宇宙戦艦ヤマト2202 恐れを知らぬ者《ドレッドノート》   作:お猿プロダクション

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今回は戦闘無しデス!


出撃 第九機動艦隊

 2203年 土星沖 

 

 白色彗星帝国

 

 

「第九機動艦隊?」

 玉座の間に呼び出された、痩せ気味で顔の彫りが深い男が

 放った疑問形は反響したが故にまるで多人数の口によって出された言葉のように感じられた。

「左様。バルゼーの第七機動艦隊が被った損害は、我が白色彗星帝国をしても、目に余る」

 だがその疑問に対して、遊動艦隊司令長官 ゲーニッツの放った言葉の持つは余りに剛健で、男の疑問を打ち消すだけの力を持っていた。

 ゲーニッツは続ける。

「その間、このゼダンにおける攻略を貴様に一任したい。名誉挽回のまたとない機会だ、やってくれるな?」

 男の、重く垂れた一見気怠そうな眉──────その奥に隠された黄金色の瞳孔は、青白くそして冷たい光を伴って見開かれていた。

 その冷たい光の中に一部の揺らぎもない。

「身に余る光栄……御期待の分以上に、存分な戦果を御覧に入れましょう」

「貴様には今次攻略戦にあたり、別の旗艦を用意しておる。存分に暴れてくるがいい」

「有難き幸せでございます。全ては大帝陛下の御心のままに……」

 

 その大帝陛下───ズォーダー───は頭を垂れる男を見下ろす。筋骨隆々としたその体躯と、他者を圧するその眼光も相まって、あたかも本当に壁が存在しそれが圧迫してきているようなプレッシャーを目合わす者全てに与えている。

 

「ゼブルーアンスよ」  

 

 ズォーダーの重い口が開いた。さながらそれは声そのものに質量が込められているようで、ゼブルーアンスと呼ばれた男も流石に圧倒された。

 

「はっ……」

「期待させてもらおう」

 男………第九機動艦隊司令長官 ゼブルーアンスは深々と頭を垂れ、細々としながらも未だ鉱柱の如き頑健さすら漂わせる手足で礼を捧げる。

「至上の喜びにございます」

 

 

 〜〜ー〜〜

 

 

「……」

 陣羽織に身を包んだガッシリとした体躯の男が、憮然とした表情で目の前を覆う構造物を見上げていた。

 構造物、と入っても、その実それは艦艇だった。ガイゼンガン兵器群アポカリクス級航宙母艦……全長1240mを誇る、もはや要塞と形容したほうが良い程の超巨大母艦である。

 それを見上げる男こそは、第七機動艦隊司令長官 バルゼー。地球圏への侵攻当初、主力として数万のカラクルム級戦艦を率い、さらには自身もナスカ級打撃型航宙母艦を従えて旗艦アポカリクスに座上し出陣。迎え撃つ地球艦隊の土星沖で大会戦を繰り広げたのだった───最も、バルゼー艦隊は初戦こそ地球防衛軍の前方たるエンケラドゥス守備隊相手に圧倒的優勢を誇っていたが、山南 修率いる地球艦隊主力との衝突にあたっては殆ど一方的とも言うべき醜態を晒してはいたのだが───。

 そのバルゼーの空いた傍らに別の男が近付いてくる。バルゼーよりも細身で、背の高い影。

 

「……何の用だ?ゼブルーアンス」

 一瞥もせず、バルゼーは言い放つ。バルゼーには背中に迫る気配で自身のもとへやってくる男の正体が判った。

「久しいなバルゼーよ」

 実は、ゼブルーアンスとバルゼーは旧知の仲にあり、地球で言うところの同輩にあたる。ほぼ同時期に「育みの間」で"出荷"され、階級も近しい両者は互いに競い合い、より多くの戦果を挙げるために殺戮の戦いを繰り広げていた。

 

「フン、貴様こそ何のようだ……この俺でも笑いに来たか?」

「まさか!この俺がそんな男に見えるか……?戦友を労りに来たのだよ」 

「戯れるな……!」

 バルゼーの額に青筋が走る。ゼブルーアンスの言葉は土星沖会戦の折、地球艦隊相手に勝利するどころか第七機動艦隊戦力の過半を喪失したバルゼーへの揶揄に等しかった。

 

「ゴタバ遠征の際、艦隊を全滅させられた貴様に言われる筋合いなど無いわ。この腑抜けめ」 

 

 バルゼーの言ったゴタバとは、大マゼラン銀河のことだ。ガトランティスはグタバこと小マゼランだけでなく、ガミラスの本拠である大マゼランにもその蚕食(さんしょく)の触手を伸ばしていたのである。

 そしてさる5年前、ゼブルーアンスが第九機動艦隊の座を頂く以前の事。小マゼラン銀河(グタバ)遠征軍の一群を率いていたゼブルーアンスは、当時の大ガミラス帝星国防軍航宙軍ルンドの第八軍との交戦によって全滅させられた事があった。

 先代のゼブルーアンスもその戦いで戦死している。

 

「いつの話をしている?第七機動艦隊を預かる身ともあろう者が、いささか狭量が過ぎるのではないかね」

 

「黙れ小心者。聞いたぞ、俺に代わってこの惑星圏攻略を任されたらしいな?──────グタバ遠征の際といい、大帝陛下は時折恣意的に物事を決めなさる」

「遮二無二突っ込むしか能がない御主とは違うのさ」

「敵の戦力が度を逸していたに過ぎん。最初から分かっておれば、かの様にはならぬわ」

 

 バルゼーの眉間に深い彫りが現れる。彼は、地球艦隊との戦闘で劣勢に立たされた原因を時間断層による異常増産の結果だと捉えていた。

 それはそれで間違った観測ではなかったのだが、地球艦隊の拡散波動砲の乱射を前に碌な打開策も見出すことなく、白色彗星帝国本体の介入まで徒に損害を出し続けていたのはバルゼーの失態と言われても彼に逃げ道はないのもまた、事実であった。

 

「それは、俺が“敵の機動力が常軌を逸していた”と言った事と比べて、どの程度信頼していい言葉なのかね?あの時、貴様は何と言ったものだったか──────」

 

「チッ……狭量なのはどちらだ、全く」

 

 会話を続ける中にあって、未だに自身の後背から姿を見せようともしないゼブルーアンスに向かって、煩わしげに踵を返すバルゼー。交錯した両者の視線の間にはどんな渓谷よりも深い大きな隔たりがあったが、そこにはどんな石橋とりも強固な繋がりもまた存在した。

 結果として親子のような関係であったゴーランドとノル、良き上下関係を築いていたゴーランドとザバイバルの様な"絆"とか"縁"とか呼ばれるべきモノが、二人の間にあったのだ。

 

「………貴様が師と謳っていたゴーランドの戦死は知っているな?」

「無論だ──────テレザートで、ノルとザバイバル諸共。残念なことだが」

 

 バルゼーのそれは、言葉足らずではあったが警告だった。ミサイル戦艦群を率いていたゴーランドは優将としても知られていて、故にこそテレザート防衛の重責を任されていたのだ。そのゴーランドは”ヤマト"と名付けられた宇宙戦艦との戦いで命を絶った。そして、その"ヤマト"は地球の(フネ)──────ゼブルーアンスもそれを承知している。

 

「大胆にして緻密………先代の亡き後、あの方には多くを教わった。あれで俺は変わったのだ」

「臆病になった、の間違いだろう?大胆さは何処に行った」

 

 ──────もともと、ゼブルーアンスはもっと大胆不敵とも言うべき勇将だった。それこそ、バルゼーにも匹敵する向こう見ずな猪突猛進型の………それが大マゼラン(ゴタバ)での敗戦を境にめっきりと影を潜め、更に立場が下のはずのゴーランドに教えを乞いに赴くと───それだけでも十分"異常"なのだが───更に棘が削ぎ落された様な人格へと変貌を遂げており、昔の彼を知っていたバルゼーなどは大いに面食らったものだ。

 

 ──────その"丸くなった"ゼブルーアンスが、バルゼーを前にする時だけ粗暴とも言える言動を見せるのは、彼等の交流の深さの証なのかも知れない。

 

 

「まぁ見ておれ。この俺が地球人共を撫で切りにしてゆく様をな」

 

「ふん……せいぜい見物させてもらうとしよう。貴様が見事奴ら(地球艦隊)を殲滅したのなら、その暁には我が艦隊と言わず、この俺をも配下に加えるが良かろう」

「───っはっはっは………!冗談のつもりか⁉」

 

 込み上がる勢いに任せるまま、ゼブルーアンスは乾いた笑いを吐き出し、続けた。

 

「─────昔の同輩を顎で扱き使えるようになったら、さぞや気持ちが良いだろうよ。……ならばバルゼー、もし俺がおめおめと負け帰ってきた暁にはどうしてくれる?」

 

 ゼブルーアンスの戦友への問いに、戦友は些か程の考える素振りすら見せず、きっぱりと答える。

「それは……有り得ぬ」

「何故だ?」

 

「ガトランティスに許されているのは、勝利か、然らずんば死だからだ」

 

「そうだったな……」

 勝か死か。

 大帝陛下の願いのために、たとえその身が尽き果てようとも、炎と化しても一人でも多くの敵を殺す。

 ガトランティスとはそういう行動を定め付けられた種族なのだ。

「では……万が一にも俺が敗死したら、どうする」

「貴様の幼生体をこの俺が預かり、徹底的に鍛え直してやる。今の貴様のような軟弱ではなく、勇猛な将としてな……!」

 "今の"という部分にバルゼーが力を込めて言い放ったあたり、当の戦友が完全に自分のことを毛嫌いしているわけでは無いことを察し、ゼブルするアンスは再び笑った。

 それは乾いた笑いではなく、ついまろび出た苦笑。

 

「フッ……良かろう。俺が負けるにしても勝つにしても、面白そうな事になりそうだ」

「………面白そうだと?貴様、もう少し真面目に考えぬか」

「戦場でしか死ねない我々の戦いに、面白味の一つもなければ、命を張るには釣り合うまい」

「………」

 

 土星沖で地球艦隊と対峙した折、ズォーダー大帝に戦線の膠着を咎められた直後。通信を切ったズォーダー大帝は「少しは、楽しめそうだな」と嘯いたという。俺の同輩も、もしかしたら大帝と同じような──────?

 未だ、頬に僅かに上がった口角を蓄えるゼブルーアンスに対して、バルゼーは1ミリ足りともそのような素振りは見せなかった。

 

 ゼブルーアンスの去り際、バルぜーは最後に彼を一瞥し─────滅多に見せない─────微かに角度の上がった口で冗談を言った。

 

「骨は知らぬが、毛一本くらいは見つけたら回収してやる」

「沈んだ(フネ)で、毛すら残るかよ」

 

 

 ──〜──

 

 

 バルゼーのアポカリクス級の入渠するドッグの下方から、巨大な影がガスの鎧を纏ったようにして現れた。

 双胴の艦体と特徴的な巨大な艦橋。一見するとそれはメダルーサ級殲滅型重戦艦のようにも思えたが、圧倒的とも言える存在感を放つ五連装大口径徹甲砲塔が無かった。

 だが、艦そのものが放つ存在感はすぐ近くに居並ぶアポカリプス級にも引けを取らない───全長は1000mにも達しようか。

 技術奪取鹵獲戦闘艦メダルーザ……かの、ガミラスの技術奴隷によって造らされた火炎直撃砲を搭載した戦艦───地球で言うところの、火力転送型の特殊砲艦───の元となった艦だった。

 その腹には、まるで虫がエモノを抱えるようにして、多数の機械脚に挟まれたガイゼンガン兵器群カラクルム級戦闘艦の姿があった。

 

「慎重と確実こそが俺の戦い方だ」

 

 新たに編成された第九機動艦隊を率いて、ゼブルーアンスを乗せた原種艦メダルーザは数千の艦隊を率いて白色彗星帝国の白き闇の中から解き放たれた。




オリジナルキャラ、ゼブルーアンスの登場回ですが、人間臭さを感じて頂けると嬉しいです。
原種艦メダルーザの見た目は旧作のメダルーザとほぼ同じです。なおサイズは917mです。
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