ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜 作:熊0803
今回からおそらく毎回文字数がだいぶ増えますが、よろしくお願いします。
楽しんでいただけると嬉しいです。
大門から引き返した一行は、野営地の上空へと接近。
草原に展開された人界の砦の中心には、円形に大きな広場が空いていた。
近くに大きな天幕があり、それが騎士用の飛竜発着場であることを三人は理解する。
「流石に、俺と父さんはこのまま降りられないな」
「飛竜を想定されているので、少々手狭と言わざるを得ませんね」
「……直前に降りるしかあるまい」
アリスを中心に、左右へルーク達と隊列を組み直す間に、いよいよ真上へ到着した。
まずはアリスがと雨縁の手綱を引こうとした瞬間、下が騒がしいことに気付く。
野営地の至る所で騒めきが起こっており、一様に空にいる三人……正確には、二体の聖竜を見上げていた。
「あー……やっぱりここでもこうなるか」
「……必然であるな」
「仕方がないものだと思うしかありませんね」
至る所で同じことが起こっていた為、既に慣れた様子で苦笑する各々。
それを聞いていたドラーグが、ふとグウィバーへ一瞥を送った。
「兄者、一つ俺様達の威厳を知らしめてやるのはどうだ?」
「……己を誇示するのは性に合わぬ。だが、彼らの騒ぎを収めるには丁度よかろう」
「は? おい、何言って──っ!?」
勘付いたルークが諌めた時には、もう彼らの顎門は大きく開かれていた。
グォォオォォオオオォォォオォォオッ!!!
キシャァアアアアァアアアアアアアァッ!!!
雄々しい咆哮が、澄み渡る蒼穹と雄大な大地へ響き渡る。
ビリビリと物理的圧力すら伴うそれは、重なり合うことで殊更に力を増していた。
野営地に集う全ての者が、全身を打ち付けるその覇気に圧倒され、畏怖し。
また、魅入られた。
「……今のは…………?」
その中の一人。物資の入った木箱を運んでいた少女が、ふと空を見上げる。
そして、ソルスの光を反射して眩く輝く白い竜を見つけ、驚きに紫色の瞳を見開かせた。
「…………これでよかろう」
「へへっ、さすが兄者。気前がいいぜ」
たっぷり十秒間かけて吠えた二竜は、どこか得意げな面持ちでそう語る。
「……無茶苦茶するなよ、お前ら」
「……本当に、我々の枠に収まりませんね」
呆れ、あるいは苦く笑い。
それからようやく、彼らは発着場へと降下していった。
予定通り、まずはアリスが雨縁を降下させる。
疾風を巻き起こしながらゆっくりと地面に近付いていくと、不意に首をある天幕の方へ向けた。
着陸を完了しないうちに甘い鳴き声をあげた彼へ、ややして天幕の中から低い鳴き声が返答する。
兄竜滝刳の声だろう。アリスは無事に着陸するや否や、キリトを抱えてその背から飛び降りる。
両脚から荷物を外してやると、雨縁はすぐさま天幕の方へと走って行った。
「っと! ふう、着地成功ってところか」
その直後、グウィバーの体を光に変えて剣に戻したルークが隣に着地する。
「ルーク兄さん、平気ですか?」
「ん? ああ、成り損ないだった時に飛ぶのには慣れたからな」
軽口を叩く彼に頷いていると、更にルークを挟んだ向こう側にバルドが落ちてくる。
神聖術で風素を生成して利用し、衝撃と音のほとんどを殺して着地した。
鎧の上に揺れる炎だけが轟々と音を立て、それを眺めていると激しい足音が聞こえた。
「師よ! 我が師アリス様!」
「っ!」
間髪入れず聞こえてきた覚えのある声に、慌ててアリスが表情を引き締める。
スカートの裾を正し、乱れた頭髪を整えたところで、背後から目の前に一人の騎士が回り込んできた。
「やはり貴女でしたか! このエルドリエ、信じておりましたぞ!」
「……相変わらず、元気なようですね」
「勿論です! こうして再び会えたことが、何よりの……」
そこで、エルドリエの言葉が止まった。
喜色満面の笑みから一転、顔を引き攣らせた彼の視線の先にあるのは痩せこけた片腕の少年。
信じられないといった眼差しの彼は、高ぶった心に冷や水を浴びせられたからか、ようやくルーク達の存在に気がつく。
そして、長年騎士団に語り継がれている悪名高き炎の騎士の威容と……
「へえ……あんたがエルドリエか。アリスの弟子なんだってな?」
自分に笑いかける、黄金の光彩を放つ銀色の瞳を持った男に、気圧されたように一歩下がった。
(なんだ、此奴は……!? この凄まじい剣気、騎士長閣下にも匹敵しうるほどの……!?)
ゴクリと大唾を飲み込んだ彼に、アリスが訝しげな目線を送る。
それによって我を取り戻したエルドリエは、やや落ちた声音で苦言を呈した。
「……連れて、来たのですか。何故です」
「守ると誓ったのです。当然でしょう」
「し、しかし! 我ら整合騎士はいざ戦が始まれば最前線に立たねばならぬ身! どうされるおつもりか!」
「必要であるのならば、背負ってでも」
揺らぎのないアリスの言葉。よもや即答されるとは思わなかったエルドリエはぐっと息詰まる。
しかし、アリスにも予想外だったのは、彼が大仰な身振りでさらに言葉を重ねてきたことだ。
「なりませぬ! 無礼を承知で申しますが、そのような重荷を抱えてはいかに我が師と言えども剣力は衰えてしまう! それどころか御身を危険に晒すことになりかねない!」
「……っ」
「それに貴女は、彼らを導き、戦わなくてはなりません! 持てる全てを発揮せずしてどうするのです!」
周囲に集まった兵士や騎士達を横へ振るった腕で示し、訴え掛ける様はまさに本気。
叩きつけられた正論と、自分にとってのキリトの重要性の板挟みにあいアリスは奥歯を噛み締める。
同時に、彼の変質に大いに驚いていた。
以前であれば反論などせず、ただ崇拝するような眼差しを送って来ていたものが、はっきりと意見した。
無論、彼はアドミニストレータの支配から脱したわけでも、〝右目の封印〟を解いてもいないだろう。
それでも遥かに〝己〟というものを確立させているのは──やはり、キリト達と相対したからか。
(まるで貴方は、この世界に振り下ろされた一振りの鉄槌のようですね)
ユージオとルークにもう一度立ち上がる勇気を与え、ついには公理教会という大きな楔を打ち砕いた。
学院では今のエルドリエと同じように、彼らの後輩が必死に嘆願してきたのもよく覚えている。
関わる者全てを変えていく──それは勿論、自分も。
そのことが不思議と、心底から誇らしい。
(……枷の突破に到達せずともこれ程とは。やっぱりキリト、お前は俺の自慢の弟分だ)
同様の考えに至ったルークも、エルドリエの胸の内の〝音〟に淡く微笑む。
しかし、いつまでも傍観していては仮にも兄と慕われる身としてはいささか不恰好だろう。
そう思い、二人の間に割り込む為一歩踏み出し。
「……せん…………ぱい………………?」
耳へ届いたその声に、動きを止めた。
●◯●
何かを取り落とす音に合わせて聞こえた、小さな一言。
思わず足を止めたルークは、驚いてそちらに振り返る。
先輩。自分をそう呼ぶ人物は、この世界にたった一人しか存在しなかった。
「…………リィ?」
そして、広場を囲む人垣の一角にその少女を見つけ出す。
思った通り、そこにいたのは北セントリア修剣学院にて指導をしていた彼女。
ルークにとって大切な後輩である、シャーリー・ティリーモアだった。
「お前、どうしてここに……ああ、そうか。お前も貴族だもんな。いてもおかしくは……ないのか」
貴族に課せられた義務を思い出して納得するも、まだ年若い彼女が戦場に出ることに渋い顔をせざるを得ない。
だが、その表情こそがシャーリーにとっては、他の何よりルーク本人だと確信させる証拠だった。
「っ、先輩…………!」
大きく表情を歪めたシャーリーは、真っ直ぐに走り出す。
彼女の存在をよく知らない周囲の動揺など気にせず、一目散にルークへと駆け寄っていき。
驚く彼の胸の中へと、躊躇なく飛び込んだ。
「っと!」
「先輩っ……せんぱいっ、せんぱいだっ…………!」
「リィ……」
「良かった……無事で……元気で、ほんとうに…………よかったっ…………!」
温かい涙が胸元を湿らせていく感触と、キツく背中に回された腕の力強さ。
二度と離れたくないと訴えかけるようなその熱が、彼女の思いを如実に伝えてくる。
されるがままだったルークは、しばらくすると片腕を彼女の背中へと回した。
残ったもう一方で、泣きじゃくるシャーリーの頭をそっと撫でる。
「ごめん、心配かけて。でも俺は、もう大丈夫だから」
「うん……うんっ…………!」
半年ぶりの、優しい言葉。
胸に染み入ってくる、ずっと聞きたかった声をシャーリーは噛み締めた。
感動の再会を目の当たりにした周囲の雰囲気も、少しずつ変化していく。
エルドリエやアリスは毒気が抜かれたように表情が和らぎ、観衆もどこか柔らかい空気となった。
突然現れた巨竜を駆る男が、思っていたよりずっと人間味があったと理解したことも一因だろう。
「これは、少々介入するタイミングを逸してしまいましたね」
「全くじゃな」
「いいじゃねえか、俺は感動したがね」
そこへ、新たな参入者が現れる。
会話を交わす三人分の声。それにルークのみならず、アリスやバルドもハッとする。
振り返れば、人垣が自然と左右に割れていき、そこから件の人物達が姿を現した。
一人は、まだ十五にも満たぬ容姿の幼き司書。長杖を突きながら、少々呆れ笑いをしている。
その右に控えるのは純白の男。礼服に身を包み、従者然とした微笑みを湛えて付き従う。
反対には二メルを変える巨漢。青地の衣服を纏い、腰には無骨な直剣。最も軽装ながら、分厚い体から発せられる覇気は随一。
「カーディナル様! スワロウ殿に、騎士長まで!」
エルドリエが声を上げ、同時にその場にいたほぼ全ての人物が膝をついて頭を垂れた。
アドミニストレータに台頭した新たなる最高司祭とその従者、並びに尊き整合騎士団の長。
広場の中にいたルーク達を除き、誰もがその威光に敬服の意を示す。
「エルドリエ。そこらへんにしておきな」
周囲の反応へ居心地悪そうに頭を掻きながら、ベルクーリがそう言う。
エルドリエは何事か口にしようとしたが、長に言われては断念せざるを得ないと考えたのだろう。
閉口して身を引き、ベルクーリは一つ頷いてから各々の顔を見回していく。
「よう、あの時の小僧じゃねえか。
「俺でもあり、彼でもある。ある意味、一つだ」
「そうか。お前さん、真にその《竜具》の使い手になったんだな」
「ああ」
「よくぞこの世へ戻ってきたのう。先に帰還したライオット
重ねて告げたカーディナルへ、ルークは視線を向ける。
「こうしてまともに言葉を交わすのは初めて、ですね」
「そういうことになるの。改めて、わしはカーディナル。今は最高司祭の代理をしておる」
「竜騎士、ルーク。我が最後の望みを聞き入れ、アリス達を守ってくれていたこと、心から感謝します」
ほう、と賢者が目を細める。
ルーリッドに立つまでの数ヶ月、カセドラルで生活していたアリス達のことをルークは聞いていた。
キリトを断罪すべしと口にする、真実の全貌を知らぬ騎士や修道士を取りなしていたのは彼女だったのだ。
「良い。お主には命を救われた借りもあるしの、すべきことをしたまでじゃ」
「こちらこそ、キリト達を導いてくれたことも含めて、ささやかながら敬意を。この御恩は、人界を守ることでお返しします」
「うむ。期待しておるぞ」
頷いたカーディナルと、大胆不敵な宣言をしてみせたルークにざわりと空気が揺れる。
前最高司祭を誅した反逆者が、自分達を守ると口にしたのだ。下位の整合騎士達の一部が殺気立つのも無理はない。
しかし、その全てを微塵も動じることなく受け止めたルークは、圧に少し震えたシャーリーを抱く腕の力を強める。
その剣呑な空気を打ち破ったのは、ベルクーリが両手を打ち合わせる音だった。
「まあ、剣呑なのも程々にしようや。伝説に名高き四聖竜の後継者ともなれば心強い。頼りにしてるぜ、坊主」
「ええ、騎士長ベルクーリ閣下。我が父と共に、必ずや未来を」
「父と共に、か」
復唱した騎士長の目線が、横にずれる。
そこでようやく、ベルクーリとバルドの視線が交差することになった。
最強の騎士と、最強の反逆者。
複雑に絡み合った因果を持つ、三百年来の宿敵にしてかつての親友同士。
「……お前さんは、オレの親友なんだってな。カーディナル様に聞いたぜ」
「……我にもお前にも、かつて人だった頃の思い出は既にないがな」
「ああ、そうだ。だが、一度だけ剣を交えた時のことはよく覚えてるぜ。あの時手の中に感じた、奇妙な感覚を……よ」
最後の一句まで語り切った、その瞬間だった。
絶大な二つの剣気が、彼らから立ち上ったのは。
●◯●
原初の騎士と始まりの騎士、まるでコインの表と裏のような二人の剣士。
その体から発せられる力は強大の一言に尽き、先の聖竜達の一声にも匹敵する。
「父さん……!?」
「小父様……っ!」
反射的に、それぞれが手の中に抱える者を庇いながらルークとアリスが声をかける。
しかし、一瞬たりとも二人が目線を外すことはなく、物理的圧力すら伴う覇気に圧倒されるばかり。
その場の全員が閉口を余儀なくされ、更に気迫は高まっていく。
魂までもが震えさせられるそれがいよいよ臨界に達し、ベルクーリとバルドがカッ! と開眼した時。
ギギィンッ!!
突如、二人の間で発生した尋常でない剣戟の音。
間近にいたルーク達だけが、そこに発生した銀と真紅の火花を目撃した。
一陣の風が巻き起こり、草原を揺らす。
僅か一瞬、知覚することすら相応の力を備えるものにしか適わぬ攻防。
凡そ人域を逸脱した無類の意思力でしかなし得ぬことを果たした二人は、同時に笑った。
「……なるほどな。理解した。覚えちゃいねえが、確かにお前さんは俺と共に同じ剣を振っていたようだ」
「然り。我らが絆は血よりも濃く。故に、あらゆる生の足跡を奪われようと消えることはない」
「古風な台詞だな。だが……否定はしねえよ」
一層笑みを深める彼らの語り合いに、ルークはようやくその意図を理解する。
試したのだ、互いの心を。
極限まで研ぎ澄ませた心意によって放たれる刃、すなわち《心意の太刀》。
それはあらゆる言葉や記憶よりも明白に、己の魂に刻み込まれた全てを語ってくれる。
故に、たった一太刀の応酬。竜騎士の力を得たルークを以ってしても未だ至らぬ極致。
(これが騎士。これが、俺の父……!)
ああ、なんて遠く、力強い背中だろうか。
かつては絶望にも等しかったその壁が、今度は熱くルークの心を奮い立たせてくれる。
追いつきたい。いいや、並び立ちたい。いつかあの、偉大なる父の隣に……!
そう思えば思うほどに、ルークの口元には獰猛なほどの笑みが浮かんでしまう。
「まったく、お主らは……派手な事も程々にしてほしいのだがな」
「悪い、つい気持ちが昂ってよ。さて……久しぶりだな、嬢ちゃん。ちょいと顔がふっくらしたかい?」
「……小父様」
ぱっと剣気を消し去り、穏やかな顔つきに戻ったベルクーリが気さくに呼びかけた。
それにアリスは、今にも涙をこぼしそうな声音を必死に律して言い返す。
彼女にとって、カセドラルで育った六年で唯一心を開き、父のように慕った男。その心の程は計り知れない。
きゅっと眉根を寄せた彼女に、腕を組んだ騎士長は片手を顎に添えて笑んだ。
「元気そうで何よりだぜ。
「え…………?」
「ん? 気づかなかったのか?」
突然の言葉に狼狽え、瞬時に理解することができずに戸惑うアリス。
そんな彼女に助け舟を出したのは、他でもないルークだった。
「さっき、ベルクーリ騎士長は父さんに向けて《心意の太刀》を放った時、同時にアリスにも飛ばしていたんだ」
「私に……!?」
「まあ、ほんのちょびっとだけどな。よくわかったな、坊主」
「人より耳がいいもので」
吹き荒れる二つの心意の音に紛れていた、小さな音をしっかりと捉えていた。
ルークの言葉にようやく現実に頭が追いついたアリスは、何故そのような事をと訝しむ。
だが、すぐに先ほどのベルクーリの言葉を思い出して、ハッと大きく目を見開いた。
「まさか、小父様はキリトを試して……!?」
「その通りだ。そしてさっき、一瞬だが坊主の心意が高まってオレの刃を防いでみせたのさ」
「そんな……」
唖然としたアリスは、その表情のまま答えを求めるように視線を彷徨わせる。
やがてルークに行き着くと、シャーリーを安心させるように背中をさすっていた彼は頷いた。
無論、視界の端で激しく体を震わせた弟分の、湧き上がった一筋の剣気を見出したが故だ。
アリスが、隣にいるキリトを見る。
自分が肩を貸さなければ自立すらままならない、弱々しい佇まい。
その漆黒の瞳には変わらず闇ばかりがあり、一欠片の意志も見えないというのに。
「その小僧の心は、今はここにはねえようだ。だけどな、嬢ちゃん。よく覚えておけ、いつか必ずそいつの心は戻ってくるぜ。本当に嬢ちゃんが助けを必要とした時に、な」
「っ…………!」
いよいよ限界に達したアリスは、衆目も気にせずキリトを両腕で抱きしめた。
力のない痩躯を手折らないよう、しかし溢れ出る思いを止められず、とても力強く。
それを見てあんぐりと口を開けたエルドリエへ、面白そうに笑ったベルクーリが声をかけた。
「こういうわけだ。若者一人くらい面倒を見てやろうじゃねえか、エルドリエ」
「し、しかし……多少生気があるにせよ、たとえ正気に戻ったとて学生の剣がどれほど役に立つものか…………」
「そうは言うけどな、エルドリエさん。最終的にアドミニストレータを倒したのはキリトだぜ? 竜になり損なって記憶を失った俺でも、同等の力を持つカーディナル様でもなくさ」
再びざわめく周囲の人々。
ルークは覚えている。あらゆる絶望に膝を屈する事なく、争い続けたその背中を。
最後に目を閉じるその時まで、願いに羽ばたく眩ゆいその煌めきを魂に焼き付けた。
知っているのだ。二振りの剣をその手に携え、真に自由を勝ち取ったのは……この人界で、誰よりも強いのは。
あの、いつも飄々としていて、少し抜けていて、だけど他の誰よりも未来を託せると信じられる、あの少年だと。
「キリトは戻ってくる。絶対に」
「っ…………」
いよいよこれ以上言葉を重ねれば不恰好なのは自分の方だと悟り、エルドリエは押し黙る。
膠着の様相を見せた空気を断ち切ったのは、カーディナルの隣から一歩踏み出したスワロウだった。
「ご心配には及びません。キリト様のことは私が責任を持って預からせていただきます。元より私の役目は
「よし、それで決まりだ。これ以上ぐだぐだと言い合いをしても無駄に時間を浪費するだけだからな」
「至言じゃな。今は一刻を争う時分、まだまだすべきことは山積みじゃ。ルーク、バルド、お主らにも会議には出席してもらうぞ」
「心得ている」
「分かりました」
ベルクーリとカーディナルの一声で、ついに突発的な集会は解散と相成った。
極太の円陣を作っていた者達はそれに従って持ち場へと戻り始め、俄に騒がしくなる。
不承不承といった面持ちのエルドリエも、アリスへ一礼すると足早く立ち去っていった。
「来て早々、色々と騒がしくなっちゃったな」
「仕方がありません。ルーリッドで暮らしてるうちに緩んでいた心が引き締まる思いです」
「……違いない」
アリス達と言葉を交わしてから、ふとルークはずっと胸の中にいたシャーリーを見下ろす。
「ごめん、変なことに巻き込んでしまって」
「いえ……久しぶりに先輩の温もりを感じられて、満足です」
「……おう」
連行された日のことが一瞬脳裏に浮かび上がり、返答が遅れる。
どうにかそれを記憶の箪笥の奥底に押し込むと、彼女と体を離した。
「リィ。後でゆっくり、ちゃんと話そう」
「はい。待ってます、先輩」
頷いた彼女は、最後に一度ルークに抱擁すると小走りで走っていった。
それを見送ってから、もう一度アリス達を見ると……なんとも生暖かい視線が帰ってくる。
「随分と仲が良いようですね、兄さん?」
「……我が子にも春が来たか」
「やめてくれ、二人とも。色々複雑なんだ…………そう、色々とな」
ルークの呟きに、二人は顔を見合わせるのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回は〝彼女〟との話。