とある魔術の恋色光線 作:青柳
1話 二人の少女
学園都市。
日本の首都東京の西部を開発して作られたその町の住民のほとんどは学生で、日々能力開発を受けている。
しかし、人口230万人のうち約6割の学生は能力を使うことのできない
仮に能力を発現することが出来たとしても、そのレベルはまちまちで、スプーン曲げができるだとか、日常に対して影響を及ぼさない
つまりは、この都市の学生たちは
さて、そんな学園都市の夏休み初日。
うだるような暑さの中で『上条ちゃーんバカだから補習でーす』と担任からラブコールがかかってきてしまった。
ウニのようにギザギザの頭をした少年、上条当麻はため息をつきながら布団干しを始める。
彼は学園都市の人口6割を占める
ここ最近、いたるところでたった7人しかいない
実をいうと、布団を干しにベランダに出る段階で彼をちょっとした不幸が襲ったのだが、それはあえて語らないでおこう。
「まさか、夕立なんて降らないよな」
いい天気ながら、また不幸に襲われるのではないかと不安になる上条であったが、気を取り直して布団を干そうとする。しかし、ベランダに出てみると、なぜか手すりにはすでに“二つの”布団がかかっていた。
一つは白。もう一つは黒である。
「はっ?」
上条当麻は一人暮らしだ。
同居人など存在しない。しかし、目の前にあるのは二つの布団……いや。
どういうわけか手すりに引っかかった二人の女の子であった。
当麻の手から布団が滑り落ちる。
だって、そうであろう。ベランダに女の子が引っ掛かっているのだ。それも二人。これ以上に不可解なことなどない。
「シスターさんとコスプレイヤーか何かか?」
おそらく、二人とも年齢は十代前半と言ったところだろう。
片方の女の子は、銀髪で教会で見るような修道服を着ていた。ただし、彼女に限っては服の色が黒ではなく“純白”で服のあちらこちらの錦糸の刺しゅうが施されているのが確認できた。
もう一人は金髪でつばが広く黒い三角帽子、黒い服に白いエプロン。ご丁寧に彼女のそばには竹ぼうきが転がっていて、どこぞの物語で出てきそうな魔法使いを思わせるような恰好をしていた。
二人を前にして、当麻が唖然としていると黒い方、コスプレイヤーと思われる方の少女が目を覚ました。
「いたたたた……ひどい目にあったぜ」
少女は軽く体を揺らしながら上条家のベランダに足を付けた。その際少し飛んでいたような気がするのは気のせいだろう。
すると、それとほぼ同タイミングでシスターの少女も目を覚ました。
当麻は思わず二、三歩後ろに下がってしまう。
足元でぐしゃっという音ともに焼きそばパンがつぶれたようだが、そんなことは気にならなかった。
「……おなか減った」
やはり、彼女は外国人なのだろうか?
おそらく、必死になって覚えた日本語をしゃべったにきまっている。
「おなか減った」
少女は、再び自らの欲求を口にする。
しかし、当麻は動けない。
「おなか減ったって言ってるんだよ?」
「おい! どこの誰だか知らないけれど、こんなに訴えてるんだから何か食わせてやれよ」
当麻がずっと固まっているからか、耐えかねた様子でコスプレイヤーの方が当麻の方へと歩み寄ってきた。
「いや、ひょっとしてあなたたちはこの状況で行き倒れだとでもおっしゃいたいんでせう?」
「そうだよ」
どうやら、日本語ペラペラのようだ。
当麻の足元に転がっているぐにゅぐにゅの焼きそばパンが視界に入る。
この子にはどこか遠いところで幸せになってもらおう。
踏まれていたせいで焼きそばパンとは思えないような匂いを放つそれを少女の前に差し出す。おそらく、これを見ればどこかへ行ってしまうだろう。
しかし……
「ありがとう。そして、いただきます」
少女は、当麻の予想に反し焼きそばパンにラップごと……おまけに言えば上条の手もろともかぶりついた。
「ぎゃー! 不幸だー!」
それとほぼ時を同じくして当麻の叫び声が学生寮にこだましたのだった。