと……!」

「危うく、その魂を喰らわれてしまう所でした。このようなうら若く、美しい女性の命が手折られてしまうのは見過ごせません」

「そうか……我が友を救ってもらい、心から感謝する」

 

 ソファの前で跪くと、乱れたリピアの前髪をそっと横に流しながらそう言う。

 

 イキシアにとって、彼女は女でありながら無二の友。心底から安堵の笑顔を浮かべる。

 

 一頻り、穏やかな寝息を立てるリピアの様子を確認するとイキシアは立つ。

 

 元の颯然とした雰囲気を纏うと、スワロウへ真剣な眼差しを送った。

 

「改めて、感謝したい」

「紳士として当然の事をしたまで。しかし……これはシャスター様のご指示で?」

「いや、そんなはずはない。確かにベクタの存在を脅威に感じてはいるだろうが、ここまで短絡的に事を起こす御方ではない」

「では、彼女の独断の可能性が高いと」

「ああ。リピアは私と同じか、それ以上に閣下のご意志に心酔していた。それ故の暴走だろうが……」

「問題は、〝暗殺を仕掛けた〟という事実が生まれてしまった事でしょうね」

 

 スワロウの言葉にうむ、とイキシアが頷く。

 

 暗殺の成功率が最も高いのは最初の一度だ。それ以降は常に警戒されてしまう。

 

 リピアの心情を思えば決して間違いだと断ずることはできないが、有効な手札を失ったことには変わりない。

 

「これで奇襲は困難となった。閣下と慎重に策を練らなければ……いや、その前にリピアの事を伝えるのが先か…………」

 

 既に熟考を始めているのか、口元に手をやりながら呟き始めるイキシア。

 

 そんな彼と、眠っているリピアをスワロウが薄い表情でしばらくの間じっと見つめ。

 

「……いえ。シャスター様にリピア様のことをお伝えするのはやめておきましょう」

「何? どういうことだ?」

 

 突然の発言に、イキシアは少しの驚きと疑問を抱いて問いかける。

 

 そんな彼の目を、スワロウもどこか深いものを湛えた眼差しで正面から見つめ返して。

 

 

 

 

 

 

 

「イキシア様。貴方に、〝悪人〟となる覚悟はおありですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 ベクタの降臨から二日後、暗黒軍は全ての進軍準備を完了した。

 

 

 

 

 

 

 

 そして今、玉座の間には再び十人の諸侯と各陣営の幹部が揃い踏みし、皇帝の前に跪いている。

 

 彼らを見下ろしながら、ガブリエルはさて誰が問題の〝閣下〟であるかと思考する。

 

 

 

(この暗黒領域のルールは、力こそ絶対。それが武力や権力を指すのであれば、私より上のユニットは存在しないはず。だというのに、あの女アサシンは〝閣下〟の為に私を殺そうとした)

 

 

 

 そして間違いなく、自分を除けば最高権力者に位置するこの《十候》の中にその人物はいる。

 

 ガブリエルは、あの女アサシン同様に自分へ叛意を抱く諸侯を炙り出し、処分するつもりでいる。

 

 この場で、一昨日まで暗黒領域最強の一角であったものを殺すことで己の力を示し、残る者達に絶対の恐怖と忠誠を植え付ける為に。

 

 

 

(──奴を今日、ここで斬る。もはやその道しか残されてはいない)

 

 

 

 また、同様にガブリエルを誅せんとするシャスターも心の内で殺意を研ぎ澄ませていた。

 

 二日に及ぶ思索の果て、強大で邪悪な飢えを垣間見せる瞳のあの男を殺すしか和平を実現する道はないと。

 

 たとえそれで自分が命を落とすことになろうとも、既に後の未来を託す義息がいる。 

 

 唯一の心残りは、結婚をしようと言ったばかりの愛しい女がここ数日顔を見せず、会えなかったことだが……

 

 

 

(……いや。もしこのことを打ち明ければ、あやつは共に死のうとしただろう。だから、これで良かったのだ)

 

 

 

 それに、彼女にはイキシアがいる。

 

 本当の息子のように育ててきたあの男が、リピアに対して友愛の他に淡い心を持っていたことは知っていた。

 

 それを自分のために消し去ったことも。あの二人であれば良き明日を作っていけるだろうと、そう自分を納得させる。

 

「フゥ…………」

 

 心構えは十分。頭を垂れたまま、深く呼吸を一つ。

 

 床に置いた愛剣に手を触れさせ、皇帝ベクタとの彼我の距離を確かめた。

 

 初動は誰にも気取られずに。心を無に、されど剣には極限の意思を。

 

 かつて血塗られた問答の末、自ら斬り殺した師より受け継いだ心意の刃を研ぎ澄ませ。

 

 

 

 

 

「──時に。短剣を髪に忍ばせ、我の寝床に忍び込んだ者がいた。一昨夜のことだ」

 

 

 

 

 

 まさに、右手が鞘より剣を解き放とうとした瞬間だった。

 

 前触れなくベクタの口から放たれた言葉に、シャスターは咄嗟に動きを止めた。

 

 同時に周囲が大きくざわめく。ある者は息を呑み、ある者は唸り、ある者は率直に驚嘆の声を漏らす。

 

 その中で、いつでもベクタへ斬りかかれるよう殺意を解かないまま、シャスターは考えた。

 

 

 

 

(一体、誰が? オーガやゴブリン達等ではあるまい。奴らに暗殺は不向きだ)

 

 

 

 では、異形の四種族が埋める五席を外した、残る諸侯か。

 

 拳技を至上とするイスカーンではあるまい。とても姑息な手段を用いる小僧ではないのだ。

 

 戦という大儲けの機会を前にした商業長レンギルもあり得ない。では暗殺者ギルド頭目、フ・ザか。

 

 これも違うと断定する。力に恵まれなかった弱き者達が結集したあの一族には毒と針などの暗器のみを用いる掟がある。

 

 もっとも怪しいのは、権力欲の塊であるディー・アイ・エルだが……それならば術師を差し向けるだろう。

 

 

 

 

 

 ここまで考えて、残るのはシャスター自身のみ。

 

 だが、それはあり得ない。自分はこの叛逆の意思を果たすのは己の剣でと決めていた。

 

 この二日、誰にも……それこそイキシアにでさえ伝えてはいないのだ。それに彼はシャスター以上に慎重な──

 

 

 

(────いや。いや、まさか)

 

 

 

 ふと。冷たい者が背筋を撫でる。

 

 瞬くほどの刹那であらゆる可能性を考え、削ぎ落とした結果残った、一つの仮説。

 

 それがまるで、冷たい毒のように体を駆け巡り、剣を握る指の感覚を朧げにしてしまう。

 

 疑問。危惧。恐怖。そして、ある種の確信へと思考が至ったその時。

 

「我はその首謀者を詮議しようとは思わぬ。強欲大いに結構、それでこそ暗黒の民だ。これからも存分に我の首を狙うがよい」

 

 絶対の自信と余裕を感じさせる薄笑いを浮かべたベクタの二言目に、更に玉座の間がざわつく。

 

 それをニヤニヤと見つめる、皇帝の側に仕える騎士と従者の笑みがシャスターの神経を逆撫でした。

 

 だが、そんな事に一片の意識を割くことすら惜しいほどに、今の彼は焦燥に包まれていたのだ。

 

「だが、その行いには代償がある事もまた、心しておくが良い。たとえば……このようにな」

 

 ベクタが長衣の中から片手を上げた時、玉座から見て左側の扉が突然開く。

 

 そこから一人の召使いが、銀の盆を携えて玉座の間に入ってきた。

 

 何か、四角いものを黒い布で覆い隠して乗せたそれを、ベクタの足元へ置く。

 

 それから恭しく一礼し、音もなく下がっていくのを皆が見届けた。

 

 張り詰めた雰囲気の中、嗤うベクタが長靴の足先で床に広がる黒布の端を踏み、自分の方へ引いて取り払った。

 

 そして、隠されていたものの正体を知った時。

 

「────リ……ピ…………」

 

 ア、と。

 

 氷の箱の中で、永久に眠りについた愛する女の顔に。

 

 

 

 

 

 

 

 掠れたシャスターの呟きが、小さく零された。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 シャスターは、リピア・ザンケールという女に未来を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 彼女が親兄弟をなくした子供達を受け入れる養護施設を営んでいる事は、随分前に知っていた。

 

 人族、ゴブリン族、オーク族……五種族分け隔てなく平等に愛するその心をこそ愛した。

 

 だからこそ自分の考えをイキシア以外に唯一打ち明け、共に新たな時代を作っていこうと考えていたのだ。

 

「────────」

 

 故に、目の前にある光景は。

 

 シャスターが、ほんの刹那の前まで抱いていた、未来へ繋ぐ意思を失うには十分で。

 

 己が心で理解するよりも早く、全身が暗い暗い感情で満たされていくのは必然だった。

 

 

 

(────殺す)

 

 

 

 殺意。

 

 たとえあらゆるものを犠牲にしようとも、あの男だけは必ず殺す。

 

 そう決断してから、剣を引き抜くまでには半秒もかからなかった。

 

 薄い影のようなオーラに包まれた全身をぐっと撓め、がばりと顔を上げる。

 

 その目は、おおよそ人の発するものではない真紅の光で満ち溢れて。

 

 

 

 一秒が経過した時、既にシャスターはベクタまでの距離を五メートルにまで詰めていた。

 

 

 

(シャァ)ッ!!」

 

 全身全霊、生涯最速にして最強の一撃。

 

 実体となって身の内より溢れ出さんばかりの憎悪と嘆きが注ぎ込まれた、殺の心意。

 

 それによって、愛刀朧霞(オボロガスミ)に長年暗黒騎士達が解明しようとした完全武装支配術をも発動させた。

 

 刃としての形を失い、霧状になった刀身が神速でベクタへと迫る。

 

 

 

(ああ、こいつか)

 

 

 

 それを、頬杖をついて静観していたベクタは酷く冷淡に見定めた。

 

 不安は一切存在しない。膨大なステータス、纏った武具の力、そしてあらゆるコマンドを無効化する特殊設定。

 

 スーパーアカウント《暗黒神ベクタ》に付与されたあらゆる特性によって、シャスターの一撃が意味をなすとは思っていなかったのだ。

 

 

 

 

 

 だが、ガブリエルはある一つの事実を知らない。

 

 彼がたかがVRMMOの延長戦だと思っているこの世界が、人の魂と同質の光量子で構成されており。

 

 憎しみによって研ぎ澄まされたシャスターの剣が、STLを通してそのフラクトライトにまで届くのだという事を。

 

 

 

(一番使いやすそうなヒューマン型のリーダー・ユニットを失うのは少々惜しいが、やむを得まい)

 

 

 

 どこまでも冷静な思考でそう考えながら、腰の剣へと手を伸ばす。

 

 そんな二人の一瞬の攻防を、他の九人の諸侯も見守っていた。

 

 暗黒領域は力こそ全て。それが武力であれ策謀であれ、あらゆることに勝ってきたからこその諸侯。

 

 そんな彼らの胸中を満たしたのは、驚きではなく、もうここで仕掛けるのかという感心だった。

 

 異形達は皇帝とやらの実力を見極めようと、獣の目で静観し。

 

 同じ技に生きる者として、イスカーンは一度抜いたのなら切り捨てろとさえ考えた。

 

 シャスターとは因縁浅からぬディー・アイ・エルでさえも、動かなかった。

 

 皇帝が死ねばそれでよし。そうでなくとも深手を負うだろうシャスターを始末して自分が女王となろうと画策し、傍観した。

 

 …………だからこそ。

 

 

 

 

 

 それは、誰にとっても予想外の事態だったのだ。

 

 

 

 

 

「フッ──!!」

 

 部屋の隅に立ち並ぶ、騎士団内でも屈指の実力を誇る序列持ちの暗黒騎士達。

 

 その先頭にいた男が、シャスターとほぼ同時に抜剣し、玉座に向かって駆け抜け。

 

 大上段に愛刀を振り上げたその背中を、地面を削るような軌道を描いて一刀両断したのだから。

 

「ガッ────!!?」

 

 シャスターの苦悶が、玉座の間に木霊する。

 

 その男の一撃によって、宙に浮かんでいた体が重力を思い出したように床へと失墜した。

 

 鎧と床石が衝突するけたたましい音が反響し、今度こそ広間の全員が息を呑む。

 

「ほう……?」

 

 それは、ガブリエルやヴァサゴ、ペーリッシュでさえも。

 

 誰しもの注目を一身に浴びて、その騎士──イキシアは、ゆっくりと振り上げた剣を下ろした。

 

 そして、自分の足元に転がっているシャスターを冷酷な瞳で見下ろす。

 

「イキ……シ……ア…………?」

「……………………」

 

 シャスターは、心を埋め尽くした憎しみさえ凌駕するような驚きで義息を見上げる。

 

 そうしているうちに、傷口からその体が徐々に石灰色に変色を始めた。

 

「な、ぜ……お前、が………………」

「……お別れです。我が師、我が父よ」

 

 たった一言、一切の情が乗らない声によって告げられた言葉に瞠目し。

 

 ビスクル・ウル・シャスターは、瞬く間に物言わぬ冷たい石像へと姿を変えてしまった。

 

 

 

 

 

 義父が命潰える様を最後まで見届けて、イキシアは毒々しい色の刃を鞘へと収める。

 

「誰か。()()を運び出せ」

「「…………はっ」」

 

 あらゆる陣営のものが驚愕で困惑する中、二人の騎士が歩み出た。

 

 序列付き騎士の側付きの鎧を纏ったその暗黒騎士は、素早くシャスターの石像に近づくと担ぎ上げる。

 

「城の外へ。粉々に砕き、その愚かさを地獄の底で噛み締めさせるのだ」

 

 冷徹なイキシアの命令に、騎士達はそっと頷いた。

 

「……」

 

 彼らへと小さく首肯を返したイキシアの目に、一瞬何かが過ぎる。

 

 それは他の者に見抜かれる前に消え、扉から出て行く騎士達に背を向けるとベクタに向き直った。

 

 自分を興味深げな目で見下ろす皇帝に、その場で恭しく跪く。

 

「我らが長の取り返しがつかぬ無礼。どうか、これにてお納めいただきたい」

「……面白い。貴様、名はなんと申す」

「イキシア・イヴェガン。()暗黒騎士序列二位、兼参謀役。今この時より、皇帝の慈悲により暗黒騎士団の新たなる長としての地位を賜りたく存じます」

「なるほど、諸侯の椅子が目当てか。いいだろう、貴様が騎士達を従えるがよい」

「はっ、ありがたき幸せ」

 

 淡々と答えるその様子に、やはりこの世界の人工知能は侮れぬものだとガブリエルは冷笑する。

 

 同時に、あらゆる者はイキシアの行動が、シャスターの地位を狙ってのものだったと理解した。

 

 その心酔ぶりを知っていたディーやイスカーンは一瞬疑問に思うも、欺きと裏切りなど常だと納得する。

 

「して。新たなる暗黒騎士団長よ。余にひれ伏し、何を望む?」

「──武功を。あらゆる闘争と、無上の誉れを」

「いいだろう。その力、存分に余の役に立てるのだ」

「はっ!」

 

 力強い返答を、床へと叩きつける。

 

 ──俯いた彼の顔に浮かんだ、あらゆる苦渋と忿怒、自責の念を、誰も知ることはなく。

 

 その表情を能面へと戻した彼が立ち上がり、新たに諸侯達に並んだ。

 

 

 

(──殺気。格別に濃い、嫉妬と憎しみに塗れたもの。私が閣下を仕留めたことを、誰かが恨んでいるのか)

 

 

 

 その最中に感じた殺意へ僅かばかり同じものを返すと、まるで闇に紛れるように消え失せた。

 

 新たな十人目として左端へ陣取るのを見届けたベクタは、大仰な仕草で立ち上がる。

 

「予定通り、一時間後に進軍を開始する。各自、準備せよ」

 

 それだけを告げて身を翻した皇帝の背中に、誰もが跪いたまま首肯する。

 

 

 

 

 

 

 

『皇帝陛下、万歳!!』

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、数百の喝采が大音声となって玉座の間を揺らしたのであった。

 

 

 

 

 






読んでいただき、ありがとうございます。


後一話で、ルーク達の方へと。

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