僕が僕であるために   作:なだかぜ

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 この作品では原作と違い翔太くんと亮の年齢差を9歳にしています。よろしくお願いします。


Prologue2:新たな仲間

 ~俊太side~

 猪狩と別れた次の休日、オレは次の春から同じ学校に通うことになる親友のもとを訪れることにした。

 

 小学生の頃までは幼なじみと言えるような、そうほんの徒歩数分の距離だったんだ。しかし、中学にはいると同時にオレが引っ越してしまったので、今は電車で40分というなんとも言えない距離に住んでいる。

 

 そして、その親友の名前は「友沢 亮(ともざわ りょう)」。帝王シニアで野球をやっていた、オレと同じ中学三年生。

 

 MAX136km/hの速球とキレがありプロ顔負けのキレのあるスライダー、緩いカーブとシンカーを投げて来て、完投能力もある本格派の好投手。

 そして打っても猪狩超えの打率と飛距離、足を持っているというもしかしたら猪狩よりも上の野球センスを持つ選手。

 

 一回ショートの守備についているのを見たことがあるのだが、慣れないためか守備範囲はそこまで広くないものの強肩を活かした守備はきれいで、野手としてもやっていけるのではないかとオレは思う。

 

 自慢じゃないんだけれどオレは帝王シニアをジャイアンツカップの決勝戦で破った。

 ……ホントに自慢じゃないからな!?

 ただ、オレは亮から3打数1安打1四球1打点で、試合も3対2だから、猪狩に本当に助けられた。その再戦(リベンジ)がしたいのだけれど、亮はもう投手はやらないらしい。

 

 あいつもオレと同じ境遇なのだろうか。そしてそんなことを考えているオレはもう一度あの場所に立てるのだろうか……

 

 ただ、それどころか家の都合で亮は帝王実業高校ではなく聖ジャスミン高校に進学することになったらしい。そういった家庭の事情にはあまり踏み込めないが、少し心配になってしまう。

 

 猪狩にしても友沢にしても、こんな才能のあるやつらに囲まれているのに諦めずに努力をした自分を褒めたくなる。そのくらいオレとアイツらの才能には天と地ほどの差がある。

 

 オレも努力はしているが、アイツらだって努力をするのだから、その差は埋まらないようなものなのかもしれない。でも、猪狩から離れてしまうようなレベルの根性だった以上、これはただの言い訳にしか過ぎないんだろうな。

 

 そうこう考えているうちに、オレはあいつの家の前まで来ていた。

 『ピンポーン♪』

 オレがインターホンをならすと亮は兄弟の面倒を見ていたのかエプロン姿で登場した。

 

 オレは本当に亮を尊敬する。中学生ながらに家事をほぼ一人でやりこなしているのだから。自分には絶対できないと自信をもって言えるようなことを、彼は平然と一人でやりこなしているのだ。

 

 だからオレは亮にこう声を掛けることしかできない。

 「よう、亮。久しぶりだな、ちょっとお邪魔するよ」

 

 ……まあ翔大たちがかわいいから会いに来た、って言うのもあるんだけど。

 ~俊太sideout~

 

 

 ~亮side~

 「おお、俊太か、狭苦しいところだが入ってくれ」

 こういうところで「世話をしに来た」というようなことを言わない俊太の優しさがとてもうれしい。

 

 そういう鼻につかない優しく、頼れて、責任感のあるキャプテンに向く性格。アイツはこのままあかつきに行くのだと俺は勝手に思っていた。

 

 それなのに俺と一緒に聖ジャスミンに行くと言うのは一体どう言うことなのだろう。

 

 まさかあいつ……俺と同じように肘を?肘でなくても何処かを痛めたのか?

 まぁまだ聞くのは早いだろう。アイツなら遅くとも春には教えてくれるはずだ。

 

 俊太には聖ジャスミンに行く理由を家の事情と言ったが、本当は肘の影響で帝王から推薦をもらうことができなかったからだ。

 

 俊太は真面目だから騙せるとは思うけれど、いつかは話すべきなんだろうな。

 

 気を取り直すと俺は俊太に「お茶を注ごうか?」と声をかけようとしたが、それは弟たちー翔太(しょうた)と朋恵(もえ)ーの「俊兄ちゃーん」という声でさえぎられる。

 

 まぁ無理もない。もう一人の兄としたっている俊太が久しぶりに訪ねてきたのだ。そりゃ、はしゃぎたくもなるだろう。

 

 ここは少し俊太に甘えさせてもらうか。

 そう思った俺は俊太の「おお、久しぶり」というおじいちゃんのような発言を聞きながらお茶を注ぎに台所へと向かった。

 〜亮Sideout〜

 

 

 〜俊太Side〜

 やっぱりいいよな、兄弟って。そんなことを突然言い出すのにはもちろん訳がある。

 オレにも姉がいるのだが、いろいろな事情があって今は会えない。

 

 そんなオレにとって、翔太くんたちはホントに実の兄弟のような関係だ。翔太くんや朋恵ちゃんが本当に小さい頃から一緒に遊んできたもんね。

 

 「ねえ、俊兄ちゃん、キャッチボールいこうよ」

 「あっ、わたしも」

 

 こんな感じで亮の家に遊びに行くと大体野球をすることになる。二人とも兄ゆずりのセンスで会うたびに上手くなっているし、何よりも野球を楽しんでいるから一緒に遊んでいて楽しい。

 

 だからオレは、

 「分かったから着替えてきて。終わったら行こう。」

 と声を掛ける。すると、翔太くんと朋恵ちゃんは先を争うように自分たちの部屋へと駆けていった。

 

 そうだ、亮にも声掛けないとな。そう思ったオレは亮にもらったお茶を飲み干すと、台所に向かった。

 〜俊太Sideout〜

 

 

    ☆   

 

 

 〜亮Side〜

 「俊太〜行くぞ〜」

 ここは近所の河川敷。俊太に付き合ってもらって、翔太と朋恵の四人でキャッチボールをしている。

 

 「あ、翔太。ステップが一歩多いよ、でも良い球来てる」

 「分かった〜」

 

 「あと、朋恵は肘がちょっと下がってるから上げてみて」

 「はーい」

 

 こんな感じで俊太は細かいところまでしっかり見てくれるし、良いところは素直に褒めているから上達が速い。将来いいコーチに慣れるんじゃないか。

 

 それにしても俊太の様子におかしいところは見つけられない。

 バッティング面なのだろうか。それとも投手?

 

 そんなことを考えているうちにキャッチボールは終わってノックに。

 「じゃあ次はノック打つよ。最初は亮が受けて」 

 「ほいっ」

 「それっ!」

 カキーン!

 パシッ!

 ......おっと危ない。球際にしっかりと回転をかけたボールを打ってくるから難しいんだよな。

 スイングもきれいだ。じゃあやっぱり投球面?

 

 それはまあ良い。今は貴重なノックを受けられる時間だ。

 ショートはあんまり慣れないし、時間も限られているから少しでも練習しないと。

 

 そう思った俺は、

 「よし、もう一丁!」

 と声を上げて構えた。後ろで弟たちがなにか言っているが無視しよう。

 

 「とぉっ!」

 カキーン!

 際どいあたりだが取れる!

 そう思った俺はグラブを伸ばした......

 〜亮Sideout〜

 

 

 〜俊太Side〜

 おお、亮はやっぱり凄いな。あの打球を体勢を崩さずに取るだなんて。

 翔太くんたちもそこまでは行かないけど小学校低学年とは思えないグラブさばきだ。練習をしっかりすれば、将来オレを軽く超えるような選手になるだろう。

 

 じゃあ肩慣らしはここまでにしてひと勝負しますか。

 亮とオレの1打席勝負。前は両方投げて2回やっていたのだが、亮は投げられないと言っていたので今回からはオレしか投げない文字通りの一回勝負だ。

 

 「じゃあ亮、やるぞ」

 おう、という声がかえってきて亮が左打席に入り、バットを構える。

 

 まだ翔太くんたちにオレのボールは取れないので、俺の投げる相手は壁だ。これが投げづらい。投げる目標が定まりにくいもんね。

 

 1球目。オレが選んだのは内角高めのストレート。おおきく振りかぶって指先に力を込める。そうだ、この感覚、忘れかけていたこの感覚がふっと蘇る。

 これは外れて1ボール。ただ、これで速球を意識させられたかな?

 

 2球目。オレが選んだのは外角低めに逃げるスライダー。打者の手元でククッと動きを変えるボールに亮のバットは空を切った。これで1ボール1ストライク。

 

 「良いボールだな」

 あれだけ自分のスライダーに誇りを持っていた亮に言われるのは嬉しい。

 おっと、気持ちを引き締めないと。

 

 3球目。オレが選んだのは内角低めにボールになるチェンジアップ。オレはチェンジアップだって言っているのに、みんなはサークルチェンジだって言うんだよな、この球。

 

 亮はオレのボールにしっかりタイミングを合わせた。ただ、ボールが思ったより変化したらしく打球は強いゴロになって、ギリギリ三塁線を切れていきファール。

 

 危ない、危ない。少しでもボールが浮いていたら間違いなくヒットだった。でもこれで追い込んで有利に立てた。カウントは1ボール2ストライク。

 

 4球目。オレが選んだのは外角高めに外れるストレート。オレは1球1球に力を込めて見えないミットに向かって投げ込む。亮はしっかり見て2ボール2ストライク。

 

 5球目。オレが選んだのは内角低めに落ちるドロップカーブ。大きく縦に弧を描いて来る球に対して、亮はなんとかタイミングを崩されまいとするものの、不遇にも亮のバットはまた空を切った……はずだった。

 

 しかし、亮はタイミングを崩されながらも片手でしぶとくライト前にはこんだ。本当にすごい野球センスだと思う。

 

 しかし、オレが

 『ナイスバッティング、亮』

 と声を掛けると、

 

 『今のはタイミングを崩されているから俊太の勝ちだ』

 と言われた。

 亮はストイックなやつだからオレがどう言おうと、自分の意見は曲げないだろう。それに、形だけでも勝ったのは素直に嬉しいので、ここはオレが意見を折る。

 

 今回の勝負はセカンドフライでオレの勝ち。ただ今回は実質亮の勝ちだし、一歩間違えば長打の当たりがあったので勝ったとは言えない内容だったな。

 

 そんなこんなで夕方になってしまったので、オレは亮とクールダウンをして帰ることにした。

 「じゃあな。亮、翔太、朋恵」

 そう声を掛けるとオレは家へと一歩を踏み出した。

 

 あかつきに行けなかったからといって、オレの野球人生が終わったわけじゃない。むしろ、ここから始まるんだ。

 そう思うと同じ陽のはずなのに、猪狩と話したあの日のものとは全く違うものに見えてきた。

 

 そういえばオレも高校生から一人暮らしだ。前暮らしていたところにほど近い聖ジャスミンにこれから通うのだから。

 

 料理は趣味でやっっているから人並みよりはできると思うけれど…………

 家事の効率の良いやり方を亮に聞かないとな。

 〜俊太Sideout〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは選手生命を絶たれかけた二人の少年を中心とした物語。それは聖ジャスミン高校で今、始まろうとしていた。




 いかがでしたか、って言える内容が出せるように頑張ります(汗)
 次回から本編です。お楽しみに?
11/1勝負内容を改変

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