ダンジョンに夢と希望を求めるのはまちがっているのだろうか。 作:しろくまお
人が成長するきっかけというのは何なのだろう?自尊心、対抗心、信念など色々な理由が挙げられる。先日の白髪の冒険者のことが頭から離れない。彼はあれからどうなったのだろう?あのときはどうでもいいような考えを持っていたが、いざ考え出すとだんだん自分の考えが分からなくなっていく。
「僕は、あんな風に感情を素直に出せているのかな?」
誰に聞かれることもなくその呟きは消えていく。
そしたら成長出来るだろうか?
僕は、昔から人に合わせてばかりだった。オラリオに来るまで住んでいた村でも周りの大人や同学年の友達の顔色をうかがってばかり、唯一、自分の素を出せたのは兄の前だけ。それが嫌で外に出てもっと見聞を広めようともともと憧れていた冒険者にもなれるオラリオを訪ねて来たのに。何も変わってはいない。僕はいまだに素を出せていない。
さらに、芯が無い。心に一本ちゃんとしたものが通っていない。ただなんとなく来てなんとなく冒険者をやっているに過ぎない。
初めは目標を見つけてるために冒険者になった。でも特に目標は見つからない。そんな簡単に見つかるものでもないとは思う。けど、どうしても焦ってしまう。酒場での少年の顔が否応なしにもそのことを思い出させる。
「ダメだ、考えが煮詰まってきた。少し、外に出るか。」
今日はダンジョンに行く予定はないので必要最低限の荷物だけ持って街にくり出した。
しばらく歩いていると豊穣の女主人が見えてきた。
「どうしよう。リューさんに挨拶しておこうかな、でも開いてるかな。」
なにげなしに近くまで行ってみると、店の中に人がいるのが見えた。どうやらある冒険者が店主に向かって頭を何度も下げている。何かやらかしたのかな?とよく見ていると僕の今のモヤモヤの原因である白髪の冒険者だった。 もっと近くで見たい欲求に流され一歩、足を踏み出した途端
「トリトンさん、何かご用でも?」
バッと声のした方に顔を向けると、そこには制服姿のリューさんが箒を片手にこちらを見ていた。
「あぁ、いえ、別に用というわけではないんですが、あの、えーっとですね」
なんだよこのキョドり具合、いくら相手が綺麗だからって、頑張れ僕、負けるな僕、フレーフレー僕、よし落ち着いた。
「今、店内で謝っている人がいますよね。」
「あぁ、クラネルさんですね。それが何か?」
「実は、彼のことを考えるとなんだかモヤモヤして。」
「はぁ、もしやトリトンさんは同性愛者のかたなんでしょうか。」
急なホモ認定、これには僕も急いで反応する。
「いえ、それは違います。違いますとも、僕は女の子が大好きです。」
すると、リューさんはクスッと笑うと
「分かってますよ。そんなことは」
と言ってくれた。助かった。どうやらホモではないと分かってもらえたらしい。というか、今、リューさんの笑顔を僕は見てしまったのか?なに、可愛い。
「クラネルさんはもう少ししたら出てくるでしょう。」
「ありがとうございます。でも、良いんですか?」
「何がでしょう?」
「さっきから、酒場の店員さんが何人かこちらをじっとし見ているんですが。」
リューさんは怪訝そうな顔をしながら振り返った。リューさんと猫人の人の目が合う。猫人がニヤリと笑う。その途端、リューさんは顔を真っ赤にしてこちらに向き直り早口で戻らなければと言いお店の奥に戻ってしまった。
何か釈然としない気持ちを抱えたまま僕はクラネルさんという冒険者を待つ。
出てくるまでボーっとしておくかと考えていたそのとき、後ろからポンポンと肩を叩かれた。
反射的に後ろを振り返るとあの晩、豊穣の女主人にいたロキファミリアの一員であるアマゾネスの少女が人懐っこい満面の笑みを浮かべて立っていた。