魔闘拳師はただひとり   作:風神莉亜

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臆病な彼女と

「す、すごいんだね」

「ん」

 

 最早個人個人ではなく複数人でルーガンへとかかっていき、瞬く間に蹴散らされていくクラスメイトをぼんやりと眺めていると、不意に隣から声をかけられた。

 ちらりと横を見ると、そこには先程も会話した気弱そうな女子の姿。杖を胸元に抱えている上に、この雰囲気が怖いのか背中を丸めているせいで背丈以上に小さく見える。

 しかし、その目にはどこか興奮した色が見えていた。

 

「言っただろ、そこそこにはやれるって」

「そこそこなんて、そんな。武器も何も使わずにあんなこと出来るだけでも、す、すごいよ」

「まぁ、素直に保護するようなものだけでも着ければいいとは思うけどな。そうすれば、こんな傷だらけになることも無かっただろうし」

 

 拳を握り、それを見つめる。今の技術を身に付けるまでに色々と無茶をしてきたおかげで、どこから見ても傷痕だらけ。かといって、もう傷が付かない程に熟練した訳でもないので、新しい傷も日に日に増えていく有り様である。この傷は、俺が鍛えてきた証でもあり、未熟故の恥とも言える。

 しかし、彼女はそうは思わなかったようだ。

 

「わた、私は……その手、カッコいいと思うよ?」

「……お、おぉ」

 

 おずおずと手を触られる。まさかの言葉に多少驚きつつも、その柔らかな手の感触を感じていると、慌てたように彼女は手を離した。

 

「ご、ごめんなさい……! しし、失礼だよね、いきなり……」

「あぁ、違う違う。そんなこと言われるの初めてだからさ。ちょっと驚いたんだ」

 

 さらに縮こまろうとする彼女に苦笑しながら告げる。もっと言うなら、これが同じ人間の手なのかと言いたくなる程に彼女の手が綺麗なのもあって、その差に驚いていたのもあった。

 自慢ではないが、俺の女性経験値は実践経験ゼロである。母さんやその友人から、俺が失礼とも取れる態度を取れば文字通り熱い洗礼を食らわせてくれたので多少の気遣いこそ出来るのかもしれないが、こうして同年代の女の子と話したことなんて無かったのだ。

 

「お、怒ってない?」

「怒ってない怒ってない。嬉しかったよ、ありがと」

「そ、そっか……えへへ」

 

 俺がそう返すと、彼女はほわっと柔らかい笑みを浮かべた。……なんだろう、この可愛い生き物。

 

 

 

「てか、行かなくていいのか?」

「えっ」

 

 話している間に、この広場にいたGクラスは殆ど屍となって転がっている。俺が覚えている限りで、彼女はルーガンの力試しを受けていない。まさか受けない訳にもいかないだろうと彼女とルーガンを交互に見るが──

 

「えっと……そのぉ……。わ、私は他の皆みたいに、戦うようなことは出来なくて……。魔力はあっても、補助にしか使えなくて……」

 

 言いながら縮こまっていく彼女だが、なんだそんなことかと俺は息を吐いた。

 

「なら、俺と組んでみるか? 俺が前で戦って、君が魔術で俺を支援する。これなら問題ないだろ」

 

 彼女は先程、皆が皆戦闘技術を持っているような事を口にしたが、そんなことはない。確かに、ルーガンに直接かかっていった生徒は程度の差はあれど戦う技術を持っているか、何の覚えも無くても将来的に前線で戦いたいという意欲を持った生徒だけだ。

 他の、彼女のように戦う術も無く、また前線に立つ意欲もあまりない生徒は、誰かしらの補助という形でルーガンへとその力を示していた。

 ……まぁ、仮に支援組と名付けようか。その支援組すらも屍となって倒れているのは、後方支援とて戦場に立てば安全ではないと言わんばかりにルーガンに蹴散らされていたからなのだが。良い意味でも悪い意味でも、彼は男女問わずに容赦が無かった。

 

「おーい。残るはお前だけだぞ。さっさとかかってこーい」

「だってよ。やらない訳にもいかないんだから」

「う、うん」

 

 更に小さくなりそうな身体を背中からポンと叩いて前に出す。ようやく歩き出したその一歩後ろをついていくと、彼女はチラチラと不安そうにこちらを振り向いていた。……昔いたペットを思い出させる挙動である。

 

「メ、メリル・ドーサです。あの、そのぉ……」

「ルーガン、彼女は後方支援しか出来ないらしい。だから、俺と一緒にやってもいいよね」

「あぁ、構わんぞ。だが、俺は隙ありと見れば容赦はしないからな」

 

 その言葉にびくっと肩を跳ねさせる彼女──メリルに苦笑しながら前へと出る。心配せずとも、ルーガンが言っているのは何も彼女自身の隙だけの話ではない。むしろ、前衛で戦うことになる俺へと比重が置かれた言葉だ。

 つまり、俺が下手をうってメリルへの道を開けてしまえば、そこは容赦なく突かせてもらう。大体そんな話である。

 

「因みに、補助って何が出来るんだ?」

「……簡単な治癒と、無いよりマシ、ってくらいの強化ぐらいしか……一応、誰にでもかけられるようにはなったんだけど」

「なるほど」

 

 それしか出来なくてごめんなさい、と言わんばかりに縮こまるメリルだが、魔術に関してはからっきしな俺からすれば充分尊敬に値することである。簡単とはいえ紛いなりにも術が使えるということは、少なくとも術式を理解しているということ。それに、自分に使うのと他者に使うのでは同じようで全く違うことだ、と母さんから教えられたことがある。その点、他者にもそれが使えるメリルは優秀なのではないのだろうか。

 

「相談は済んだか? なら、早いとこかかってこい」

「今行くよ。……取り敢えず、最初は普通に戦うから。いいところで強化を俺にかけてみて。大丈夫、ぶっ飛ばされるのは俺だけだ」

 

 どうやら新しいものに持ち変えたらしき棒で肩を叩いているルーガンに向きなおる。後ろ手でメリルに下がれとジェスチャーを出し、パタパタと慌てて彼女が後退するのを確認してから、俺は構えを取った。

 

「よーし、今度はもう少しじっくり相手してやろう」

「それはありがたい、ねっ!!」

 

 本日二度目。対ルーガン戦である。

 

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