──俺の父親は名高い冒険者であった。
類い稀な戦闘センスと身体を巡る練気によって超人的な身体能力を持ち、しかし武器を持つことを良しとせずにその拳をもって数多の危機を打ち砕いてきた男。彼のような存在を人は闘拳師と呼び、数こそ少ないが冒険者の中でも選ばれることもある戦闘スタイルのひとつとなっている。もっとも、親父のように本当に拳ひとつで戦う人間は殆どいないようだが。
──母親もまた、名高い冒険者であった。
その身に秘められた魔力を緻密に操り、守りから攻撃までおよそ全ての役割を一人でこなすオールラウンダー。
その気になれば天候すらも操るまでに魔術に精通した彼女のような存在を、人は畏敬の念を込めて魔法使いと呼んだ。
そんな二人の間に産まれた俺は、寝物語に数々の冒険譚を聞かされ続けてきた。将来の夢は両親と同じ冒険者になることだと幼心ながらに決めたのも、まぁ当然の成り行きだろう。
そうして心身共に成長し、ある程度の基礎学力を学ぶための学院を卒業。数えて十五になった年に、晴れて冒険者になるために専門の育成学院に入学した俺は──
「カムイ・ダイナリー。……貴方はGクラスの配属となります」
最初のクラス振り分けにより、最低ランクとなるGクラスの配属となるのだった。
「まあそうなるか」
割り当てられた寮の部屋。そこにあるベッドの上で、デカデカとGの表記がされたカードを眺める。
素養を見るための試験があるのは知っていたが、試験内容を思えば最低クラスの配属になるのも納得である。
試験と言っても合否を決めるものではない。特別な道具に軽く手をかざし、その身に宿る様々な量を測定するだけで、その結果如何でGからAまで振り分けられるのだ。
そうして俺が振り分けられたのは最低クラス。魔術を操るには頼りない魔力量に、身体を巡らせるには少ない練気。頭が特別良い訳でもなく、何か特別なギフトを持っている訳でもない。素養だけ見たなら、一般人と然程変わらない存在が、俺ことカムイ・ダイナリーなのだ。
両親が偉大であれ、それが子供に受け継がれるかと言えばそうでもない良い例である。
……練気も魔力も普通の人は持たないものなので、それがあるだけ両親には充分感謝なのだが。というか、その辺りの才能はふたつ年下の妹にいったようで、後二年もすれば神童だなんだと世間に騒がれるであろう。俺のように両親を秘密にする理由も無さそうで兄は羨ましい。
「さて」
ベッドから飛び降り、日課としているトレーニングでもしようかと上着を脱ぐ。今日はもう特にイベントもないので、自由に過ごして明日の初授業を待つのみだ。
最低クラスからの出発……上等である。冒険者の本質はどこまでいっても実力主義。魔力やそこらが少なかろうが、こと戦闘においては少なくとも同年代において遅れを取るつもりはない。
傷跡だらけのこの拳だが、他でもないこの拳のみが俺を俺たらしめる最高にして最強の武器なのだから。