ダンジョンに夢と希望を求めるのはまちがっているのだろうか。 作:しろくまお
多くの冒険者で溢れかえる酒場、次々と店員が料理をせわしなく運んでいる。響き渡るは酒を飲んでいい気になっている冒険者の笑い声。そう、ここが僕の唯一よく知っている店、豊穣の女主人である。
今、僕はカウンター席のちょうど真ん中辺りに座っている。弓は少し邪魔になるかもしれないが立て掛けさせてもらっている。入店したとき、リューさんに案内されたのだが、確かに店員としては当然の対応をしてもらったとは思う。しかし、案内のときに顔を赤らめるのは勘弁してほしい。僕としても前回、この店に来たときの告白まがいのセリフが頭をよぎってしまう。
適当な魚料理を頼みなぜかサービスだと勝手に出されたお酒と一緒にちびちびやっていると、店の出入り口からぞろぞろと団体さんがやって来た。
彼らは慣れた感じで、予約していたのだろうか、僕の後ろにある一角にどかっと腰を降ろすと各自、料理を頼みだした。
「おいおい、あのエンブレム、ロキファミリアだぜ。」
「スゲー、ってことはあれが剣姫か。」
僕のすぐ横にいる客からそんな声が聞こえる。話す声音からして、有名でなおかつ一目おかれている強いファミリアなんだろう。
ちらっと顔を向けると長い金髪をたなびかせるまるで人形のような顔をしたえらく無表情な少女と目があった、、、ような気がした。いや、あったかな?
僕は強くなりたいとこの前、心に決めたばかりである。強いファミリアの方に話を聞けばなにか参考になるかもしれない。
なにかメモを残せるような物はあったかなとバックパックの中をごそごそとしていると、狼人らしき青年が大きな声でバカ笑いをしながら誰かを貶めているであろう声が聞こえた。
どうやら、ミノタウロスをが上層に上がってきて駆け出しの冒険者を襲った、その冒険者は手も足も出なかったが、間一髪、間に合った剣姫、名前はアイズ・ヴァレンシュタインさんというらしいが助けた。しかしその返り血でトマトみたいになっていたという内容だったらしい。
周りの団員も笑いを堪えきれずに吹き出すなか、僕はカウンターの端っこで顔をうつ向かせている少年を見つけた。白髪の頼りない体をした見るからに弱そうな冒険者。すぐそばには、シルさんが心配そうな顔でその様子を見ている。
きっと彼なのだろう。貶めている冒険者というのは。ここからでは顔は見えないがきっと泣きそうな顔をしていることだろう。自分の情けない所を馬鹿にされるのは気持ちの良いものではない。
そうこうしているうちに、狼人の話も終盤に差し掛かっているように感じた。団員の中にこの空気がまずいと感じ始めたものがいるのだろう。
しかし、狼人はそれに気付かず、僕にとってはよく分からないが、きっと少年にとっては悔しく思うことなんだろう。
「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ。」
その言葉が発せられた途端、白髪の少年は椅子を蹴り店の外に飛び出していった。店が一瞬にして静かになる。
「うっわ、ミア母ちゃんのところでやらかすなんて・・・怖いもん知らずやな。」
赤髪で糸目の人がそういうと、アイズ・ヴァレンシュタインさんが店の前まで出ると少年が去っていった方をじっと見つめていた。
僕は食べ終えた皿を重ねるとそのまま会計に進む。先ほどの静けさは段々となくなっていき徐々に騒がしさが戻ってくる。会計はまたしてもリューさんだった。なんだろう、きっと偶然なんだろうけど、すごい嬉しい。やっぱり、綺麗な人と接点を持てるというのは良い。
そこそこ高い値段だったため財布は痛いがしょうがない、心を痛めながらもお金を払うと彼女と手が触れてしまった。
投げ飛ばされるっ、こうなればやけくそだ。すごい低い姿勢で謝ってやるぞと腰を曲げようとしていると彼女は何事もなかったかのように会計の続きをしていた。
あれ、おかしい。この人本当にエルフ?その耳はもしかしてつけ耳?
そんな馬鹿みたいな考えをしているのを不思議に思ったらしい。リューさんはこちらを戸惑った顔で見ると
「トリトンさん、あの、会計はもう終わりましたよ。」
と声をかけてくれた。
「あぁありがとうございます。また来ます。」
混乱した頭をなんとか落ち着けそう返すと、リューさんはこちらを見ると
「またの、ご来店を。」
そう言ってくれた。
ホームへの帰り道、僕は白髪の冒険者のことを考えていた。さっきのそしりがあの少年にどう影響を与えるのか、このまま腐ってしまっても正直どうでも良いのだがあのシルが目をつけている相手だ。何かしら面白いものを持っているのだろう。シルの後ろに時々、魔王が見えるのは僕だけじゃないと思うんだ。
今回の件があの少年の起爆剤になったら何か面白いことが起きるんじゃないかと思いながら喧騒の中を僕は急いだ。
あっ、ロキファミリアの方に話聞くの忘れた。