ダンジョンに夢と希望を求めるのはまちがっているのだろうか。 作:しろくまお
「な、なんでしょう?」
いきなり目の前に現れた少女に僕はおおいに戸惑う。酒場で見たときには感じられなかった強さがここではビシビシと伝わってくるというのもあるのだろうが、一番の原因はその格好にあると思う。
アマゾネスという種族は女性しかおらず開放的で性に奔放だと聞いたことがある。案の定、目の前の少女も纏っている衣服の布面積は少ない。そのため、男としてはどうしても目のやり場に困ってしまう。見てはいけないと思いながらも男としての本能が胸のあたりに意識を向けてしまう。なるほど、これが万乳引力か。でもそこまで引力を持つほどの重量は無さそうだが。
そこまで考えたところでとんでもない殺気を感じた。目線をあげるとにっこりと笑った彼女、可愛い。でも願わくばその握りしめている手を緩めてくれませんか。殴られたら僕は死ぬと思うんです。
話し掛けられてからこの思考を展開し、殺気を向けられるまで、わずか三秒。自分のしょうもない頭に戦慄していると拳をおろした彼女は声をかけてきた理由を思い出したのかキラキラした目線を向けてきた。
「ねぇねぇ、この前酒場で見たんだけどあの大きな弓はどうしたの?」
彼女の興味はあの弓にあったらしい。確かに自分の身長と同じ大きさの弓を持っていれば気になるのは当然のことかもしれない。
「今は持ってきてないんです。ダンジョンに用があるわけじゃないので。」
「じゃあなんでこんなところにいるの?買い物?」
「いえ、ちょっと彼に用があるというかなんというか。」
僕の指差す先に目を向ける彼女はクラネルさんを見つけると不思議そうな顔をした。
「あれ、あの子どこかで見た気が、、、」
「あなたたちのファミリアの狼人がやっちゃった最近の豊穣の女主人での宴会で見たんじゃないですか?」
「そうそう!途中で飛び出していっちゃった子ね。なんであんなことしたんだろう?」
やっちゃった狼人が原因ですよとは言えない。普通なら身内が悪く言われるのは嫌だろう。たとえそれが正論でも、いや正論だからこそ耳が痛い。僕は曖昧に返事をすると会話を切り上げようとした。今、あまり長い間クラネルさん以外と話していると、肝心のクラネルさんにあったとき何を聞こうとしたか忘れてしまいそうな気がした。
ただでさえ自分が何を聞きたいのかがわからない。この状態で話すと余計、混乱する気がした。
しかし、彼女は僕を逃がしてくれる気などさらさらないのかぐいぐいと距離を詰めてくる。最初に話題に昇った弓のことなどもう忘れてしまったかのように話はコロコロと変わっていく。彼女もひまなのだろうか?
適当に質問に返していると彼女は何を思ったのか店で話している。クラネルさんと僕を見て
「で、あの子に何を聞きたいの?」
自分に話してごらんというように促してきた。
今日の、いやこれからの指針になるかもしれない答えをこの人から聞けるのだろうか?と目の前の少女を見る。
あくまでも、彼女が聞いたのは何を聞くかであって、その答えを彼女が言うかは何も明言していないのだがそこには気づかない抜けてるトリトンくん。
僕は、少し逡巡したあと彼女に自分の悩みを打ち明けた。
「僕は、自分がどうしたいのかが分からないんです。」
「何を目標に動いているのか、フラフラと生きているだけなんじゃないか?」
「そう、思ってしまうんです。漠然と生きるのがとても怖い。」
彼女は僕の言葉を静かに聞くと、少し唸ったあとにこう言った。
「あのね、私、あんまり難しいことはよく分かんない。」
「私だって強くなることを目標に生きてきたけどそれも正直、漠然とした思いだよね。」
「でも、それは誰しもが持っているもの。でもみんなはそれに囚われて生きているようには見えないんだ。」
「なぜだと思う?私ね、それを他のもので埋めているからだと思う。」
「趣味だったり仕事だったり。それでみんなやってきている。」
「確かに、それは自分を騙しているのかもしれない。でもその先に新しい扉が開けるかもしれない。」
「私が言いたいのは、行動してみてってこと。行動しないと何も始まらない。今の現状を変えることは出来ない。」
彼女はそう言うとバベルに向かって歩いていった。
行動しないと何も始まらない。確かにそれはこの世の真理だ。生きていくうえで漠然と感じる不安を消すには一番かもしれない。今までの自分は何か難しく考えすぎていたのかもしれない。
晴れてきた気持ちを押さえきれずに、僕はダンジョンに潜るためホームに弓を取りに帰った。クラネルさんには今度また話を聞こう。
後日、あの少女がギルドの掲示板に載っていた。なにやらクエストを異例のスピードで達成したらしい。なんとなく納得ができてしまった自分がいるが、そこは大事ではない。注目すべきはその名前。結局、お互い名乗らずに別れてしまったため分からなかったが、掲示板にはこう、記されてあった。
『《大切断》ティオナ・ヒュリテ 凄まじい躍進』
ありがとうございます。ヒュリテさんと心の中で礼を行ったあと、僕は弓を携えダンジョンに潜って行った。