玉狛所属・本部エンジニアの元射手   作:けし

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ワールドトリガーにハマり、単行本も買い進めたので書きあげた。もう一つもあるのに何やってんだ自分。

年上に対する二宮さんと加古さんの口調が難しい。


合成弾と自在弾

「如月さーん!!」

 

 温かみを一切感じさせない無機的な廊下を、大きな声が通り抜けた。それが自分を呼ぶ声だと気づいた如月と呼ばれた男は、くわえていたアイスの棒を左手にもってから振り返った。

 

「うるせえぞ出水。聞こえてっから大きな声出すな。こちとら3徹で頭が痛いんだよ」

「そんなことより見て下さいよ如月さん! 俺作れましたよ!」

「は? 何を」

「まあまあ見てくださいって」

 

 アステロイド + アステロイド。

 そう言って両手に現れたキューブは、射手(シューター)の基本トリガーである通常弾(アステロイド)。出水公平持ち前のトリオン量により、並の射手のそれよりも大きい。

 そしてそのキューブが引かれあい、触れて。数瞬後、一つの塊になっていた。

 

「………へ?」

 

 思わず変な声が出たのは仕方ないのかもしれない。なにせ如月にとっても初めての現象だ。

 

「へへっ、合成弾ってやつですよ」

「流石に驚いた。天才だわオマエ」

 

 とはいえ、直ぐに自分でも出来ないか模索しだすあたりはやはり負けず嫌いなのか。

 

「とりあえずは研究室に行くぞ」

 

 いろいろと思索するのは、座ってからにしたかったらしい。

 そんなこんなで研究室。んー、という軽い声を出しながら思考を続けていた。

 片手に通常弾。同じものをもう片方にも作り出して、とりあえずくっつけてみるも中々うまく行かない。

 そう簡単に真似されては出水としては立つ瀬がないはずだが、当の出水の目は期待に溢れていた。

 

「同質、同量、同速度、同回転。全く同じものを作ればいいか」

 

 いくらかの試行で得た推量に基づいて、決定する。結果、現象からの逆算は十八番だ。

 そして彼の常人を超えるトリオン制御能力が、推量に基づいた行動を可能とする。

 

「お、一応見た目は上手くいったな。中身は知らんが」

 

 如月の手には、出水が見せたのと同じ合成弾がふよふよと浮かんでいた。

 

「さっすが如月さん、軽々とやってのけますね」

「まあ、見本は見せてくれたしな」

 

 あっけらかんとしているし、簡単そうにそう言ってのける如月。だが実のところ「感覚」ではなく「理論」で実行するのは、特にこの合成弾の場合、相当の難易度になる。それを一回でやってのけたのはまさに絶技といえる。

 

「それに同種の弾ならこんなこともできるしな」

 

 ここでさらに出水は驚愕する。

 先程の合成弾を霧散させた如月の掌の上には通常弾が64個に分割されて浮遊していた。そして次の瞬間、()()()()()()()()()()()()()()くっつきだし、気づけば32個に数を減らしていた。

 

「ちょ、なんなんすか!? 片手で合成!!?」

「っ、響く響く、うるさい。いちいち驚くなよ。頑張ればオマエにもできるって」

「いやいや無理無理無理ィ!! 二宮さんとか加古さんとかでも無理無理!!」

 

 自分のトリオン能力を鑑みても到底不可能な技術だった。端的に言って片手で両手分の働きを同時にさせることに等しいのだ。

 

「んー、そうかぁ? 案外上手くいきそうなもんだが…。まあ無理しても意味ないしな。能力は上がるが威力が低いんで実戦ではあまり使わねーだろうしな、片手(ワンハンド)合成弾」

「如月さんは例外でしょ」

「うるせー」

 

 覇気のない声とともに出水はヘッドロックをくらった。もともと筋力はないに等しいのであまり痛くはないのだが、頭を極められている感覚があるから逃れようと必死になる。筋力が無くても案外簡単に出来るようだ。

 

「ま、とにかくそれはオマエの新しい武器だ。大事にしろよ?」

「それもそうか、如月さん以外になら有効そうですしね」

両防御(フルガード)でも長くは持たんだろうさ。特に通常弾同士の合成弾はな。オマエならもっと使いこなせるさ」

「ま、研鑽はします。というか合成弾って何種類ありますか?」

「10種類かな。オマエはトリガーに4つ入れてるからそんだけ作れるはずだ。…っと」

 

 ふと思い出したように、如月は言った。

 

「ちょっと射手(シューター)用のトリガー作ったんだが、使わねえか?」

「マジっすか!? どんなやつどんなやつ!?」

「作ったっていうか、『元に戻した』って感じか。自由度が倍増して使いづらさが倍増した。今のところ俺しかつかえねー」

 

 あっけらかんと言い放つ如月。とはいえ、モニターは多いに越したことはないので、件のトリガーを渡そうと思ったのだが。

 

「ありゃ、オマエ空きが無いじゃん。トリガーつってもチップだし、持ち歩くのは無理だろ」

「うわー」

 

 困ったなと言うようにガシガシと頭を掻く出水。そして如月は思いついたように、傍らのトリガーを出水に投げ渡した。

 

「折角だ、ここで体験していけ。オマエらが普段使ってる射手用トリガーが、まだマシだって思える程度の面倒くささをな」

「…へぇ。面白そうじゃないっすか」

 

 不適な笑みは、挑発への回答。ボーダー屈指の天才型射手としてのプライドと実力からくる反発心。

 投げ渡されたトリガーを握り、模擬戦闘ルームへと歩を進める。

 

「トリガー起動(オン)

【仮想戦闘モード、起動】

「さーて、どこまで使えるのかなー?」

 

 興味と好奇の視線を向ける先は、モニターの中に映る出水の姿。両手を構え、キューブを作り出す。

 

『っ、なんだこれうぜぇ!!』

「あはははっ、まあ最初は驚くだろうなぁ! 全項目セルフ設定だからな! ああ、アステロイドとバイパー、メテオラ、ハウンドも入れてるから比較してみ?」

『こんなん実戦で使えるわけねぇっつうの!』

 

 と悪態をつきながら、なんやかんやで慣れてきたようで。

 

「お、なかなか上手くなったんじゃないの?」

『ホントっすか。まだ普通のやつ使ったほうが上手くいきそうなんですけど、なんか楽しいっすねコレ』

「並列演算が得意なタイプなのか…。二宮と加古にも使わせたいな」

『二宮さんは手間がかかるとかいって使わなさそうですね』

 

 結局使い辛さが身にしみて分かったらしいのだが、割と面白かったと言うのが使用した本人の所感である。とはいえ実戦での使用はかなり難があるのは変わりないらしいとのことで、やはり本当の意味で使いこなせるのは如月のみだということになった。

 当の出水はというと「絶対に使い熟す」と豪語したので、彼が暇さえあればこの部屋に来るのは確定した。熟練度が上がるのに反比例して成績が落ちるのを出水はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 ────────────

 

 

 

 

 

 プシュ、と空気が抜ける音。それは扉が開く音で、如月はその音がした方向を見やる。

 

「失礼します」

「お邪魔します」

「二宮と加古か。なんの用だ?」

 

 部屋に来たのは、現在のNo.1射手の二宮匡貴とA級6位部隊隊長の加古望。出水と共にボーダーの射手のトップに君臨する猛者だ。

 

「出水のやつがここにいると聞いたので。…あいつは何を?」

「実験。俺の作ったトリガーのモニター役だ。まあアイツもとんでもない技作ってきたんだが」

「とんでもない技?」

 

 そういえば普段仲悪いんじゃなかったか? などと益体のないことを考えながらも、その技について言及する。

 

「『合成弾』つってな。両手でそれぞれ弾を作ってそれをくっつける荒技だ。ああ、今出水が使おうとしてるやつ」

 

 モニターを顎で指し示すと、出水がハウンドとメテオラで合成弾を作っているところだった。

 

誘導炸裂弾(サラマンダー)!!』

 

 適当にアルゴリズムを組んだ仮想敵に対し、追尾しながらも着弾と同時に爆発する奇怪な弾を撃ち放ち、敵を木っ端微塵に吹き飛ばしていた。

 

「あら、面白いこと考えついたわね」

「ふん、馬鹿が。時間がかかりすぎる。実戦では役にたたん」

「その辺りは慣れだろうな。まあオマエ達でも使えるだろう」

『如月さーん、そろそろ終わってもー?」

「ん、ああ」

 

 仮想戦闘モードの終了を告げるアナウンスと共に、奥の扉から出水が出て来た。そしてそこにいた二宮と加古の2人を見て「げっ」と変な声を出していた。

 

「何でここに…」

「偶然だ。それにしてもまたおかしなものを作りやがって…」

「相変わらずの奇想天外っぷりね」

「…、合成弾のことか…。それよりも如月さんのトリガーの方が頭おかしいと思いますけどね」

「それを使える俺の頭がおかしいってか?」

「いやいやいや、そんな事は決して」

 

 出水の言葉の中の一言に、二宮が食いついた。

 

「如月さん。そのトリガーというのは?」

「ん? やっぱ興味あるか。出水、そのトリガーを二宮に」

 

 二宮がトリガーを受け取る。マジマジと見つめるものの、そのトリガー自体には種も仕掛けもない。

 

「これは?」

「名前は…自在弾(ガバメント)ってところかな。発動時に全ての要素を設定する自由度マシマシのトリガーだ。その分使い辛さもマシマシだぞ?」

「………」

「なんか言えよ」

 

 何故か無言になった二宮へコメントを催促する変な画である。

 

「へぇ、興味あるわね」

「何なら使ってみるか? いくつか用意はしてあるが」

「あら、いいんですか?」

「構わんさ。モニターは多い方がいい。二宮も行けよ」

「あ、ああ」

 

 そうして再び模擬戦闘モードを起動。今度は出水も観察する側となってその様子を見ていた。

 

『わわ、コレすっごいわね…! 全然追いつかないわ…!!』

『なんだ…これは。とんでもない手間じゃないか、クソッ』

『あら、そう言いながらも頑張るのね』

『黙れ加古。それはお前も同じだろう』

 

 案の定必死こいて設定をしながら罵り合う光景が見られた。

 

「あちゃー、やっぱあの2人だけにするとこうなったかー」

「仲悪いのか何なのか、とにかく貴重な体験なんだから、所感を聞いときたいもんだ」

「お、俺と同じで慣れてきたみたいっすよ」

 

 出水の場合と同様に、起動してから数秒で分割から発射のシークエンスをこなしていた。だが如月にとってそれは慣れてきたというよりはまた別のものらしい。

 

「慣れてきたっていうよりも、見つけたんだよアレは。ホラ、二宮はアステロイド、加古はハウンドに近い設定になってるだろ? 一番慣れ親しんだ感覚に近い設定だから、あそこまで早くなってるんだ。オマエも同じだったぞ」

「ほぇー、なるほど。如月さんの場合はどうなんです? 見てみたい気もするんですけど」

「…俺はパス。というかアレは元々俺が使ってた奴をいくらか改良したやつだし」

「って、やっぱりそうだったんですか」

 

 出水は得心がいったように頷いていた。そして改めて如月那月という男の強さに震えていた。

 一方の如月は、自在弾に苦戦する二宮たちに別の指示を飛ばしていた。

 

「じゃ、今度は合成弾でも使ってみろ2人とも」

『あら、いいんですか?』

「データは取れたからな。ハウンドとか入れてるから好きな合成弾作ってみろ」

『はぁ…。了解しました』

 

 二宮の疲れたような声と、加古の興奮気味の声。好奇心旺盛な加古はともかく、無駄なことを嫌う二宮が渋々やっているのは恐らく、役に立つと感じたからだろう。いずれ使えるようになったのなら大きな武器になるのは間違いないのだ。

 そして如月は、開発者の出水の方を振り返らずに訊ねた。

 

「で、どうだ? 合成弾が使われてるのを見て」

「すげぇと思いますよ」

「ま、今は二宮がオマエの弟子ってことになってるらしいしな。俺と似て理論派なところがあるし、分からなければ聞かれるだろうさ」

「感覚派なのは否定しませんけど…、特に合成弾(アレ)となると尚更ですよ。だからさっきみたいに考えて作れる如月さんが凄いんですよ」

「ふーん、そんなもんかね」

 

 そんな間に模擬戦闘モードが終わった。生身に戻った二宮と加古が少し疲れた表情で現れたのを見て、如月はお疲れさんと声をかけた。

 

「出水の作った合成弾とやらはともかく、あなたの作った自在弾(ガバメント)ととやらは何なんですか。頭が痛くなりましたよ」

「遺憾だけど同じね。如月さん、あんなことをやっていたんですか?」

 

 二宮、加古共に似たようなことを口にした。

 加古の問いに如月は肯定の意を示し、改めて自在弾の解説をする。

 

自在弾(ガバメント)は全てのシュータートリガーの原型となったトリガーを現在の規格に合うように、かつ俺の好みも交えて改良した代物だ。射手が直面する全ての場面にこれ一つで対応可能というものなんだが、いかんせん必要な設定要素が多すぎて、高速思考ができるやつじゃないと完璧には使いこなせないんだ」

「俺や出水でも使いこなせないなら、今の射手でそれを使いこなせる人間なんていないですよ」

「あら二宮君、私の名前が入ってないのはなぜかしら?」

「黙れ加古。話の腰を折るな」

「んー、まあその通りなんだよな。その辺りはこれから詰めていく事になるんだが…」

 

 如月は呻きながら頭を掻く。懐から棒付きの飴玉を取り出して舐め始め、思考の海を渡ろうとしていたが、三人を置き去りにしかけていたことに気づき、椅子から立ち上がって話を続けた。

 

「まあ出来上がった暁には真っ先に体験してもらうからな。楽しみにしてろ。…つーか出水、ここまで言っても来る気か?」

「当然。意地でもやってみせますよ」

「おい出水。当然合成弾を教えてくれるんだろうな」

「わ、分かってますよ二宮さん」

 

 師より貫禄と威厳のある弟子というのも難儀なものだと如月は内心で笑った。

 

「それじゃ如月さん、また来ます」

「失礼しました。…行くぞ出水。お前の教え方は分からんから模擬戦だ」

「う…、分かりましたよ…」

 

 扉が閉まるとともにフェードアウトする師弟の会話。その様子をありありと想像できた如月は、なぜか居座ったままの加古に目を向けた。

 

「で、なんで残ったんだ?」

「あら、分かってるんじゃないですか?」

「…勧誘はお断りだぞ。確かにイニシャルKだけども、歳が歳だしな」

「そうは見えないのだけど。見た目は20の前半でも通じると思いますよ?」

「その辺りは個人によるだろ。オマエには偶々そう見えただけだ」

「それに万能手(オールラウンダー)を目指してる身としては、狙撃手(スナイパー)射手(シューター)でマスタークラスになった人に興味があって、ね」

 

 加古は射手だが、スコーピオンも使う攻撃手(アタッカー)よりの射手だ。一般的な万能手は射手と攻撃手を兼ねることが多い。狙撃までカバーできる万能手は今のところ玉狛の完璧(パーフェクト)万能手(オールラウンダー)である木崎レイジのみだ。

 一方で如月はランク戦には参加しない開発部の人間ながらも、忍田真史本部長に並ぶノーマルトリガーの使い手だと言われている。その中でも本部長は近接戦闘オンリーの最強攻撃手(アタッカー)だが、如月は中・遠距離で並ぶもののない人物だ。万能手を目指す身としては、少なからず興味を惹かれていた。

 

「元は射手だ。狙撃は東がやり出してから。どっちも俺のサイドエフェクトが有利に働くからな。ただ狙った場所に当てられるようになるには苦労したもんだ」

「近接では戦わないの?」

「スコーピオンは入れてるが、まあ滅多には使わんさ」

「ふぅん」

 

 加古は不敵な笑みを崩さなかった。如月はこれ以上話すことが無くなったので沈黙。

 

「ねぇ、お願いがあるんですけど」

 

 懇願の口調。しかし、その口調に反して表情筋は上がったままだ。

 

「……聞くだけは聞く。言ってみろ」

 

 内容がある程度予測できてしまった如月は諦観漂わせながらそう言った。

 

「明日、堤君と諏訪さんと太刀川君を呼んで料理を振る舞おうと思うのだけど、どうです?」

「………遠慮したいんだが…、まあいいか。どうせ炒飯だろ? …ふっ、オマエには本物の炒飯というものをいい加減教えなきゃいけないらしいな」

「あら、楽しみにしておきます」

 

 結局笑みを崩さないまま、加古は部屋を立ち去った。

 ギシリと椅子に体を委ねて、加え続けていた飴玉を噛み砕いた。白衣がシワになることも無視して、脱力する。

 ほう、と大きな息をついた。緊張か、疲労か。そんなものが含まれた重たい息。無機質な天井を見上げて、目を細めた。

 

「こんなバカみたいな時間が続いたら、いいんだけどな…」

 

 その一言に、万感の思いを載せていた。

 その一言に応える者は、誰もいなかった。

 

 

 




如月真白(きさらぎ ましろ)

《profile》
ポジション…射手(シューター)
年齢…31歳
血液型…O型
身長…178cm
誕生日…2月14日
星座…かえる座
職業…開発員、医師、教師(資格のみ)
好きなもの…睡眠、酒、甘いもの

自在弾《ガバメント》
射手トリガーの原形となったトリガーを改良した代物。これ一つでアステロイド、バイパー、ハウンド、メテオラの能力を使うことができるが、そうするためには起動時に設定を行う必要がある。消費トリオン量は他とそれほど変わらない。
設定要素…威力、射程、弾数、追尾機能(オンオフ)、炸裂機能(オンオフ)、軌道設定(オンオフ含)
このうち威力、射程、弾数は起動時に使ったトリオン量を100として分配する形で設定。
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