玉狛所属・本部エンジニアの元射手   作:けし

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雨酷っ…、どこにも行かへんやないか……。


黒トリガー争奪戦②

 迅が風刃を抜刀し、その緑色の刃を構える。剣道のような型ではなく、全身の力を抜いた軽い構え。重心は後ろに寄っており、どちらかと言えば逃げの体勢に近い。

 対して太刀川や風間たちは重心を低くとる前傾姿勢。獲物を追い詰めるが如きである。

 そんな中、風間が出水に問いかけた。

 

「出水、如月さんのトリガーはどうなっている?」

「昼間と変わってなければ、自在弾(ガバメント)っていう弾丸トリガーとスコーピオン、それにテレポーターの亜種みたいなトリガーなんかが入ってるはずです」

「…試作トリガーか。どういうものかは分かるか?」

「俺の語彙力じゃあ表現が難しいですね。ざっくり言うと、何にでもなれる弾トリガーと、どこにでも行けるテレポーターってとこですか」

「……なるほどな」

 

 字面だけなら反則もいいところ。だが制約はあるはずだと、風間はそれを探しながらの戦いになることを悟った。

 

「けど如月さんは那須と同じ変化弾(バイパー)使いだから、多分メインは変化弾でしょ」

 

 その言葉に応えるように、如月はトリオンキューブを展開した。

 

「まぁな。あーこうなるんだったら手の内隠しときゃ良かったか」

「手遅れですけどね! 追尾弾(ハウンド)!」

 

 火蓋を切ったのは出水の追尾弾だった。

 

「派手なことはやりたくないんだよ。変化弾(バイパー)!」

 

 昼間の模擬戦と同じ絵面だ。数えるのも億劫になるほどの弾がぶつかり合って相殺される。

 

「変化弾で追尾弾を相殺って…、人間ですかあの人?」

 

 それを目の当たりにした木虎がそうこぼした。弾道を予め引かなければならない変化弾で、あの出水公平の追尾弾を撃ち落とすのは神業だ。

 

「如月さんは大量の並列思考ができるタイプらしくてな。あれでもギリギリらしいけど」

 

 如月の能力を知る迅が答えた。一通り弾丸が撃ち放たれた後に間髪入れず飛び出したのは風間隊の面々だ。そしてそれを見るまでもなく如月はグラスホッパーで鋭角的に後ろに下がり、嵐山隊が銃撃で弾幕を張った。

 しかし風間たちはシールドで銃撃を捌く。間合いを詰めた風間隊隊員の歌川がスコーピオンを手に迅へと迫った。

 

「フンッ!!」

 

 迅もそれに応じる。風刃は構えず、ただ避けるだけ。洗練された動きだが、未来が視える彼にとっては既に知っている動きだった。

 攻撃の間隙に一歩踏み込み、一瞬で相手の体勢を崩した。

 

「っ…」

 

 風刃が振るわれた。ただのブレードと侮るなかれ。その刃は質量ゼロに近いとされるスコーピオンより軽く、その強度は弧月よりも高い。歌川が咄嗟に構えたスコーピオンでは受け太刀は不可能だった。

 腕に傷を負う。かすり傷程度だが、トリオンは漏れる。

 そこに太刀川が割って入り、迅とかち合った。

 弾幕による援護が入りにくいポジションで、嵐山隊がほんの数秒だけその動きを止める。

 

「! あれは出水先輩の…!?」

 

 そんなタイミングで上空から落ちてくるのは、出水の追尾弾。木虎が気付くも全弾撃墜には時間が足りない。しかも流石のコントロールで、迅と嵐山隊を狙って直下してくる。

 

「やらせるかよ」

 

 如月がそれを撃ち落とす。まるで知っていたかのようなタイミングで、すべての弾が撃ち落とされる。

 同時に迅が太刀川との噛み合いから退き、それに追い討ちをかけるように太刀川の旋空弧月が襲う。

 

「ちっ」

 

 全員がそれを飛んで躱し、嵐山が同時に炸裂弾(メテオラ)を打ち込んだ。舞い上がった土煙が如月たちを包み込み、当真や奈良坂たちの射線を切った。 

 

「さすが迅、狙われるのは分かってたか」

「結構ギリギリでしたけどね。如月さんなら当真たちが何処にいるかわかるでしょ?」

「ああ、全員の位置は把握してる」

 

 その言葉に嵐山たちが目を見開く。その瞬間、狙撃手のアドバンテージが失われたのだから。相手に悟られずに撃ち抜くのが狙撃手の戦い方ならば、場所が分かっていれば意味はない。

 

「当真、奈良坂、古寺、それに佐鳥か。嵐山、オペレーターに繋げ。俺の視覚情報から当真たちの位置を常にマークしておく」

「了解」

 

 嵐山隊オペレーターの綾辻が送られてきた視覚情報と嵐山たちのレーダーを同期させる。綾辻はその情報量に驚愕した。

 

『これは……!?』

「お前たちには言っておく。俺のサイドエフェクトのことをな」

 

 そうして、如月真白のサイドエフェクトが明かされた。

 

「俺のサイドエフェクトは────」

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し広い夜道で向かい合う人々。街灯の灯りに照らされ、その姿が浮かぶ。嵐山隊と三輪、出水、米屋だ。

 

「嵐山隊……」

「悪いが、お前達の相手は俺たちだ」

「なぜ玉狛の味方をする…。奴らは近界民(ネイバー)を匿ってるんだぞ!!」

「それは聞いている。だが、迅は意味のないことはしない。きっとよっぽどの理由があるんだろう」

 

 迅悠一は未来が視える。未来を知る者として、悲劇を回避するべく暗躍を行う日々。その中で、一つのミスが悲劇へと転がしてしまうかもしれない。こういう戦いにおいてなら尚更だ。

 だから嵐山は信じる。仲が良いのもあるがそれ以上に、迅悠一が起こしたことに意味があると、今まで見てきたから。

 対して、三輪に根付いた憎しみは深い。並大抵の代物ではなく、復讐により晴れるかも分からない。肉親を喪ったことによるものだからだ。

 嵐山はそうではない。ゆえに理解はできるが同情はしないし、できない。

 

「お前が近界民を憎む気持ちは分かるつもりだ。だけど憎しみを捨てろだとか、そういうことを言う気はない」

 

 しかし嵐山准の本質はお人好し。相手を全否定したりはせず、良い方向へと導こうとする。だから彼は三輪の憎しみを否定しない。それは然るべきものだと思っているから。

 

「迅はお前とは違うやり方で戦ってる。それが納得いかないのなら、俺たちが気の済むまで相手になってやる」

 

 一瞬、その強い語気に三輪がたじろいだ。

 

「…やるならさっさとやろうぜ。正直な話、如月さんがどう動くか分かんねえからな。さっさと終わらせて、太刀川さん達に加勢しなくちゃいけないんだ」

 

 両攻撃(フルアタック)の体勢。虚空にかざした両手から、トリオンキューブが現れた。

 ──同時に銃声。

 

「なっ…」

「なーんちゃって。──佐鳥見ーっけ」

「よし、陽介。スナイパーを片付けろ」

「了解!」

 

 両攻撃中はシールドを展開できない。だからそこを狙った。

 だが出水はそれを見越した上で敢えてその体勢に入り、隠れている狙撃手をあぶり出したのだ。

 多少の焦りはある。あの如月真白の場所が分からないのはディスアドバンテージとして余りある。それでも思考は冷静だった。

 三輪隊攻撃手の米屋陽介が、隠れている佐鳥を落とすために射線の方向へ跳んだ。

 

「木虎!」

「カバーに入ります!」

 

 嵐山も予見していたのか、間髪入れずに指示を出して木虎を援護に走らせた。

 

「行くぞ出水」

「オーケー」

 

 再びキューブを生成し、三輪はハンドガンを構えた。

 

「充、いけるな?」

「問題ありません」

 

 嵐山たちも突撃銃(アサルトライフル)を腰ダメに構える。

 彼らの戦闘は、見るも激しい銃撃戦になった。

 

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

 

「怖い顔するねぇ三輪も」

 

 如月も、離れた場所でそれを視ていた。

 

「迅は狙撃が当たらないだろうから、当真は動くだろうな」

 

 戦場は2つ。迅のいる戦場と嵐山隊が戦っている戦場。

 如月はその間にいる。どちらにつくか、相手がどう戦力を分けるかで考える腹づもりだった。

 

「これは、迅の方に援護行くのがベネ、ってところか」

 

 嵐山隊は敵狙撃手の位置は把握している。木虎と米屋が一対一、出水・三輪と嵐山・時枝の二対二。幸運にも佐鳥は狩られなかった。ならば狙撃手のアドバンテージは嵐山隊が握っている。

 

「なら、古寺と奈良坂を先に潰すか」

 

 迅の持つ(ブラック)トリガー『風刃』は、物質に斬撃を伝播させる能力を持つ。目標が視認できていれば、理論上射程は無限大になる。

 だが、流石の迅でも狙撃手の位置は視認できない。なにより風間隊と太刀川慶が織りなす攻撃の密度を前にして、狙撃手に向ける余裕は無いだろう。精々が弾を躱すくらいだ。

 ならば、狙撃手はいなくても迅の望む未来には関係ないだろう。

 

「よし」

 

 夜闇に白衣が翻り、如月は屋根を飛んでいく。既に視えている2人を消すべく、駆けていった。

 

 

 

 





並列思考
完全な並列ではなく、多少のズレはある。ガロプラのあの人よりも分割個数は多いが、その分複雑な演算は出来なくなる。軌道を描くくらいなら余裕らしい。
追尾弾と違って変化弾は軌道を引かなければならないので、相殺のために変化弾を使うのはぶっちゃけキチガイ。
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