第六特異点、エルサレム――――否、キャメロット。
そこは本来、宗教に関する戦争があるはずの
だが、
“
ムスリム達は多くが死に絶え、生き残った者はハサン・サッバーハら“山の民”に匿われていた。
挙句、エルサレムとは違う土地であるはずのエジプト領まで出現している始末である。
そんな、恐ろしい、悍ましいとも云える魔境を
否、
この事を受けて、皆は喜んだ。
残る特異点は、一つになったのだから。
―――自分は、というと。
素直に喜ぶ気持ちにはなれなかった。
これでまた一つ、藤丸立香は一般人から離れていくのだから。
自分は、藤丸立香と会話することはほとんどない。
好きでもなければ嫌いでもない。
―――ただ漠然と、彼に対する親近感と、畏怖とが心にあった。
だからこそ、喜ぶことができなかった。
一般人から離れていく、ということは彼にとってどういう意味を持つのか。
今まで乗り越えてきた特異点。
オルレアン、セプテム、オケアノス、ロンドン、北アメリカ大陸。
それらが修復されるたびに、自分はそんなことを考えていた。
そのため、他の職員が藤丸立香の勝利を祝ったりする
自分は、
“藤丸立香、という人物は一般人ではないが、ある一般性を以て英雄と縁を結ぶことの出来る人間”だと思っている。
―――つまり、一般性があるから縁を結べている、と考えている。
その一般性というのは、誰かと友達に、親しくなりたいという所だ。
が、その対象に英霊までもが入ってしまうのが、
彼らはすでに死人だ。
そして彼らには彼らの
余りにも違い過ぎる彼らと、友人になろうとする……と言うのは語弊があるだろうか。
仲間というのは勿論のことだが、友人の様に思っているフシがにはある。
そこが、
さて、自分は今、廊下を歩いている。
賢王の時とは違い、煌々と廊下を照らす電燈が幾つも並び起動していた。
自分は第六特異点修復祝いに参加する気が起きず、こうして一人、廊下を歩いて部屋路についてる。
外は未だ、吹雪だった。
「おい」
そんな事を考えていたからなのか、とても幼いその容姿から、想像出来ぬ程の低い声に一瞬反応出来なかった。
「あ、はい、なんですか、―――ええと、アンデルセン、さん」
―――ハンス・C・アンデルセン。
劇団員や脚本家を目指す半ばで折れ、詩や童話を生きる道とした男性。
生前は酷いコンプレックス持ちで、初恋すら実らず、その手紙を持って亡くなったとされる。
世界三大童話の一つを担い、唯一オリジナルを生み出し続けた人物だ。
―――そんな人物がここカルデアではまこと幼い姿なのはこの際置いておくとして。
「貴様、今暇だな?」
「……えぇ、はい、まぁ」
だから寝かせてください。
とは、言えなかった。
言ったところで彼は聞かないし、そこら辺の一線を見極める事は出来るだろう。
「よし、なら書斎にコーヒーを二つ持って来てくれ」
「エドモン・ダンテス氏は?」
「バカめ、彼奴はマスターの傍に居るタイプだろうが」
―――つまるところ、エドモン・ダンテスの代わりにコーヒーを淹れろ、と。
「そこの書斎でいいんですよね」
「あぁ、頼んだぞ」
それだけ言うと、アンデルセンは書斎の中に消えていった。
まったくもって、勝手な人である。
こういったことは、何も珍しいことではない。
エミヤ達英霊のほうがむしろこういったことをしてくれる、というだけで。
とはいえ、彼らの好みは推し量れないので角砂糖やミルクも盆に乗せる。
ちょっとしたお茶請けも添えて。
アンデルセンの所――――書斎は元々今は亡き職員のモノだったが、
今ではもっぱら作家系サーヴァント達の溜り場になっていた。
そのことに職員の反発もあるが、自分はそうは思わなかった。
コチラが助力を願っているのだし寧ろそれだけで済むのだから良いほうだろう。
重い扉が開き、中に入った。
仲は恐ろしい程真っ暗で、視力が秒で落ちそうな程だった。
「おぉ、出来ましたかな?吾輩、待ちかねていましたぞ!」
やはり、というべきか部屋にはシェイクスピアも居た。
山のような羊皮紙に原稿用紙を見たところ、今まで彼らと乱闘をしていたらしく、シェイクスピアは大きな伸びをした。
ウィリアム・シェイクスピア。
英国が誇る随一の劇作家。
四大悲劇は勿論のこと、ロミオとジュリエットなど、有名な作品群を世に送り出した偉人。
―――それが、サーヴァントになってもこんな場所でカンヅメしているなんて。
ファンが知れば卒倒することだろう。
自分はそんな事毛ほども思わないが。
「好みが分からなかったから、色々持ってきましたが」
「構わん、そこにおけ。―――――おい、お前はそこに座れ」
置いたらすぐにでも帰ろうと思ったのだが、コレである。
アンデルセンにバレてしまった。
というか、何故引き止めるのだろうか。自分を。
「茶請け付とか、吾輩、感動モノですなー」
「なんだ、貴様日本生まれか?妙に気が利くな」
「ナチュラルな偏見どうも。―――――日本にいたこともあるけど」
「そうか」
「……えぇ」
聞くだけ聞いてコレである。
彼らが休憩中、手持無沙汰だった自分は、適当な本を開いて読み始めた。
ちょうど、本の一章分を読み終えたところだろうか。
お茶請けを食べ終わったアンデルセンが口を開いた。
「そういえば、この間。貴様キャスターの方の英雄王に噛みついたらしいな?」
「……ただ聞かれたことを答えただけです」
「ここを地獄といったらしいが?」
「我々にとっては地獄ですな!主に原稿t的な意味で」
「……まぁここが地獄なのは間違いじゃない。――――特に、
「そうですな、まぁ吾輩、楽しければ何でもいいのですが」
「それは貴方だけでしょうが……」
自由気ままな
サーヴァントは皆そうだが、シェイクスピアは特段そうだろう。
「お前にとって
「何、って」
「確かに、カルデアの職員の方がマスターについてどう思っているのかは気になりますな」
コーヒーを飲みながら、イヤに笑顔になってシェイクスピアは言った。
大方、ネタにでもするつもりなのだろう。
「……少なくとも、
あぁやって、もてはやすのは不適切だとは思ってる」
「ほう?どういった了見だ?」
興味が湧いたのか、アンデルセンはカップを盆に置いた。
自分に視線を投げられるのは嫌な気分だが、自分は少しずつ考えを述べ始めた。
「
「一般人としても、魔術師としても、異常――――異端者だろう」
「だが、本来その力は生者―――彼と共に生きる者に向けられるはずだった。
こんな状況だからサーヴァントに向かってしまっているだけだ」
「力、というのはなんだ?」
「なんというのか、
ふむ、というだけで、アンデルセンは何も言わなかった。
「どうぞ、続けてください」
逆に、シェイクスピアが続きを催促する。
「もう一度言うが、藤丸立香は
彼が一般人であったことを忘れるのは最もしてはいけない、とも思う」
「あんな風に―――特異点を修復するたびに
ドクターロマンや、ダ・ヴィンチ、マシュなんかは気にしているんだろうけど、他はそうは見えない」
「藤丸立香は――――一般人として生きるべきだった」
「だけど、
この表現はダメだな。そう対応すべきだ」
そうでなければ、藤丸立香が壊れてしまう――――
そう思いはしたが、口にはしなかった。
本当にそうなってしまう気がした。
「それが、貴様の考えか。――――――では、それに対する俺の見解を述べよう」
一通り聞き終わったアンデルセンは、コーヒーを一口、口に含みながら、そういった。
自分を見据え、ひと呼吸おいて。
「貴様の
「すくなくとも
「最近はハロウィンだか天竺だかくだらん特異点すら修復するのが当たり前になっている。いや、
「だからこそ、職員も慣れてしまっている。俺たちは既に“
弊害はない。だが貴様らは自由に生きることができる。その分適応力というモノに振り回されやすい」
「その点、貴様は物事を俯瞰的にみることが出来るんだろうな」
つらつらと語るアンデルセンに自分は目が点になった。
流石は人間観察Aというべきか、彼は周囲の人間をよく見ている。
彼はそのまま、こう続けた。
「そういった考えを持てる人間は
出来るなら、忘れてやらないでやってくれ。
そしてアンデルセンは目を伏せた。
「いやぁ、ごちそうになりました」
いつの間にか、お茶請けもコーヒーも茶渋……コーヒー渋?を残し、空になっていた。
「どうして中々、悪くはない。どうだ、ここに習慣的に来ないか?」
「暇があれば」
「ほう、ならば今!片手間に貴方の来歴でも教えていただきたい!」
「……は?」
「それはいい。どうせ暇だろう。ネタになるかもわからん、話せ」
自分は面倒くさくなって本で顔を覆って、瞼を下ろし、彼らの質問に無視を決め込むことにした。