ソード・アート・オンライン デュエル・オブ・オナー   作:TTオタク

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裁判② 道化、もとい剣士

 私の証言が終了し、監禁後から救出までの情報がまとめられた。そしてヒースクリフが口を開く。

 

「つまり情報をまとめると、モニカくんはアキラくん率いるレッドプレイヤーの襲撃に遭い監禁され、見せ物として望まぬ殺し合いをさせられてしまい、解放軍と青龍連合所属のプレイヤーを殺害したのはそれが理由である。後は救出隊の報告通りだと。そういう認識で構わないかな?」

 

「はい、問題ありません」

 

 私はうなずく。とりあえずは私の言葉が全て黙殺されるような事態にはなっていなかった。少なくともヒースクリフは私の発言を真摯に取り合い、議題にすべきと認識しているようだった。

 

 しかし全員が納得していたわけではない、自分のギルドの幹部がレッドプレイヤー扱いされたクライムだけでなく、自分のギルドの構成員を私に殺されたキバオウは納得がいっていなかったようだった。

 

「ヒースクリフ。発言してもええか?」

 

「かまわない」

 

キバオウが口を開く。

 

「なぁ、モニカ。お前の発言をまとめると、自分は正当防衛だから見逃して下さいと言うとるように聞こえるが、これはワイの聞き間違いか?」

 

 キバオウの言葉は重々しく、腹の底に溜め込んだ呪詛(じゅそ)と怒りの粘り気を含んでいた。

 

「いいえ、私に罪がないとは言いません。しかし、あなた方にそれを裁く権利は無いと私は思います。正当な政府が存在せず、正当な法のないこのアインクラッドでは、どのような裁きも所詮醜いリンチに過ぎません。私を罰するというなら貴方自身もレッドプレイヤーの同類と化すだけです」

 

 瞬間、部屋の空気が変わるのがわかった。キバオウの激怒はそれほどまでに大きく膨らんでいた。

 

 キバオウは机を強く叩き、怒鳴った。

 

「ふざけんなや! ワイらに裁く権利が無いと? 救出隊がお前のイエローに変化したアイコンを確認しとる。それが動かぬ証拠やろうが。他に生存者がいないのを良いことに被害者説をでっちあげ、被害者ぶるなんぞちゃんちゃらおかしいわ。恥を知れ恥を!」

 

───確証も無いのによく言うわ。これじゃ話は全く通じそうにないわね。

 

 私は口内で舌打ちをする。この手の輩は議論すら成り立たないだろう。だが、言葉を発さないわけにはいかなかった。

 

「生憎、恥の文化は日本人でない私には理解しかねますね。同調圧力による脅迫と受け取ればよろしいでしょうか? あと私は嘘を言っていません。キバオウさんは私に何を望んでいるのでしょうか、はっきり口に出してください」

 

 すると、キバオウは間髪入れずに答えた。

 

「死刑や! うちの団員殺しとるんやから死をもって償うのが当然やろうが! それにお前は無実の人間を5人も殺しとる。リアルでも死刑確定の重罪や。文句はないやろ」

 

 私は呆れてため息をついた。やはりこうだろうとは思ったが、やはりやるせない気分だった。

 

 私とキバオウが黙っていると、好々爺(こうこうや)と言った風の声が割って入った。

 

「発言よろしいですかな? 団長」

 

 ヒースクリフが首肯する。発言許可を求めたのはヒースクリフの左に座る人物。血盟騎士団で剣術指南役を務めていて、対人戦部隊を率いるギルドのナンバー3と噂される人物だった。

 

「なんやダニエーレ。貴族主義が高じてまたレディーファーストか?」

 

 キバオウが剣呑な声を飛ばすが、ダニエーレは気にした風も無く答える。

 

「落ち着かれよキバオウ。貴方たちの要求はわかったし、青龍連合の意見もだいたい見当がつく。アキラ氏の無罪を要求するということでよろしいな?」

 

 ダニエーレはクライムたちに話を向ける。

 

「ああ、問題無い。アキラはレッドとは無関係だ」

 

 ダニエーレはしばし頷いた後、穏やかな口調で言った。

 

「さて、この裁判の様相は実のところある時代の裁判に似通っていましてな。私にはそれがチラついてしまって解決策を口にしたくてうずうずしていました」

 

「なんや、もったいぶらずにはよ言えや」

 

 キバオウの言葉に答えて、ダニエーレが口を開く。

 

「中世の裁判にそっくりでしてな。お互いの証言に確証もなく、事件が起こった事だけが事実としてはっきりしている。誠に厄介な事例であります。ですが、この事例に則れば裁判の解決策が二つあります」

 

 ダニエーレは席を立ち、私のそばまで来て、全員の視線が集中する位置に立った。

 

「まず一つは神に判断を委ねる事、いわゆる神明裁判というやつですな。手足を縛り池に放り込む、もしくは熱湯の中に手を入れて火傷しないかを確かめるなどが例に挙げられますな。この案を皆様はどう思われる?」

 

 するとクライムとキバオウはほぼ同時に答えた。

 

「論外や!」

 

「ああ、論外だ」

 

 それもそうだろう。ゲームであるこの世界で熱湯に手を入れれば圏外であればダメージは必至だし、水中に沈んだままだったらスリップダメージで死に至るのは目に見えてる。ただの処刑にしかならないだろう。そもそも拘束用のロープなど、一部例外を除かねば存在しないが。

 

 二人の反応を見てまた頷いたダニエーレは二つめの案を言う。

 

「ならばもう一つしかありませんな。二つめの案というのは剣に生き、剣に死ぬ皆様にはちょうど良い案でございます」

 

 大きく間を取って、ダニエーレは言う。

 

「決闘裁判をするのです。その名の指す通り、デュエルの完全決着モード。さらにその中の互いの条件が同じとなるフェアモードで決闘し、勝った方が無罪とするものです」

 

 一同は面をくらう。正確にはこうなる事を知っていた私とヒースクリフ以外がその内容に驚いていた。

 

 驚いて反応が遅れたクライムだったが、キバオウと違いあくまで理性的な反応で反論する。

 

「正直同意しかねるな。アキラは無罪だ、同意する理由がない」

 

「そうや! 人殺しに慣れたレッドが世に放たれてしまうやんか!」

 

 キバオウがそれに同意する。

 

 一拍おき、ダニエーレはその言葉に答える。

 

「いえいえ、これは貴方たち両方にメリットがあるのですよ。まずクライム。貴方は今回の騒動がどれほどアインクラッド中に知られているか知っておりますかな?」

 

 ダニエーレの言葉に、クライムはやや困惑した様子で答える。

 

「それは上から下までトップニュースとして知れ渡っているだろうな」

 

「そうですな。ニュースに興味のあるプレイヤーは全員がこの事件を知っているでしょう。それと同時に、アキラ氏の疑惑についても皆ご存知であります。レッドプレイヤーに捕まっていながら殺されもせず、かと言って他の被害者のように決闘をさせられていた訳でもない。誰も殺さず、グリーンのままだった。これは(いささ)か不可解ではありませんんかな?」

 

 もっともな指摘だ。この事件を追っていれば誰もが思い当たる疑問である。この指摘に、クライムは若干狼狽(うろたえ)る。

 

「だからなんだと言うんだ。殺してい、グリーンだったというのは事実じゃないか」

 

「ええ確かに、救出時はグリーンでした。ですが、アキラ氏のフレンドの中に、事件当日に彼のアイコンがイエローになっており、その後向こうからフレンド欄から消されたとの報告がありましてな。これは少々看過しかねる内容なのでは?」

 

「ただの証言だろう。いくらでも嘘は並べられる」

 

 クライムの言葉に、ダニエーレはニヤリと笑う。

 

「ええそうでしょう。まったくもってその通り。しかし、他の事件を追っているプレイヤーはそう考えますかな?」

 

「何ッ!」

 

 クライムの顔が驚愕(きょうがく)に染まる。しかし、すぐにそれを振り払った。

 

「それは関係ない。そこまで事件に詳しい情報が出回るわけがない。知らなければ何も起こりはしないはずだ」

 

 するとダニエーレは大仰に額に手を当てて言う。

 

「いや嘆かわしきかな、人の噂は巡るのが早い。誰かが情報を売ったのか、どこぞのネズミがこの事を記事にして売り払っていましてな。じきにアインクラッド中の常識となるでしょう」

 

 ネズミとは言わずもがな情報屋の《鼠》のアルゴである。彼女は有能な情報屋で、私もよく利用していた。

 

 クライムは声色を憤怒に染めて言う。

 

「ダニエーレ貴様、情報を売ったな! アルゴは不確かな情報は売りはしない。確かな情報源から得た情報が元のはずだ。貴様よくも」

 

「いやはやクライム、貴方らしくもない。少し落ち着かれよ。まあ確かにそのフレンド殿に誰かしらが情報屋に売れば金になるとアドバイスしたかも知れませんが、この裁判にそれは関係ありますかな、いやありますまい。情報源は御自分でお確かめになさると良い」

 

 クライムは音がしそうなほど歯を噛み締めて黙る。そこにダニエーレは言葉を続けた。

 

「さて。こうなるとアキラ氏は御自身で下らない噂話で被った不名誉を払拭せねばなりますまい。互いの名誉をかけた、正しく高潔な場で、潔白を証明できねば今後長きにわたってアキラ氏と、その所属ギルドである青龍連合を苦しめる事になりましょう。そう考えますと、尋常なる決闘にて自身の無罪を証明するというのは、そう悪い事ではないのでは? それに、モニカが殺害したプレイヤーには青龍連合のプレイヤーも含まれています。敵討ちという名誉も背負えますぞ。いかがですかな?」

 

「も、持ち帰って議論する」

 

 それを言ったっきり、クライムは会話は終わったと黙ってしまった。それを決闘裁判への肯定と受け取ったであろうダニエーレはキバオウに向き合う。

 

「さてキバオウ。決闘裁判のメリットについてですが、死刑を望む貴方にもメリットはありますぞ」

 

「ほう、言うてみろや」

 

 キバオウは腕を組み、聞いてやっていると言わんばかりの態度で言う。

 

「まず決闘での死は私刑ではなく、神聖な結果として処理され、貴方が不名誉を被ることはありませんのでな。であれば、モニカの死を望むと言う希望にそいましょう」

 

 その言葉に、キバオウは眉を釣り上げて言う。

 

「なんでや! ワイは死刑にしろと言うたんや。それやと確実に殺せないやんか! お前はレッドが世に出てええんか!」

 

 矢継ぎ早に発せられた言葉に、ダニエーレは余裕を持って鷹揚に、嘲るように言う。

 

「いえいえ滅相もない。私めは単に貴方の解放軍を案じているのでずぞ」

 

「なんやと?」

 

「いえ、25層の攻略時に喪失した支持率と結束力は未だ取り返せていないと見えましてな。別ギルドを吸収合併して別派閥を抱えている上、求心力を失っている貴方が強権を振るい、無罪かもしれない女性を処刑台送りにしたとあっては大問題になりましょう。貴方に昔からついてきてる部下は貴方の行動を絶賛するでしょうが、シンカー氏についてきていたプレイヤーはどう思いますかな? 彼らは過激派ではないようですし、貴方の強権を振るう姿に聞き感を覚えないとも限りません。ギルド外の批判もありましょう。そんな中、クーデターの大義名分を得たシンカー氏がよもやよもや、と言うこともあり得なくないのでは?」

 

 ダニエーレはあくまで提案するように、しかし事実上の脅しをキバオウに突きつける。キバオウは心当たりがあるのか、黙り込んでしまう。

 

「その点、決闘裁判は良い。貴方の同胞の無念も晴らせますし、あくまで当人間の同意によって行われた結果なので貴方が不名誉を被ることはありますまい。それに、決闘裁判は準備期間がありまして、決闘を行う者に武術を教える期間があります。そこで貴方はアキラ氏を支援し、モニカを討てば良いのです。そう、悪い案ではないと思いますが。いかがですかな?」

 

 キバオウは唸った後、言う。

 

「わかった。乗ったるわ。青龍連合が決闘に乗るって言うなら、ワイらが支援する。それでええんやな?」

 

「ええ問題ありません」

 

 ダニエーレは再び全員の注目を集める位置に立ち、言った。

 

「さて、最後に団長。私めの提案をどうお考えになりますかな?」

 

 ヒースクリフは短く、予定していたように一言。

 

「私は賛成する」

 

 そう答えた。

 

「これで残るは青龍連合の同意のみですな。では皆さま、決闘の時期は青龍連合の同意が成立し次第、一ヶ月後といたしましょう。よろしいですかな?」

 

 沈黙が続く。ダニエーレはこれを肯定と受け取った。

 

「ありがとうございます。これで私の話は終わりでございます」

 

 ダニエーレは大仰に礼をした後、席に戻るために私のそばを通り過ぎる瞬間、私だけに聞こえる声で言った。

 

「約束通り、舞台を整えたぞモニカ。あとは君次第だ」

 

 そうして裁判はお開きになり、1日後に青龍連合が同意して決闘裁判が成立した。

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