オリ主あり、カルデア職員と英霊との接触ありとなんでもあり。
大丈夫な方だけどうぞ
吹雪。
ここカルデアの外はずっと変わることなく、一面の銀世界。
自分は電気ストーブのついた部屋で細々と仕事を続けていた。
少し傷のついたテーブルには大学生の時から使っているパソコンに、多言語の辞書、数多の書類。
まるでどこかの作家の汚部屋のように成り下がっていた。
着任当時の、あの綺麗な部屋は夢かのように消え去っていた。
自分はそこまで仕事、というものは得意ではない。
ただ、魔術師の家の分家、というだけだった。
親はなにやら自分に期待していたようだが、自分は分家の分際で何を望んでいるのやらと自嘲気味だった。
そこまで高名な家でもない癖に、と。
自分は、あまりにも
ふと気付いたとき、部屋の扉が開いていた。
大方、自分が閉めたつもりになっていたのだろう。
これではストーブも意味を成さない。
どうりで寒いはずだと、閉めようと思ったが、食堂に行こうと思いついた。
コーヒーの一つでも飲んで、気を紛らわせよう。
電気ストーブの電源を切り、部屋を出た。
カルデアの利用者は、その数の都合上英霊のほうが多かった。
今もそこそこ遅い時間なのだが、そこかしこに英霊がいた。
「やあエミヤ、コーヒーを一つ頼んでも?」
自分でインスタントを作るのもいいが、エミヤがいるのであれば、彼に頼むのがいい。
彼のコーヒーは、現代に生きていたんじゃないかと疑うほどの美味しさだった。
「あぁ、もちろん。……随分遅くまで起きているんだな」
「俺は鈍くさいから。ん、ありがとう」
へらっとした笑みを浮かべてコーヒーの入ったマグカップを受け取る。
どうやら、今日はショコラテのようだ。
大方、誰かがチョコレート菓子でも頼んだのだろう。
それからゆっくりと食堂内を見渡した。
その時目に入ったのは、目を伏せ頬杖をついた──────
賢王とは、英雄王の晩年の時分を指す。
噂によると酷いホリックワーカーで、藤丸立香の制止がなければ四六時中働いているのだとか。
が、中身は
自分は賢王から離れた場所に陣取りコーヒーを飲み始めた。
紙片類でも見ていれば、誰も邪魔してこないだろう。
結局自分が腰を上げたのは飲み始めてから一時間が経った頃だった。
エミヤに一言声をかけて、おかわりを手に食堂を出た。
いつの間にか食堂には片手で数えられるほどにしか英霊は居なくなっていた。
湯気を立たせながら、部屋路につく。
窓辺の辺りはライトが消灯になっていて、窓から入る月明かり……のような物だけが、廊下を照らしていた。
誰一人、自分以外が居ないこの空間が何故か神秘的だった。
外は未だ吹雪のままだったが、それがより神秘性を高めているような、そんな気がした。
「おい」
────―そう思っていたからこそ、声が聞こえた時、飛び上がりそうになった。
後ろを怖さ半分に振り替えると、薄暗い中、赤い瞳と目があった。
まるで蛇のように鋭い目、重力に従って真っすぐに下りた金糸の美しい髪。
──―
「なん、ですか」
自分は、あくまでも務めて冷静に答えた。
「貴様は、眠らんのか」
貴方が言うのかと、言いそうになって慌てて言葉を喉の奥に押し込んだ。
彼のような、王様系サーヴァントは機嫌一つ損ねるだけで首が飛ぶ。
自分はまだ、死ぬわけにはいかなかった。
「……まぁ、自分、鈍くさいので」
エミヤの時と同じ返答なのに、不思議とトゲトゲしく言っていた。
その返答に、賢王は
「ほう」
とだけ零した。
目は、自分を射抜かんばかりの鋭さのまま。
自分、もう行っていいっすか、と口を開こうとした時、賢王はそれを遮って再び問いを口にした。
「貴様は、此処カルデアをなんとする?」
──―はい?
と危うく零しそうになった。
カルデア。
人理継続保障機関、フィニス・カルデア。
保障機関とは名ばかりの、アムニスフィアの、天体科の魔術工房。
おそらくは、マリスビリー前所長の根源を目指すための。
時計塔にお世話にならなかったものの、なまじ魔術を齧っていた自分は、彼がロードであることを知っていた。
時計塔のロードが、ここまで大規模な工房をつくるのは、おおよそ根源に辿り着くためだろう。
──―それを、なんとする?
つまり、“どう思うのか”を聞いているのだろうか。
自分は返答しかねた。
嘘をついたところで、賢王にはバレてしまうし、機嫌を損ねようものなら首が飛ぶ。
賢王はただ返答を待っていた。
自分は、目線を外光に照らされた廊下の床に下げ、こう告げた。
「ここは、地獄だ」
「見も知らぬ、顔も知らぬ、名も知らぬ誰かの為に、一般人が
「────地獄だ、地獄以外に当てはまるわけがない」
「もし仮に、此処が地獄でないとするのならば────」
「この世、全てが地獄だった、というだけだ」
────それだけ言うと、自分は大きく息を吐いた。
冷やされた息は、白い湯気となって、上に上って、消えた。
実を言えば、一般人と言ったのは
自分は、のことを、一般人だと思ったことはない。
余りに恐ろしいサーヴァント達と友達になろうとする
魔術を齧っただけの自分のほうが、余程一般人だと思った。
もし、自分が一般人とはいえなくとも、
少なくとも、一般人ではない、と自分は思っている。
暫くの間、沈黙が場を支配した。
恐る恐る、顔を上げると、賢王は居なくなっていた。
返答に満足したのか、途中から詰まらなくなったのか。
自分にはわからなかった。
ただ、分かったのは、
ショコラテが温くなるほどここで相対していた、ということだけだった。