ダンジョンに夢と希望を求めるのはまちがっているのだろうか。 作:しろくまお
ある日、僕は東のメインストリートをバベルに向かって駆け足で走っていた。理由は単純で先日、専属契約を結んだイリスさんの作った弓と矢が完成したのだ。駆け出し冒険者が使うということもあり、まだまだ質素で素材も上等なものではないが、自分にピッタリな物ができたとイリスさんに言われたため、いてもたってもいられなくなりイリスさんの工房がある場所から走ってきたのだ。
きっと武器を目にしたらすぐにでもダンジョンに行きたくなってしまう、というか行くつもりでいた僕は予め用意しておいた防具に着替えギルドにいるエイナさんに挨拶をして、ワクワク気分でダンジョンに入った。
いつもは見慣れたダンジョン、でも自分の武器を持つことでこんなにも素晴らしい場所に思えて仕方ないほど僕は浮かれていて、そして油断しきっていた。こんなところエイナさんに見られたらお小言が1つや2つでは済まないだろう。
期待に胸を膨らませ、モンスターを岩陰のようなものにかくれて待つ。基本、弓兵は獲物と距離を取って戦うそのため接近戦に弱い。そのため待ち伏せや奇襲などを主な戦法とする。正面きっての戦いは不得手であり、更にここは、言ってしまえば屋内である。ある程度広さを必要とする弓に取ってはこの閉鎖された狭い空間は少々厳しいものがある。
「よし、出てきた。」
小型のゴブリンが壁から音をたてて生まれる。弓をかまえ矢を引き絞り敵の中心、魔石があるであろう所に狙いを定める。静かに、しかし極限まで鋭利に引き絞られた矢はまるで運命を切り開く一筋の光明にも見えた。
「よし!」
矢を放つ。ヒュッと音をたて矢は一寸の狂いもなくゴブリンの中心に吸い込まれた。ゴブリンは一瞬、何が起こったか分からないような顔をし、そのままゆっくりと後ろに倒れこみ、頭が地面につくと同時に跡形もなく消えた。
ひとまず、敵を射てた安心と喜び、その両方の感情が体を駆け巡り僕は静かに両手を握りしめた。
やった。僕はやったんだ。
初めてモンスターを倒したという気さえした。ここまでしっくりくる武器を作ってくれたイリスさんに感謝しつつその日は上層を中心に次々とモンスターを倒していった。
すっかり日は落ちて夜の帳が街に降りる。僕は、ウキウキ気分で僕は帰り道を急ぐ、今日はいつもよりもずっと稼ぎが良かったのだ。なにかヴァーユ様に美味しいものでも買って帰ろうと人混みの中を掻き分けるように進むと、前方からヴァーユ様が押し流されているのを見つけた。ヴァーユ様もこちらに気付いたのか、無理やりその小さな体をねじ込ませて、こちらに近づいてきた。
「ヴァーユ様、なぜここに?」
「いやぁ、なに可愛い僕の家族を迎えにいったまさ。」
そうヴァーユ様は少し照れながらもそう答えた。
なんだこの可愛い生き物は。危うく抱きしめそうになった手を僕はとっさに隠すと、神様はその嬉しそうな表情から一変、申し訳なさそうな顔をした。
「あのね、その顔を見る限り、君が今日とても楽しく過ごしたというのは僕にも良く分かる。あぁ、でもごめん今日は僕、行かなきゃいけないところがあるんだ。ごめんよ、一緒にいてやれなくて」
そういうと、ヴァーユ様はまた人混みの中に消えていった。
寂しい気持ち半分、しょうがないと思う気持ち半分でとぼとぼと人混みから抜けて歩いていると、ふと今日の夜ご飯のことをどうしようかと思った。一人でホームで食べるというのも味気ない。今夜は楽しく過ごしたい。その気持ちを解決するにはどこに行けばいいのだろう。
考える前にも答えは出ていたのに長い間無駄に考えて、僕はその方向に向かって歩き出した。
僕が唯一知っている店、豊穣の女主人に。