ソード・アート・オンライン デュエル・オブ・オナー 作:TTオタク
「で、なにか成果はあった?」
「んもう、相変わらずつれないわねぇ。貴女の為に苦労したんだからもっと褒めてくれてもいいんじゃないの?」
ここは変わらずエギルの屋台。エギルは走り去ってっきり戻らず、入れ替わりで来たのがこの女、マリアだった。彼女は私の右隣に座った。
「金は払ったわ。対価を求めるのは妥当な話よ」
「私が欲しいのはお金じゃなくって愛なんだけどなぁ」
そう言って、相変わらず子供っぽい容姿に見合わぬ艶やかな笑みを浮かべる。
「アキラを殺した後なら私の体くらいくれてやるわ。だからさっさと話を進めなさい」
「そんな体だけが目当てみたいな言い方………まあいいけどね。はい、これが一覧」
そう言って差し出されたリストは、プレイヤーネームと性別が並んでおり、その横にはチェックマークが書かれている欄と書かれていない欄があった。
上はアキラから続き、中にはマリアの名もあった。2人の名前の横にはチェックマークはつけられていた。
「ん。仕事が早いわね。逃したやつの足取りはわかる?」
「私は優秀だからねぇ。ちゃーんとまとめてありますよ」
マリアは別の紙束を取りだし、私に手渡す。
「ちゃーんとあの事件以来の足取り、人間関係、潜伏地域まで書いておいたわ」
「そう」
私は適当な返事をして紙束をめくる。そこにはあの事件、アキラ一味による監禁PK事件の、その後の足取りを調べ上げたものだった。
「このリストにないやつはどうしたの?」
「殺したわ。たぁーっぷりと苦しませて後悔させながら、貴女の代わりになるくらいにね」
そう言ってマリアはウィンクをする。
「そう」
「何だったらその時の追い詰めるまでの経過とか書いてあげましょうか? こう見えて記憶力いいんだから」
「別にいらない。死んでいればそれで良いわ」
「ドライねぇ。まあそんな所もカッコよくて好きだけど」
マリアは私の太ももに手を置く。そのまま顔を近づけて来る。
「何?」
「いやね、私の処分はどうすのかなーって。気になっちゃって」
「だからって顔近づける必要はないでしょ」
「憎き
マリアはまた笑う。私は理解のできない思考回路にため息をする。
「はぁ、だったらあの事件の時、抵抗しなければよかったじゃない。そうしたら私はちゃんと殺してたわよ」
「それとこれは話が別ですー」
マリアはそう言うと、私から離れて立ち上がった。
「それじゃ。渡すもの渡したから、名残惜しいけど帰るわね。じゃあね〜」
そう言って立ち去ろうとするマリアに、ぞんざいな口調で私は言う。
「さよなら、アリサ」
途端にマリアは180度振り返り、私の肩を掴む。
「もぉ〜マリアで良いわよモニカちゃん。ちゃんとプレイヤーネーム明かしたじゃない。なんで呼んでくれないのよぉ」
「別に深い意味は無いわよ。そう呼びたかっただけ」
「え〜。プライベート中に仕事の名前で呼ばれるのやだなぁ〜」
「それを言うなら今も仕事中でしょ。金の前払いもしてあげてるんだから、さっさと仕事に戻りなさい」
「え〜。体の前払いも大歓迎なんだけどなぁ〜」
「今から手首でも切り落とせば満足する?」
「そんな猟奇的なプレイはちょっとぉ」
マリアは再び屋台を出ようとしたが、再び振り向き、言った。
「モニカちゃん、追加報酬ってお願いできる?」
可愛らしい仕草でねだるように言う彼女に対し、私は再びため息が漏れた。
「いくら欲しいの?」
早くこの会話を終わらせて次の予定を消化したい私に、マリはは満面の笑みで言う。
「お金じゃなくってぇ。心が欲しいな」
「は?」
「心、ハート。愛でも良いけど」
「聞き返してないわよ」
私は内心頭を抱える。協力者としては抜群に優秀なマリアだが、正直理解が及ばない面が多かった。
「概念上の物が報酬として確約できると思っているなら、私は協力者の選定を間違えたわね。今からでも他を当たろうかしら」
「んもぉ〜。こういう時は適当に頷いとけば良いのに」
「報酬が払えないと契約が成立しないでしょ」
呆れてマリアの方を見もしなくなった私に、マリアは言った。
「だからね。もしモニカちゃんがアキラを殺したら、私を愛して───」
マリアは少しためらうように間を開けて。
「私を殺してね」
言葉を言い切る否ややマリアは立ち去る。最後の言葉を言った時の表情を私は見ていなかったが、彼女に似合わず、ひどく暗い声だった。
†
エギルの店での一件から数日後。私達は再び42層の夜空の洞窟に来ていた。
「あの時は悪かったわね。私が穴に落ちたせいでまともに素材回収できなかったでしょ」
私の言葉をダニエーレは大きく首を振って否定する。
「いやそうでもない。まだ知られていないトラップを見つけられたのだ。あれは全く
「そう言ってくれると嬉しいわ」
そう、私が以前この洞窟に来た時、無様に罠にかかり大穴へと落下してしまい。素材も取れぬまま1日を浪費してしまったのだ。
二刀流スキルの存在や、キリトへ協力を得られるようにはなったが、それはそれとして素材は必要である。なのでこうしてダニエーレに素材収集を手伝ってもらっているのだった。
「よし、着いたな」
今度はトラップにも引っかからず、私たちは分担して採掘を開始する。
ここはモンスターも沸かないらしく、順調に採掘を行った。ダニエーレが今日のところはここで切り上げようと言い。帰還の準備を進めていた所、ある一団が近寄ってきた。
〈アインクラッド解放軍〉の制服、鎧を身につけた3人組である。1人は幼い少年で、2人は成人男性のようだった。
「おっと、そこの御三方。どういった御用ですかな?」
ダニエーレがおどけたような口調で喋る。裁判の時と同じく、身内以外にはあの態度なのだろう。
「どけ! 用があるのはそこの女だ!」
成人男性の片方が怒鳴るように言う。
「まったく、貴方達は礼節をご存知ないのですか? 名乗りもせず淑女をさしてあの女呼ばわりとは。そちらのギルドのお苦しい状況はお察し致しますが、あまりに野蛮ですなぁ。二大ギルドと呼ばれはすれど、落ちぶれたものです」
「なんだと!」
男は激昂してダニエーレに掴みかかろうとしたが、もう1人がそれを抑える。服の装飾からしてリーダーだろう。
「待て。血盟騎士団と争いにきたんじゃないだろう。ダニエーレさん部下の非礼を詫びます。俺たちはそこの、モニカに用があるんです」
「はて。あの一件に関しては決闘裁判で手を打つとそちらのキバオウ殿と取り決めをしたはずでは? それ以外の要件であると?」
「いえ、あの件に関してのことですよ」
男はそう言うと、少年に発言を促した。すると少年は、私に向けて震える声で言う。
「おい殺人鬼! 僕と決闘をしろ!」
「ああ、遺族の方ですか?」
私が少年に近づく。するとダニエーレは自分がどうにかするから下がっていろとばかりに視線を送ってきたが、無視した。
「そうだ! お前に父さんを殺されたんだ」
「そうなんですか。お父さんのお名前をお聞きしても?」
「ワルサーだ! 聞いたことあるだろう」
「ああ、ワルサーさんの」
私は納得する。
「お父さんの本名は言えるかしら?」
私が質問をすると、少年は苛立った。
「疑ってるのか」
「質問よ。ただの」
少年は私の態度が気に食わないのか、歯を食いしばって言う。
「的場清十郎だ。それがどうした」
「ええそうよね。知ってて当然だわ」
私は頷く。そして少年に、先ほどと同じ口調で言う。
「ねえ、じゃあもう一つだけ質問していい?」
「なんだよ」
少年は苛立っているが、聞いてはくれるようだった。
「そうね、じゃあ聞くけど───ワルサーさんってSAO内に家族がいないの知ってるかしら?」
瞬間、リーダー格の男は抜剣し、私に斬りかかった。