何度でも読み返せる面白さはたまりませんなぁ!
「ん…、なんか来たな」
俯瞰視点の端で捉えた点。別段気にかけることもなく、よくある事だと思うことにする。──には、少しばかり目立ちすぎた。
「
本部開発室の椅子にふんぞり返りながら、フーッと煙を吐く。如月は諏訪程ではないが、気が向いたらタバコを吸う程度の喫煙者だった。
そうして、しばらく思案を続けた。そうして得た結論はというと。
「ま、放置でいいか」
これといってボーダーにこだわりがあるわけでもない。近界民に恨みがあるわけでもない。如月の両親は三門市の外で元気に暮らしている。かなりのブラコンを拗らせた姉もいたが、その姉も三門市の外に住んでいる。
視えたのは人型だったが、裏を返せばそれは意思疎通ができることを意味する。未来を視るあの男が視た光景が何かは分からないが、切欠になるのは確かだった。
ふと思い出したようにガタガタと机を弄り、試作していたトリガー案を引っ張り出した。先ほどまでの考えはもう遥か彼方だ。
「さーて、実践と行きますか」
灰皿にタバコを押しつけて火を消した。一つにまとめた長い白髪を揺らして、如月は訓練室に向かったのだった。
────────
近未来的な扉がスライドした先には、何人かの顔見知りがいた。
「あ、如月さんじゃないっすか」
「なんだ佐鳥、テンション高いな」
A級5位嵐山隊の
いつもテンション高めで行動する男だが、今日はいつにも増してテンションが高かった。
「何かあったのか?」
「何かって、ホラ! 今模擬戦やってる面子、見てくださいよ!」
そう言われて如月は壁に掲げられたモニターに目を向けた。
「太刀川に迅、それに緑川と…、風間?」
「なんかこう、有り得ない面子っしょ!?」
「いやまぁ、特に風間が。なんだかんだでノリ良いけどなアイツ」
寡黙で生真面目なようで、実は高校生のようなテンションにも乗れるハイスペック21歳児である。
「というか、ことのあらましは?」
「それは良くわかんないっすけど…」
「俺が説明しますよ、如月さん」
横合いから現れたのは、今絶賛戦闘中の太刀川率いる太刀川隊の
「最初は普通に太刀川さんと迅さんがバトってたんだけど、そこに緑川が現れて、迅さんをキラキラした目で見つめてたんですよ」
「そこで終わりそうな話なんだけど」
「まあ聞いてくださいよ。そこに風間さんが現れて、『何なら迅と戦えば良い。久々だろう?』とか言っちゃったんですよ。折角だから俺も参加しようとか言いながら」
風間らしいと言えばその通りだった。思い立ったことを押し通す行動力の高さは流石の一言である。
「まあ、何となく予想はつくよなぁ。その流れは」
「「ですよねー」」
出水と佐鳥が声を揃えてそう言った。
ふと如月が辺りを見回してみると、そこには先程は見えなかった大量の隊員が集まってきていた。ボーダー屈指の戦闘力を持つ隊員たちの模擬戦だ。見逃す手はないということだろう。
その中には、如月と関わりのある人物もチラホラといた。
「…珍しいな。那須はともかく、二宮と加古がここにいるなんて」
「っあ! ホントだ珍しい!」
トリオン体がスーツであることも相まって学生らしからぬ貫禄を見せる二宮と、妖艶な笑みを浮かべる地獄炒飯製造機の加古の姿を見てとった出水が声を上げた。
「騒がしいと思えば…、風間さんまで何を」
「ホント珍しいわね。風間さんが参加するなんて」
いつもは仲が悪いように見える2人だが、同年代ということもあってか話は通じる。
たまたま出会ってたまたま一緒になったのだろうと、如月はそう結論した。
「ま、風間弟…、じゃない風間もストレス発散したかったんじゃないか? 主に太刀川で」
太刀川の課題うんぬんでストレス被害を受けることも多々あるのが風間蒼也という男だ。太刀川から受けたストレスは太刀川を嬲って晴らすのが楽というものだろう。
「そーいえば出水、俺が渡した試作トリガーはどうだ? 使いこなせるようにはなったか?」
「あと一歩ってとこすかねぇ。まだタイムラグがありますから」
「ふーむ、やっぱそうなるか」
実用性よりも面白さを考えながら作ったものだからか。そもそも現時点においてトリガーを用いた戦術はかなりの精度で完成している。今のところ新しいトリガーを要求されることはないだろう。
件の『
「まあ妥協するまで頑張れ。データは欲しいけど無理はするなよ」
「えー。コツとかないんすか?」
「ないね。敢えて言うなら考えるのやめた方がいいってところ」
フィーリングの方が上手くいくこともあるだろう。『考えるな、感じろ』ということだ。そもこのトリガーはいわゆるプロトタイプのような代物であり、如月真白の能力ありきの状態なのだ。扱える方がおかしいほどのものである。
そうこうしている間に、件の模擬戦が終わったらしい。風間や太刀川らが脇から姿を見せた。
「おー、随分と面白いものを見せてもらったぞ」
「如月さん。久しぶりです」
「かしこまるなよ風間。ストレス溜まってたんだろ? そこの餅川も課題くらいやっとけ」
「じゃあ如月さんやってくれないですか」
「それとこれとは話が別だ餅川」
如月はあっけらかんと言い放った。太刀川もそう返されるのが分かっていたのだろう。別段言いすがることはなかった。
「あらら、如月さんも来てたんですか」
「よう迅。本部でってのも珍しいな。お前はともかく、俺も久しく玉狛に戻ってねえからなあ」
「そりゃそうでしょ。玉狛所属とはいえ今の如月さんは研究室の人間なんですから。前線退いてどのくらい経ちましたか? そのくせ出水や二宮さんを相手どれるのがおかしいんですよ」
「まだまだアイツらには負けてらんねーからな」
昔からなにかとタッグを組むことも多かった迅と如月の会話はテンポが速い。太刀川たちは太刀川たちで別の会話していたら、気づいた頃には迅は消えていた。暗躍のぼんち揚げ卿の名は伊達ではないようだった。
「ついでだ、だれか模擬戦付き合え」
それを見届けたであろう如月がそういうと、真っ先に手を挙げたのは出水だった。
それを見て少し面倒そうな顔をしながらも、じゃあといってブースへ消えた。
出水の顔はこれ以上ないほど喜色に満ちていたらしい。
『10本勝負でいいな?』
『もちろん』
あれよあれよと始まった射手2人による模擬戦。A級1位部隊の射手ともなれば、その注目度は並大抵ではない。相手が見知らぬ男であれど、だ。
射手のトップである二宮や加古、そしてトップ攻撃手である太刀川や風間も、これから始まるその戦いに目を向けた。
────────
「
両掌から現れるキューブが無数に割れる。威力重視の弾丸だが、出水はどの射手になれば、ある程度の射程も両立できる。如月は通常弾の射程より外側に立っていたのだが。
「ぬお、射程弄ったかコイツ」
咄嗟にシールドを展開。ガリガリと削られるシールドを尻目に見ながら、同時に反対側のトリガーにセットしていたエスクードを起動。範囲を広げたために強度がギリギリのシールドに代わり、地面から壁が迫り上がった。
「如月さんそれ入れてたんすか!?」
「まあ、な!」
ヤケクソ気味な返事と共に如月の左手にキューブ。出水の弾幕が止まった瞬間に横っ飛びでエスクードから飛び出した。
「
光が曲線軌道を描いて飛翔する。対抗するように出水も再びキューブを展開した。
「
両者の間で弾丸がぶつかり、相殺し合っていた。
しかし拮抗を続けていたはずの弾幕は次第に如月の側へと押し戻される。
トリオン量は出水が上だが、如月とて決して少なくはない。値にして8といったところで、比較的多い方だが、対する出水のトリオン量は12。その差がハウンドの威力に現れている形だ。
なら、と如月は再びエスクードを起動。壁の陰に隠れてハウンドの嵐をなんとか逃れようとした。
「甘いっすよ、如月さん!」
一息つく間も無く、上から襲ってくる弾丸。予め高高度に打ち上げていたのだろう。エスクードの起動で安堵したところを狙い撃ちにされた形だ。
「ああ、視えてるよ」
だがそれを如月は分かっていた。続いて展開したのは弾道を任意に用意できる
威力重視にチューニングしたそれを撃ち放ち、上空の追尾弾を撃ち落とした。
「マジか、なら!」
次は壁ごとだ。そう言わんと作り出したのはやはり。
「
彼が生み出し、そして得意とする技。
「──
合成弾『
「ちっ、
如月は地面に炸裂弾を放ち、その煙に紛れてやり過ごした。当然ながら徹甲弾は真っ直ぐにしか飛ばない代物だ。横に動けば当たることはない。
そして、それを読み切れない出水ではない。
「
「っ、おい嘘だろ!?」
徹甲弾を放った直後に生成した合成弾『変化炸裂弾』で、出水はさらに追い討ちをかけた。合成弾の生成にかけた時間は1秒未満。弾バカの面目躍如である。
「弾数が多い…、捌けるか…!?」
如月は瞬時に
しかし。
「ぐっ、やっぱ押し負けるか…」
嵐が鎮まると、そこには左手を吹き飛ばされた如月の姿。少なくないトリオンが漏出しており、
「いやいや、如月さん実際弾トリガー1つしか入れてないでしょ? しかもあの変態トリガーを」
「変態とか言うな。お前もある程度使えるようになったんだろうが。同類だ同類」
吹き飛んだ左手の傷口を押さえながら、出水の呆れ気味の言葉に如月は皮肉気に返した。
如月が使っていたのは『
(エスクードに自在弾、それにシールド。如月さんのトリガーはこれだけじゃないだろ。加古さんみたくスコーピオンでもセットしてるのか?)
使われたトリガーから空きのトリガー数を推測し、何が来るかを考える。よく戦う相手のトリガーなら把握しているが、何分相手は研究畑の如月真白だ。トリガーセットなど頻繁に入れ替えることも考えられる。
「なあ出水、テレポーターって知ってるか?」
「嵐山さんたちの隊が使ってるやつでしょ? 視線の先10何メートル程度の範囲に飛ぶやつ」
「ああ。あれ、結構便利だと思わないか?」
「さあ、俺は必要だとは思いませんね」
「そうかよ」
言葉のやり取りの裏で、再び追尾弾をスタンバイさせる。何がきても対応できる構えだ。空いた方でシールドも展開できる。
一挙一動見逃さないと、そう言わんばかりに出水は目を細めた。
「……」
「
出水の集中の糸が張り詰める中、僅かに光を捉えた。それは紛れもなく、弾トリガーの光だった。
「喰らってくたばれ」
「っ、大玉かよ!?」
如月が指をピストルの形にして撃ち放ったのは当然自在弾だ。だが、分割せずにそのままの状態で撃ったのだ。
その威力は推して知るべし。シールドなぞ一瞬で無に帰すだろう。
出水は瞬時に通常弾を展開し、それを大玉で放った。
「な、止まらないのかよ!?」
「射程削って威力に振ったんだぞ。当たり前だろう、が!」
出水の通常弾を押し返しつつ突き進む大玉の自在弾。しかしそれは分類上は通常弾と同じで真っ直ぐにしか進めない代物だ。出水はそれを飛んで躱した。
「
空中から雨のように降り注ぐ出水の炸裂弾。それに対して如月もまた弾丸トリガーで迎え撃つ。
「
元々那須に弾丸トリガーの使い方を教え込んだのは如月だ。そんな男が放った弾丸は鋭角的な軌道を不規則に描きながら、四方を囲んでくるように出水に迫ってくる。
「くっそ、流石如月さんだな!」
そしてやはり出水はそれを撃ち落とす選択肢を選んだ。射手としてのプライドとでも言うべきか、落とせる分だけ落としてダメージを軽くする算段である。
「追尾弾!」
次々と相殺される弾丸。追尾弾のリアルタイムでの誘導には演算領域の大半を持っていかれるが、それでも僅かに余裕を残した頭で、出水は如月の次の手を思案する。
そんな折、視界の端に何かを捉えた。
(グラスホッパー!?)
青い四角の枠。自隊の隊長である太刀川がよく使うオプショントリガー『グラスホッパー』だ。
いわゆるジャンプ台トリガーだが、近くに如月がいない以上、出水が踏まなければ反応しないはずだった。
(、何か来る)
猛スピードで弾丸の間を縫うように飛んでくる何か。自分ではなく、グラスホッパーを狙って飛んできた。
(スコーピオンか!)
出水の考えていた手の一つ、攻撃手トリガー『スコーピオン』だ。だが手放してしまったからにはその能力はただの刃。出水の弾トリガーで壊せてしまう脆さなのだ。
しかし弾幕は止まない。如月が弾数を細かく割り振って撃ってきているので、出水もまたそれに応じざるを得ない。
「テレポーターは使わないって、さっきお前言ったな?」
「…?」
如月からの言葉に返す余裕はあれど、返事はしなかった。
「なら、こんなのはどうだ?」
スコーピオンがグラスホッパーに当たり、出水の更に上へと飛んでいく。
「──『プレイスメーカー』」
その瞬間、如月の姿が消えた。
「っ! どこに!?」
なんの前ぶりもなかった。文字通りいきなり消えたのだ。出水と如月な間にはかなりの距離があったにも関わらず、視界の範囲から消え失せた。
そして違和感に気付いたときには、出水のトリオン体は盛大に撃ち抜かれていた。
(上かよ…! いつの間に…?)
(左手にスコーピオン…? さっき投げたやつなら、あれを
そこまで行き着いたところで、出水は緊急脱出した。
「ふぅ。あぁ、うまく行ったな。大大大成功だ」
失った腕の傷口を押さえつつ、如月は笑みを浮かべた。
如月真白 トリガーセット
《main》 《sub》
ガバメント ガバメント
スコーピオン エスクード
プレイスメーカー グラスホッパー
バッグワーム シールド
プレイスメーカー
オプショントリガー。テレポーターの亜種。スコーピオンや弧月など、自身のトリオンで形作られたものの所まで転移する。移動範囲は無制限だが、あらかじめ仕込みをしておかなければ起動できない。自分が直接触れているものを同時に飛ばすことができる。一度に飛ばすものが多いほどトリオン消費が増えていく。
モデルはいわずもがな。