ソード・アート・オンライン デュエル・オブ・オナー 作:TTオタク
話の内容としてはもう後半に差し掛かっていますので、これから盛り上げれるといいなと思います。
「───っていうのがあの事件の真相よ。まあ私の言葉を信じてくれるならね」
事件の概要を聞かされたキリトは悲痛な面持ちをした。他人に対して無関心な態度を装ってはいるものの、やはり根は善良な気優しい性格なのだろう。
「優しいのねキリトは」
不意に心が温まるような感覚を感じる。何かと悪評の絶えない彼だが、やはり世話焼きの人情家という眉唾物の
「違いますよ。俺は別に───」
「別に隠すような事じゃないでしょ。今なら何となくだけど、ノンナが貴方を気に入っていた理由がわかる気がするわ」
こうしてみると、キリトは年相応の少年だった。ノンナが生きていればさぞお姉さんぶって世話を焼こうとしただろう。それももう叶わない話だったが、空想するくらいは私の自由だ。
話の流れに不満を持ったのか、流れを切るようにキリトが発言する。
「それで、モニカさんは本当に決闘裁判に挑むつもりなんですか?」
「当たり前よ、負けるつもりもないわ」
その言葉に、キリトはまた眉を潜める。
「大丈夫なんですか?」
「何が?」
「人を殺す事が、です」
納得がいった。つまりキリトは決闘裁判で私がアキラを殺す事について、もしくは事件の内容を語った際に話した殺人経験について聞いているのだろう。
「別に、当たり前だけど人殺しは嫌なことよ。やってはいけない事。それでも、あいつらが現実に戻って無罪放免になる可能性が少しでもあるなら、私はあいつらを皆殺しにするわ。その事が現実でも報道されれば、きっと私は大量殺人犯の仲間入りだし死刑になるでしょうけど、もうほとんど身内も残っていないし丁度いいわ」
───確か私、キバオウに『法に基づかない裁きを受ける気はない』みたいな事言わなかったかしら? 思えば馬鹿な話ね。自分が私刑を執行する気でいるのに、他人には口八丁で誤魔化すなんて。ノンナが見たらなんて言うかしらね。
「この件が終わってからも、レッドプレイヤーを殺すつもりですか?」
キリトの質問に、私は即答する。
「無論よ。考えてみれば遅すぎたくらいだわ」
キリトはまた悲しそうな顔をする。そして慎重に言葉を選んで私に言った。
「この件が終わったら殺人から手を引いてください.。身勝手な事だっていうのは分かっています。それでも貴女は復讐を果たしたら殺人に手を染めるべきじゃない」
「どうして?」
私は疑問を呈する。キリトの言っている事が理解できない訳ではない。彼は私が殺人者として罪を重ね続ける事を良しとしなかったのだろう。だがそれは、あまりに非効率な物に思えた。
「どの道レッドプレイヤーどもが罪なき人を襲う限り、誰かしらが殺人の罪を背負ってあれらを殺さなきゃいけないわ。だったらもう何人も人を殺してる私がすべきよ。新たにSAOで殺人を経験してしまう善良な人間を作るべきじゃない。優れたプレイヤーにトラウマを生むような損失があってはいけないわ」
キリトは真剣な顔になって言う。
「違いますよ。俺は単に、貴女みたいな優秀なプレイヤーがPvPに明け暮れて攻略に関わらないなんて事態を防ぎたいだけです。現状、槍以上の射程でメインダメージソースとして運用できそうなのは、貴女の《手裏剣術》だけです。それを活かさない事こそ損失じゃないですか?」
一理ある理論だった。おそらく道徳面からの感情も混じってはいるのだろうが、これもまた無視できる問題ではなく、私の心情にも───ノブレス・オブリージュの理念にも合致する物だった。
それでも、不可能な話だった。
「キリト、例えば軍隊にも憲兵がいるように、組織としては戦う以外にもしなくちゃいけない事があるのよ。無論、私がやっている事はただの殺人行為で、反対する人に殺される覚悟くらいはしているわ。でも、誰かがやらなくちゃいけないのよ」
私は一呼吸を空けて言う。
「貴方自身も含め、攻略組の人々はアインクラッドに囚われた人々を解放するための大切な宝よ。それになろうとする人もまた同じ。そんな人達を殺してしまった以上、私はそれ以上の対価を示すべきなの」
キリトはため息をつく。説得は不可能と感じたようだった。
「わかりました。それでも気が変わったら、いつでも言ってください。貴女の事を偏見なしに見てくれる人たちのアテはあります」
「そう、わかったわ」
そう言って、私は手元を見て暫し待つ。しかし何も現れなかった。
「どうしたんですか?」
キリトが不思議そうに聞く。
「フレンド申請が来てないわよ?」
「フレンド申請?」
キリトがおうむ返しをした。
「フレンドにならないと階層越しの連絡はできないはずじゃないの?」
「それはそうですけど」
キリトは何やらためらっているようだった。
「ああ、確かに私みたいなのと関わりがあると思われるのは、信用上よろしくないわね。アルゴに手紙を持たせればいいかしら?」
「違いますよ。単に少し驚いただけです。女性がこんな簡単に連絡先を教えていい物なのか、と思いましてね」
少々嫌味を含んだ口調。これが素なのだろうか? 嫌味には一家言ある私だ、ぜひ返させてもらう事にする。
「あら別に、男性にはそう軽々しく連絡先を伝えた事はないわよ。その枠に入らない愛らしい子は警戒対象じゃないもの」
「は? 今なんと?」
キリトが若干怒りを
「貴方のこととは言っていないわよ? 自身が魅力的と信じていらっしゃるなら、私が貴方に気があるとでも考えれば良いのではないかしら? そこは個人の自由よ」
思わず浮き出た笑顔で私は言う。キリトはそっぽを向いてしまった。
その後私たちは無事に洞窟を脱出した。入り口の所ではダニエーレが待機しており、合流する事ができた。
†
「色々とありがとうね。後日お礼の連絡をさせてもらうわ」
「ええ、わかりました」
モニカが礼を言って立ち去る。これで再びキリトは1人自由の身となった。そんなキリトの脳内に浮かんだのは、モニカの人間性だった。
───奇妙な、もとい不気味な人だったな。
キリトの初対面のモニカの感想は、プライドと警戒心が強く、冷酷な重装備の片手剣使いという印象だった。だが、今日会話してみれば、感情を理解し、冗談や皮肉を口にする。普通の感情を備えた、むしろ面倒見の良さすら感じさせる人だった。
だからこそ、キリトは酷く奇妙に感じたのだ。
モニカの口から復讐の言葉が出てこない事に。
思えば当然のはずなのだ。モニカの境遇から考えれば、犯人に怨嗟の言葉を吐き、自身の殺人を復讐と正当化しても何らおかしくないはずだ。
それがどうだろう。モニカは自分を殺人鬼と
見方によっては、自分の行動を言い訳しない潔い性格にも映るだろう。だがキリトにとってはそれとは別の、もっと異質な存在であると感じた。
まるで、そこには事実しか存在せず、情緒的な概念を存在しないものと扱っているような、鉄の理念。それを感じざるを得なかった。
復讐は所詮、皮を剥けば私刑に過ぎず、それは人殺しの相手と同じ土俵に落ちる事である。その思想は理解できる。なにせキリトは復讐の当事者ではないからだ。事実を俯瞰できる位置にいるからだった。
それを当事者の、親友を犯され、殺人を強要され、屈辱的な汚名を着せられたモニカ自身が言う事だろうか?
これがまるで情を理解しない、破綻した人格の持ち主であれば納得がいく。だがしかし、モニカは情を理解し、笑顔を浮かべ、冗談を口にする。そんな普通の人である。
その
だがキリトはモニカを嫌いになる言葉できなかった。むしろ好印象さえ抱いてしまっていた。
モニカはああこそ言ってはいるものの、事件の内容を話す彼女の淡々とした口調とは裏腹に、その表情は非常に悲痛で、抱え切れないほどの悲しみと痛みを感じさせるものだった。
酷い理不尽で、愛する仲間や居場所を失った。キリトもまた同じ境遇である。いやむしろ、居場所を失いたくがないために破滅に導いたキリト自身より、モニカの方がよほど悲惨ではないかと、キリトは思ってしまった。同じ傷を抱えたもの同士の同情を、抱いてしまったのである。
故にキリトは、しばらく考えた後にモニカにメールを送る事にした。
「貸しを返す気があるなら、協力する準備はある」
そういった端的な内容のメールであった。