ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜 作:熊0803
やっとこさ主人公が登場です。
結構長くなりましたが、楽しんでいただけると嬉しいです。
近頃、なろうのほうでラブコメなども書いております。よろしければ是非。
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北の辺境から東域への旅は長いものだった。
慣れ親しんだ北帝国を離れ、謎めいたイスタバリエス東帝国へと。
その地は全てが北帝国とは異なっており、木々から地形、村々や街の建築様式に至るまで何もかもが未知であった。
年頃の男として探究心を少しくすぐられながらも、戦場へと急ぐこと三日。
「……随分と、〝顕現〟させるのにも慣れたようだな」
「ああ、父さん。おかげでうまく維持できるようになった」
空の上、吹き荒れる烈風の中で術式を用いることでルークとバルドは言葉を交わす。
悠々と超高位神聖術で風をも操る彼らが駆るのは、おおよそこの世のものとは思えぬ生物。
片や三十メルにも及ぶ、勇壮なる純白の大型竜──心意の剣者グウィバー。
そしてもう一方は、燃え盛る長大な体を四枚二対の翼で泳がせ、四肢で空を走る真紅の竜。
名を〝ドラーグ〟。かつてウェスタリス西帝国の火山を統べた蛮王にして、四聖竜が一角である。
「竜の魂に刻まれた姿を呼び起こし、己が心意の力によってこの世に顕現させる……これが
「お前には、私が積み重ねた智慧をできる限り伝授する。今更、親の真似事だがな」
「頼りにさせてもらう。父さんは竜騎士として大先輩だから、いろいろ学ばせてもらうよ」
「ふ……そうか」
仮面の下で、バルドの口元が微かに緩む。
息子に尊敬の眼差しを送られる未知の嬉しさに、柄にもなく心が高揚していた。
これが数百年に及ぶ復讐劇の果てに得られた報いだとするのならば、いささか分不相応が過ぎるだろうと考えてしまう程だ。
「はぁ……あの二人を見ていると、どうにも常識というものが崩壊しますね」
「クルル…………」
「大丈夫ですよ、雨縁。貴方は十分に立派な飛竜です。あちらが輪をかけて異常なだけなので」
自信を失ったように鳴く相棒に、アリスは首筋を撫でてそっと諭す。
とはいえ、人界で最強種の一角である飛竜ですら、あの二匹の聖竜の前では霞んでしまうのも事実。
北帝国から東帝国にかけて、上空を通過した村や街は必ず彼女の耳にも届くほどの大騒ぎになっていた。
それが殊更に街で休息を取れなくなった要因でもあるのだが、元より野宿しながら進む予定だったのが幸いした。
「ハハハハァ! 俺様の勇姿に敵う奴なんざ、同胞を置いて他にいるはずもねぇ! そう気落ちすんなよ、小僧!」
大口を開けたドラーグが、いかにも機嫌良さげに高い声音で笑う。
自らの力に絶対の自信を持つが故の発言。少し速度が落ちた雨縁に、アリスがやや渋い顔になる。
「あんたもそう思うだろう、兄者!」
「……貴様の尊大さもほとほと変わらぬと見える。我らは既に遺物なのだ、もう少し慎め」
「相変わらずクールだねぇ。ブレないあんたは好きだぜ」
「威勢の良い奴め」
呆れた様子でグウィバーに一瞥されるも、変わらずドラーグは快活に笑うだけ。
ルークの顔にも苦笑が滲み、バルドが行く先を見つめながら小さく嘆息した。
「すまぬな。金華の」
「いえ……雨縁に合わせていただいているのも事実なので」
「キリトにもあまり負担はかけられないからな。むしろ、それでこの移動速度を維持できたアリスの腕が俺は羨ましいよ」
最初はうまく乗れなくて落っこちてたしさ、とおどけて笑うルーク。
今は氷で作り出した鞍に乗って自在に騎乗しているように見えるが、この三日間は惨憺たるものだったのだ。
アリスは二日前、真っ逆さまにグウィバーの背中から転げ落ちた兄を思い出してクスリと笑う。
「私とバルド殿の指導がなければ、まだグウィバー殿の首にぶら下がっていたかもしれませんね」
「本当だよ。おかげで……ここまで来れた」
その時、ふとルークは前方へと顔を向け、真剣な横顔を作った。
ハッと察したアリスも、彼とバルドが見ているものへと視線を傾ける。
奇怪な岩の並ぶ河川の上を抜け、ついに到達したるは東帝国の端、果ての山脈。
長い時をかけて辿り着いたそこは、北の山脈と変わらぬ黒々とした山々が連なっており。
そしてそこに、神が剣を振り下ろして生み出したように深々とした峡谷が走っていた。
遠目からは細々としているように見えたそれは、接近するにつれその威容を露わにする。
幅は百メルにも達するだろうか。オークやオーガどころか、ジャイアントの軍勢すら容易に進行できるだろう。
その手前、まるで
「あれが人界軍の野営地か……思った通り広大だな」
「……だが、数は芳しくないようだ」
一大野営地の中に感じる〝音〟の量に、ルークは重々しく頷き肯定する。
煮炊きの煙と訓練中の兵士の怒号が空まで届き、その士気の高さを伝えていた。
しかし、その量はわずか三千に届くか届かないかというもの。
カセドラルでのイーディスの言葉を信じるのであれば、暗黒軍は五万にも及び、絶望的に数が足りていない。
「……はたして、我らが加わった程度で何かが変わるのでしょうか」
「変える為に、俺達はここまで来たんだろ」
「……恐れるな、金華の。我ら騎士、そう易々と闇に呑まれるほど惰弱ではあるまい」
アリスの心の隙間から欠け落ちた一片の弱音に、二人は力強く言い返した。
言葉一つに乗る圧倒的な覇気に、微かに瞠目したアリスは表情を引き締め直して「はい」と頷く。
そこで丁度、四人と三匹はそそり立つ山塊の間へと入り込んでいった。
途端に底冷えするような寒々しさが全身を突き刺し、嫌が応にも心が引き締められる。
左右の滑らかすぎる岩壁に驚く間も無く、眼前に巨大な構造物が姿を現した。
「これが……《東の大門》…………」
「……世界を分け隔てる絶対の壁、か」
それは、人が見上げるにはあまりに巨大すぎる絶壁だった。
地面からの直径は目算でも三百メルに達し、壮絶なる神域の御業を実感させる。
人界を囲む《不朽の壁》を作り上げたアドミニストレータや、今やそれに等しい力を持つルークにさえこんなものは作れない。
この壁は、世界の始まりから数百に及ぶ年月、ここに聳え、光と闇の世界を分かっていたのだ。
今この瞬間、滅びが訪れるその時まで。
「壁に阻まれているせいか、向こう側からは音が聞こえない。少し様子見をしてもいいか」
「勿論です。雨縁、もう少しだけ頑張ってね」
「
高度を変更しながら、ギリギリまで《東の大門》まで接近する。
停止したのは、地面から二百メル付近。門という名の通りぴったりと接着した二枚の大岩の中心。
そこに彫り込まれた巨大な神聖文字を、アリス達は龍の背の上から覗き込んだ。
「デストラクト……アット、ザ…………ラスト、ステージ…………?」
「終焉での崩壊……か」
見た通りのものを復唱した瞬間、隣から聞こえてきた言葉にアリスは振り向く。
「神聖文字が読めるのですか?」
「ある程度な。やっぱりこの壁は、最初から壊れることが決められ……っ!」
その瞬間、凄絶な音を奏でて大門が揺れ動いた。
峡谷の隅々にまで響いていくような凄まじい音に、間近で聞いた三人は顔を顰める。
そんな彼らの目の前で、なだらかだった漆黒の岩肌に細いヒビが走り、広がっていく。
耳を塞ぐ程の異音が収まってから改めて見ると、大門から剥落した巨大な石片が谷底に落下していた。
「……これは」
反射的にキリトを片腕で抱きしめていたアリスは、呆然と大門を見上げる。
今しがた発生したものだけではない。岩壁を覆いつくさんばかりのヒビが存在していたのだ。
震える彼女に変わって、ルークがその〝目〟を見開き大門を解析する。
「…………どうだ」
静かなバルドの問いかけに、すっと息を吸ったルークは。
「……三百万四千五百十七のうち、残る天命は2785。保って五日が、限度だろう」
●◯●
「っ……! もう、そんなに…………!」
知らしめられた残酷な現実に、アリスはキリトを支えるものとは反対の手で口元を覆った。
脳裏に、故郷ルーリッドのことが過ぎる。
天真爛漫な笑顔を浮かべる妹、セルカ。頑固ながらも面倒見の良いガリッタ老に、気難しげな顔の父ガフスト。
その時、ルークの中にも優しく微笑む母セフィアや、今はその記憶を取り戻している大切な後輩の顔を想像する。
(もっと、猶予があると思っていた。いいえ、どこかでそう信じていたかった……!)
まだ、ルーリッドを守りきって安堵してから三日しか経っていない。
しばらくの間故郷は安泰だと思っていたのに、そのまやかしはいとも簡単に打ち砕かれてしまった。
もしも、五日後に始まる戦争にて敗北すれば、闇の魔物達の飽くなき欲望は人界全てに広まっていき。
そして、恐ろしき凶手は北端の村ルーリッドにさえも──
「あと、五日…………」
「どうやら、長く寝すぎていたようだな……」
「なんとか……なんとか、しないと…………」
「……アリス?」
うわごとのように繰り返し呟いたアリスが、不意に手綱を操る。
それに従った雨縁が上空へ尖った鼻先を向け、大門の上部へと飛翔してしまった。
「アリス! くそっ!」
ルークはそれを、すぐに追いかけた。
グウィバーに心意を通じて語りかけ、受け取った白竜はその翼を存分に羽ばたかせて飛び立つ。
バルドはそんな二人を無言で見送り、それから再び大門の神聖文字へと視線を投じた。
今の雨縁が出せる最速で飛んでいるのか、グウィバーを保ってしても瞬時に追いつくことはできなかった。
それでも圧倒的な体格差故に、ものの十秒ほどで並ぶと一緒に空を駆け上がる。
やがて、ついには大門よりも高い場所に行き着いてしまい、そこでようやく両者は止まった。
「アリス! 幾ら何でも不用心だっ!」
「……っ、すみません。居ても立っても居られず…………」
「気持ちは分かる。だけど、ここは今アンダーワールドで一番危険な場所なんだぞ?」
「はい、軽率な行動でした」
申し訳ありませんでした、と雨縁の背の上で頭を下げるアリスに、ルークは一つ嘆息した。
それから、どうせここまで来たのだからと大門の向こう側の景色へと視線を移す。
暗黒領域にも同じように峡谷が続いているが、決定的に異なるのはその先にある風景だ。
血のように赤い空と、焦げ付いたような黒い大地。まさしく暗黒の世界と呼ぶに相応しい。
「っ…………」
「ルーク兄さん? どうかしましたか?」
「……いや。少し、
片手で耳を抑えながら、顔を顰めたルークの言葉に小首を傾げる。
なんであれ、原因は風景にあるのだろうとアリスも改めて暗黒領域を注視した。
そして、気付く。不毛の大地の上に揺れる、無数の小さな光を。
「あれ、は…………」
確かめるためによく目を凝らして、すぐにそれを後悔した。
どこまでも広がるそれがなんであるかを、理解してしまったから。
光の正体……それは、闇の軍勢の野営地だ。
何千、何万という怪物達が、まさに今あそこで、人界軍と同じように開戦を待っている。
暗黒領域全体の規模と峡谷の内部距離を思えば、もはや目と鼻の先と言っていい。
あれは、その先鋒に違いない。
「軽く聞こえただけでも数千……第一陣だけでも、こっちの倍はいる」
「……あと……五日…………」
再びこぼしたその言葉に込められた絶望は、より色濃いものだった。
ぐっと唇を引き結んだ彼女は、雨縁に繋がっている手綱を引くと踵を返させる。
ルークは、背を向けた彼女の胸の中で渦巻く〝音〟をはっきりと聞き取った。
「…………行きましょう、兄さん」
「……ああ」
微かな声で会話を交わして、二匹の竜は来た道を戻る。
今度は迫ってくる谷底の方をじっと見ながら、ふとルークが口を開いた。
「アリス」
「何ですか」
「よく、耐えたな」
アリスの体が、一瞬震えて。
だが、何も言い返すことなく首肯した彼女に、ルークも今度こそ口を噤んだ。
今にもあの野営地に飛び込んでいきたい気持ちは、彼にもよくわかったからだ。
だが、いかに一騎当千の実力があろうと、無策では自分も彼女もどうにもできない。
今はその気持ちを抑え込み、ただ、少しでも人界を救う確率を高めるべく。
「行こう、人界軍の野営地へ」
「ええ。なるべく早く……!」
──十一の月、二日。
開戦まで、あと僅か。
●◯●
「クソッ……! あの小僧、よくもっ…………!」
フ・ザは、仮面の下で延々と怨嗟の言葉を吐き続ける。
足取りは暗殺者らしからぬ荒々しさ、影に潜ませるには少々漏れ出過ぎている殺気。
その全ては、彼の中に渦巻く怒りと嫉みに由来する。
(よくも……よくも、ビスクルを始末する千載一遇の機会を、あの若造めがッ!)
フ・ザこそが、シャスターのあの場での反乱を誰より早く感じていた一人だった。
それはスワロウの予測に則って行動を起こしたイキシアとは異なり、常に彼を監視していたからこそ。
今はギルドと共に受け継いだフ・ザの名を持つ男は、過去の怨念より寝ても覚めても常にその命を奪うことだけを考えていたのだから。
かつて、フェリウス・ザルガティスという者だった彼は、幼き頃に騎士団所属の幼年学校にてシャスターに叩きのめされた。
あまりの屈辱から水路に身を投げたが、奇しくも暗殺者ギルドに拾われたことで命を落とし損ねた。
奴隷のように酷使されながら、日々シャスターへの怨讐を増し、知識を蓄え、数々の毒を開発し、ついにはギルド頭首にまで登りつめたのだ。
多くを代償にして生きながらえた三十年、全ては憎き一人の怨敵を殺さんが為。
幾度も練っては頓挫してきた暗殺計画の数々。その度に積もりに積もっていく怨念。
そしてまさに、リピアの首を見た瞬間シャスターが殺気を放った瞬間、まさに天運とさえ確信したというのに。
「許さん……! 許しませんよ、イキシア・イヴェガン…………!」
巡り巡って、その唯一とも言える大義名分の機会を奪った若き暗黒騎士へと憎悪は流れた。
これから始まる戦の中で、どんな手を講じてでも殺してやると、そう決意する程に。
己の憎悪を確かめるようにして、懐に忍ばせた毒針にそっと触れる。
(ビスクルを殺す為に貯め続けた、毒蛙を何十万と磨り潰し、濾過濃縮して作り上げた致死毒……! 奴が亡き今、貴方にこれは受けてもらいましょう……!)
新たに見出した敵への暗殺の手立てを考えながら、なおも城下町の暗中を歩み続けた。
向かう先はスラム街地下、暗殺者ギルド総本山。
来たる戦に備え、暗器と皇帝に自分達の力を評価させる作戦を準備しなくてはならない。
そして、イキシアを確実に殺す手立ても。
「また、長い戦いになるでしょう。奴はビスクルの愛弟子にして、より頭が切れる。綿密に計画を練らなくては……!」
自分自身へと言い聞かせるようにそう繰り返しながら、心を悪意で満たしていく。
針に秘された致死毒よりも濃いであろう、濁りきった害意が思考を埋め尽くし。
「…………?」
だが。ふと感じたものによって思考が平静へと引き戻された。
否、常に憎しみに苛まれているフ・ザの心を思えば、そちらこそが異常だったのかもしれない。
しかし、彼が暗殺が横行するギルドの中で培った極限の臆病さは、確かにそれを察知したのだ。
スラムの一角、非常に複雑に入り組んだ裏道の終着点。
そこに存在しているギルド総本部の抜け口の前に立ち、フ・ザは訝しげにした。
「……なんですか、この異様な程の死の気配は」
扉の向こうから漂う、濃厚な〝死臭〟を嗅ぎ分け、にわかに警戒心が沸き起こる。
日頃、ギルド内を満たしている昏い殺意の坩堝とは決定的に異なる空気。
何かしらの異変が起こっている。そう確信したフ・ザは別の入口を使うために踵を返した。
「その感覚、お見事です。しかし、貴方に戻る道はありませんよ」
「────ッ!?」
タァンッ!!
振り返ったその瞬間、胸部を何かに貫かれる。
体内から全身に伝播した衝撃は心の臓を破壊し、そのまま背中まで突き抜けていった。
「ガッ……ォ、ア…………!?」
極限まで目を見開いたフ・ザは、数歩後ろへとよろめきながら胸元を見下ろす。
貧弱な身体を守る為、地竜の皮で作られた装束の心臓部分に小さな穴が開いている。
何かしらの飛び道具の痕跡。しかし、暗器や矢などの類ではない。
(これ、は……いっ、たい…………)
ガハッ、と大きく血反吐を撒き散らしながら、床へと崩れ落ちる。
胸元からは絶え間なく血が流れ、それを抑えようと両手で塞ぐも意味をなさない。
ただ、喉を迫り上がってくる血塊への息苦しさにみっともなくもがくことしかできなかった。
「ゲボッ……ァ、オ"ッ…………ガッ…………」
「残念です。貴方には
霞む視界の中に、近づいて来た誰かの足が映り込む。
まともに呼吸をすることもままならない中、奇襲の主だろうその人物を必死に見上げて。
もがいた拍子に仮面が外れ、顕になったドロドロの顔を驚愕に引き攣らせた。
「心臓を撃ち抜かれても、天命が全損しない限りは生命を保ち続ける。この世界は不思議なものですね」
「あな、た……は…………!」
そこにいたのは、上から下まで純白の衣服に身を包んだ男。
顔にはほどんと装飾のない仮面を被り、右手には見たこともない筒状の武器を携えている。
その容姿はフ・ザにとって見覚えのあるものだった。
数年前から暗殺者ギルドに顔を見せるようになった、正体不明の人物。
元より自分以外を決して信用しないフ・ザだが、卓越した術の知識でギルド内での地位を獲得していた事で特に目を付けていた。
それが今、何故ここで自分をと凝視する。
「不思議に思っていることでしょう。何年もかけてギルドでの地位を築いた私がどうして、と」
「…………ッ!」
「そうですね。いくつか理由はございますが……私が人界側の者であり、戦争前に妨害工作をする為、というのがそれらしいでしょうか?」
言葉遊びをするような口調。それでいて話した内容は衝撃的。
残り僅かな命が零れ落ちる中で、フ・ザは幾度とない驚きに喘ぎ声を漏らす。
「ご安心を。死んだのは貴方だけではありません。先ほど申し上げました通り、ギルド総本部は
「な、にを…………!」
「筋書きはこうです。ギルド内に滞在していた暗殺者の一人が
「……き、さまァ…………!」
「それに、今貴方にイキシア様を害されては少々困りますので。これ以上予測から外れると、私としても対応ができなくなってしまいますから」
最も、と一度言葉を切り。
男は、手に持っていた筒状の武器の穴をフ・ザの頭に定めて。
「ここまでの段取りは全て、真実を知る者が誰一人生き残らないのであれば、の話なのですが」
「やめ…………っ!」
タァンッ!!
再び響く、異質な音。
この世界ではまだ誰も知ることのない、
それを直に受けたフ・ザは、激しく身体を一度痙攣させて……程なく、伸ばした手を地面に落とした。
血が飛び散ることはなかった。筒から発射された、凝縮した
男はじっと完全に動かなくなるまで見届けてから、紫煙を燻らせる銃を下ろす。
「今までお世話になりました、フ・ザ様。貴方達が長い年月をかけて研鑽した毒の技術は、しっかり有効活用させていただきます」
静かに述べるその言葉には、一切の感情が込められてはいない。
事実、極端に殺意に敏感なフ・ザも、死の間際まで一切の害意を感じ取れなかった。
男にとってこの行為は、ただ必要な処理をしたに過ぎないのだから当然だ。
「これで当面の不確定要素は排除できましたね。次の生での幸福をお祈りしています」
最後まで不気味なほどに平坦な声でそう述べて、男は踵を返す。
カツン、カツン、という靴音だけが残響し、フ・ザの骸を弔って。
その他に、彼を看取る者はいなかった。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回はいろんな人物が出てきますよ。