図書館を出ると、既に町は砲撃によっていくつもクレーターができていた。建物も殆どが半壊にされてしまい、町の営みがこうも容易く壊れる様を目にした人々は膝を地面についてしまう。
そして、それを嘲笑いに来たかのように町の港へ接近してくる海賊船。帆にはお馴染みのドクロマーク。映画などでは何とも思わなかったが、実物を見ると威圧感を放っている。これは確かに海賊に恐れるのも無理はない。
だが、俺はこんなチンケなものに恐れる訳にはいかない。何故ならこちらは悪魔なのだから。
「いいか、テメェら!もし命が欲しけりゃ、ありったけの食いもんと金をよこせ!!あとこの町の女もだ!!」
ハットを被り、手にはサーベルとピストル。海賊のお手本中のお手本な船長が海賊船から姿を現した。そして、続け様にゴリラのようなマッチョな男達もゾロゾロと船長の後に続き、この町へと足を踏み入れる。
下卑た笑みを浮かべる海賊に対し、町の男達はみんなツルハシやクワなどの道具を持って身構えているが、戦闘能力がダンチである海の無法者を相手にするのは困難だ。
ならば、俺の出番だ。
「うおおおっ!」
「キャァァ!!変態よ!!」
「おい!あんた如何したんだ!?」
俺は気合を入れる為に、大声を発しながら服を脱ぎ、急いで全裸となる。俺の行動に主に女性達が悲鳴を上げているものの、これにはれっきとした理由があるのだ。
俺が変身する悪魔の姿は、図体が物凄くデカイ。その為服を着たまま変身すると、ビリビリともう無惨に裂かれてしまうのだ。
「けひゃひゃ!!何だあいつ!恐怖のあまり頭がおかしくなったのか!?」
海賊どもが俺を指して嘲るが、こいつらの態度など、俺の姿を見れば完全に改まる筈だ。
「ふんぬっ!!」
思いっきり俺は全身を力み出す。この行為が能力発動のスイッチだ。全身の血液がポンプのように駆け巡り、自身が巨大化していくのが実感できた。
「きゃあぁ!!」
「うわぁ!?」
変貌の一途を辿る俺を周りの人々は叫び声を上げた。先ほどの海賊の襲撃とは叫びのレベルが段違いだ。
俺は海賊を含め、慄く人々の姿に少し愉悦感に浸る。恐怖する人々に満足してしまうのは、悪魔になった事による影響なのだろうか。
「ひっひいいいい悪魔だァ!何でこんなところに…!?」
「お、お許しを!俺達は貴方じゃなくて町を襲っているだけで…!!」
腰を引かす者、はたまた許しを請う者。海賊達は俺という巨大な化け物を見てしまい、完全に戦意喪失したようだ…ただ一人を除いては。
「て、テメェら!何を怖気付いてんだ!?俺らは泣く子も黙るロクス海賊団だぞ!悪魔が何だってんだ!!」
荒くれ者を束ねる船長はやはりというべきか、一人ピストルを構え、俺の目の前に立ち向かっていた。勇敢な姿は天晴、だが力の格というものを教える必要がある。
「ほら、支えてやるから撃ってみろ」
「っひ!?」
彼が手にしているピストルの砲身を俺は大きな指で摘む。銃口の先は俺の頭部へと指していた。
「う…うわぁぁぁ!!」
船長がそのまま引き金を引き、俺に銃弾が命中した。しかしそんな銃器でこの巨体を仕留める事など、夢のまた夢。事実、俺の3つ目の中央にはただ煙が漂っているだけであり、傷など1つもついていなかった。
コロンと、俺の足元に転がったのは潰れた弾。
「ひっっ!!!お前ら!錨を上げろ!!」
背を向けて、海賊船へと走り出した船長。俺の傷跡のない身体と、潰れてしまった弾が決め手になったのだろう。あのおぼつかない足取りは、完全に心が折れかけていた。クルー達もそうだ、我先へと船へと向かっている。
だが、俺の試したい事がある。悪いが彼にはもう少し頑張ってもらわないといけない。
小さな虫を掴むように、俺は彼の襟を摘んで持ち上げる。
「うわぁぁ!?」
「せ、船長ッ!!」
「こ、殺さないでくれ!!」
船長に俺のど迫力満点な顔面を突き付ける。ふはは、怖かろう。…悪ふざけが過ぎた。彼は白目を剥きそうになっており、精神と身体ともに逝きかけている。
彼を地面へと投げ出し、強制的に目覚めさせる。ここからはコミュニーケーションタイムだ。俺は座り込む。
「今から契約だ」
「ハァ…ハァ…け、契約?一体何のことだ!?」
俺は、先ほどの自作した契約書を船長へと見せた。彼はそれを手にして内容を読んでみるが、それでも首を傾げている為、理解にまだ及んでいないみたいだ。
「簡潔にいうと、お前らの命は見逃してやる。その代わりに船諸共、俺へと献上しろ。これが契約の内容だ」
「…な!?悪魔と契約しろってのか!?そんな業の深い事できるわけが…」
海賊なんてやってるのに業も何もあるわけではあるまいし、何を言ってるのだろうかこの男は。彼の臆病さに呆れてしまうが、異常に身体を震わせ、怯えている。もしかしてトラウマでも刺激してしまった?
「おれは知っているんだ、デイビージョーンズの伝説を!悪魔に呪われて、暗い海の底へと生きていくしかない、あいつらの末路を…」
まさかこの世界でデイビージョーンズの名前を聞けるとは思わなかった…異世界ではあるが、前世とは少し共通してる点でもあるのだろうか。あっちは神に逆らって罰が当たったみたいな話だったが、こっちは悪魔によって深海へと追いやられている。
だが、彼が俺に対してそんな風に思っていたのは心外だ。俺は対等な立場で取引を行っているだけなのに。
「じゃあ、契約するのは止めるか?」
「…ヒンッ!?わかった!わかりました!!」
俺は見せしめに、海賊船の船首を片手で握りへし折る。ただでさえ、最初の頃は自分でもこの姿にビビっていたのだ。それを第三者から見れば、パワーアピールも相まって、絶望的な光景に見えるだろう。
「じゃあここにお前の名前を描いて、血判を押してくれ」
俺のなされるがままに彼は、契約書にサインをする。ようやく、能力の見せ所だ。
変身を解き、俺は彼らに対して殺さないという意思を示す。そして、代わりに俺は自分の望むものを要求した。
「じゃあお前らの物は俺に献上して、島へと出て行け。勿論船はないから泳ぎでな」
「「は、はいいいい!!!!」」
これ以上にない悲鳴を上げた、ロク何とか海賊団達は船に乗り込まずに海へと飛び込み、途方も無い水平線へと向かって行った。
「うおー…すげー」
凄い。危険極まりない海へ泳いで行けなんて、普通ならこんな要求なんて少しは反抗されてもおかしくないのに彼らは有無を言わさず、俺の言葉通りに動いて行った。
これが俺の能力なのか。契約を行い、俺も彼らの望む事を叶えてやる代わりに彼らは俺の望む事を、”強制的”に行わせる。
これは使いようによっては、凄い能力じゃないか?これならどんな格上の相手でも、倒す術がある。これは俺の時代待った無しだな。
脅迫を契約だと思い込んでいるサイコパス。
単純に相手が恐怖で言う事を聞いているだけなのに、それを能力だと思い込むポンコツ。
それがこの作品の主人公です。