Unlimited Fantasy Online ~カス共の狂騒曲~   作:普通の燃えないゴミ

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はじめましての方ははじめまして
そうでない方はどこから来た!言え!


pixivに上げてたけどこっちでは上げてなかったなと思って


Episode:001【風に揺れるビニール袋】

「来たぜ来たぜ。ついに来たぜこの時がァよォ」

 

 自分でもよくわからないハイテンションでPCの前のリクライニングチェアに深く腰掛け直し、頭部に鈍い銀と黒のVRヘッドセットを装着する。

 現在時刻は午前0:00。日付が変わった今この瞬間からが、待ちに待ったゲームの正式サービス開始日だ。フルダイブ型VRMMORPGと呼ばれるジャンルのオンラインゲーム、『Unlimited Fantasy Online(アンリミテッド・ファンタジー・オンライン)』、略して『UFO』。それがゲームの名だ。残念ながらベータテストの時はVRのヘッドセットを持っていなかった為に参加出来なかったが、ツイッターのフォロワーや、仲のいい動画投稿者の間で話題になっていて、普通に楽しそうだったのでコツコツお金を貯めてこの度購入した。それなりに高性能なものを買った為、20万近い金が吹き飛んだが。しかし、それを補って余りあるほどのリターンと言ってもいいだろう。

 『UFO』は、他のゲームとは一線を画すリアルさを誇る。何せ、痛覚以外の五感がほぼ現実通りに再現されているのだ。痛覚は大体、死ぬ程の大怪我=タンスの角に足の小指をぶつけたぐらいとなっているが、他の4つは95%以上現実通りなのだ。画質に関しても、下手をすれば現実より綺麗な可能性もあるほどだ。

 また、自由度に関しても評価が高い。RPGによくある職業という概念はなく、基本的に誰でもどんな武器や防具でも装備出来、どんなスキルでも使える。基本的に、というのは、ゲーム内でのレベルや、ステータスによって装備出来る・使えるものに多少条件がある為だ。が、普通にやっていればそう気になる程の制約でも無いらしい。精々、物理特化型のプレイヤーが上級魔法を使えなかったり(使えても弱かったり)、魔法使い系のプレイヤーが大剣を持てなかったり、鎧を着込めなかったりする程度だ。それも専用のビルドをすれば大体は回避出来る。

 まぁ要は、とんでもなく楽しいらしいゲームなのだ。

 

「―――イントゥ・ザ・ブレインズ!」

 

 掛け声と共に、PCのモニターに表示されたゲーム開始ボタンにカーソルが合わせられたマウスをクリックする。そして、意識が1度途切れた。

 

 

 

 意識が戻ると、そこは全く違う場所だった。視界に広がるのは、一面の白。上も下も左も右もわからない、真っ白な空間。誰一人、何一つ存在しないその空間。

 ここは所謂、プラクティスルーム。アバターの制作、初期スキンの変更、ステータス分配、装備選択を行う、チュートリアル場所だ。

 

『この世界についての説明は必要でしょうか?

 YES / NO』

 

 目の前にそんなウィンドウが表示された。世界観の説明から入るあたり、ザ・チュートリアルって感じだ。

 

「…YESで」

 

 一応調べたので多少知ってはいるのだが、折角なので聞くことに。長いので大まかにまとめると以下のようになる。

 まず、この世界には、魔法と科学が普通に混在するとのこと。

 人々は田畑を耕し、家畜を飼い、機械(電子機器ではない)を作り、森や遺跡を冒険し、モンスターを狩って生活している。

 古代より続く魔族との争いとか、そういうのは無いらしい。

 RPGらしく、斬撃・貫通・打撃の3つの物理属性と、炎・氷・水・地・風・雷・光・闇の8つの自然属性がある。属性間に相性は存在せず、モンスターによって得意・不得意な属性が違うらしい。覚える事が多そうだ。

 とまぁ、全体的に見ればよくあるファンタジーものとそう変わらない。ここまでは。

 この世界は、もしかするとポストアポカリプスな世界なのかもしれない、と各所で言われている。と言うのも、明らかに文明水準の違う機械類や高層ビルの残骸などが見つかっているらしい。PVなどでも背景にそれらしきものが映っているのを見た事がある。未だ公式からは何も言われていないので、この先ゲーム内イベントで何かがあるのだろう。

 

『ステータスについて説明しますか?

 YES / NO』

 

 世界観の説明が終わると、またウィンドウが出た。今度はNOを選択する。今更説明されるまでもない。それは調べた。

 『UFO』には、HP、TP、STR、VIT、INT、POW、DEX、AGI、LUCの9つのステータスがある。HPとTPは言わずもがな、STRが物理攻撃力、VITが物理防御力、INTが魔法攻撃力、POWが魔法防御力、DEXが器用さ、AGIが素早さ、LUCが幸運といった具合だ。POWが魔法防御というのは少しばかり珍しい気もするが、特にこれと言って特殊なものはない。

 

『アバターの制作を行います。

 リアルデータを元に制作したアバターを使用しますか?

 YES / NO』

 

 今度出たのはそんなウィンドウ。リアルデータとは、現実世界での肉体をスキャンしたアバターデータの事だ。フルダイブ型のゲームは、現実と大きく離れた体格にすると、個人差はあるが感覚のズレなどで動かしにくい場合があり、こうして現実世界の肉体とほぼ同じデータを再現してくれるものが多い。やりやすさを考慮し、ほとんどのプレイヤーはこのリアルデータを元にしたアバターを使用する。が、そこは自由度が売りの『UFO』。所謂「亜人種」と呼ばれる人型・非人間のアバターを使用することが出来る。エルフやリザードマン、ドワーフといったよくいる種族だ。―――しかし、何事にも例外はある。

 

「もうこれしか選択肢ねぇよな、うん」

 

 表記名、スライム。辛うじて人型をしている、青紫〜ピンク色のナニカ。顔と思しき所には黒で塗り潰したような目と風穴のような口があり、その他生体器官っぽいものは見受けられない。半透明ではなく、完全に濁っている泥人形のような見た目。常に泥が体のあちこちからボタボタ溢れており、そのエフェクトは空中で消えている。どう考えてもゲテモノだ。若干可愛げがあるのがまた腹が立つ。ちなみに色はRGBバーで変更可能らしい。変なところに力を入れているのかなんなのか。

 迷わずスライムを選ぶ。色もまた迷わずコールタールのような黒に変更。テケリ・リ!テケリ・リ!一気に名状し難い見た目になった、だがそれがいい。

 見えている腕や体がスライムに変化する。どうやら匂いは無いらしい。腐臭でもしたらどうしようかと思ったが、杞憂だったようだ。同時に再現してくれなかった事が少し残念なように思えたが、いくらゲーム内とはいえ臭いのは嫌なので、これでいいと自分を納得させる。

 

『ステータスの配分を行います。

 exの値を各ステータスに自由に分配して下さい。

 チュートリアル中、この数値は何度でも配分のし直しが可能です。

 STR:0 VIT:0 INT:0 POW:0 DEX:0 AGI:0 LUC:0

 ex:100』

 

 ここだけで数時間かかる人も居ると聞く、最大の難関だ。後からレベルアップで獲得した分の数値には影響しないので安心して振れるが。

 公式が推奨しているのは以下の3パターン。

 ①:1つのステータスに40、残り6つのステータスに10ずつ割り振る一点特化型。

 ②:2つのステータスに25、残り5つのステータスに10ずつ割り振る二刀特化型。

 ③:3つのステータスに20、残り4つのステータスに10ずつ割り振るバランス型。

 この3つのどれかから、配分を少しずついじり、自分の好みに近付けていくのが通例だ。ちなみにステータスが0だと、そのステータスに応じて色々とデメリットが働く。らしい。極振りなんて、よほどのバカかドマゾか変態でもない限りはしない。

 前々から決めていたので、一切迷わずDEXに100ポイント全て振る。

 そう、よほどのバカでドマゾな変態は、ここに居たのである。ちなみにHPは500、TPは300が初期値だ。

 

『装備の選択を行います』

 

 そうして、初期の武器と防具の選択画面へ。

 案の定と言うかなんというか、STRとINTが0のせいで重そうな武器や魔法の杖らしきものは軒並み装備不可表示が出ていた。装備可能な武器はせいぜいがナイフと小型の杖ぐらいだ。しかし、画面の一番下の列にそれはあった。『コルト・シングルアクション・アーミー』。どう見てもシリンダー式の拳銃だった。明らかに浮いている。そして当然のように迷うこと無くそれを選択。だって銃って、格好いいじゃん?

 

「お、古くせぇ革製のホルスター。わかってんじゃん」

 

 手元に現れた鈍い銀色の拳銃と、右腰にベルトで巻かれた茶色のホルスターを見て呟く。

 装備効果としてはSTR+15だけでスキルもないシンプルなもの。初期装備なので仕方ない。装弾数は6発で、予備の弾丸も36発ある良心的設計。もっとも、戦闘になれば乱射する事になり、すぐに残弾が尽きるのは目に見えているのだが。しかし浪漫には変えられない。ゲームをする事において、楽しさと浪漫の追求は何者にも勝るのだ。

 武器を選択すると、今度は防具の画面へ移り変わった。だがこちらも鎧などは装備出来ず、布製の普通の服っぽいものしかない。これはもう極振り故仕方が無いと割り切る。頭装備に白のキャップ、体装備に灰色のローブ、腕装備に灰色の手袋、腰装備に灰色のズボン、足装備に黒い運動靴を選択する。スライム―――わかりにくいので今後は粘液人形―――体でも問題なく装備出来るらしい。今まで全裸だったのかと少し戦慄する。

 

『スキルの選択を行います』

 

 そうして表示されたのは全部で50個ぐらいあるスキルの選択画面。初期状態では最大10装備出来るらしいが、今回くれるのは3つだという。少ない。しかもスキルは店の販売だとアホみたいに高いらしい。キレそう。

 

「うーん…何かこう、ピーキーだったりエキセントリックだったりするのは無いだろうか…」

 

 とりあえず、全ステータスにそれぞれある、ステータスを+5%するパッシブスキルのDEX版、《器用(小)》を1つ目に選択。これでDEXは105だ。流星のBK(バカ)みたいな数字だ。

 他にも探してみるものの、特に目を惹かれるような頭の悪そうなスキルは無かった。初心者用のものだから当然と言えば当然なのだが。

 そうして、この虚弱貧弱無知無能なゴミクソステータスで使えそうなものをピックアップ。候補に入ったのは以下4つ。

 《投擲の心得》。投擲物(銃弾、矢含む)の命中精度を微上昇するパッシブスキル。銃火器や弓を使うなら取っておいて損は無い、普通に有用なスキルだ。惜しむべくは、初心者用だけあって効果量が少ない事か。

 《ガンマン》。遠距離武器(投擲物含まず)の威力を上昇するパッシブスキル。これもあって損は無い有用なスキル。ただし、初心者用なので上昇量は少ないが。

 《バレットポケット》。銃弾を1スタック分入れておける簡易アイテムポーチが使えるようになるパッシブスキル。銃弾は種類によってスタック出来る数が違うが、初期装備であるコルト・シングルアクション・アーミーの弾丸、.45ロングコルト弾は96個で1スタックらしい。それだけの弾丸を、アイテムポーチを圧迫せずに持ち歩けるのはリターンが大きい。

 《ファーストエイド》。応急処置が出来る初級の治癒魔法。このステータスで唯一使える魔法であり、アクティブスキルだ。HPを200〜300程度回復する。数値はPOWによって変動するらしい。ただし、POWが0でも最低値を下回る事は無く、200は確実に回復出来る。TP消費は50と嵩むが、熟練度を上げると回復値が上昇し、消費TPも軽減されるらしい。確かベータ版だと熟練度最大ではTP消費20で600~回復とかだったか。

 

「でも私の耐久じゃ回復する間もない、か。となると…」

 

 伊達にVITもPOWも0じゃない。恐らくだが、適当な雑魚モンスターの攻撃を1発受けただけでもアウトだろう。なので《ファーストエイド》はパス。これで候補は3つ。

 

「…待てよ、極振りしてるんだから、スキルに頼らなくても充分当たるんじゃね?」

 

 遠距離武器の命中率は基本的にDEX依存だ。武器毎の規定値以下だと適正射程・威力が半減する上に弾が逸れやすくなるが、高ければその逆だ。ボーナスが入るのは規定値の2倍以上のDEXが必要で、効果量も高くないらしいが。しかしそこは極振りステータスと初期装備。規定値はDEX15。なんとぴったり7倍だった。射程・威力・弾道補正にそれぞれ60%のボーナスが入る事がしっかりと表示されていた。

 ちなみに遠距離だろうが銃弾だろうが物理攻撃なら威力はSTR依存だ。ただし、投擲物などには本体の威力(固定値)があり、いくらSTRが低くとも、それを下回る事は無い。勿論、STRにも振った方がダメージは出る。しかし、どれだけ威力が出ようとも当たらなければ意味は無い。威力を追求するなら、それこそSTRに極振りして剣でも担げばいいのだ。

 まぁつまりは、DEX極振りならばSTR振りほどではないが威力が上がり、ついでに命中も射程も上がってウッハウハなのだ。極振りはいいぞ。その代わり紙耐久なのは忘れてはいけない。

 

「《投擲の心得》は要らないか」

 

 そうして選択したのは《ガンマン》と《バレットポケット》。決定ボタンを押し、スキルの選択を終了する。

 

『チュートリアルを行いますか?

 YES / NO』

 

 うるせぇそんなもん実戦で慣れりゃいいんだよ!とコンマでNOを叩き付ける。

 

『キャラクター名に、ワールドヴィジョンのアカウント名を使用しますか?

 YES / NO』

 

 ワールドヴィジョンとは、UFOを開発・運営している企業の事だ。一応事前にアカウントの登録が必要だが、IDが共通なのでアカウント名とキャラクター名が違ってもいいらしい。特に不都合とかは無いので、YESだ。

 

『UFOアカウント、「ビニール袋」を登録しました。

 これより、Unlimited Fantasy Onlineでの冒険をお楽しみ下さい』

 

 ネット上でいつも使っているハンドルネームが無事登録された事を告げるウィンドウが出ると共に、真っ白な空間が閉じていく。どこに果てがあるかもわからないのに閉じていっているのがわかるとは、不思議な感覚だった。

 そして、視界が暗転する。

 

「おお…すっげぇ…」

 

 次に目に映ったのは中世ヨーロッパ的な街並みだった。

 オレンジや赤、白などの明るい色のレンガで作られた建造物が建ち並び、石畳の地面が広がっている。今居る広場と思しき場所には大きな噴水を中心とした円形構造で、そこから四方に大きな道が伸びている。道のあちらこちらでは露店がやっているようで、そこで売っているものも果物から小型の刃物、野菜に肉と様々だ。また、街を行き交う人々も、エルフやリザードマンをはじめとし、カエルや鳥などの様々な動物の亜人種が入り混じっている。まさにファンタジー世界って感じだ。

 ここは始まりの街と呼ばれるスタート地点、その名も『ジャンシット』。一応イギリスとフランスとイタリアをまぜこぜにした街らしい。説明文にはそう書いてあった。

 ジャンシットの南から東にかけては広大な草原、西に森、北には荒野が広がっている。第2の街は北北西にあるらしいが、敵が強いのでまずは森や草原でレベルアップするのが先らしい。

 

「ついに私も、UFOデビューなんだな…」

 

 一人喜びを噛み締めてゆっくりと空を見上げていると、遠く―――本当に遠く、恐らくは街の外のフィールド―――から、一筋の蒼い閃光が上がった。雲を引き裂いて空に昇ったそれはすぐに空気に溶けるように掻き消えたが、どっかのプレイヤーのスキルモリモリ攻撃である事は間違いないだろう。

 

「心当たりが無い訳じゃないけど、いやでもなぁ…」

 

 よく一緒にゲームして遊んでいるネッ友に1人、大体どのゲームをやっても火力一辺倒の極振りマンが居るのだ。ベータテストにも参加しており、その時稼いだ経験値や装備品、アイテムをいくらか持ち越しているので、サービス開始から数時間も経っていないこの瞬間にバ火(馬鹿)力ぶっぱしていてもおかしくないのだ。

 

「…とりあえずあっち行くか。さんゴミだったら挨拶しないといけないしな、うん」

 

 通称さんゴミ、正式名称粗大ゴミ。それがネッ友のいつものアカウント名だ。確か高校生ぐらいの少年だったと記憶しているが、よく考えたらネット上だけの付き合いなので顔を知らないので見てもわからないから挨拶が出来ない。フレンドじゃないプレイヤーは見かけただけでは名前が表示されないのだ。

 困ったなと唸りつつも、いつまでも噴水広場に経っていては時間が勿体無いので足早にフィールドへ向かう。クソ鈍足(AGI0)のせいで、その辺を歩いているプレイヤーの半分程度のスピードしか出ていないが。

 

「あとで高速移動手段も考えないとなぁ」

 

 魔法が使えれば多少無理矢理にでも加速出来るのだろうが、残念ながら今は魔法どころかアクティブスキルすらない。だってSTRとかINT依存の攻撃スキル取ったって意味無いからね!涙が出そうだった。

 

「ポーションはHPとTP用のがそれぞれ10個だけか…まぁ、普通だな」

 

 歩きながらメニューを漁る。アイテム欄には2種類のポーションと弾丸。弾丸は先述した通り、装備している武器のものだ。ポーションはHPとTPの対応する方を200回復するらしい。HPは言わずもがな、TPを使うタイプのスキルも無いので正直要らない気がする。

 アイテム欄はどうやら初期状態では10スタックしか入らないようだった。少ない気もするが、レベルが上がると容量も増えた気がするので、気長にやっていけばいいだろう。増加量は確かレベルの10分の1ぐらいだっただろうか。後で調べてみよう。

 ちなみに所持金は5000円だった。ここ日本だったのか。

 そうしてマップを見たり戦闘方法やこれからの事を考えつつ、非常にゆっくりと時間をかけて街の端にある門へと辿り着いた。ここから1歩でも外に出ればそこはモンスターの沸くフィールドエリア。一瞬も気を抜けない…かもしれない。何せ風が吹けば吹き飛ぶような紙耐久なのだ。

 

「とりあえず野ウサギとか適当に狩って、戦闘方法やらを覚えなきゃな」

 

 いつでも撃てるように銃を手に取り歩く。が、門を出てすぐのところではエンカウントもそうそう発生しないようで、特に何事もなく森のエリアに辿り着いた。ちなみにここを選んだのは、1番敵が弱いからだ。奥に行かなれけば、の話だが。

 

「弾尽きる前に倒せるかな…大丈夫かな…?」

 

 ガサ、ゴソ、と草木の揺れる音。森の入口付近、どうやらモンスターが現れたようだ。

 ピョン、と草の間から飛び出してきたのはリス。茶色の毛に覆われた、赤い目をした齧歯類。しかしただのリスではない。巨大なのだ。大体腰ぐらいまでの高さがあるので、体長は約1mといったところだろうか。

 

「いやなんでそんなデカいねん!」

 

 つい、関西弁でツッコミをいれてしまった。しかしそれがよくなかった。巨大リス―――モンスター名、ジャンガリアンリス―――がこちらに気付き、その大きな尻尾を利用したジャンプでとびかかってきたのだ。

 

「回避ぃぃぃ!」

 

 ズサァ、と無様に地面を滑って突進を回避。ジャンガリアンリスは尻尾を上手く使って着地し、その赤い目で睨んでいる。

 

「やったらクソが!現代兵器の力ァ思い知れ!」

 

 急いで振り返って上体を起こし、コルト・シングルアクション・アーミーを発砲―――しようとした時には既にジャンガリアンリスが目の前に迫っていた。その姿を認識した直後、大きな尻尾による打撃が頭部を襲う。

 一切の抵抗をする暇もなく、パリン、と音を立てて体が脆くも砕け散った。

 

 

 

「…まぁ、うん。そうだよなぁ」

 

 1回見た街並みがビニール袋の前に広がる。所謂リスポーンだ。確かリスポーンポイントは、最後に立ち寄った街の中央にあるワープゲート付近だったか。ワープゲートとはその名の通り、行ったことのある別の街のワープゲートにぱっと行くものである。要するにそらをとぶとか大翼の歌のようなものだ。

 他にも街の4方の門に移動する事も出来るらしいので、さっそく利用する。これも行った事のある場所限定のようで、西門しか選択出来なかった。本当は街の中を見て回って行き来して欲しいのだろう。その気持ちはよくわかるが、クソ鈍足なので遠慮なくワープする。

 

 そして再び来たる森。今度は出現の時点で潰す。そんな意気込みで周囲に注意を払い、ゆっくりと森の中に足を踏み入れる。

 

「ッ、来たか」

 

 右後方より、ガサガサと草の揺れる音。そして現れたる、見覚えのある茶色の毛玉。ジャンガリアンリスだ。先程同じ個体かどうかはわからないが。

 

「先手必勝!」

 

 飛びかかり突進が来る前に発砲。流石規定値の7倍のDEX。まったくの初心者が撃った弾丸は、さも当然のように命中した。減少したHPバーは、2割より少し少ないぐらいだ。

 

「っし、効果有りだな」

 

 しかし一瞬怯んだかと思いきや、直ぐに持ち直したジャンガリアンリスの突進が発動。一直線につっこんでくる。

 寸での所で回避するものの、掠っただけでも150のHPを持っていかれた。残り350、カス当たりでもあと3回で落ちるだろう。恐ろしき巨大リスだ。

 とは言えHPが残っているんだから一応回避には成功したのだ。着地の隙を逃さず、再び引き金を引く。銃声とともに発射された鉛の塊は、綺麗にリスの背へと命中した。HPバーは残り3分の2。あと4発といったところだろう。

 

「いい音だ。余裕のステータスです。火力が違いますよ」

 

 ビニール袋は嬉しくなってついつい口調がブレる。本来のダメージ計算式であればここまでの火力は出ないのだが、遠距離武器にはDEXをSTRに加えて計算を行うという特性がある。勿論全部ではなく一部だ。事前に調べた情報によれば、DEXと威力・射程・命中率への補正値に応じた数値が加算される。現在は+60%の補正なので、DEXの60%がSTRに加算される。よって計算上STRは78、中々エグい数値だ。一点特化型より高い可能性もある。ただ、素のSTRが0なので与えるダメージが半減してしまっているのだが。

 

「避けんなクソが!」

 

 バンッ!バンッ!

 走ろうとする動き出しを潰すように2連射。内1発はヘッドショットになったらしく、ほぼ倍のダメージが出ていた。HPは残り少し、あと1発で勝負が付く。

 だがリスもそのままやられてくれる訳もなく、今までより少し速くなった動きで駆け、たいあたりを繰り出してきた。

 先程発砲した反動で反応が遅れてしまった。

 

「ッ!」

 

 ヒットの寸前…には間に合わず、遅れて構えた銃に当たるのと同時の発砲。

 

「ギュッ!」

 

 ジャンガリアンリスが吹き飛ぶ。HPが0になった事によって霧散し、後に残ったのはいくつかの素材アイテムだけ。

 

「いやあかんてこれ…死ぬ…」

 

 対してビニール袋はと言うと、ほぼ相殺だったとはいえ攻撃をモロに受けてしまったせいで残りHP41という、今の防御力や極振り故の被ダメ倍増も相まって足掻き用のない瀕死状態。

 

「リス1体倒すのにこの体たらく。まったく、先が思いやられるな」

 

 けれどもリビルドは絶対にしない。1度決めたら…とかそういうのではなく、単純に銃火器で火力が出るのが楽しくて仕方が無いからだ。

 折角勝ったのにいつまでも凹んではいられない。課題がわかったのなら次はそれを直すだけ。そう自身を奮い立たせ、まずは地面に落ちた金とアイテム―――『齧歯類(げっしるい)の前歯』と『リスの尻尾』―――を回収。次いでポーションを出してHPを回復。勿体ない気がして3本目を使わなかったので現在のHPは441。どうせ直撃は1撃で死ぬだろうが、それでもカス当たり程度は耐えられる事がわかったので回復する。

 

「さて…次はどうしようか」

 

 このまま森の奥へ進むか、外縁付近をウロウロするか。奥へ行った方が敵の実入りはいい。勿論それだけ敵も強くなるので今の状態では勝てる確率はかなり低い。外縁付近ならば敵のレベルも低く、今のようなリスがほとんどだろう。勝率は高い。

 

「今日はこのまま地道にレベル上げでもするか」

 

 今は効率が悪くても地力を上げる時。ゲームの序盤なんて大体そうだ。適当に歩いてレベル上げをしよう。

 そう思い、リロードしていた時だった。

 

 ズン… ズン…

 

 聞こえたのは重い足音。距離はまだ遠い。音源と思しきものは視界に無い。

 

「…?」

 

 さて、ここで1つ、ゲームシステムの話をしよう。多くのゲームには、レアエンカウント―――通常のフィールドエネミーよりも強力なエネミーとの遭遇、例えばきらめくパンジーさんとの遭遇―――というものがある。『UFO』もVRMMORPGというジャンルである為、勿論このレアエンカウントが採用されている。そして森にて聞こえた重い足音。もうおわかりだろう。

 振り向いた先、森の奥側に、それは居た。

 薄汚れた茶色混じりの灰色の(たてがみ)、全身には無数の小さな傷が刻まれ、4本の足でしっかりと地面を踏み締める、高さ2mはあろうかという大きな獣。そして何より目を引くのは、口からはみ出し、上方に湾曲した巨大な白い双牙。

 

「えっ、何アレ、ドスファンゴ?」

 

 モンスター名、ビッグボア。初ログインから凡そ1時間程度。通算3回目のエンカウントにしてレアエンカウントしたのであった。

 

「ブモォォォォォ!」

 

 咆哮。大猪は今、貧弱な狩人に狙いを定め、猛進する。

 




ビニール袋
・本編主人公
・DEX極振りのアホ
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