ソード・アート・オンライン デュエル・オブ・オナー 作:TTオタク
続け様の大人数戦ではあったものの、思いの外事は順調に進んだ。ノンナの攻防一体となった槍術の技法は、刺客の攻防のリズムを破壊し、3対1となった今でさえ、優勢を保っていた。
私も1対1で確実に相手をつぶし、その援護に回る。私が担当していた刺客を倒し、ノンナの方を振り返る。
その時、声がした。
「おーい。今助けるぞ」
走っているのだろうか? ガチャガチャと鎧の動く音と共に、アキラの声が響く。
私も加勢に入るために走る。2人が援護に加わる姿を見て余裕が出たのか、ノンナの顔に
そしてアキラはソードスキルを使用し、ノンナの援護に入ろうとする。両手剣スキルでは比較的有名で使い勝手の良い突進技である、両手剣単発スキル《アバランシュ》だった。
一瞬、ノンナに命中するかと思うほどギリギリの位置に突進し、刀を持った刺客を吹き飛ばした。その細かい操作に、アキラの剣の操法の上手さが現れていた。
「ありがと───」
ノンナが忙しい中、礼を言おうとする。だがしかし、アキラの動きが変だ。ノンナに右半分背を向けた状態で固まっている。そして剣に灯るソードスキルの発動を告げる光。
「避けて!」
私は半ば反射的に叫ぶ。あの構えは間違いなく、両手剣単発スキル《バックラッシュ》だ。右半分背を向けた姿勢から、反時計回りに剣を水平斬りにする技。その技の攻撃ルートに、間違いなくノンナは巻き込まれる。
「っ!」
私の声に反応したのか、ノンナはギリギリの所で字面に穂先を突き刺して固定し、攻撃を防いだ。
私は片手剣単発技《レイジスパイク》の突進でアキラへ攻撃する。ノンナは今、槍を字面に突き刺している状況だ。短槍による攻防一体の戦法をとるノンナにとって、武器を動かせない状況は致命的だった。
そして突然、私の体が宙に浮いた。なんの比喩でもなく、突然高さ数メートルに放り上げられる。そして遅れてやってくる痺れの感覚。そこで私は、先ほどアキラに吹き飛ばされた刺客が、刀単発スキル《浮舟》を使用したことを理解した。
軽業スキルがあるわけでも体操選手でもない私は、なすすべなく放物線を描いて飛ぶ。そして放物線の落下地点へ向けて、刺客はスキルを別のソードスキルの構えをとる。
くるくると無様に回転しながら落下する私にスキルの補正を受けて突進する刺客。間違いなくこの方法で何人かを殺してきた相手だろう。私はムーンサルトキックを放つ体術スキル《弦月》を発動する。
途端にスキルの補正によって私は方向補正を受け、相手の頭部へ吸い込まれていく。しかし相手もさるものなのだろう。スキルを
だが私の狙いは蹴りだけではなかった。スキル補正による方向修正そのものにあった。不規則な回転運動から垂直方向のみの回転運動に切り替わった私の体は、うつ伏せの姿勢で地面に叩きつけられる。
刺客はうつ伏せの私に追撃を放つが、横に転がる形でこれを回避する。
立ち上がった私は、ようやく周囲の情報を手に入れる事ができた。
アキラに押されている様子のノンナ。他の2名の刺客はなぜか傍観に徹しているが、それでもノンナが劣勢なようだった。ノンナはいつも通り攻防一体のスタイルで戦っているが、アキラの連打に押されているようだった。
アキラの戦法は、攻撃が防御に繋がるのではなく、攻撃が攻撃に繋がる戦法である。馬鹿の一つ覚えの戦法に見えるが、一切途切れる事なく両手剣の斬撃が襲ってくる状況だ。その上連打を途切れさせず、必要箇所に当てるアキラの操法あっての技だった。
「いやー、強いわねあの子。リーダーが駄々こねるのもわかるわ」
私と戦っている刺客が喋る。幼気な雰囲気と、妖艶な響きを兼ね合わせた女の声。しかし話している余裕のない私は、刺客に斬りかかった。
刺客はそれに応じて斬撃を放ち、つばぜり合いになる。
「うふふ、まあ待ちなさいな。一緒に観戦しましょう。リーダーの攻撃をあれだけ
刺客は楽しそうに言う、リーダーというのはアキラのことだろう。この刺客はアキラとグルだったのだ。
───笑ってんじゃないわよ、この異常者。
「はぁっ!」
私は体格の利を活かして、上から体重をかけて刺客の首筋に刃を当てて撫で斬りを狙う。しかし相手もこの攻撃を読んでいたのか、後ろに引くことでこれを回避する。
「まったく、話を聞かない子ね。人の誘いを断るにしても剣を振り回すことないでしょう? 傷ついちゃうわ」
刺客は、どこか嘲笑的だが、本当に楽しそうな声で言う。本物の人との殺し合いを楽しんでいるような、異常者らしい声。
「まあいいけどね。ガッついて貰えるのは好きだし。最初から私は貴方狙いだったから」
私は今度は棒手裏剣を取り出す。スキルは使わない。悠長にスキルを発動していたら、間違いなくバレてしまうからだ。
「貴女って本当に綺麗だわ。初めて見たときからいいと思ってたわ。おっぱいも大きいし、脚の肉付きもいい感じよね」
私はアンダースローで2本の棒手裏剣を投擲する。しかし、相手はひらりと身を翻すと───
「よっと」
刺客は身につけていた外套を投げ、棒手裏剣を防いだ。仮面ごと外したのか、その姿と顔が露になる。
「貴女の手先の器用さも、特技がジャグリングな事だって割と有名な事じゃない。その手は下調べしてる相手には通じないわよ」
刺客は私より小柄で、ノンナよりは高い程度の低い背丈。肩ほどで切った髪がさっぱりとした印象を与えている。童顔に低い背丈が子供のように思わせるが、蠱惑的な声の響きと優雅に微笑む表情が、退廃的な魅力を放っていた。
「あら、そういえば名乗りがまだだったわね。私はアリサ。こういう事をしている時の名前だけどね。貴女が私の女になったらプレイヤーネームと本名を教えてあげるわよ」
アリサと名乗った刺客はそう言ってウィンクする。奇行としか言えない敵の行動に、私は考え直す。
───所詮は好き好んで犯罪を犯す異常者の行動でしょ。理解しようとしても無駄だわ。
既に戦法が割れている以上、奇襲は不可能だろう。私はスキルを使用せず、棒手裏剣を再び投擲した。
アリサがそれを躱なり防ぐなりすれば、確実に隙ができる。スキルを使用していない以上、続く攻撃の斬撃も軌道が読めないはずだ。アリサに一撃を入れ、そのままノンナの救出に向かおうとした。だがそれは失策だった。
「っと」
そもそも、この行動はアリサが躱すか防ぐかを前提にした行動だ。アリサもそれを読み取ったのだろう。アリサは躊躇なく、踏み込み突きを放った。アリサの体に棒手裏剣が刺さるが、所詮スキルなしの投擲なので、大したダメージにはなっていない。
「フッ!」
だが私とてこれを予想していないわけではない。私はアリサの突きを、ハンドガードで殴るようにして防ぐ。そうすることで私の体はアリサの刀の直線状から外れ、攻撃されない位置になる。
私は左手で体術スキル《閃打》を発動し、顔面を思い切り殴りつける。これはクリーンヒットしたが、アリサは姿勢を崩しただけだった。
好機は長く続かない見た私は、ソードスキルを使わずに致命傷を狙おうと喉を狙った突きを放つ。
その瞬間、アリサと目が合う。その瞬間、今まで笑顔を浮かべていたアリサが眉を潜めた。
「───!」
次の瞬間、私は悲鳴を上げる間もなく地面に倒れ伏す。アリサの握る刀にはソードスキルが発動したことを示す光が点っている。あの一瞬で姿勢を整えて、おそらく浮舟とは別の斬り上げ系刀単発スキル《幻月》を使ったのだろう。
その結果、私は股から右足を斬り上げる形で切断されたようだった。鎧が存在せず、ごく薄い鎖帷子の守りしかない股を狙った斬撃であった。
スキルの硬直から回復したアリサが独り言のように言う。
「はぁ〜。タイプの子の体傷つけるの好きじゃないのよ。ましてあんないい脚を斬り飛ばしちゃうなんてね。大丈夫だった?」
アリサは私を覗き込む。悪意のかけらもない、純粋に心配したような表情。相変わらず行動原理は理解不能だが、私に直ちにとどめを刺そうと言う気ではない事はわかった。
私が残った左脚に力を入れて前に進もうとすると、体に衝撃が走る。それはアリサが私の体に馬乗りになった衝撃だった。
「本当にもう、妬けちゃうわね。そんなにあの子が大事かしら。まあもうすぐ決着みたいだし、一緒に見ましょう」
私はもがくが、動くことができない。視線の先ではアキラの両手剣の攻撃を必死に防ぐノンナの姿がある。
「ほんとに粘るわね。槍とモンタンテじゃ相性悪いのに」
アリサがどことなくそう呟く。その言葉通りか、ノンナは必死に攻撃を防ぎ続けたが、ついに槍の方が限界を迎え、爆散する。
そこに今まで傍観に徹していた2名が襲いかかる。攻撃に麻痺毒が付与されていたのか、ノンナが麻痺状態になって倒れる。
「さて、ゲームセットね。さあモニカ。私たちのアジトに案内するわ。とりあえずこれに乗ってね」
アリサが私の上から退いて、アイテムストレージから担架を展開する。準備を進めながらアリサが言う。
「動かないでね。私は貴女は絶対に殺さないけど、別に向こうのノンナちゃんはどうでもいいのよ。どうせリーダーも一回勝てば飽きるだろうし、下手に動くとあの子殺すから」
そうして私は抵抗できぬまま、アキラ一味の味とに連れ込まれた。