ソード・アート・オンライン デュエル・オブ・オナー 作:TTオタク
「驚いたわ、まさかヒースクリフを味方につけていたなんて」
ここは血盟騎士団の本部にある一室。ギルドの一員が宿舎として使うためのものだが、空き部屋を拝借させていただく運びになった。名誉回復が成っていない私へのヒースクリフの援助の一つだった。
「いや、単に団長はフェアを求めただけだろう。血盟騎士団まで敵に回っては、あの会議場はただの魔女裁判の場と化すだけだ」
答える彼の名はダニエーレ。数日前の裁判で青龍連合と解放軍の両方を言いくるめてみせ、決闘を実現させたペテン師と同一人物である。
「それにしても見事な弁舌だったわね。剣術指南役は会話術も指南しているのかしら?」
「集団の長とは常々政治的な要素が絡んでくるのでね。あの程度できなければギルドの幹部など務まらんよ」
ダニエーレの雰囲気はあの裁判での好々爺の雰囲気ではなく、鋼鉄を思わせるそれへ変貌していた。こちらが本性なのだろう。
───ああいった場で雰囲気をわざわざ変えるのは、あの場にヒースクリフという鋼鉄の男が居るからかしら? 立場によって役割を変えられるとしたらとんだ役者ね。
「さて、決闘を実現させた以上、必ずアキラを殺してもらうぞ」
ダニエーレは狼を思わせる
「無論よ。契約なんてなくても奴を生かしたままにしておく理由なんて無いわ」
解放軍や青龍連合からのリンチを防ぎ牢屋から出す代わりに、決闘裁判にてアキラを殺害して欲しいというのがダニエーレとの契約だった。アキラに勝利するために、血盟騎士団剣術指南役の自分が全力でサポートに当たるとも言っていた。
「そうか、心強い限りだ。早速練習に取り掛かろう」
そうして私たちは練習場に移動した。
†
私はようやく手もとに戻ってきた自分の剣をストレージから取り出す。
「バックソードか、良い選択だ」
ダニエーレは私の剣を見て言う。刃渡りは90cmほど、全長は100cmほどの片手剣としては一般的な長さの剣身を持つ剣である。湾曲のない剣身で、突きに対応するために
「まずは構えてみろ、そこから修正していく」
私はいつもの構えをとった。右手に剣を持ち頭上から切っ先を左膝に向ける、対人戦や武器を持った等身大のmob相手に取る構えだった。
この構えをとると、ダニエーレはやや驚いた表情をした。
「驚いたな。剣術を学んだことがあるのか?」
「無いけど、どうかしたの?」
妙な問いだった。私は剣術に関してはSAOに入るまで剣に触れた事はなかったはずだ。それを武術に通じたダニエーレが見間違えるのは世辞だとしても奇妙だろう。
「いや、単純にその独特な構えをした事に驚いたんだ。その構えはガーダントと言うバックソードの構えの一種だからな。普通片手剣はフェンシングみたいに相手に突き出して構えることが多いから、素人にしては妙だなと思ってな」
納得した。要は素人が偶然剣にあった構えをとったから驚いたというだけだ。たしかに素人と言われた人が構えを知っていたら経験者と疑うだろう。
「さて、得意武器がバックソードというならまずはそれをマスターしてもらおう」
そう言うとダニエーレは自分のストレージから、私のものよりもやや大振りなバックソードを取り出した。
「異種武器戦闘は応用編だからな。まずは同じ武器同士で基礎を身につけるぞ」
そう言ってダニエーレは持ち手を膝まで下げ、鋒を顎まで上げた構えをとる。
「いつでもいいぞ、かかってこい。一撃当てられたら飯を奢ってやる」
そう言ってダニエーレは挑発的ににやりと笑う。
───へぇ、素人の攻撃は当たらないと。やってやろうじゃない。こっちだってフロア攻略に何度か参加した身よ。舐めた事を後悔させてやるわ。
私は様子見も兼ねてガラ空きになっている頭上へ斬りかかった。突きは十分に
しかし、私の考えは甘いと言わざるを得なかった。
ハンドガードで守られているはずの右手に痺れを伴った衝撃が走った。デュエルをしているのではないのでHPが減ることはないが、それでも刺された嫌な感触は抜けなかった。
「甘いな、鉄の棒でできたバスケットヒルトは突きなら通るぞ」
そう言ってダニエーレは剣を引き抜く。よく見ればダニエーレのバスケットヒルトは板金で構成されていた。
「どうした、来ないのか?」
またにやりと笑い私を挑発する。しかしムキになってはいけない。こういう時こそ冷静にいくべきだ。私は動かず、ダニエーレの攻撃を待った。
すると、前触れもなくダニエーレは防御されていない脆弱な右脇腹へと斬撃を放ってきた。
───速い! 伊達に剣術指南役を名乗ってないわね。
しかし、防御されていない箇所への攻撃は誰でも予想できる。私は頭上に上げた剣を右前方へ突き出すようにして、剣の根元で受けるようにして斬撃を防ぐ。
今、互いの剣は接触した状態である。もちろんこれも狙った事だ。攻撃を誘い、狙った箇所に攻撃した以上、この後のトドメも用意してある。
「フッ!」
私は右手を持ち上げつつ、ダニエーレの剣を
───取った!
私は躊躇せずに突きを打ち込んだ。しかし、突きは空を切った。ダニエーレはいつの間にか左足を軸に舞うように移動して、私の右側に立っていた。双方構えが乱れているので、追撃は不可能だった。
双方構え直し、向き合った。
「ずいぶん対人戦慣れしているんだな。技が身についている」
「ずいぶんと褒めるのね。私はアキラに勝てる腕かしら?」
からかうように言う。正直返答はわかりきっていた。
「いや、このままでは負けるな」
───やはりね。
内心独り言として呟く。アキラは青龍連合きってのPvPの名手として名を
「ほら、いいぞ。どんな手を使ってでもいいからかかって来い」
おしゃべりは終わりだとばかりにダニエーレは言う。どんな手でも良いならば、別の武器を使っても良いのだろうか?
私は、ゆっくりと左手を腰の後ろに回し、剣と右足を前に出す。使わない左手はバランスを取る目的が無い時には背後に隠すのは、ターゲットポイントを減らすという意味だったが、私の場合そうではなかった。
私は後ろ腰に隠した棒手裏剣を二本引き抜く。そして、手で包む様にして持つ。
そして、一気に二本とも棒手裏剣を投げた。狙うは胴体、避ける事が最も困難な箇所である。間髪入れずに大きく踏み込んで突きを放つ。手裏剣に対処すれば突きを防ぎ損じてしまい、突きに対処すれば手裏剣が刺さる、私の得意とする戦法であり、必殺とまではいかないまでも信用する手の一つだった。
だが、ダニエーレの対処は完璧だった。拡散するように飛ぶ手裏剣の片方を左肘で、もう片方を左の手の甲で防いだ。最小限の犠牲、いや防具をつけていたら手傷すら負わないであろう防ぎ方で。姿勢は全く乱れてはいなかった。
私の脳が危険信号を発する。これはまずい。自分は全力の突きを放ち、もう止まれない。鋒は未だ相手には届かず、相手はカウンターを放てる余裕を持っている。
───流石は剣術指南役を名乗ってるだけあるわね。
私は脳内でそう称賛しながら、喉を容赦なく貫かれた。