ダンジョンに夢と希望を求めるのはまちがっているのだろうか。 作:しろくまお
ハクがヴァーユと離れて生活するために選んだ宿はノームの店主が経営している。古ぼけた店だった。店主はここで鑑定士をしているらしいのだが、実際鑑定しているところは見たことがないため目利きなのかは定かではない。
その店はいくつか部屋も用意されているらしくて、住み込みで働かせてくれと頼み込んだらしぶしぶ了承してくれた。しかも、ダンジョンに行く時間もしっかりと取ってくれた。ありがたい話だ。
お世辞にも綺麗とは言えない外観を見ながらドアを開けると、ノームの店主が小さい女の子と話していた。店主はこちらに気付くとその子をくいっと指しながら
「今日から、お前と一緒に働くことになる。リリルカ・アーデだ。ま、仲良くしろとは言わないが喧嘩は辞めてくれよ。店の物が壊れちまう。」
と言った。
少女はこちらを向くと生気がないような顔でペコリと頭を下げた。
「リリルカ・アーデです。よろしくお願いします。」
「あ、あぁ、よろしく。アーデさん。」
若干動揺しながら、たどたどしく返すと彼女は、用はすんだとばかりに上に上がっていってしまった。
店主はそんな彼女の後ろ姿を見ながら呟くように言った。
「良くなれば、いいな。」
僕はその意味を問おうとしたが、店主に上へ追いやられ仕方なく一階を後にした。
次の日から僕はダンジョンに入る傍ら店の手伝いをしだした。といっても素人である僕に鑑定の仕事など出来ない。僕が出来ることといえば身の回りの整理、要は家政婦まがいなことだ。
同じく仕事をしているアーデさんと一緒に掃除や洗濯、食事など生活に必要なことをなんでもやっていく。しかし、一緒に作業をしていても僕らの間には会話はない。アーデさんはなるべく人と関わらないように生きているのかと思ったが時々、大きなバックパックを背負い外に出ていくのを見たので外との交流がないわけではないらしい。
しかし、数日もすると何か変わったのか少しずつではあるが彼女が話しかけてくれることが出てきた。
「ハク様は、どうして冒険者になろうと思ったんですか?」
ある夜、二人で夕食後の皿洗いの時間に彼女はそう聞いてきた。
「そうだなぁ、特に理由は無かったんだ。」
僕は、語る。僕の原点を。
「冒険者になれば何か自分にも出来るんじゃないかって思ってたんだ。でも冒険者になったらそこから何をしたらいいか分かんなくなっちゃってさ。しばらく思い悩んでたんだ。」
「今はもう違うと?」
「うん、ある人にね言われたんだ。そんな小さいことうじうじ考えてる暇があったら動け。行動しろってね。その先に何かあるかもしれないって。」
「確かに今、不安だよ。この道が本当に正しいのか、それとも間違っているのか。」
「でも、間違いなく言えることは、前ほど苦しくないってことさ。前の僕は難しく考えすぎていたと思うんだよね。」
そう言うと、彼女は何かを我慢した表情を一瞬見せたがすぐに笑顔に戻った。
「ありがとうございます。何かリリにも分かった気がします。」
そう言って彼女は皿洗いを済ませ自分の部屋へと戻っていった。
何かあるなとは思ったが、僕には彼女を助けるなんて余裕はなかったため見て見ぬふりをした。ふと、彼女がきた最初の日に店主が言っていたことが頭に浮かんだ。
「あぁ、ホント、良くなればいいな。」