Unlimited Fantasy Online ~カス共の狂騒曲~   作:普通の燃えないゴミ

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前回投稿から1週間、気付いたら何か出来てた。
褒めてくれても良いんだぜ?

今回からキャラが沢山出始めます。
頑張って覚えて欲しい。
私も頑張る。


Episode:003【淑女、美少女、お嬢様?】

「ごめんくださーい」

「「「ィラッシャァセァァアアアア!!!」」」

「ぅひぃ」

 

 製品版サービス開始から19時間後、一応1日目の夜19時。始まりの街ジャンシット北部に拠点を構えるギルド、【ドワーフの鉱山】にビニール袋と粗大ゴミの姿はあった。洋風のシンプルな作りの外見からは想像も出来ない程に熱気の篭った場所だ。中にはその名の通りの背が低く筋肉質な、所謂ドワーフ然としたプレイヤーの数々。入口付近にはカウンターや数席の椅子やら机、そして壁には武器や防具の飾られた棚。奥はそのまま工房となっていて、煌々と燃える炎が店内を照らしている。金属を打つ音、風を起こす音、ドワーフ達の楽しそうな声が絶えず響いている。まさに王道と言った感じの工房だ。

 

「…ねぇ、粗大ゴミさん?」

「はい、なんでしょう?ビニール袋さん」

 

 ビニール袋は粗大ゴミに声をかけた。連れてこられたはいいのだが、理由と場所の事を聞かされていないのである。

 

「大体想像つくけど、ここって?」

「武器の制作をお願いしたギルドだよ。昨日というか今日手に入れた素材を使って新しい武器を発注してあるんだ」

「いつの間にそんなことを」

「今朝寝る前」

「マジか…あの後まだそんな余裕あったとか…若いってすげぇな…」

 

 実は昨晩(日付としては今日になったタイミング)から朝まで、ビッグボア狩りをしていたのだ。あの後、朝までかかって狩ったビッグボアは30体。一晩で30以上も相手をした事になる。そして何より厳しいのは、3時を回ったあたりでエンカウント率を上げるポーションや、TPが尽きてしまった事だ。そこからは酷かった。少しでもエンカウント率を上げる為、スタミナの概念が無いのをいい事に走り回り、見つけ次第屠っていった。TPが無い為に通常攻撃を何度も打ち込み、反撃をいなしてはまた殴るの繰り返し。

 そうして狩り終わったのが午前7時。言い逃れのしようのない徹夜だった。しかし見返りとしての大量の経験値と金、ドロップアイテム(レア素材は案の定とても少ない)が手に入った。お陰でビニール袋のレベルは11まで上がっている。

 そして、UFOではプレイヤーがアイテムや武器、防具等を製作する事が出来る。しかし大半のプレイヤーは戦闘を前提としたビルドの為、生産などはほぼ出来ない。仮にしたとしても、既製品を超えるものが作れるとも限らない。その為こうした装備品の生産が好きでたまらないプレイヤーが集まって作られたギルドに素材やゲーム内マネーを渡す事で生産を依頼したり、既に置かれているものを買ったりするのだ。ここ【ドワーフの鉱山】のそんな生産型ギルドの1つ。第一の街ジャンシットで武器の生産を専門に行っている。基本的には初心者に向けて安く扱いやすさを重視した武器を扱っているのだが、1人、たった1人だけ、変人が居るのだ。

 

「船長ちゃん!居ますか!?」

「はいはいなんでしょうなんですかぁお呼びですかお呼びですね!?であらば出ましょう行きます姿を見せたるは華麗で綺麗なお姉さん!」

 

 店の奥へと大声で呼ぶと、やかましい返事が返ってきた。

 奥から仰々しい身振り手振りを交えながら出てきたのは小柄で細身な女性。赤茶色の長い髪を大きな三つ編みにしており、腰まで届く長さだろう。瞳は藍色で、大きく可愛らしい目をしている。上半身の衣類は分厚そうな手袋と白い丈の短いタンクトップだけで、下半身は白と赤を基調としたゴツいロボパーツのようなものだった。恐らくそういう見た目の防具だろうが、上半身と下半身のアンバランスさが逆に艶めかしさを醸し出している。薄着なのは肉体美を見せ付けたいのかと思ったが、筋肉質なようには見えても別に腹筋は割れてはいなかった。声も自然な女声なので、本当に女性プレーヤーだと思われる。しかし、ドワーフの鉱山の名にそぐわず、彼女は人間の女性のようだ。余談だが、その胸は豊かだった。

 

「おやまぁおやおや誰かと思えば!粗大くんじゃないですか!あの武器ですか!?あの武器ですね!?いやぁあの武器にはまだすこーし時間がかかりますのでお待ち頂きたいんですけどよろしいですね!?そうですねざっと10分ほどで完成ですね!それで他に御用がありそうな顔ですがどうされましたさぁどうしたんです言ってご覧なさいお姉さんが聞いてあげますよ!っと、おや?どちら様でしょうかお隣のドロドロしたのは!まさかアレですかお客さんですかお客様ァ!ですねわかりますともはいはい了解しました武器ですね武器をご所望なんですね!?」

 

 そう早口で捲し立てる。非常にやかましかった。こいつ一人で原稿用紙が1ページ埋まるんじゃないかってぐらいのマシンガントークっぷりに、ビニール袋は圧倒されていた。こういうタイプの人間は身内に居ないので耐性が無いのである。

 

「話が早くて助かります。こちらはビニール袋さん。製品版からのプレーヤーで、昨日というか今日というか合流した友達です」

「どうも。ビニール袋です」

「流石は粗大くんの友達!ネーミングセンスがキてますねぇ!はいどうも!ギルド【ドワーフの鉱山】サブマスター、リップ船長です!お姉さんの事は親愛を込めて気軽に船長ちゃんと呼んでもらっても構いませんよ!ビニーくん!」

「お姉さんなんだ…」

「今年で25ですよ!まだまだ若いんです、私!」

「本当にお姉さんだった…」

 

 25だったらもう少し落ち着いていてもいいような気がしたが、ビニール袋はあえて気にしない事にした。好きな事して楽しんでる時ぐらい、はっちゃけてもいいと思ったのだ。これから先、自分もヒャッハるつもりではあるので。

 

「あとビニールさんDEX極振りの馬鹿です」

「えっ、馬鹿言われた…えっ、STRとINTの二振りに馬鹿言われた…」

「DEX!!極振り!!」

 

 カッ!!と、書き文字を幻視する程の目の見開きようだった。

 

「いい響きですね!DEX極振り!なるほど理解しましたよ!武器はそのコルト・シングルアクション・アーミーと見受けました!初期装備はやはりそうなりますよね!はい!大丈夫ですよピーキーなものもエキセントリックなものもすべからく作ってみせましょうとも!私達に不可能はありません!きっと宇宙までもが私達の味方です!さぁ望みはなんです火力ですか命中率ですかそれとももてる全てですか!?」

 

 ぐい、ぐい、と話す事に早口になり声も大きくなり距離が近付いていく。やかましさが7割ぐらい増しそうである。

 

「じゃ連射力で」

「連射力来ましたァ!弾幕ですか弾幕ですね!?はいミニガンからサブマシンガン、ライトマシンガンもありますよ好みの武器はどんな種類ですか!?」

「スナイパーライフルとか無いですか」

「んんん!?連射の出来るスナイパーライフルが欲しいと!?」

「はい」

「無茶おっしゃる!」

 

 どっ。腹に手を添え、上を向いて笑い声を上げるリップ船長。本当に楽しそうに笑っている。非常に愉快といった感じだった。

 

「やっぱ無いですよね」

「ええ!勿論イケますよ!」

「あんのかよ…」

 

 笑い声はそのままにリップ船長は2つの大きな銃をカウンターに勢いよく置いた。スコープの付いた長い形。どう見てもスナイパーライフルだが、少々変な部分もあった。

 片方は、脚のある、パッと見アンチマテリアルライフルのようなもの。どういう訳か、やたらと銃口部分が大きく装甲が盛られており、トリガー付近にドラムマガジンが付いているが。

 もう片方は、アンバランスなレベルで大きなマガジンボックスの付いた、銃身をそのまま細長いミニガンに変えただけのような、非常にトチった見た目のもの。スコープが必要以上に大きいようにも見える。

 

「これは…」

「頭悪そう」

 

 どういう頭でどういう作り方をすればこうなるのか。そしてこれは構造的に大丈夫なのか。耐久力とか考えられているのか。そんな疑問が次々と浮かぶ。

 

「頭が悪いとは随分な!褒め言葉として受け取りますよありがとう!こちらの武器はですねぇ試作武器No.11遠距離射撃型連射銃、その名も『オキシオンP-G-99』です!」

 

 バーン!と豊かな胸を揺らしてドヤ顔で説明を始めるリップ船長。こういう、何かを作るタイプの馬鹿は留まる所を知らないのでスイッチが入るとこうなるのだ。ちなみにオキシオンP-G-99という名前に特に意味は無い。

 

「この子はですねぇその名の通りドラムマガジンを搭載する事により連射が可能になったスナイパーライフルです!残念ながらアンチマテリアル程の威力と射程は付けられませんでしたが、そうですねぇその辺の一般的なプレイヤー程度ならすぐに蜂の巣に出来ると思いますよ!タンク型もさしたる驚異ではありませぇん!オプションとなりますがサプレッサーを付けることも出来ますよ!はい!で、ですね!ドラムマガジンの装填数なんですが、なんと200発です!モリモリですよ!ただ少し重いのと連射する関係上武器の耐久力がグングン減るのと、あと1マガジン分打ち切るとオーバーヒートしちゃって暫く鈍器にもならないのが欠点ですね!」

「わぁ…」

 

 良い笑顔で説明を終える。シンプルに扱いにくそうだった。少なくとも多くの雑魚戦で長く使うには向かない武器だ。使うならボス戦のラッシュがいいだろうか。

 

「もう片方の子は試作武器No.19長距離掃射型7連砲改二、『スピンバレルS-p-t-222』といいまして!見た通り連射力を増す為にミニガンの機構を取り入れたスナイパーライフルです!こちらはオキシオンP-G-99よりも安定した継続戦が行えますが、あちらよりもさらに重量があり、機動力は皆無と言ってもいいでしょう!しかしどうせDEX極振りなんてクソ鈍足なんですから気にするこたぁありませんね!あ、マガジン容量は256発です!1発あたりの火力は落ちてしまいましたが、7連砲にする事でさらなる連射力の向上及びオーバーヒートの発生を除去する事に成功しました!いぇーいパチパチパチ〜!そしてなんと、実はこの子ベルトリンクに対応していてですね、バックパック型の大容量マガジンを用いる事でな、な、なんと!最大で4096発ノンストップでぶっぱなせます!これはもう革命と呼ぶ他ありませんね!ちなみに命中率はお察しです!が、DEX極振りならまぁ当たるでしょう!なぁに、下手な鉄砲数打ちゃ当たります!」

「…ねぇ、さんゴミ」

「なに」

「この人天才だな」

「あっちゃー、そっち側だったか」

 

 ビニール袋の心に、魂に深く刺さったのだ。余りにも頭の悪い発想により生み出された、余りにも馬鹿な武器。実用性や使いたいという事ではなく、作りたいから作った珍兵器。例え失敗作と(なじ)られようとも、太く短く暴れ回る。そういう匂いがするのだ。

 

「これ、買いで。オプションのベルトリンクもお願いします」

「まいどぉ!お会計19万8500円です!」

「たっか…出せるけど」

 

 そうして選んだのはスピンバレルS-P-T-222。財布の中身が3分の2程消えたが、困る事は無い。どうせビッグボア1頭あたり1万円程度の収入となったのだ。

 

「確かに受け取りました!はいあと5.56mm弾3000発付けときますね!大丈夫ですお代に入ってますからお気になさらずっとそろそろ時間ですね!粗大くんの武器が出来ましたのでね少々お待ち下さいねぇ今お持ちしますよ!」

 

 こちらが反応する暇もないままリップ船長は1度奥の工房へと引っ込んで行った。どうやら粗大ゴミが頼んでいた武器が完成したらしい。

 

「どんなん頼んだの」

「力任せにぶん投げたり叩きつけてもそうそう壊れないガンランス」

「ガンランス」

 

 あの槍随分機械チックだと思ったらガンランスだったのか、とビニール袋は納得した。ビッグボアを1撃で沈めたというのに使われなかったのは、耐久力がミリだったかららしい。現状量が手に入る素材の中で最も耐久力を伸ばせそうなものがビッグボアの牙だった為に、一晩中集めていたのである。

 

「お待たせ致しました!『獣牙銃槍ドスガンス』!どうですどうです!?カッコイイでしょう!?」

 

 リップ船長が重そうに抱えた武器を渡す。

 獣牙銃槍という名に恥じぬ、ビッグボアの牙を丸ごと使った武器だった。鉄製のオーソドックスなガンランスの、柄に近い方から順に4、3、3本ずつ互い違いのようにして牙が付けられている。牙は刺しやすくする為に鋭さも上げてあるらしく、攻撃力としては結構なものだ。また、牙自体の硬度がある為、武器本体の耐久力も大幅に上昇していると言う。しかし、形状的に流石に斬るのは難しそうだ。そもそも槍は斬るものではないと言われてしまえばそれまでだが。

 

「パーフェクト。流石は船長ちゃん」

「でしょう?我ながらいい仕事をしましたよ!本当に!あと、チェーンソーの方も修復と端材での耐久値の底上げをしておきましたので!こちらはサービスです!」

「何から何まで助かります」

 

 もう1つの武器であるチェーンソー―――武器名は『テキサスDDD』―――も受け取り、代金の支払いを済ませる。30万とか聞こえたが、気の所為では無いだろう。

 

「いいんですよ、いつもご利用頂いてますから!お得意様特典って奴ですよ!さて御用の程はこれで全てですかね!?でしたら私からも1つ良いでしょうか!?良いですね!?ありがとう!では単刀直入に言います!ビニーくん、私の所へ来ませんか!?」

「え、私?」

「はい!えぇ、実はですね!このギルドは武器の生産がメインなのですが!私はもっとこう、ピーキーなものを作っていきたいんですよ!勿論ですね、初心者の手助けは好きですし楽しいのでそれはそれで構わないんですけどね!こう、何と言いましょう!ドワーフの鉱山は基本、DEX特化型なだけの普通のプレイヤーなんですよね!その点ビニーくんは極振りと言うじゃあないですか!そのステータスは直ぐに私達を追い抜く事でしょう!私と一緒で中々キマった頭みたいですしね!という訳で、ここではあまり多くを生産出来ない数々の兵器や、余りにも特異な防具達を生み出す為、我がサークルへ来ませんか!?」

 

 UFOにはギルドとサークルという、2つのプレイヤーグループがある。

 まず、ギルド。各プレイヤーが、1つだけ参加出来るグループだ。1つのギルドの定員は30名。5人のフルパーティ6つ分だ。ギルドはどこかの地点に拠点を1つだけ構え、その拠点は参加しているプレイヤーのリスポーンポイントとして設定が出来る。今後予定されている大型イベントでは、イベント期間中に集めたイベントポイントをギルド毎に集計して競争し、上位に行けば行く程更なる報酬を貰う事が出来ると運営から発表がされている。また、ショップを運営する事で、その利益をプレイヤーの資金源とする事も可能だ。

 次に、サークル。参加数・定員共に上限は無し。ギルドが常日頃行動を共にする仲間であるのに対し、サークルは同好の士が集う情報共有の場に近い。サークル集会所という簡易拠点をどこかの街に1つ置く事が出来、ギルドや街毎のワープゲートから移動も出来る。ギルドよりも緩い雰囲気の集まりだ。

 簡単に纏めると、リップ船長率いる装備生産サークルへのスカウトであった。生産には高いDEXが必要だ。得るポイント全てをDEXに注ぎ込むビニール袋なら、直ぐにトップクラスの生産者となる事も可能だろうという、有名ギルドサブマスターのお墨付き。喜ばしい事だ。

 

「よかったじゃん、ビニールさん」

「まぁ、いい事だし、私は構いませんけど…」

「ぃよっしゃあ!ありがとうございますそう言ってくれると思っていましたよ!はい!君となら楽しい生産ライフが送れそうです!お前もそう思うだろ!?ハム太郎!」

「ワイトもそう思います。で、サークルってどう参加すれば?」

「まだ作ってません!」

「「は?」」

 

 驚きの発言に、ビニール袋も粗大ゴミも揃って顔を(しか)める。まだ作ってもないサークルに入るよう勧めたのか、いくらなんでも脊髄で生き過ぎだろ、脳味噌もっと稼働させろよ、と。

 

「あっはっは!いやぁ本当に今さっき思い至ったものでして!あと申し訳ありませんが今日はお夕飯の準備をせねばならぬのでこのあたりで失礼しますね!今日は肉じゃがなんでね!サークルは作り次第ゲーム内チャットで連絡しますよ!フレンド申請はしておいたので!あぁそうだ!ビニーくん!これ餞別です!お古ではありますが是非使ってください!バター王!」

 

 そう言ってビニール袋に何かを投げつけると、いい笑顔でサムズアップをして、ログアウトした。今回の出来事を受け、嵐のような人だったと、後にビニール袋は語る。

 

「…で、何貰ったの?」

「えーっと…毒・麻痺・睡眠・筋力低下の状態異常投げナイフが各10本、手榴弾8つと投げナイフと手榴弾の製造レシピ、あとこれは…コートと…耳飾り?」

 

 大きな布の塊を広げ、首を傾げる。煤けた灰色の、使い古し感満載のトレンチコートと、マグナム弾のような形の耳飾りだった。コートは装備中、DEXに+10%、耳飾りは弾丸の基礎威力に+15のボーナスが入るらしい。防御力自体はそう高くはならないが、しかしこちらは元より極振り。どうせ紙耐久なのだ。さしたる問題ではない。

 

「それ確かベータ版の時にリップ船長が作ってた奴だな」

「てことはあの綺麗なお姉さんの着古したコートとアクセサリーって事だな?」

「そういうとこだぞ」

「大丈夫、私が好きなのは同い年の可愛い女の子だから」

「聞いてねぇよ」

 

 早速装備を変更する。似合うかどうか心配だったが、そもそもが人型の泥のようなスライムの為、似合うもクソもなかった。

 

「で、これからどうするの?私一旦装備を整えたいんだけど。スキルも覚えたいし」

「んー、そうだな…今20時だから…じゃあ21時に北門で。ニャルさんもそのぐらいには居るらしいし、こっちから伝えとくね」

「了解した。また後で」

「また後でー」

 

 一旦粗大ゴミと別れ、NPC運営のショップへ向かう。第一の街にある防具の販売を行うギルドにはDEXが増えるような装備品は無いというのを既に聞いているからだ。

 半袖のTシャツ型の看板のショップに入る。思った通り防具、その中でも服や帽子などの衣類系のものを扱っているようだった。ラインナップを見ても効果量の大きいものは置いていない。だが、帽子、手袋、ズボン、靴にそれぞれDEX+2%の効果の物があったので、購入して装備する。丁度、西部のガンマンのような出で立ちだ。少し古ぼけていて、それっぽく見えるだけの安いコスプレのような気もするが。何にせよ防具はこれでいいので、次はアクセサリーを探す事に。

 そうして次に入ったショップ、服屋の隣の建物内には、多種多様なお守りや指輪が置かれていた。しかしどれも大した効果では無い。空いているアクセサリー装備枠4つを折角だから埋めたいので、何かないかと探す。が、精々基礎ステータスのどれかを+1%する程度のものしか見つからなかった。種類が豊富なのは、単純に見た目を選べるというだけのようだ。ビニール袋自身は特にこれといって見た目を重視していないので正直どうでもいいのだが。取り敢えず無難に『器用のお守り』を4つ購入して、装備する。少量ではあるが、元が多いのでこれでも上昇量は多いのである。

 

「あとはスキルだな。スキルショップはちょっと遠いんだっけか」

 

 UFOでは、レベルが10の倍数になる度に、レベルに応じてスキル交換チケットが手に入る。スキルショップにいけば、チケットのランクに応じたスキルを習得する事が出来るのだ。今ショップへ向かうのも、早速手に入れたものを使い、さらにDEXを伸ばしたいと考えた結果である。

 一般的なプレイヤーなら走ってすぐなのだが、何せビニール袋はAGIが0なので。亀のようにてくてく歩いてゆっくりと向かいつつ、スキルをどうするか考えていた。

 そうして辿り着いたスキルショップ。ハードカバーの本や巻物などの書物が沢山置かれたショップだった。どうやらスキルは全て何かに記された状態で置かれるらしい。便利なシステムだ。

 

「さて《器用(中)》とかは…んー…流石にないか」

 

 現状装備して効果のあるものに、これ以上DEXを増やせるものは無い。つまり装備ボーナスは全部合わせてDEX+27%が限度だ。辛い。

 何か有用な物は無いかと探すが、パッシブスキルにはさして惹かれなかったので、今度はアクティブスキルを探す。一応キャラメイク時には《ファースエイド》程度なら使えそうだったが、ワンチャンDEXへのバフとかあるかもしれないと思ったからだ。結果から言うとショップの交換にはなかった。効果の見込めるスキルは3つ。

 《ファーストエイド》。キャラメイク時にも解説した為、割愛。

 《バリア》。文字通りバリアを張る魔法系スキル。POWが高ければ高い程、強度も増すらしい。最初級のこのスキルには、展開時間や範囲を指定する機能は無いとのことだ。

 《リカバー》。パーティメンバー1人の状態異常を1つ回復する魔法系スキル。あって損するようなものではない。しかしビニール袋はヒーラーではないので、優先度としては少々低いが。

 他にも使用自体は出来るスキルはあったが、ロクな効果が出なさそうだっただけである。しかし地味に使えるアクティブスキルが増えているのは、DEXが伸びた事による器用ボーナスだ。本来必要なステータスが不足していても、DEXが高ければ判定に成功したりするボーナスである。仮に不足していなくても効果が上がったりするので、あって損するボーナスではない。もっとも、必要な他のステータスを特化して伸ばした方が単純な強さは上だ。それは覆らない。これはあくまで、オールラウンダーなど様々な系統のスキルを使い分けるようなプレイヤー向けの、微量なサポートなのだ。ビニール袋の場合、微量ではないのだが。

 

「合流したらボス戦だったっけ…アタッカーは居るからサポートに回るか…?」

 

 しかしここで問題が1つ。合流するメンバーの傾向を聞いていないのだ。下手するとサポーターが被る。

 

「…困ったな」

 

 悩むような物言いとは逆に、手は《バリア》を選んでいた。最悪、銃火器担いでサブアタッカーになればいいのだ。《バリア》は手や動きが必要無い為、撃ちながらでも発動出来、自衛出来ればあとは何とかなるだろうと思ったというのもある。有り余るDEXのお陰で多少防御力も上がる筈ではあるので。

 

「よし」

 

 時刻は20時31分。思ったより早く終わっていた。しかし、確か北門はショップエリアからなら10分かそこらで着くという話だったので、クソ鈍足な事を考えるとそろそろ向かった方がいいかもしれない。時間が余ったら待っておけばいいだけの話なので。

 

「あ、さんゴミだ」

 

 店を出てきっかり20分。予想通り大幅に時間がかかって北門に着くと、もう見なれてしまったウサギの着ぐるみを発見した。わかりやすくて目印には丁度良すぎる。向こうもこちらを発見したようで、手を振っている。

 歩いて行くと、どうやら他の人達も居るようで、見覚えの無いアバターが2体近くに居た。

 1体は、馬の被り物を被った、黒を基調としたゴスロリメイド。もう1体は、薄い緑色の甲冑を身に纏った、ピンク色の骸骨。奇抜が過ぎる。

 

「もう揃ってたのか、早いな」

「うん。思ったより早く終わって。じゃフレンド申請でもしといて。パーティ申請するから」

「はいはい。で、そういえばどっちが誰?」

「私が✝無貌の堕天使()✝です。よろしくビニさん」

「そしてワタクシがおしゃれクソガイジですわ」

「ブフッ」

 

 馬ヘッドゴスロリメイド、ピンク骸骨の順に名乗る。馬ヘッドは頭装備らしいが、どういう訳か口が連動して動いていた。

 

「その喋りやめて。おっさんの声でお嬢様言葉はキツい」

「実際箱入り娘ではありますので…」

「だったらわざわざボイチェン使ってまでおっさん声にすんの本当やめて。いきなり聞いた時腹筋に悪い」

「めっちゃわかる」

 

 腹を抱えてその場に膝をつくビニール袋と、首肯する✝無貌の堕天使()✝。だが笑っていてもしっかりとフレンド登録は済ませる。そうしている内に粗大ゴミがパーティ編成を申請し、全員で受理して4人のパーティが成立。マトモな見た目のプレイヤーが居ない、カオスなパーティだった。一応、粗大ゴミと✝無貌の堕天使()✝は頭装備を外せば人の頭が出てくるのだが。

 ちなみに✝無貌の堕天使()✝とおしゃれクソガイジの2人は女性である。本人たっての希望で、おソイくん、と君付けで呼ばれているだけなのだ。知り合いでもない限りは女性だと思われたくない、との事。一度それで厄介事があったらしい。地雷臭しかしなかったので詳しくは聞いていないが。

 

「そういえば、チキンさんは?」

 

 当初の粗大ゴミの話では5人だったのだが、残る1人の姿が見えない。まだ集合時間にはまだ時間があるので、来ていないだけかと思い尋ねる。

 

「30分ぐらい前に『俺を起こさないでやってくれ。死ぬ程疲れてる(追伸:すまない。本当にすまない。明日は絶対行く)』って」

 

 連携しているゲーマー用チャットのチャット画面が見えるように、✝無貌の堕天使()✝が自らのメニューを操作する。ビニール袋は基本的にあらゆる連絡手段が通知オフ状態なので気付かなかっただけらしい。名指し呼び出し指定が付いていれば通知もあるのだが。

 

「それ死んでる奴じゃん…」

「今日もお仕事辛かったんだろうね…」

「可哀想ナリィ」

 

 4人で、七色チキン味噌が涙を流しながら白目でサムズアップする姿を幻視する。具体的な職業は聞いていないが、よく変な客が来るタイプの接客業らしい。絶賛転職先探しをしているとの事だ。少し前に、酒を煽っては嗚咽混じりの仕事の愚痴を聞いた事もある。その場に居た全員、強く生きて欲しいと願った。

 何はともあれ、現状動ける4人が揃ったので、早速ボス戦へと向かう事にした。ジャンシットより北に進んだ所、荒野の中心に居るボスを倒さないと、第二の街へと入事が出来ないからだ。ビニール袋以外の3人はもう突破しているが、友人が挑戦するなら、と快く手伝いを申し出た。本音としては早くゲームの最前線で一緒に巫山戯まくりたいだけだが。

 

「それでは、行きますわよ皆さん!ビニキを前線へと連れ行く為に!」

「やめろもう!ボイチェン切れ!」

「いとおかしですわね」

「日本語的に色々違う」

「何なんこいつホンマ」

「銀杏」

「頼むから口を閉じてくれ…」




リップ船長
・ギルド【ドワーフの鉱山】サブマスター
・やかましい

✝無貌の堕天使()✝
・馬ヘッドゴスロリメイド
・INT極振り

おしゃれクソガイジ
・甲冑姿のピンクの骸骨
・POW極振り

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