ソード・アート・オンライン デュエル・オブ・オナー 作:TTオタク
ノンナとモニカの名前間違えまくってつらい。
私たちは狩りを続け、時刻は夕暮れ時になった。パーティーも解散ムードが漂い、そろそろお開きになりそうだった。
「ねえモニカ。今日はどうだった?」
「どうだったって、何がよ」
「知らない人と組んでみて、だよ。モニカあんまり友達増やそうとしないからね、ちょっと心配で。お節介だっていうのはわかってるんだけど、今日はどうだった?」
ノンナらしい言葉だった。しかし、まるで母親が子供の交友関係の心配をするような言い草に、思わず苦笑してしまう。
「もー。別に笑うとこじゃないでしょ」
「いや別に馬鹿にしてるわけじゃないわよ。ただ友達に母親みたいなこと言われるとくすぐったいだけ」
「私の方が数ヶ月お姉さんなんだから! そう! なんたってお姉さんなんだから! お姉さんが妹分の交友関係を心配するのは変なことじゃないもん」
そう言ってノンナは胸を張る。胸を張っても背が小さいせいで、ただ単に私を見上げているだけのように見える。まあ彼女が嬉しそうなので良しとする事にした。
「それでどうだったの?」
ノンナが改めて聞いてくる。
「そうね、まあ悪くなかったわよ。私たちの障害にならない限りは、だけどね」
「そっか」
ノンナの返事は短かったが、そこには優しさと、少なからぬ
───ノンナ、まだあの事を気にしているのかしら?
「ねえ、ノンナ。私がこの世界に閉じ込められた事、気にしてたりしないわよね?」
するとノンナはビクりと震える。相変わらず嘘のつけない人だった。
「いや、だって。気にもするよ。私みたいなのならともかく、モニカみたいにすごい人がこんな場所に閉じ込められて、人生の計画が狂うなんて。私が誘ったばっかりに」
「ノンナ、その程度のことなんて気にしなくていいって言ったじゃない」
私は眉を潜める。胸の底に粘ついた何かが渦巻くような感覚。愛しいとすら思う親友が、こんな
「モニカ、あのね───」
ノンナがなにか言おうとした所で。私は抜刀する。
「っ!」
私は、抜刀と同時にノンナへ向かっていた剣を叩き落とす。
けたたましい金属音が鳴り響き、火花のエフェクトが盛大に飛び散る。
「ノンナ! 構えて!」
私の声に応じて、ノンナは槍を構える。
刺客の得物はかなり細身のロングソード。いわゆるエストックと呼ばれる類のものだった。そして、刺客の頭上に光アイコンはオレンジ色、いきなり攻撃してきた事を含めて、これらが表す事は───
「レッドプレイヤーのお出ましとはね。私、狙われるようなことをした覚えはないんだけど」
私の言葉に、刺客は特に返事をするわけでもなかった。刺客は青眼の構えに似ていて、それよりやや前に突き出した構えを取っている。間合いがとりやすく、相手に剣の長さを錯覚させられる危険な構えだ。おそらく、突き出した剣によって相手を牽制しつつ、リーチを間違えた相手を月で仕留める戦術だろう。
「モニカ、パーティーメンバーが私たち以外麻痺になってるよ」
ノンナが小声で言う。
私たちが動くより早く、背後で気配がする。私が目配せをすると、ノンナが私の背後に回った。振り向かなかったのは、目の前の刺客が目を離した隙に攻撃してくることを防ぐためである。
私の背後に回ったノンナが言う。
「モニカ、2人新手が来たよ」
「わかったわ」
心の中で舌打ちをする。かなりまずい状況だ。包囲された以上、背中合わせで戦うしかないが、背中合わせは自由な間合いを取ることができない。これは戦いにおいてかなり不利な事だった。
それを察したのか、ノンナが言う。ただし今までのように日本語ではなく、あえてイタリア語であった。
「ねえモニカ。私がこっちの2人を引き受けるから、目の前の相手を怯ませたら離脱してね。私も後を追うから」
それに、私もイタリア語で答える。
「
そうして私たちは互いの背中を軽く拳で叩く。身長差のせいで互いの頭と腰を叩くことになったが、気概は伝わった。
ノンナは背後で弾丸のように駆け出し、刺客に一撃叩き込んだらしく、ダメージ音が鳴る。
私は背後はノンナにまかせ、眼前の敵に集中する。
互いの距離は3m程。全力で踏み込めば届く距離だが、そのような事をすれば迎撃されてダメージを受けるだろう。攻撃を当てるには、近くか、何かしらの工夫が必要だった。
───出し惜しみをしている状況じゃないわね。やるしかないわ。
私は腰のベルトから棒手裏剣を抜き、手裏剣術単発スキル《花車》を発動する。野球の投擲フォームにも似た、全力投球の構え。
投擲フォームは大きな隙になるが、いきなり投剣スキルを使用するとは思っていなかったせいで面食らったのか、攻撃はしてこなかった。
私は棒手裏剣を投擲した。おそらくエストック使いの刺客は、自分の得物で弾こうとしたようだが、失敗する。普通の投剣スキルより速度が速い手裏剣術の面目躍如だった、だがそれ以上に期待した効果があった。
花車の攻撃を受けた刺客は、重心を崩してのけぞる。これが花車の特殊効果のノックバックだった。ただしあまり強い効果ではなく、重装備の相手には効果がないが、この刺客のような軽装な相手には効果は抜群だった。
スキル使用後の硬直時間から解放された私は、相手が姿勢を崩している内にソードスキルを発動する。
左手を前に出し、右手の剣を肩に担ぐようにして大きく引く構え。片手剣単発スキル《ヴォーパルストライク》の構えだった。それと同時に私のバックソードが赤色の光を放ち、回転数の上がっていくジェットエンジンのような効果音を発する。
相手がノックバックから回復したようだが、もう遅い。剣を構えられていない以上、私の剣が止められる理由は無い。
「せぁッ!」
スキルアシストの効果に背中を押されて加速する。その勢いのまま、刺客の心臓を貫いた。現実と違い、心臓を貫いたからといって即死するわけでもないので、硬直が解け次第私は素早く剣を引き抜き、地面を蹴って距離を取った。その瞬間、先ほどまで私がいた場所に、エストックの力任せの斬撃が放たれる。
刺客のHPバーを見るに、この一撃で半分は削れたようだ。その上、相手は金属鎧の私に対して、エストックで斬撃を行なってしまう程に動揺している。勝負は優勢だった。
相手が斬撃の姿勢から回復するより早く、私はエストックを握る手を片手剣単発スキル《スラント》を使用して斬り付ける。すると、相手の腕は切断されて剣の重みによって落下する。
私は硬直が解けたのち、片手剣単発スキル《ホリゾンタル》の構えを取った。
「待ってくれ、降参する! 助けてくれ!」
刺客が降参の言葉を言ったが、さすがにそれは受け入れられない。背後から攻撃されたら困るからだ。
私は刺客の首にホリゾンタルによる水平斬りを当てて切断する。これで刺客のHPが全損し、刺客は青い光のかけらとなって爆散する。
地面に刺客のがシステムウィンドウに戦利品として表示されるが、重量を増やしたくはないのでキャンセルし、その場に捨て置く。
私は振り返り、2人と戦うノンナへと加勢するために走る。ノンナは優勢のようで、2人の刺客はHPバーが赤色に突入していた。
しかし様子が変である。ノンナはあと一撃で倒せる刺客を攻撃せずに、ひたすら守勢に回っている。そうこうしているうちに、刺客の1人が回復アイテムを使おうとした。
「させるかッ!」
私は再び花車を使用し、回復しようとした刺客を射抜く。その刺客は先ほどと同じように青い光のかけらとなって爆散する。その後、もう1人の刺客にヴォーパルストライクを命中させて、他2名と同じように爆散させた。
これでひとまずは敵を掃討できた。まだ増援があるかも知れないため、県は抜いたままにしておく。
「気を抜いちゃダメよノンナ。さっきのは危なかったわよ」
やんわりと、嗜めるようにノンナに言う。言われたノンナの顔は青く、震えているように見えた。何かを恐れているような、怖がっているような表情だった。
「大丈夫? 辛いのはわかるけど、さっさと転移結晶使って逃げるわよ」
そう言って私が腰のポーチから転移結晶を取り出すと、ノンナが口を開く。
「ねえ、モニカ。嘘だよね。嘘だよね」
震える声で、しかし電脳世界ゆえかはっきり聞こえる声で言う。
「どうしたの?」
私の問いに、ノンナが私の顔をすがるように見て言う。
「殺したなんて嘘だよね、モニカ。あの人たち、あんなエフェクト出たけど、嘘だよね」
納得した。要は人を殺した事実に耐えられないのだ。ノンナを安心させるために、私は言った。
「大丈夫よノンナ。とどめを刺したのは私、殺したのも全部私よ。貴女のせいじゃないわ」
なるべく優しく言う。ノンナは優しすぎる所がある。まあそれが彼女の魅力なのだから仕方がない。
しかし、私の言葉に、ノンナが嗚咽混じりの声で言う。
「違うよ! 私のことじゃなくて。モニカが、人を殺しちゃったじゃん。3人も。私が攻撃するのをためらったから」
よくわからない。たしかに人を殺すのは最低の行為だし、最も行なってはいけないことだとは思うが、今はそれを議論している場合ではない。
「ノンナ。それは後で聞いてあげるから。とりあえずここを離れましょう」
その言葉もあまり届いていないようで、ノンナは首を振るばかりだった。
「ごめんなさい。私のせいで、ごめんなさい」
そう呟いてへたりこむ。確かに殺人を含む対人戦は初めてだったが、ノンナがこうなるとは思ってもいなかった。
まあいい、別に私が転移結晶を使用すれば、ノンナも一緒に転移するのだ。さっさと転移してしまおう。
転移結晶を使って2人でこの場を離脱しようとした時、風切り音が鳴る。私はその方向へ向き、飛んできた飛翔物を剣で叩き落とした。
その方向からまたイエローアイコンの刺客が現れた。増援か、苦戦した時の控えだったのか。今度は数を増して4人だった。
「ノンナ立って。こいつらをどうにかしてから帰るわよ」
私は剣を構える。さすがにノンナもへたりこむのをやめ、立ち上がって武器を構えた。
動揺していようと槍の達人であるノンナと、手裏剣術という切り札を持つ私のコンビ相手に1人増やした程度では、先程の焼き増しになる。そのはずだった。あの男が現れるまでは。