ダンジョンに夢と希望を求めるのはまちがっているのだろうか。 作:しろくまお
あの後、イリスさんは次々と的を変えて僕に射ぬくように言った。僕は興奮さめやらぬままに射って射って射ちまくった。気がつくと周りには使った矢が散乱としており、端からみればさぞ大きな戦いをしたのだろうと思われる程の散らかりようだった。
しばらく呼吸を整えているとイリスさんは、僕の所に颯爽と駆け寄ってくるとぽんっと僕の肩に手をあてにっこりと笑いながら言った。
「さすがに、試し射ちにしては射った数か多すぎる。これは、矢の代金を頂かないとな。」
時が止まった気がした。まさかとは思うがこの人最初からこのつもりで僕にいっぱい射たせたんじゃないだろうな。
いや、そのつもりだな、これは。現にすごい笑顔だ。
「あの、イリスさん?この矢を作ったのは誰ですか?まさか、あなたとかではないですよね。」
たとえ作った人がイリスさんじゃなくてもお金は払わないといけないのだか僕は震える声でそう尋ねた。
「俺だけど。」
たった五文字、でもこんなに破壊力のある五文字を僕は知らない。
「ちなみにどのくらい出せばいいんですか?」
「100万バリス」
「ひゃく?!」
心臓が止まりかけた。でも仕方ないと思う、だってそれだけの額をかせぐとなると今の自分では何年かかるか分からない。焦る気持ちを隠すことなく泣きそうな顔でイリスさんを見ると彼は腹を抱えて大笑いしていた。
「な、何でそんな笑ってるんですか?下級冒険者からお金をむしりとれるという愉悦からですか?」
若干自暴自棄になりながら聞くとイリスさんは笑い過ぎて涙目になっていた目を指で擦ると、少し申し訳なさそうに肩を縮こまらせた。
「いや、悪い悪い。お前がすごく真剣に射つから、こいつ後のこと考えてんのかなーと思って、ちょっとからかいたくなった。」
「えっ、じゃあ」
「あぁ、金額は嘘だ。でも矢の作り主は本当に俺だ。どうだ?射ちやすかったか?」
僕は金額が嘘だということに安堵し良からぬことを口走ってしまった。
「はい、できればずっと作って欲しいぐらいです。」
その言葉を聞いた途端、イリスさんはその顔を少し歪めこれからが本題だとばかりに話し出した。
「よし、じゃあお前、俺と専属契約を結ばないか?」
「専属契約?」
聞きなれない言葉に僕は首を傾げる。
「ようは、お前専門の鍛冶師ってことだ。他の客の武器も作るがもちろんお前の注文が入ればそちらを優先する。どうだ?悪い話じゃないだろう。それにお前は俺の矢の代金を払わないといけない。それを無しにしてやるよ。」
確かにありがたい話ではある、でもなぜ僕と契約しようとしているのか?もっと強い人と契約したほうが名前が売れるのではないだろうか。
そんな疑問が顔に出ていたのだろうか。
「俺の感だよ。感」
そういわれてしまった。
「どんな感なんですか?」
恐る恐る僕が聞くと彼はどこか遠くを見据えているかのようにドームの上空を見る見ながら
「お前は強くなるって感さ。」
そう、答えた。
「それでどうだ?俺と契約を結んでくれるか?」
僕は深く考えた。契約を結ぶメリット、デメリット、全てを洗いだし考えていく。すべてのことを考えたあと、最後まで考え抜いた最大のメリットは、強くなるための足掛かり。
僕が、手を出すと、イリスさんは少し驚いたような表情をしたあと、嬉しそうに僕の手を取った。
ここに契約は成立した。