ちょっとやさぐれた、カルデア職員の話   作:カルディス

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ちょっとやさぐれた、カルデア職員の話 #4

カルデアの食堂を営むおは料理に関係するサーヴァント―――――という訳ではない。

それらしい逸話はなくとも、それをするサーヴァントは多い。

 

例えばタマモキャットがいい例だろう。

彼女はキャスター・玉藻の前の分身、1側面で、日本的に言えば分け御魂といえるだろう。

そも、玉藻の前はかなり身分の高い人物―――――らしい。

らしい、というのは余り自分は彼女について詳しく無いためである。

と、言うよりも彼女について知る職員は居ないような気がする。

日本のサーヴァントが半数を占めるのに、カルデアの職員の日本人は藤丸立香(マスター)くらいのものだろう。

もしかしたら、他にも居るのかも知れないが、自分には預かり知らぬことだった。

玉藻の前の話に戻るが、身分の高い女性はどこの国も家事というものをしないし、知らないものだ。

すくなくとも、彼女の生きた時代(とき)はそうだったらしい。

そんな彼女に料理の逸話があるはずもない。

ということは当然、分霊であるタマモキャットにも無いわけである。

 

――――そも、あの手でどう料理をするのか、とか、毛は入らないのか、とか考えてはいけない、様な気がする。

そんな事があればクリミアの天使(ナイチンゲール)が飛んでくることだろう。

今の所、そんな事例はないが。

 

自分は普段部屋で、たった一人カップラーメンをすする事が多い。

あまり他人と食事をすることを好まないからだ。

最近はどこぞ(グランド)ロクデナシ(キャスター)のせいで、より外に出にくくなっていた。

だが、そうはいかなくなる時もある。

 

「……あー、やってしまったな」

自分の目の前には、空っぽの排水管しかない下棚があった。

本来ならカップ麺やカンパンといった簡易的食料があるのだが、先日消費したのをすっかり忘れていた。

 

取りにいけばいいとは思ったが、今日は会議があった。

食事は手早く済ませなければならなかった。

倉庫までは距離がある上に、認証ロックやらがかかっていて面倒だった。

 

致し方なく、自分は食堂に行くことにした。

 

「―――む、君か。珍しい事もあるものだ」

「今日は事情があってね」

「いつになればここで食事を取るようになるのかね?」

「ははは、また来世。―――誰かと食事することが苦手なもので」

エミヤに小言をいわれていると、厨房の奥から赤髪の女性――――ブーディカが現れた。

ローマ帝国に踏み荒らされ、手折られた、古きブリテンの花。

イギリスの勝利の女王、それが彼女だ。

「それなら、カウンターはどう?端の方とか」

「仕事をしながらなので、お邪魔でしょう」

「もう、根を詰めすぎるなんて駄目なんだからね」

「……ええ、そうですね」

 

それが出来たら、どれ程よかったか、とは口に出さなかった。

彼女は善意で言ってくれていたのだから、嫌味をいうべきでないのは分かっていた。

 

「軽いものを用意しよう、待っていたまえ」

――――そう言われて、自分は一つの丸テーブルに座った。

暫くして、耳に女性の声が入ってきた。

「あーッ!うどんだぁッ!」

そう騒ぎ立てているのは、日本の剣士―――二刀流で有名な―――宮本武蔵だった。

江戸の[[rb:時代>とき]]において、小話の中で有名になった“男”の剣士。

佐々木小次郎を好敵手(ライバル)とする、日本では1、2を争う戦士。

―――それがこのカルデアにおいては女になっているのはどういう事か。

自分には分からないし、分かりたくもない。

「君も食べるか?」

「いいの?頂きます!」

「あぁ、持っていくから座っていたまえ」

「やったぁー!」

 

―――と、ここまでは別に(どうでも)よかった。

彼女がこちらに来るまでは。

「ね、この席座ってもいい?」

「え、あ、は?」

「失礼しまーす」

聞く気がないのに何故聞いたのだろうかこの剣士は。

「……はぁ」

「溜息?ダメだよ、幸せにげちゃうよ?」

「席なら、他にもあったでしょう」

溜息の当てつけの様に嫌味をいうと、彼女は目を丸くして、キョトンとした顔で言った。

「だって、君は初めて見たから。私、色んな職員に話を聞いてるの。皆、色んな国からきてるのね~」

楽しそうに言う彼女は、どうやらのウワサを聞いてきたワケではないようだ。

「貴方は?どこから来たの?」

「……自分、は」

「すまない、うどんが出来たぞ」

「わーッ!おうどんだ!」

すでに彼女の興味は、うどんに移ってしまった。

自分勝手さが、ここに極まっている気がする。

「3つ……?」

エミヤのもつ盆には椀が3つも置かれていて、ふとした疑問が口をついた。

 

「私も少し休むことになってね。後しばらくはブーディカがしてくれる」

「おっ、そうなんだ。じゃ」

 

「頂きまーす」

「頂きます」

「頂きます」

 

この日本のうどんというのは、日本人のマスターの希望から始まった。

どういう訳か、マスターはしばらくの間、うどんだけを口にしていた。

そういった事もあって、職員たちにとって一番なじみのある日本食だった。

「おいしー!肉うどんは最高ね!」

「口にあったのならなによりだ」

「……そうだな」

「あ、そういえば」

と、武蔵は思いついたように言った。

「君はめったに見ないけど、どうして?」

「部屋でカップ麺食べてるから」

「えーっもったいない!こんなおいしいご飯が食べられるのに!」

「君からももっと言ってくれ。彼ぐらいのものだぞ、部屋でカップ麺など……」

「カップ麺……いいかも」

「おい」

「いやいや、思ってないよ!そんなよさそうだな~なんて!……あ」

「はぁ……」

一人突っ込みをする武蔵を横目に、エミヤは大きな溜息を零した。

「無理に、とも毎日こいとも言わないがね。体を労わるつもりがあるのなら、たまにはきたまえ」

「労わる必要がない人がいいますか」

「労わる必要がないからだ」

「さいですか」

 

エミヤは一通り食べ終わると、再び口を開いた。

「マスターも似たような事を言って、しばらく食堂にこないことがあった」

そう聞いた武蔵は、あぁ、と思い出したように。

「お医者様と看護師さんが言ってたわね、そういえば」

お医者様とは、キャスター・アスクレピオス。

看護師さんは、バーサーカー・ナイチンゲールを指している。

無論そこにはドクターロマンもいたのだろうが、彼らが零していたなど、露程も知らなかった。

「一体なにが?」

「マスターを取り巻く状況は一変した。それによる急激なストレスで一時的な拒食症になっていた様だ」

「そんなの、知らなかった……。でも、そう、よね。あの子、今まで普通の生活をしていたのだもの」

急に世界が貴方の双肩に懸かっているなんて、耐えられる訳ないわ。

そう、武蔵は言った。

「しかし、マスターは生身の人間だ。君と同じく、な。……最初は点滴にする、という案もあったらしいのだがな。イヤ、そうならなくてよかったと思うが」

「もしかして、それで始まったのが……」

エミヤは鷹揚に頷いた。

 

「そう、この“うどん”だったわけだ」

「だから、今日もうどんを?」

まぁ、な。とエミヤはチラリとこちらを見た。

「マスターは、最初こそなかなか来てくれなかった。食べてもくれない」

 

「だがな、少しずつ、少しずつ来てくれるようになった。[[rb:現在>イマ]]のようになったのは、本当に最近の事だ」

「そうだったんだ……。私、召喚されたのはこの間だったから、知らなかった」

「まぁ、認識してくれればい」

『ちょーっとゴメンよーッ!』

エミヤが話していると、急にダ・ヴィンチの声が響いてきた。

『えー1名の職員が行方不明なんだ!会議なんだけどね!名前は――――』

続けて、自分の名前が垂れ流される。

「……すまない、話過ぎたな」

「ご、ごめんね!」

「いや、大丈夫……多分」

 

目玉は避けられないだろうな、とぼんやりと考えながら、自分は急いで廊下を走る。

この後、盛大に笑われたのは別の話。

 

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