この戦い、いかにして描こうか。
その後の戦闘は案の定弾の打ち合いである。
『如月、
『勝者、如月真白』
「たぁ──、負けたかぁー」
ランク戦ブースからのっそりと現れた出水は、してやられたというようにそうぼやいた。豊富なトリオンと実戦経験から繰り出される攻撃は、並の
「いやいや、3本も取られるとは思ってなかったっての。こと合成弾にいたっては俺より早いし。さすが弾バカと言ったところか」
「誰が弾バカですか」
「お前だよ」
如月はこの試合、新たな試作トリガーである『プレイスメーカー』を使いながら戦っていた。スコーピオンやグラスホッパーなど、普段はあまり使わないトリガーを戦闘に織り交ぜつつ、それでもなおあの出水相手に7本奪って勝利したのだから、その戦闘力は頭抜けている。
「まあ、まともに弾トリガー撃ち合ったら俺の負けだろ。トリオンの差がデカいしな」
「テクニックでぼろ負けしましたけどね! あーなんで勝てねーんだよホント」
「まあ俺のトリガーセットが反則じみてるってのもあるんだろうけどな。試作トリガーだらけだし、別に気にするもんでもないだろ」
「それでもですよ。
隊として戦闘を行う分には、出水が身を置く太刀川隊ではNo.1
ゆえに、出水自身は近距離に対応する術を持たない。弾トリガーを至近距離にばら撒くという手もあるだろうが、それほどの距離ならば弾丸起動の過程で斬って落とされる。攻撃手の間合いはコンマ以下の読み合いなのだ。
「お前のトリガーセットに空きは……、無いよな」
「無いですね。全部埋まってますよ」
「…こういう時に『
「使いこなせる人の台詞ですけどね、それ」
「そりゃそうか」
『自在弾』の本質はその自由度にこそある。既存の弾丸トリガーの要素全てを内包し、それを起動時点で任意に使用できるのが強みだ。さすがに単体では合成弾のような効果を持つことはできないが、両方同時に起動すればその限りではない。
だが何度も言うようにこのトリガーは常人はもとより、出水ほどの実力者ですら使用に難儀する代物だ。
「それにしてもあの瞬間移動のトリガーはなんなんですか? 大まかな仕組みは分かったんですけど」
「なら大仰に話す必要はないだろ。テレポーターの発展版だ。まあメリットもデメリットあるから、どっちを使っても変わらんだろ」
「いやいやいや、如月さんのは
「そりゃそこがポイントだからな」
試作トリガー『プレイスメーカー』。テレポーターの発展版と如月が呼称した通り、そして瞬間移動と出水が表現した通りの効果を持つオプショントリガーだ。
弧月やスコーピオンを始め、レイガストやエスクードなど、使用者のトリオンで構成された
「まあ、万人向けのトリガーではないな。風間あたりに使わせてみるか…?」
「めちゃくちゃ強くなりそうっすね」
「手に負えなくなりそうだな」
トップクラスのスコーピオン使いが使えばどうなるか。如月にとってかなり気になる所だったが、栓無きことだとその思考を脇道に置いた。
「そーいや、遠征から帰ってきたばかりだったか?」
「そうっすね。収穫もありましたし、まあ実のある遠征でしたよ」
「そりゃ何よりだ。っと、悪い、電話だ。それじゃまたな出水。二宮たちにもよろしく言っといてくれ」
「分かりましたー」
懐にしまっていた携帯電話。ボーダー支給の物とは別の、如月の私物だ。割と彼のアドレスを知っている人間は少ないのだが、珍しく電話がかかってきていた。
その着信画面を見て、如月は僅かに顔を顰めた。
「…もしもし」
『お、やーっと繋がった』
「何の用だ? …迅」
自称実力派エリートこと迅悠一。『目の前の人間の少し先の未来が視える』という、いわゆる未来視のサイドエフェクトを持つ
迅からの連絡は厄介事が多いということを身をもって知っているのだろう。それが先ほどの表情が持つ意味だ。
『いやぁ、ちょ〜っと協力してほしいことがあってですね〜』
「また、何か視えたのか?」
『…えぇ。ここが一つの大きな分岐点になります』
「そう、か」
如月の目が細まった。ここまでに視た情報が脳内で少しずつ繋がっていく。
「
『あれ? 如月さん、遊真のこと知ってたんですか?』
「たまたま視えたのさ。
『なるほど。じゃあ』
「ああ。内容聞くとさらにやる気無くなりそうだけど、やってやるさ」
『OK、言質は取りましたからね?』
そうして迅の口から明かされる未来を聞いた如月は、残響しそうなほど大きなため息をついた。
────────
「やーどうも。みんなお揃いでどちらまで?」
「迅…」
偶然にも昼間に戦ったばかり。たまたま迅がノーマルトリガーを所持していたのを知った太刀川が、無理矢理迅をブースに押し込んで始まったそれは、気づけば風間と緑川を間に挟んで四つ巴になっていた、というのが事の真相だった。
あの時は和気藹々としていたが、今は張り詰めた空気が流れていた。
星が瞬く夜。ボーダー隊員以外は足を踏み入れない警戒区域のとある路地で、黒トリガーを装備した迅悠一と、ボーダーきっての精鋭部隊が顔を合わせていた。
「太刀川さん、昼間ぶり。みんな殺気立ってるけどどうしたんです?」
「迅。お前は分かっているはずだぞ」
風間がそう口を開いた。迅はそう聞かれるのが分かっていたのだろう。間髪を入れずに返答した。
「まぁね。うちの後輩にちょっかい出しに来たんでしょ?」
迅が、腰のポーチに挿したトリガー──『風刃』の柄に手をかける。
「もしそうなら、実力派エリートとして後輩たちを守んなきゃいけないな」
「俺たちを相手に、一人でやる気か? 随分と甘く見られたものだ」
風間が鋭い視線を飛ばす。飄々としながらも、迅は表情を変えずに言う。
「まぁ確かにあんたらが相手なら、俺が黒トリガーを使ったところで、精々
「……」
その言葉に、全員の視線が鋭さを増した。数は戦いの基本であれど、ここにいる面々は個々が高い技量と戦闘力を持つ。多数かつ精鋭を相手取るこの状況に際してなお、単騎で引き分けに持ち込めると言う迅。彼らのプライドが、それに怒りを感じたか。
「まぁ、俺1人なら、だけどね」
「っ」
廃墟となった民家の屋根に、見覚えのある面々が降り立つのを、全員が見てとった。
「嵐山隊、現着した! これより忍田本部長の命により、玉狛支部に加勢する!」
「嵐山隊……!」
ボーダーA級5位に位置する嵐山隊。個人がずば抜けているのではなく、チームで勝つ隊。その連携はボーダーでも随一とまで称される。
さらに。
「やっぱ、こういう面子になるよな」
「な、如月さん!?」
現れたその人物を見て出水が驚きの声を上げた。
「よぉ出水。さっきぶりだな」
「なんで如月さんも…」
「俺も玉狛の人間だしな。迅がこう言うんだ、賭けるしかないだろ」
「…さて、嵐山隊に如月さんまで揃った。ぶっちゃけ俺達の勝ちだけど、それでもやるかい? 風間さん」
そう言われるまでもなく、風間は戦力差と勝ちの目を思案する。
未来視を持つ単騎戦力最強の黒トリガー使いの迅悠一
連携による戦いならばボーダートップの嵐山隊。
中・遠距離で並ぶ者なしと謳われていた元射手の如月真白。
(分が悪すぎるが…、ここで退いても同じことだな…)
日を改めたところで、結局この構図になる。それは明らかだった。
「俺としては、ここで退いてくれるとありがたいんだけど」
そして数秒して、風間の口から答えを聞いた太刀川たちは──。
「いくぞ…、迅。お前の予知を覆してやる」
「やれやれ。それじゃ仕方ない」
「そりゃ、そうなるわなぁ」
太刀川が弧月を構える。一拍遅れて迅が『風刃』を抜刀した。
そして如月たちも距離を開け、各々の武器を構えた。
未来が、動き出す。
如月真白
《パラメータ》
トリオン:9
攻撃:7
防御・援護:10
機動:6
技術:15
射程:7
指揮:8
特殊戦術:2
トータル:64