魔闘拳師はただひとり   作:風神莉亜

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拳の力

 ここでひとつ、自分の戦闘スタイルについて考察してみることにする。

 冒険者になるからにはある程度の戦闘能力は必須になる。その中でも俺が憧れた両親は、もう半分以上人間やめてますよね、と言えるレベルの強さを誇る怪物だ。

 なにせ、全世界でまだ十人しか認められていないランクSSSに、あまり目立ちたくないからとランクを上げていないだけで間違いなくそれ以上の評価を受けているなんちゃってランクSである。因みに前者が親父で後者が母さんとなる。

 何もそこまで行く必要は無くとも、冒険者の仕事はその半分以上が魔物との付き合いになってしまうので、どうしたって身を守る為にも戦闘能力は求められてしまうのだ。

 

 その為、冒険者を目指す人間は何かしらで魔物を打倒する術を持たなくてはならない。

 

 魔力を持つものならばそれを。

 練気を持つものならばそれを。

 

 この二つは正に才能。生まれ持ってのものなので、個人的には持っていればラッキーぐらいのものと捉えている。

 もちろん、この二つが無かろうとも、他で補うことだってできる。むしろ持っていない人間が大多数なので当たり前だ。

 わかりやすく言えば武器だろう。剣や槍、弓に斧など。良い武器を持つことが出来ればそれだけで戦力は上がるし、防具があれば死ぬ確率はグッと低くなる。そこに個人の技量を加えていけば、魔力練気持ちにも引けを取らない実力だって手に入るだろう。実際、教導官であり現役の冒険者であるルーガンは練気こそ持っているが、決してその絶対量は多くない。彼の強さは練気に頼らないもので構成されたものだと言えた。

 

 そして、周りのクラスメイトだが──当然ながら、ほぼ全員が何かしらの得物をその手に持っている。

 それは本来のモノではなく、訓練用に用意された木製のものではあるが、皆使いなれた種類のものを選んでいるはずだ。

 そうでなくとも、たとえ使えるものがなかったとしても。これから戦うことを考えて少しでも使えそうなものをその手に持っていることだろう。

 

 とどのつまり、何も手に持っていないのは俺一人ということである。

 

「あ、あの」

 

 そこそこ悪目立ちしそうだな、とかぼんやり考えていると、やはりと言うべきか横から声をかけられた。先程こちらの背中で震えていた女子である。その手には、魔力を使う上で制御装置となり得る杖が握られていた。

 

「何も、持たないでいいの?」

「あぁ。俺は闘拳師を目指すからな」

「闘拳師……。で、でも、それ用の武器だってあるのに」

「あるけど、使わない」

「な、なんで?」

「目指す存在が使ってないから、かな」

 

 色々と無茶苦茶な親父だが、その生き様は息子で無くとも男なら憧れてしまうものであると思う。実際、闘拳師として活動している冒険者ならば唯一無二と言えるカリスマ的な存在である。

 物心ついた時から親父に追い付こうと遮二無二やってきたが、未だ親父の足元にも及ばない。果たしてあの域に至れる日は来るのだろうか……なんて。そんなことを考えると足が止まりそうなので、あまり考えないようにしているけれど。

 

「ううん……」

「ま、無謀に見えるだろうけど。これでもそこそこやれるのさ。今からその証明でもしてこよう」

 

 そう言い終えると同時に、足元に吹っ飛ばされてきた生徒を避ける。悔しそうに悪態をついた彼は、痛む身体を抑えながらどうにか立ち上がっていた。

 

「よーし、次の奴だ。どんどんかかってこい」

 

 始まる前に担いでいた戦斧ではなく、長い棒を振り回しながらルーガンが言う。ここまで何人もの生徒を相手取っている彼だが、その呼吸は欠片も乱れちゃいない。

 実力を見るならぶつかって見るのが一番早いと模擬戦をしている訳だが、やはり現役、それも前線で戦うバリバリの武闘派の彼と駆け出しの冒険者未満では比べるのもバカらしくなる程の力の差があるようだ。

 

「お……歯応えのある奴が来やがったな」

「久しぶりだね、ルーガンさん」

 

 前へ出ると、彼は面白そうに口角を上げる。親父に鍛えられていた頃にいくらか手合わせをしてもらっていたが、ここ数年は彼が忙しくそれも出来ていなかった。

 その頃は歯が立たなかったが、俺も少しは成長している。まずはあの頃とは違うところを見せてやろう。

 

「遠慮無しでいくからね」

「青二才が言うじゃねぇか。期待してやる」

 

 拳を打ち合わせ、低く構える。俺が何も武器を持っていないことに後ろの生徒がどよめくのを感じるが……それで舐められるのも気に入らない。俺の拳が他の武器にも劣らないところを見せ付けてやらなければ。

 

「まずは真っ直ぐっ!」

 

 気合いを入れて地面を蹴る。言葉通り、馬鹿正直な直進。駆け引きはひとまず置いて、文字通りの力勝負を挑む。

 

「面白いッ!」

 

 当然、俺の頭上に振り下ろされる棒。まともに食らえば昏倒しそうな勢いで迫るそれ目掛け、こちらも右拳を打ち出す。

 

 普通ならば間違いなく拳の方が砕かれる。練気を使えればそれも無いが、俺の練気では強化の度合いが低すぎる。かといって魔力では扱いが難しすぎる。ならばどうする。

 

 試行錯誤の上で見つけたのは、とても単純な答え。

 

 練気では足りず、魔力では扱い切れず。ならば、そのふたつを合わせて使ってしまえばいい。

 口で言うのは簡単だが、実際やってみるととんでもない力業だ。火薬に火薬をぶちこむようなものだ、とは母さんの言葉である。

 しかし、俺はそこに可能性を見た。親父の背中に追い付き追い越す為ならば、多少のリスクなど知ったことかと。文字通り身を削る思いをしながらこの道を突き進んだ。

 そして得たこの力。使いにくい魔力を練気にて掌握し、火力の足りない練気を魔力にて爆発させる。一歩間違えば文字通り身体が吹き飛ぶ荒業で、俺の拳は唯一無二となる。

 

 ──結果、決して脆くは無い棒を粉砕した俺の拳は、ルーガンの顔面手前で止まっていた。

 

「良く止まったな」

「……闘拳師でもやっていけるんじゃない?」

「こんなもの付け焼き刃だ。まぁ、それでもまだまだ負けんがな」

 

 ごん、と顎を跳ね上げられて、その場から飛び退いた。

 あのまま顔面を撃ち抜こうと振り抜いていたら、その前にルーガンの拳が俺の顎を捉えていただろう。

 そして理解する。流石に、まだまだ彼にも敵わないと。

 

「どうした、こないのか?」

「……いきたいとこだけど、取り敢えず今は他に順番を譲るよ」

 

 取り敢えず、今のやり取りで侮るような視線も消えたようなので、ひとまず俺としては満足である。まだ他の生徒の番も残っているので、ルーガンも俺ばかりに構ってはいられまい。

 そんな俺の考えが伝わったのかはわからないが、ふん、と息を吐いたルーガンは短くなった棒をかついで他の生徒に視線を向けた。

 

「他の奴等もコイツみたいに遠慮なくかかってこい。このままだとコイツしか目立ってないぞ」

 

 そんなルーガンの煽りに、なにくそと武器を手にルーガンにかかっていく生徒達。上手いこと着火剤に使われた気がしないでもないが、まぁいいかと腰に手を当てて観戦する俺なのであった。

 

 

 

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