ダンジョンに夢と希望を求めるのはまちがっているのだろうか。 作:しろくまお
決して華々しく勝利を飾ったわけではないが僕はそこそこ誇らしい気持ちを胸にギルドへと帰った。エイナさんに報告しようと受付を見渡すが見当たらない。せっかく初戦闘でゴブリンを倒したのだ。少しは誉めてもらいたい。そんな気持ちが通じたのかエイナさんが受付の奥の方から出てきた。そして僕の方を見て、軽く目を見張るとこちらに早足で歩いてきた。誉められるのではないかと期待した。が、待っていたのは説教だった。
「なにかな、その格好は」
開口一番、そう言われた。
「えっと、ゴブリンを倒してきたんですけど」
「それは、顔を見たら大体分かる。私が聞きたいのはねぇハク君、どうしてそんなに怪我してるのかってこと。」
ふと自分の体に目を落とす。そこで気づく、血だらけだ。しまった、ポーションをすっかり忘れていた。ダンジョンに入る前にあんなに念入りにチェックしていたのに恥ずかしい。エイナさんはそんな僕を見て軽くため息をつき疲れたように話し出した。
「あのね、ハク君。私は仕事柄、多くの冒険者達のアドバイザーをしているの。でもね、アドバイスするだけでダンジョンが100%安全になるかと聞かれたらそれは、NOだよ。」
「今のハク君のように期待を胸にダンジョンに入った冒険者がそのまま帰ってこなかった事なんてざらにあるの。ダンジョンに絶対的な安全はない。私のアドバイスではダンジョンの恐ろしさから君を守るには貧弱なんだよ。でも無いよりはマシだからせめて私が言った最低限の事ぐらい守って。」
「そんなんじゃ、すぐに死んじゃうよ。」
だんだんとエイナさんの声が消え入りそうになっていく。すぐに死ぬ、その言葉が深く心に響いた。
そうだ、僕は何をやっている。更なる目標を見つけに行くんだろ?死んでどうする。
エイナさんへの申し訳なさと自分の未熟さに嫌気がさした僕はエイナさんにしっかりと謝ったあと自分のホームにとぼとぼと帰って行った。
ホーム(やっと人が住めるようになった小さな部屋だが)に帰ってくると、ヴァーユ様が椅子に座りながら本を読んでいた。僕に気づいたヴァーユ様は僕の顔を見ると、何かを察したように穏やかな笑みを浮かべた。
「おおかた、アドバイザーの人に注意でもされたんじゃないかな?顔がすごい悲壮だよ。」
とにかく今の気持ちを長い間持っておきたくなかったため僕はヴァーユ様にスタイタスの更新をお願いした。ヴァーユ様が分かったと答えると僕は早々に上着を脱ぎベッドの上にうつぶせになった。スタイタスの更新をしていると。ヴァーユ様が僕の背中に向けて静かに語りかけてきた。
「ハク君、君はもう冒険者だ。これからは常に危険がつきまとう。でも覚えておきなさい。あなたの無事を願って待っている人はきっといる。だから決して無理はしてはいけないよ。帰ってこれなくなってしまう。」
涙が溢れそうになるのをぐっとこらえて僕はしっかりと決意を声に出した。
「はい、必ず帰ってきます。」