晴れて冒険者になるためのスタートラインとも言える学院に入った俺は、机に頬杖をつきながら前で行われている光景を眺めていた。
今いるのは所謂教室。ここGクラスには軽く数えて十数人程度の生徒がいて、現在自己紹介の真っ只中である。既に自分は無難に挨拶を終えている為に、後はただただ他の紹介を聞き流していくのみとなっている。
とはいえ、流石に冒険者になるべくこの学院へと入ってきただけはあって、Gクラスとは言えど皆何か一芸は持っているようだ。
……それもそうか。そもそも冒険者としてやっていけないと判断されればここにはいない。学院は最低限の知識と技術を学ぶ為の場所であり、無謀な少年少女達を導くためにギルドが出資して創ったものだ。
入学前に適性判断が入り、どうあがいても向いていないと判断されれば入学させてももらえない。一応、入学出来た時点で冒険者になるための素養はあると判断されている訳だ。
「全員挨拶は終わったか。じゃ、全員表に出るぞ」
Gクラス教導官である男──現役の冒険者でもある──の指示に従い、全員が席を立って移動する。
移動先は、学院の敷地内にある四方を壁に囲まれた何も無い広場である。さながら闘技場のような空間であり──実際、そこは闘技場なのである。
そこに集められた理由は、当然ながらひとつだ。
「全員いるな。改めて自己紹介させて貰うが……今も現役で冒険者やってるルーガン・ドルーガだ。ランクはB、普段は五人で活動してるが、縁あってお前らを教える立場にある」
先程までは無かったわかりやすく巨大な戦斧を肩に担ぎながら話す彼、ルーガンだが、俺は彼を知っている。何故なら家によく来てたから。
適当に切られた短い髪に、並の男より頭ひとつ高い身長。衣服の上からではわからないその身体は鍛え抜かれ引き絞られており、倒れるだけで岩を砕きそうな戦斧を気軽に担ぐその姿は正に歴戦の強者である。
彼は親父の教え子であり、親父曰く単純な近接戦闘ならもうひとつふたつランクが上でもおかしくないと言わしめる程である。拳のみでSSSまで登り詰めた男が言うのだから間違いないのだろう。
「取り敢えず、お前らはGからのスタートになったわけだが、そう悲観することもない。説明も受けただろうが、この振り分けは純粋にそいつが持つ潜在的な能力のみを見ての結果でしかない」
ちらりとルーガンの視線が横へと向かう。その視線の先には、数名の生徒と一人の教導官の姿がある。あれは恐らく最初の振り分けでいける最高のランク──Aクラスの人間だ。
「勿論、そこで結果に差がついたのは否定できないが。仮に今の俺がお前らと同じ測定を受けたとして、精々がCが良いとこ、悪けりゃその下も充分ありえる。しかし──」
言いながら、クルリとルーガンが担いでいた戦斧を軽く掲げて、軽く、本当に軽い仕草で地面へと片手で振り下ろす。
それはその気軽さには似つかわしくない破壊力と速度を持って、地面を爆砕するかの如くそこに突き刺さっていた。
「少なくとも俺が、今のあそこのガキどもに負けることは有り得ない。……言いたいことはわかるな?」
ニヤリと笑うルーガンの言葉に、好戦的な生徒達は冷や汗を流しながらも笑みを溢したことだろう。
冒険者の世界は実力主義。貴族であろうと王族であろうと、冒険者の世界ではその手の権力も莫大な金もあまり意味を為さない。
それが戦闘であれ頭脳であれ、全ては自らの力で道を切り開く。それが出来るのが冒険者という存在であり、世界なのだ。勿論、それだけ厳しい世界なのは語るべくもない。
「ってわけで、今日からお前らの力を潜在的なものを含めて全て見させて貰う。結果如何でランクも当然上がる。ランクが上がれば色々と良いこともある。俺からの最初の教えは『欲しいものはてめぇの力で掴み取れ』だ。色々勘違いするやつが出ないようにも、厳しくいくから覚悟しとけよぉ」
挑発とも取れる教導官の挨拶は、確かにGクラスの面々の心に火を入れた。
……間違いなく好戦的ではない女子なんかは、見知らぬ存在であるはずの俺の背後にしがみついて震えてはいたが。