カルデアの食堂を営むおは料理に関係するサーヴァント―――――という訳ではない。
それらしい逸話はなくとも、それをするサーヴァントは多い。
例えばタマモキャットがいい例だろう。
彼女はキャスター・玉藻の前の分身、1側面で、日本的に言えば分け御魂といえるだろう。
そも、玉藻の前はかなり身分の高い人物―――――らしい。
らしい、というのは余り自分は彼女について詳しく無いためである。
と、言うよりも彼女について知る職員は居ないような気がする。
日本のサーヴァントが半数を占めるのに、カルデアの職員の日本人は
もしかしたら、他にも居るのかも知れないが、自分には預かり知らぬことだった。
玉藻の前の話に戻るが、身分の高い女性はどこの国も家事というものをしないし、知らないものだ。
すくなくとも、彼女の生きた
そんな彼女に料理の逸話があるはずもない。
ということは当然、分霊であるタマモキャットにも無いわけである。
――――そも、あの手でどう料理をするのか、とか、毛は入らないのか、とか考えてはいけない、様な気がする。
そんな事があれば
今の所、そんな事例はないが。
自分は普段部屋で、たった一人カップラーメンをすする事が多い。
あまり他人と食事をすることを好まないからだ。
最近は
だが、そうはいかなくなる時もある。
「……あー、やってしまったな」
自分の目の前には、空っぽの排水管しかない下棚があった。
本来ならカップ麺やカンパンといった簡易的食料があるのだが、先日消費したのをすっかり忘れていた。
取りにいけばいいとは思ったが、今日は会議があった。
食事は手早く済ませなければならなかった。
倉庫までは距離がある上に、認証ロックやらがかかっていて面倒だった。
致し方なく、自分は食堂に行くことにした。
「―――む、君か。珍しい事もあるものだ」
「今日は事情があってね」
「いつになればここで食事を取るようになるのかね?」
「ははは、また来世。―――誰かと食事することが苦手なもので」
エミヤに小言をいわれていると、厨房の奥から赤髪の女性――――ブーディカが現れた。
ローマ帝国に踏み荒らされ、手折られた、古きブリテンの花。
イギリスの勝利の女王、それが彼女だ。
「それなら、カウンターはどう?端の方とか」
「仕事をしながらなので、お邪魔でしょう」
「もう、根を詰めすぎるなんて駄目なんだからね」
「……ええ、そうですね」
それが出来たら、どれ程よかったか、とは口に出さなかった。
彼女は善意で言ってくれていたのだから、嫌味をいうべきでないのは分かっていた。
「軽いものを用意しよう、待っていたまえ」
――――そう言われて、自分は一つの丸テーブルに座った。
暫くして、耳に女性の声が入ってきた。
「あーッ!うどんだぁッ!」
そう騒ぎ立てているのは、日本の剣士―――二刀流で有名な―――宮本武蔵だった。
江戸の[[rb:時代>とき]]において、小話の中で有名になった“男”の剣士。
佐々木小次郎を
―――それがこのカルデアにおいては女になっているのはどういう事か。
自分には分からないし、分かりたくもない。
「君も食べるか?」
「いいの?頂きます!」
「あぁ、持っていくから座っていたまえ」
「やったぁー!」
―――と、ここまでは別に(どうでも)よかった。
彼女がこちらに来るまでは。
「ね、この席座ってもいい?」
「え、あ、は?」
「失礼しまーす」
聞く気がないのに何故聞いたのだろうかこの剣士は。
「……はぁ」
「溜息?ダメだよ、幸せにげちゃうよ?」
「席なら、他にもあったでしょう」
溜息の当てつけの様に嫌味をいうと、彼女は目を丸くして、キョトンとした顔で言った。
「だって、君は初めて見たから。私、色んな職員に話を聞いてるの。皆、色んな国からきてるのね~」
楽しそうに言う彼女は、どうやらのウワサを聞いてきたワケではないようだ。
「貴方は?どこから来たの?」
「……自分、は」
「すまない、うどんが出来たぞ」
「わーッ!おうどんだ!」
すでに彼女の興味は、うどんに移ってしまった。
自分勝手さが、ここに極まっている気がする。
「3つ……?」
エミヤのもつ盆には椀が3つも置かれていて、ふとした疑問が口をついた。
「私も少し休むことになってね。後しばらくはブーディカがしてくれる」
「おっ、そうなんだ。じゃ」
「頂きまーす」
「頂きます」
「頂きます」
この日本のうどんというのは、日本人のマスターの希望から始まった。
どういう訳か、マスターはしばらくの間、うどんだけを口にしていた。
そういった事もあって、職員たちにとって一番なじみのある日本食だった。
「おいしー!肉うどんは最高ね!」
「口にあったのならなによりだ」
「……そうだな」
「あ、そういえば」
と、武蔵は思いついたように言った。
「君はめったに見ないけど、どうして?」
「部屋でカップ麺食べてるから」
「えーっもったいない!こんなおいしいご飯が食べられるのに!」
「君からももっと言ってくれ。彼ぐらいのものだぞ、部屋でカップ麺など……」
「カップ麺……いいかも」
「おい」
「いやいや、思ってないよ!そんなよさそうだな~なんて!……あ」
「はぁ……」
一人突っ込みをする武蔵を横目に、エミヤは大きな溜息を零した。
「無理に、とも毎日こいとも言わないがね。体を労わるつもりがあるのなら、たまにはきたまえ」
「労わる必要がない人がいいますか」
「労わる必要がないからだ」
「さいですか」
エミヤは一通り食べ終わると、再び口を開いた。
「マスターも似たような事を言って、しばらく食堂にこないことがあった」
そう聞いた武蔵は、あぁ、と思い出したように。
「お医者様と看護師さんが言ってたわね、そういえば」
お医者様とは、キャスター・アスクレピオス。
看護師さんは、バーサーカー・ナイチンゲールを指している。
無論そこにはドクターロマンもいたのだろうが、彼らが零していたなど、露程も知らなかった。
「一体なにが?」
「マスターを取り巻く状況は一変した。それによる急激なストレスで一時的な拒食症になっていた様だ」
「そんなの、知らなかった……。でも、そう、よね。あの子、今まで普通の生活をしていたのだもの」
急に世界が貴方の双肩に懸かっているなんて、耐えられる訳ないわ。
そう、武蔵は言った。
「しかし、マスターは生身の人間だ。君と同じく、な。……最初は点滴にする、という案もあったらしいのだがな。イヤ、そうならなくてよかったと思うが」
「もしかして、それで始まったのが……」
エミヤは鷹揚に頷いた。
「そう、この“うどん”だったわけだ」
「だから、今日もうどんを?」
まぁ、な。とエミヤはチラリとこちらを見た。
「マスターは、最初こそなかなか来てくれなかった。食べてもくれない」
「だがな、少しずつ、少しずつ来てくれるようになった。[[rb:現在>イマ]]のようになったのは、本当に最近の事だ」
「そうだったんだ……。私、召喚されたのはこの間だったから、知らなかった」
「まぁ、認識してくれればい」
『ちょーっとゴメンよーッ!』
エミヤが話していると、急にダ・ヴィンチの声が響いてきた。
『えー1名の職員が行方不明なんだ!会議なんだけどね!名前は――――』
続けて、自分の名前が垂れ流される。
「……すまない、話過ぎたな」
「ご、ごめんね!」
「いや、大丈夫……多分」
目玉は避けられないだろうな、とぼんやりと考えながら、自分は急いで廊下を走る。
この後、盛大に笑われたのは別の話。