そこはオラリオ
世界で唯一の迷宮都市、この世のありとあらゆるものが集まり多くの英雄が生まれていく。
そこに紛れ込んだ『灰』はしかし、それでも尚、使命から逃れられ……あれ?なんか逃れてね?
飽きた。
飽きもうした。
『灰』である男はだらしなく地面に四肢を投げ出して、ぼーーーーーっと中空を眺めた。
飽きた、飽きたと同じことを延々と頭蓋の中で転がしながら、まるで
そう、『灰』は、飽きてしまっていたのである。
きっかけは、しっかり覚えている。
『灰』は、かつて騎士であった。
かろうじてそれは覚えている。
不死となり、しかしやがて亡者となって、一度は完全に動かなくなり灰の場所で再び目覚めた。
全ての始まりはそこだったかもしれない。
『灰』は、そこを進んだ先、審判者グンダを打ち倒し進んだ先、火継ぎの祭祀場と呼ばれる場所にて火防女に己の使命を告げられた。
『灰』は必ず使命を持っている。
そして男の使命は、半ば消えかけた最初の火に再び薪を投じること。
そのために、先代の薪の王達を玉座へと戻すことだと。
『灰』は戦った。
戦って、闘って、斗い続けた。
立ちふさがるものあれば剣で切り裂き槍で貫き、槌で打ち砕いた。
たまに、いや頻繁に返り討ちに遭いながらもそのたびに知識をつけ、たまにいるやべー敵に対しては、なんか知らんけど休むと何度でも蘇るそこらへんの敵からソウルを奪い、自らの体を強化し、そして進み続けた。
冷たい獣をねじ伏せた、蠢く大樹を切り倒した、古老を端折り聖職者の坊主どもを撫で切りにた。
不死隊をぶっ飛ばしデーモンを引き裂き骸骨を闇の底に蹴落とし法王を燃やし神喰らいをズタズタにし巨人を仲良くなったカタリナ騎士と討ち倒した。
竜もどきをビリビリさせて英雄をしばき倒し巨竜の頭を串刺しにして無名の王をお友達のところに送った。
踊り子を粉砕し鎧を粉々にして、そしてついに兄弟の首を獲った。
何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も『灰』は死んで、その度に強くなっていった。
自分の尸で大地を埋め尽くすほど死んでため込んだソウルが丸ごと無くなって嘆き、隠し球の女神の祝福を使ってもなお届かずいじけて枕替わりの木の根を濡らしたこともあった。
それでも男は足掻き続け、そして王達の化身、薪のソウルに──勝った。
男は傍に、真実を知った火防女を呼んだ。
火防女が原初の炎を完全に消していくのを見届けながら、自分の使命が果たされたことに奇妙な満足感を覚え、ゆっくりとその意識を手放した。
──そしたらなんか知らんけどまた灰の墓所で目が覚めた。
『灰』は目を疑った。
そんなことある? と思いつつももしかしたら自分は今の今まで夢を見ていたのかもしれないと思い、自分が英雄とか無いわーとか思いながら──なんか見覚えのある道を進んでいることを必死で無視しながら──進んだ。
審判者がいた。
『灰』は察した。
なんか知らんがまた最初からやり直しらしい、と。
幸いなことに、『灰』は心が強かった。
それはもう類い稀なる精神を宿していた。
というか心が弱かったら10回死んだあたりで使命など投げ出してそこらへんで蹲る一山20ソウル程度の亡者の仲間入りを果たしていたかもしれない。
とにかくそんな強い心を持った『灰』は、まぁもう一度くらいいいか、と思いながらなんか前戦った時より強い雑魚敵達を蹴散らしながら再び使命のために戦った。
見つけたはいいものの要求される力量がキツすぎて使えなかった武器も、たくさん手に入るソウルにものを言わせて強化した体でブンブンしまくった。
すると、前回出会わなかった赤い頭巾の男に絵の中に放り込まれ、吹雪に凍えながらもなんとかスタイリッシュ大鎌アクションを繰り出す聖女とか狼とかをしばき回してその世界を燃やすことに成功した。
なるほど! これをやってなかったから前回はダメだったのかと納得しつつ、男は再び王達の化身を倒し眠りについたのだった。
やっぱりまた目が覚めた、なんでや。
男は三度、戦った。
溢れ返るほど手に入った原盤でじゃんじゃか武器を強くするのが楽しくなり、そんな武器を振り回すのが楽しくてガンガン体を強くしてったらそのうち侵入者も協力者も来なくなって孤独感に震えた。
それでも我慢し戦い続けた。
すると今度はスタイリッシュ聖女と戦った場所に見知らぬ篝火を見つけた。
触れてみたら吹き溜まりなるこの世の旗の様な場所にいた。
これだ! 間違い無い!『灰』は確信した。
デーモンの王子に焼き尽くされながらもボコボコにし、教会の槍になます斬りにされながらも挽肉にしてやり、かつてお世話になった赤頭巾の奴隷騎士に数え切れないほどズタボロにされた果てになんとか倒し、闇喰らいミディールに薪の王総辞職ビームをぶちかまされたりしたもののどうやってか勝った。
ついでにシラをサクッと殺った。
絵画の世界の少女に闇のソウルを渡し、新たな絵画に自分の名前がつけられることをちょっと恥ずかしく思いながら、もう完璧だろと自画自賛しつつ王達の化身を蹴散らし、今度こそ最後の使命を果たした満足感に『灰』は気分よく眠りについた。
薄々気づいてはいたがやっぱりダメだった。
『灰』は悟る。
どうやらこの世界は、何度
『灰』は吹っ切れた、じゃあ行けるところまで行ってやると。
『灰』は、ロスリックの地の隅々までを探検した。
際限なく強くなってく敵にたまに辟易してガンダッシュで無視をかましたりしながらも、武器を集め、原盤を集めた。
まずは武器のコレクティングだ。
古今東西あらゆる武器の全ての派生強化をコンプリートしてやると誓った。
次に縛りプレイだ。
強敵との戦いに愉悦を見出していた『灰』は、かつてまるで使い道を見出せなかった災厄の指輪や扱いの難しい奇手の指輪に目をつけ、自身の受けるダメージが増える呪いをあえて纏い、その上で指輪の恩恵をあずかれない武器で強敵達に挑んだ。
無論何回も死んだがその果てに勝利を掴んだ時の達成感は筆舌にしがたいものがあった。
『灰』はそこでこれ以上ソウル強化すると縛りが難しくなるとして強化をやめた。
その頃すでに『灰』の肉体はこの上なく強く……具体的に言うと全ステータス50くらいにはなってた。
遊んだ、遊んだ、遊び尽くした。
強化し過ぎた肉体のせいで協力者もいない孤独にたまに後悔しながらも不死はロスリックの地を探検し続けた。
そして、飽きた。
周回数記念すべき100周目を迎える頃のことであった。
吹き溜まりの結構降りたところにある、土の塔の残骸のあたりにポツンとある篝火から少し外れたところで『灰』は寝っ転がっていた。
もううんざりだ、飽き飽きだった。
もう誰の顔を見るのも嫌だった。
どんな縛りプレイもやり尽くした感があったし武器コンプなんてとっくの昔に達成した、と、思う。
もう食えねえよと底なしの木箱がギブしかねない量の武器を収めて整理が大変なくらいだ。
『灰』は、飽きた、もうこのロスリックの世界に飽きてしまったのだ。
戦うは起きなかった、探索する気も起きなかった。
そう、かつて『灰』が漠然と、いつかは訪れると感じていた自らの『死』が今きたのだと確信した。
いずれ『飽き』が自分を殺すのだと、不死は悟っていたのだ。
でも、なんか、やだなぁ……
『灰』がそんな想いを抱いたのは奇跡にも近いことだった。
もうこの世界から消え去りたい思いで一杯だった不死はしかし、ほんのわずかに残っている未練を掴み取り、せめて、せめて最後に一度だけ、と白いサインろう石を取り出した。
さらさらと、久しぶりなのでやや不格好なサインを地面に記した『灰』は、これに呼ばれるまで待って、それを終えてから擬似的な永遠の眠りにつこうと決めた。
自らの肉体を強化し過ぎた業か滅多なことでは他の世界に呼ばれることのなくなった『灰』だったが、久しぶりに他者とわちゃわちゃしながら戦うのはちょっといいなと思ったのだ。
──果たして奇跡は起こった。
さぁ長いこと待つことになるぞと大の字で寝転ぼうと思った矢先に、『灰』は随分と久々の他世界へと呼ばれる感覚を覚えて──焦った。
嘘、呼ばれるのはやく無い?と。
『灰』は大慌てで着替えを始めた。
この世界で手に入る全ての防具の中からお気に入りの一式を急いで見に纏い、吹き溜まりという地形に合わせた最適な武器を装備しなければならない!
わたわたと支度を整える『灰』を嘲笑う様に、『灰』を呼んだものの世界が意識を引っ張っていく。
あぁ、あかんまって!まだ盾が、盾が!!
『灰』の情けない(脳内の)叫びも虚しく──1人の不死が、この世から永遠に消え去った。
ヘスティアナイフ
女神ヘファイストスが鍛えた黒いナイフ。
その力はヘスティアの眷属ベルが使う時のみ発揮される。
ベルの力が強くなればなるほど、呼応し力を増していくこの一振りはまさしく、ヘスティアの最初の眷属にふさわしい一振りだろう。
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか。
数多の階層に分かれる無限の迷宮。凶悪なモンスターの坩堝。
富と名声を求め自分も命知らずの(以下省略)
結論。
僕が間違っていた。
『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
「ほぁあああああああああああああああああああっ!?」
少し邪でいかにも青臭い考えを抱いて冒険者になった結果、僕は今、死にかけている。
具体的には牛頭人体のモンスター、『ミノタウロス』に(以下省略
そのあとなんやかんやで臀部を床に落とした態勢で、惨めに後退りした。
可愛い女の子達が見たら一瞬で幻滅しそうな光景、僕には最初から、お伽話に出てくる様な英雄になる資格はなかったらしい。
──けれど、けれども。
そこに奇跡が起きたなら──
突如としてダンジョンの床に白い光が浮かび上がった。
僕とミノタウロスの間の狭い空間に割り込む様な位置、それを目にした僕とミノタウロスは、その奇妙な光景に一瞬我を忘れて動きを止めた。
そして、次の瞬間──その白い光源の中から、まるで物語に出てくる勇猛な騎士の如き人物が浮かび昇ってきたのだ。
真っ黒な鉄で全身を覆うフルプレートアーマー、小さな覗き穴のある無駄な装飾のないグレードヘルム。
右手には鈍い黄金の金属光沢を放つ、芸術的な紋様の刻まれた長大な大剣。
(これは……いったい……)
その非現実的な光景をぼぉっと眺めていると、その人物はいよいよその足まで現れ、その両足で床を踏みしめ、わずかに俯き下に下げていた視線を前へと向けた──
直後に、ものすごく機敏な動作で真横に飛んだ。
「へっ?」
『ヴモ?』
ガシャン! と、重厚な鎧を纏っているとは思えない機敏な動作で床を転がり距離を取った騎士は、素早く立ち上がると今度は果敢に走り寄り、その大剣を両手でもって大きく振りかぶる。
あまりにも突然の事態に僕もミノタウロスも完全に思考が停止して。
そして、その瞬間振り下ろされた巨大な刃がミノタウロスの脳天から股までを、まるで肉を包丁で切るかの様にあっさりと『真っ二つ』にして見せた。
どころか勢い余って地面に叩きつけられ凄まじい破砕音を響かせる剣身。
目線を運べば、鋒が深々と床を引き裂き、亀裂すら生じていた。
なんと言う切れ味、なんと言う破砕力。
僕なんか比べ物にならない、まさしく英雄の一撃。
「凄い……」
思わず口からこぼれた言葉に、騎士はギロリとそののぞき穴をこちらに向けた。
思わずびくりと体が跳ねる。
騎士は切り裂いたミノタウロスの死体と、尻もちをついた姿勢で見上げる僕、そして周囲の床や天井を、なんどもなんども視線を往復させて眺めていた。
まるで、それがありえない、とでも言いたげに。
そして、新たな足音と怒号が近づいてくるのが耳に微かに聞こえた瞬間
「やったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
「ほわぁ!?」
腹の奥底から吐き出される様な快心の叫び声が騎士から飛び出して、僕は思わず跳ね上がった。
──これは、そんな情けなかった僕と、どう言い繕っても変人としか言えない奇妙な騎士が出会ったことから始まる、この世界で最も新しい眷属の物語の始まりの一幕。
「あれ、なんか声出る」
「え!? そこ驚くとこ!?」
思いついたので書きました。
続きは未定。