ソード・アート・オンライン デュエル・オブ・オナー 作:TTオタク
私たちは安全地帯の比較的広い部屋で向かい合って座った。そこには寝袋が既に設置してあり、焚き火もそのままになっていた。
キリトは自分のものであろう寝袋の上に座ると、焚き火を再点火した。
「貴方、もしかしてここで寝泊りしてるの?」
するとキリトは面倒くさそうにして言う。
「そうですよ。それより、早く手裏剣術についての情報を教えてください」
早く教えろの一点張り。私と雑談をする気は無いようだった。仕方なく、私は説明を再開する。
「わかったわよ。手裏剣術の習得条件は不明。貴方が言っていた通りに、ある日突然スキルスロットにあったわ」
ここまで言った所で、キリトが質問を挟んでくる。
「習得したのはいつ頃ですか?」
「習得時期、というか存在をはじめて知ったのは、10月の5日。ちょうど今から3週間前ね。答えはこれでいい?」
私の言葉に、キリトは頷く。
「じゃあ話を続けるわよ。このスキルは投剣スキルの発展版。射程、威力、投擲本数などを増やした上位スキルとしての色合いが強いわ。さっき私がやってみせたように、両手を使ったスキルや、左右で連続で投擲するスキルもある。ここまでで質問は?」
今度はこちら側からそう聞くと、キリトは質問する。
「そのホルスターはどうやって装備しているんです? 明らかに装備枠外の場所に付けてますけど」
「これも手裏剣術のスキルよ。装備枠が増えたというより、このホルスター専用の装着箇所が追加されたような感じよ。ホルスター以外は装着できないわ」
「なるほど」
キリトは納得したように頷いて言う。
「現在使用できるソードスキルはどう言った技がありますか?」
「まだ熟練度が高くないから、使えるのは二つだけよ。さっきも使った6本同時投擲スキルの《薄氷》、1本を全力投擲するスキルの《
「じゃあ花車を使ってみてください」
キリトの言葉に、仕方なしに私は立ち上がる。棒手裏剣をホルスターから1本抜き、《花車》の構えを取る。すると私の右手は薄赤色に染まり、ソードスキルが発動する。
構えは至って単純。左手を前に出し、棒手裏剣を持つ右手を耳の後ろまで持っていく全力投球の構え。投擲姿勢自体は投剣スキルの《シングルシュート》と大して変わらないが、こちらの方がより全力で力を込める技だった。そのため、射程と威力はシングルシュートに勝るが、姿勢ゆえに瞬時の発動には向かない技だった。
私はシステムアシストに促され、花車を発動する。投擲された棒手裏剣は、薄赤の軌跡を描きながら壁に突き刺さる。なんの変哲もない、簡単な技だった。
「どう? そんな面白いスキルじゃないでしょ? 見ての通り投剣スキルをダメージソースとして運用できる程度の威力にしただけのスキルよ」
実際にヒースクリフが使用する《神聖剣》に比べればなんの派手さもない。ただの投剣スキルの延長線にあるものだった。
だがキリトはそう感じなかったようで、重苦しい口調で私に言う。
「モニカさん、率直に聞きます。貴女はそのスキルを対人戦で使用するつもりですか?」
───驚いた。やっぱ攻略組に居るだけあって洞察力は優れているわね。
私は内心驚く。キリトが約束を反故にした時の対策のため、なるべく手裏剣術は無力なスキルだと思っておいて欲しかったが、そうはいかないようだった。
「ええ、もちろん。必要に差し迫られたら使うに決まっているわ」
キリトが危惧したのは最もだった。手裏剣術は対Mob戦では大した効果を発揮しないだろう。なにせ沢山投擲できて威力が高い、いわば効率の良いだけの投剣スキルと変わらない。Mob戦で遠距離火力が欲しいなら複数名で同時に投げれば良いし、投槍やチャクラムなど威力のある投擲武器に切り替えれば良い。手裏剣術のメリットはそこではない。
「手裏剣術の性能、あれは遠距離武器の
キリトは一旦言葉を切る。彼の声は苦しそうで、何か吐き出すような、震えるような声色だった。
「飛翔速度は群を抜いて速い。おそらくレイピアの一撃に勝るでしょう。そんな攻撃が、通常のソードスキルと同じダメージを遠距離から与えることができる。これらの特性はMob相手では効果的じゃないですが、対人戦だと必殺技になる。なにせこのゲームでは投擲武器は大したダメージにならないという常識がある。まともに遠距離攻撃に対して対策しようとしたプレイヤーは居ないでしょう。そこに、致命傷を与えられる遠距離攻撃が現れれば───」
「キリト」
私はキリトの名前を呼ぶ。彼はどうやら手裏剣術を過大評価しているようだった。確かに対人戦におけるアドバンテージになるのは認めるが、彼の評価は臆病もいいところだった。
「別に手裏剣術は必殺のスキルじゃない。投擲モーションは見え見えだし、盾を持ち出されたら普通に防がれてしまうわ。大体このゲームは接近戦がメインで行われる以上、相手は全力でこちらに接近してくるわ。そんな中投擲できるのはせいぜい一回か二回程度でしょ? 確かに先手は取れるかもしれないけど、せいぜいそのくらいが限界だわ」
私の言葉に、キリトは苦虫を噛み潰したような顔をする。未だ彼は納得していないようだったが、決闘裁判におけるなけなしの切り札である以上、言いふらされた時に強いスキル扱いされるのは避けたかった。万が一キリトが流した情報がアキラの耳に入り、対策でもされたら目も当てられない。
「それで、貴方のスキルは何なの?」
私は話を切り替えるようにして言う。そうしてキリトは二刀流スキルの説明を始めた。
†
「なるほど。両手に武器を装備したDPSの良いスキルね。貴方のスキルの方がよっぽど強そうだわ」
キリトの二刀流についてまとめると、両手に武器を装備し、高速で連打を叩き込むスキルであるようだった。対人戦での効果は不明だが、少なくとも対Mob戦でのDPSは突出した物になるだろう。
「それで? 習得条件はわからないの?」
「わかりませんよ。そちらと同じです」
お互いのスキルの効果や特徴は分かったが、やはり習得条件については不明なようだった。自分のスキルの習得条件が不明である以上、キリトの責任を問うことはできない。
スキル関連で聞くことはもう無くなってしまったので、別の話題を振ることにする。
「ねぇキリト。何で貴方はこんな所に居るの?」
純粋な疑問だった。自分がこんな所に落ちてしまったのは、そもそもこの《夜空の洞窟》に鉱石を取りにきたという理由がある。だが、ここは攻略層ではない。攻略組ならば攻略層のダンジョンに潜っているのが道理だろう。
「その事について教えると言った覚えはありませんよ」
キリトは突き放すようにそう言う。まるで最初に戻ったような感じだった。
「別に、言いたくないなら良いわよ。それで? 転移結晶って使えるかしら?」
「使えませんよ。出口なら後で案内します。それまでは大人しくしていてください」
相変わらず無礼な口調だったが、一つ収穫があった。
───なるほど。トラップにかからないと入れない上、転移結晶も使えないような危険な場所にわざわざ来る用事があるってわけね。
しかし、これは口にしなかった。下手に相手を煽り、不機嫌にしては今後の脱出にかかわるだろう。
「ちょっとパーティーメンバーにメール送るけど良いかしら?」
キリトはうなずく。思えばダニエーレに連絡をまだしていなかった。HPバーが減っていない以上、無事なのはわかっているだろうが、心配をかけてしまっているだろう。
そうして私がダニエーレに連絡を送ると、即座に返信のアイコンが灯った。
「早いわね」
私はそう独り言を言いながら、アイコンをタッチする。しかし、送信主はダニエーレではなかった。
「嘘……でしょ……」
指が震える。ありえない送り主名。送れるはずのない人物からのメールだった。
「どうしました?」
キリトは私の様子が変わったのを見て聞いてくるが、答える余裕はなかった。
送り主はノンナ。送信日を見てみると、彼女が殺害される1週間前からに設定されていた。内容はこう綴られていた。
『モニカへ。このメールが届いたと言うことは、私が死亡したか、メールの送信を取り消さなかったということです。もし、なんらかの事情で私がメールの取り消しを忘れていた場合、教えてください。メールの添付物が無いと私は困ってしまいます。
本当に私が死亡していた場合は、添付物を受け取ってください。全て差し上げます。モニカならきっと有効活用してくれると信じています。私の死に責任などを感じたりせず、自分の生きたいように生きてください。ノンナ、もとい
そして添付物には大量の金、アイテム、装備品などが詰まっていた。事実上のノンナの全財産とも言える量だった。
私は深呼吸し、自分を落ち着かせる。
───落ち着きなさい、モニカ。泣くのは今じゃないでしょ。落ち着いて、今できることをしなさい。
私はそう言い聞かせ、すんでの所で涙を止める。その様子を見て、キリトが話しかけてきた。
「どうしました? 何かあったんですか?」
私はその言葉に答える。
「殺された友達がね、遺産を私に送るように設定していたのよ。あの子、あんまりこういった手の込んだこと得意じゃなかったでしょうに、粋なことをするものだわ」
「殺された?」
キリトが驚く。本当に何も知らないようだった。もしやと思い、私は聞く。
「ねえキリト。青龍連合のアキラと私が決闘裁判をするのって知ってる?」
「決闘裁判? なんですかそれ?」
まるで存ぜぬと、キリトは怪訝な顔をする。なるほど。焚き火と言い寝袋と言い。彼はここに長いこと寝泊りしていたせいで、情報に疎いようだった。
「なるほどね。ねえキリト。あのムカデたちっていつになったら居なくなるの?」
「目標を見失ってから全体が捜索モードに移るまで2分。その後一番巣の個体数が減るのが20分後です」
なるほど、どうやら無駄話をする時間はありそうだった。
「いいわ。暇つぶしにもまるでしょうし、聞いて頂戴。私が巻き込まれた事件の経緯を」
そうして、私は事件の経緯を話す。