「フィーネ…」
クリスが名前を呟き立ち上がる
「そんな力が無くたって!戦争の火種くらいアタシ一人で消してやる!そうすれば、アンタの言うように、人は呪いから解放されて、バラバラになった世界は元に戻るんだろ!?」
フィーネは溜息を吐いて宣告した
「貴方にもう用はないわ」
「えっ…」
戦力外通告、彼女にとってこれ程苦しい結末はないだろう
「な、なんだよそれ…」
フィーネは何も言わず片手をあげる
すると、パージされたネフュシュタンの鎧が腕に集まり消えていった
そして、ソロモンの杖を掲げるとノイズが一斉に響達を襲い始める
「うわわっ!?」
「怯むな立花!」
混乱の中フィーネはゆっくり立ち去る
「待てよフィーネ!」
「待って!クリス!……っ!!」
ジードも追いかけようとするが時間が限界になりフュージョンライズが解除されてしまった
そんな無防備なリクの元にも一直線にノイズが襲いかかる
リクは死を覚悟したが、前に翼が立ちはだかった
「朝倉をやらせはしない!」
「私だって!」
響もリクの前に立つ
「…ありがとう」
二人の活躍でノイズはたちまち全滅した
オペレーターの友里さんから通信が入る
「ノイズの全滅を確認しました!」
「友里さん!クリスは?!」
「すみません、先程反応がロストしました……」
「そっか、わかりました、ありがとうございます」
リクは通信を切る
「…クリス、無事だといいんだけど…」
【特異災害対策機動部2課】
メディカルチェックを受けていた響と翼さんが、了子さんと戻ってきた
「翼、全く無茶しやがって」
弦十郎さんがやれやれと言わんばかりに溜息をつく
「独断については謝ります、ですが、仲間の危機に伏せっている事など出来ませんでした、立花は未熟な戦士です、半人前ではありますが、戦士に相違ないと、確信しています」
「翼さん…」
思ってもみなかった翼さんの言葉に響が驚いている
そんな響の肩に僕は手を置く
「僕も未熟だけど、まだまだ成長できる、一緒に頑張っていこ?」
「はい!……わたし、頑張ります!」
「いやちょっと待て?」
弦十郎さんが口を挟む
「君はもう立派な戦士だろう」
「へっ?」
「いやぁ驚いたよ、君がまさか武道の達人だったとは!」
「それに、あの青い姿の戦い方…綺麗だったわ、是非教えて貰いたい」
翼さんが期待に満ちたような目で見てくる
「あっ、いやぁ……あれは」
「あの姿にならないと使えない…そうじゃない?」
了子さんが割り込んだ
「貴方はあの姿にそれぞれ変身することで、遺伝子に刻まれた戦い方を呼び起こして、格闘技の達人になったりしている、だから普段はその戦い方はできない…でしょ?」
「そうなのか…すまないな」
「私も舞い上がってしまったわ…ごめんなさい」
「いやいやそんな!そうだ了子さん、カプセル…どうですか?」
僕は了子さんに渡したカプセルの状態を聞いた
「うん!バッチリ元に戻ってるわね!残りは3本!一体どんな姿になるのか楽しみね〜♪」
「そうですか!よかった〜…でもどうして突然…」
「響ちゃん達からのエネルギーで再起動してるからフォニックゲインが要因なのは分かるのよね、でもどうして急に高まったのかしら…あなた達何か言った?」
了子さんが響達に問い掛けた
「いやいや!変な事言ってないですよ!?ただ勇気を燃やしますって…」
「えっ?!響今なんて…」
「へえっ?!ゆ、勇気を燃やします……?」
僕は翼さんの方を向く
「翼さんもしかして、衝撃を魅せるわ…みたいなこと言いました?」
「え、ええ、言ったわ」
「そうか、そういうことか!」
了子さんがキラキラした目でこちらを見てくる
「なになに、分かったの!?」
「ええ、勇気を燃やす、衝撃を魅せる、これは僕がフュージョンライズする時に叫ぶ前口上なんです
プリミティブは“決めるぜ覚悟”
ソリッドバーニングで“燃やすぜ勇気”
アクロスマッシャーは“魅せるぜ衝撃”
もしかしたら、心からそれを思って叫んだ時にフォニックゲインが高まって、カプセルのエネルギーになるのかも知れません」
「なるほど〜♪じゃあ残り二つは?」
僕はカプセルをそれぞれ手にした
「こっちがマグニフィセントで“守るぜ希望”、こっちがロイヤルメガマスターで“変えるぜ運命”ですね」
「守るぜ希望に変えるぜ運命…なんか凄いかっこいい!」
響は興奮して足をバタバタしている
「そう言えば響は大丈夫だったの?」
「はい!ご飯食べてぐっすり眠れば、元気回復です!」
「そっか、未来への説明、大変だろうけど頑張ってね…」
「…はい」
響はしょぼんと肩を落とす
こりゃ難航しそうだ……
「そう言えば響ちゃんの心臓にあるガングニールの破片は、前より体組織と融合しているみたいなの、驚異的なエネルギーと回復力は、そのせいかもね」
僕は了子さんを見た
体組織と融合と簡単に言うが、人の体にそんなとてつもない力が融合して平気なのかと言う心配だ
以前、レイトさんより前にゼロと融合した人にも、僕のような異常な身体能力が備わったという
ウルトラマンの場合、その危険は承知だからある程度はセーブしてるようだが、ガングニールは意思のない道具
そんなものを使って問題は無いのかという心配が頭を駆け巡ったのだった…
【その夜】
僕はコンビニで少し買い物をして家へと帰っていた
だがその帰宅途中の事だった
「はァ…っはァ……」
女の子の呼吸が聴こえた
僕の耳は常人より発達している、距離はそんなに遠くない
もしかして、襲われている?
僕はすぐに声のする方に向かった
声は近くのビルの路地からだった
「大丈夫ですか!?」
僕はすぐに安否を確かめながら飛び出す
「お前っ!!?」
そこに居たのはクリスだった
額には汗が流れ、呼吸を荒らげている
きっとあの後ノイズに追いかけられていたのだろう
「クリス…だよね?」
「近付くなっ!私は容赦…しねぇぞ…」
クリスは立ち上がるが足が震えている
きっと走り続けたせいだろう
僕はどうしようかと考えて、持っていたコンビニの袋の事を思い出した
「お腹、空いてるでしょ?」
コンビニの袋をそのまま差し出した
「敵の施しなんか受けるかよ!」
クリスは踵を返して走り出した
「あ、待って!」
僕はここが狭い路地であることを再確認すると一気に飛び上がる
そしてクリスの目の前に着地した
「うわぁっ?!」
クリスは驚いて尻餅をついた
「僕からは簡単には逃げられないよ、はい、また買えばいいから今は食べて?」
僕は近付いてレジ袋を渡す
中にはあんぱんと牛乳、ジュースが入っている
クリスはあんぱんを取り出すと僕に向ける
「…毒入ってねぇなら食うから食ってみろ」
僕は笑いながら封を開けて少しちぎってその場で食べてみせた
それを見るとクリスはすぐさまモグモグとあんぱんを食べきった
すると今度は牛乳を取りだして僕に突き出す
「ん」
牛乳もっ?!
僕が困惑しているとクリスが直ぐにやっぱりな、というような表情になっていく
僕は溜息を吐いてストローを刺すと少し吸って飲んだ
それを見てクリスはごくごくと牛乳を飲み始める
そういうの…気にしないんだろうか…
ふと、そこでどこからともなく泣き声が聞こえた
「泣き声…?」
そちらに向かってみると、ベンチに腰掛けて泣く女の子と、そのすぐ傍に男の子が困っているような様子でそこに立っていた
「泣くなよ!泣いたってどうしようもないんだぞ」
「って…だってぇ……!」
クリスはそれを見てすぐに2人の元に行った
「おいこら、弱いものを虐めるな」
なんか違うよね…苦笑しながら僕は二人に近付く
「虐めてなんかないよ。妹が…」
「うわぁあん!」
更に激しく泣きじめた女の子、それを見たクリスは腕を振り上げた
「虐めるなって言ってんだろ!」
「うわ!?」
「待って!クリス!」
思わず頭を庇う少年、その腕が振り下ろされる前にリクが腕を掴む
その前に、何故か少女…妹が兄とクリスの間に立った
「おにいちゃんをいじめるな!」
「はぁ…?」
思わず首を傾げるクリス
「もしかして…迷子になっちゃった?」
代わりに僕が話を聞いた
「父ちゃんがいなくなったんだ、一緒に探してたんだけど、妹がもう歩けないって言ったからそれで…」
「迷子かよ…だったらハナッからそう言えよな」
「いやいや!クリスが先に動いたんじゃんか!?」
「だって…だってぇ……」
さらにぐずる少女
「おい、こら泣くなって!」
次の瞬間にはすでに兄の方が妹とクリスの間に入ってきていた
「妹を泣かせたな」
「あっはは…」
「あーもーめんどくせえ!一緒に探してやるから大人しくしやがれ!」
そうしてクリスと僕の、小さな兄妹の親探しが始まった
女の子の方は僕が肩車をしてあげ、兄やクリスと並んで、色とりどりの光の道を歩く
これ傍から見ると兄弟にでも見えてるのだろうか
そんなことを考えていると歌が聞こえてきた
でもラジオのような音じゃない、鼻歌…
ふと、横を見るとクリスが穏やかな表情で鼻歌を歌っていた
『やっぱり歌…好きなんじゃん』
僕がふふっと笑った時だった
「あ、父ちゃん!」
「あ!」
どうやら、父親が見つかったようだ、交番から出てきた男に駆け寄って行く
僕も妹を降ろし、父親の元に向かわせる
「お前たち、どこに行ってたんだ?」
「おねえちゃんとおにいちゃんがいっしょにまいごになってくれた!」
「違うだろ。一緒に父ちゃんを探してくれたんだ」
「すみません。ご迷惑をおかけしました」
父親が頭を下げて謝罪する
「いや、なりゆきだからそんな…」
「よかったね、父さんに会えて」
「ほら、二人にお礼は言ったのか?」
「「ありがとう」」
礼儀正しく、頭を下げる兄妹
「仲良いんだな…そうだ、どうすればそんなに仲良くなれんのか教えてくれよ」
そう尋ねると、妹は兄の腕に抱き着き、兄が代わりに答えた
「そんなの分からないよ、いつも喧嘩しちゃうし」
「喧嘩しちゃうけど、仲直りするから仲良し!」
その返事に、クリスはただ黙る
「じゃあねー!」
あの後、あの兄妹と別れて、またあの公園に戻る
「いつまで着いてくんだよ…」
「もちろん、時間の許す限り」
「…着いてくんなよ、あたしにはやる事が…」
「じゃあやる事が終わるまでかな」
「一生ついてくる気じゃねぇーか!」
「だって心配だからさ…まるでいつかの僕みたいで…」
クリスは足を止めてこちらに向き直る
「一緒にすんじゃねぇーよ!どうせあたしの絶望はわかんねーよ!大人にいたぶられた恐怖も!パパもママも居なくなった空虚も!信じてた奴に裏切られる苦しさも!」
雪音クリス、バルベルデ共和国の戦争で両親を失った戦争孤児
弦十郎さんに教えられたことが頭を巡る
「…恐怖は分からないけど、空虚と苦しさは分かるかもね」
「はっ、どーだか」
「僕も父さんも母さんもいないから…」
「別に殺されたわけじゃねぇだろ?」
「デザイナーベイビーって知ってる?」
クリスは突然言われたその単語に眉を歪ませる
「それって確か強化人間とか人造人間の類…お前まさかっ!?」
「うん、僕はそうなんだ」
「嘘だろ…いやでもそれと何が関係…」
「僕には産まれる時点で母親がいなかった、それに、父さんは大罪を犯した人で僕を生み出したのにも自分じゃ成せないことをさせるため、だから僕はこの手で…父さんを…」
殺さざるを得なかった…その一言が言えなかった
けどクリスは分かってくれたようだ
「なんだよそれ…」
「これが僕の空虚、そして苦しさは、自分の意思でヒーローとして戦ってたと思ったのに、それ自体が父さんの目的で、僕さえいなければ街は被害を出さずに済んでいたって事実…」
「じゃあお前は…自分自身の体に、刻まれた遺伝子に裏切られたって事かよ!?」
ここまで悲しい結末を持つ人間は、なかなか居ないだろう
僕自身恨んだ事があるくらいだから
「分かんねぇよ…じゃあなんで、絶望しなかったんだよ!?あたしは全てを怨んだ!争いを生むような力を持つ奴らなんて潰してやるって思ったのに…どうして…」
答えは出ている
【〜♪GEEDの証 感動】
「仲間がいたからかな」
「はぁ……?」
「僕の事を信じてくれた沢山の仲間、友達、僕の事を育ててくれた人、僕に名前をくれた人、そういう人達を守りたい、みんなと一緒に生きていきたい、そう思ったから僕は何度も立ち上がれた」
「…あいつが、覚悟を決めたみたいにか……?」
「…うん」
力を持って為せることは限られる、彼女にはそれを振るうのではなく、守る為に使って欲しい、そういう思いからの言葉だった
「…少し待ってて欲しい…一つだけケジメをつけたら、お前達についてってもいい」
「ほんと!?」
「ああ…って勘違いすんな…ほら……っと、パンと牛乳の礼だ!」
「ふふ、分かった!じゃあ…これ持ってて」
僕は自分の渡された通信機を渡す
「へ?」
「もし助けが必要なら連絡して、必ず行くから」
「…分かった、お前名前は?」
「…僕はリク、朝倉リク!」
クリスはポケットに通信機を入れて歩き出す
「…ほんとに必要な時だけ…するよ」
「分かってる、気をつけて」
クリスは何も言わず歩いていった
【次の日】
僕は帰る時、未来に事情を説明しないとと思い、帰りを一緒にしてもらった
「えっと…今まで、嘘ついてごめんなさい」
「…」
未来はずっと黙ったままだった
仕方ないだろう、親友と思っていた大切な相手は、夜な夜な命をかけて戦い、親戚と思ってた人物は全く関係の無い相手だったのだから
実は響との関係がギクシャクしていることも聞いた
友達じゃ居られない、と、もうどうしたらいいのか分からないと響から相談を受けた
「…響もこの事を伝えたかったんだよ、けど、未来にまで危険が及ぶ可能性もあって、響もそれだけは避けたかったんだって、未来なら分かるでしょ?!」
「…なんで、響なの」
「え?」
「なんで響じゃないといけないんですか!なんで響が戦わないといけないんですか!?これも全部…私のせいなんですか!」
未来の目には涙が溜まっていた
響がガングニールの破片を受けたライブ、本当はあの時未来も居るはずだった
だが用事が入り行けなくなってしまい、結果、響はガングニールを受け継いでしまった
彼女が責任を感じるのも分かる
だが、戦い自体は響は覚悟をしてしまった
それに翼さんの言っていた
響の前向きな自殺衝動
それを未来が分からないはずがない
それらの事象が未来を不安にさせて居るのだろう
僕は、何も言えなくなってしまう
その時だった
路地からガタッと音がした
僕は反射的に未来の前に立つ
そこに居たのは……
クリスだった
「クリス!?」
「よぉ…よく会う…な…」
クリスはそれだけ呟くと倒れてしまった
「ん……く…はっ!?」
飛び起きるクリス
そんな彼女の視界に最初に映ったのは、知らない部屋だった
「ここは?」
「良かった。目が覚めたのね」
呟く一人の少女
「びしょ濡れだったから、着替えさせてもらったわ」
気付けば、今の自分の服は誰かの体操着だった
「か、勝手な事を!」
だが、一方のクリスは好き勝手された事に気が付いて声を挙げ、立ち上がった
が、問題は立ち上がった時だった
「あ…」
突如として目の前の少女が顔を赤くする
そして、その反応に疑問を持ったクリスは、すぐに自分が着ているのが上半身のものだけというのに気が付いた
「な、なんでだ!?」
「流石に下着の替えまではもってなかったから…//」
クリスはすぐさま布団にくるまる
『あれ、そういやアイツは…』
「未来ちゃん」
そこで新たに中年の女性が入ってくる
その後ろから、洗濯籠をもってリクが着いてきている
「どう?お友達の具合は?」
「目が覚めた所です」
「ありがとうおばちゃん、布団まで貸してもらっちゃって」
「気にしないでいいんだよ、あ、お洋服、洗濯しておいたから」
「あ、私手伝います、リク君はこの子の面倒を…」
「うん、分かった」
「悪いわね~」
「いえ」
なんだか一気に話が進んでしまった
「具合はどう?」
「どこなんだよここは!?」
「未来の行きつけのお好み焼き屋のおばあさんの家、いやー良かったよこういう所があってさ」
「……」
クリスのすぐ傍に座り、リクが改めて尋ねる
「それで具合はどうなんだ?」
「とりあえず…」
「…あんなになるまで連絡しないなんて…」
「そういや、アイツは……」
「ああ、小日向未来って言ってね、友達だよ」
「友達…」
ふと、ベランダで服を干している未来を見る
しばらくすると、服を干し終えたのか、未来たちが戻って来た
「それじゃあ、体を拭こうか」
「拭く?」
「体、汚いでしょ?だからね」
どこからともなく桶とタオルを持ってくる未来
「ほらほら男の人は出てって出てって」
「分かってるって!」
リクが外に出るとタイミング良く腹の虫が鳴る
「あっ」
「アハハ、お腹が空いてるんだね」
そこでお好み焼き屋のおばさんがやってきた
「ついてきなさい、今からご飯、作ってあげるから」
「本当ですか?!ありがとうございます!」
「いいよ、食べなきゃいざって時に力が出ないからね、それに孫に似てるんだよ」
そう言っておばさんは階段を下りていき、リクは嬉々としてその後をついていくのだった
【数分後】
「喧嘩かぁ…」
リクが部屋の隅でパッケージに入れられたお好み焼きを食べているのを他所に、いつもの赤いドレス姿に着替えたクリスは呟く
「アタシにはよくわからない事だな」
「僕は色々あったな…」
「そうなのか?」
「まあね」
「羨ましいかもな、友達いねぇから」
「え……」
未来が、茫然と声を漏らす
「地球の裏側でパパとママを殺されたアタシは、ずっと一人で生きてきたから…友達どころじゃなかった」
忘れもしない、あの日の事
「そんな…」
「たった一人、理解してくれると思った人も、アタシを道具のように扱うばかりだった、誰もまともに相手にしてくれなかったのさ」
憎々し気に、クリスはあの頃の事を思い出す
「大人は、どいつもこいつもクズ揃いだ、痛いと言っても聞いてくれなかった、やめてと言っても聞いてくれなかった、アタシの話なんて、これっぽっちも聞いてくれなかった…!」
泣き喚けば叩かれた、泣くことすら許されなかった、
それは、まだ幼かったクリスにとっては、地獄以外の何者でもなかった
クリスにとっては、そのころの記憶が全てだった
「……戦争、か……」
「なんだ?」
「いや、あまり実感わかないなって…」
「そりゃそうだろ、お前はあたしなんかよりも重い過去持ってんだから…」
クリスの過去も十分過ぎる程重い
でもそれよりも重いこの青年の過去とはなんなのだろう
その空気に、未来はいたたまれない様子になる
「…なぁ」
ふと、クリスが口を開ける
「お前、その喧嘩の相手ぶっ飛ばしちまいな」
「え?」
「どっちが強ぇのかはっきりさせたらそこで終了、とっとと仲直り、それでいいだろ?」
「それってあの時の…」
「うるせえ」
黙らせられたリクは未来を見る
「……出来ないよ、そんなこと……」
一方の未来は、顔を曇らせてうつむく
「ふん、わっかんねーな」
「でも、ありがとう」
「ああ?アタシは何もしてねーぞ?」
それに、未来は首を振る
「ううん、本当にありがとう、気遣ってくれて…あ、えーっと…」
ふと、未来はそこで戸惑う
未来は、まだクリスの名前を知らないからだ
「クリス…雪音クリスだ」
「優しいんだね。クリスは」
未来の言葉が予想外だったのか、クリスは驚き、やがて未来に背中を向ける
「…そうか」
「ふふっ…」
「何笑ってんだよ!」
リクが笑い、クリスがそれに怒鳴るも、未来は笑う
「私は小日向未来、もしもクリスがいいのなら……」
未来は、クリスの手を取った
「私は、クリスの友達になりたい」
「……!?」
その言葉に、クリスは思わず未来を見返してしまう
だが、クリスはその手を振り切って、部屋を出ていこうとした
だが、ふと立ち止まり、口を開く
「アタシは…お前たちに酷い事をしたんだぞ…?」
「え?」
その意味が理解出来ず、首を傾げる未来
だがその時、けたたましく警報が鳴り響いた
ノイズだ
「翼です、立花も一緒にいます」
「ノイズを検知した、相当な数だ、おそらくは、未明に検知されていたノイズと関連がある筈だ」
「了解しました、現場に急行します!」
「ダメだ、メディカルチェックの結果が出ていない者を、出す訳にはいかない」
「ですが……」
翼は歯痒そうにしているが響は拳を握った
「翼さんは皆を守ってください、だったら私、前だけを向いていられます」
響は、翼に自信満々にそう言ってのけた
彼女もどうやら別の覚悟を決めたようだ
そして、呼応するように怪獣が現れた
それも召喚獣ではなく
ベリアル融合獣、ペダニウムゼットンが
街はまさしく混乱の最中にあった
「おい、なんの騒ぎだ……」
「何って、ノイズが現れたのよ」
「ッ!?」
「警戒警報しらないの?」
今までフィーネと行動を共にしていた為、クリスにはそんな事知る由もない
「未来は叔母さんを連れて逃げて!」
リクは人々の向かう方向と逆に走り出す
「えっ、リクくん?!」
「ッ……!」
「クリス!?」
さらにはクリスまでもが追いかけるように走り出した
『馬鹿な…アタシってば…何やらかしてんだ!』
視界の隅、小さなぬいぐるみが踏みつけられるのが見えた
『くそったれ……!』
リクを追いかけて走っていると、すっかり人のいなくなった場所に辿り着く
リクは怪獣を見据える
「よりにもよってアイツか……!」
「はァ…っ…はぁ…」
膝に手をついて、呼吸を整えるクリス
「アタシのせいで…関係ない奴らまで……」
それが、無性に申し訳なくて、悔しくて、クリスは空に向かって叫ぶ
やがて、クリスは膝をついて、残酷なまでに青い空を見上げた
「アタシのしたかった事はこんな事じゃない…いつだってアタシのやる事は…いつもいつもいつも……!う…うわあ…ぁぁあ……!!」
「何を言っているんだい?」
不気味な音と共にそいつは現れた
「これが君のやりたかった事だろう…弱者を踏みにじる…というね」
「違う!私は…力で…強い力で争いを起こす奴を…」
「踏みにじる…だが君に負ければ結局は弱者だ…そういう奴らを踏みにじってきたんだよ…
それに、気付いて無いのかい…強い力で争いを起こす奴に…
クリスはまた新たに絶望を味合わせられた
そう、結局弱い奴らを踏みにじり、争いの火種を作る存在に、自分自身がなっていたことに
「う、うわぁぁぁあぁあああああああっ!!」
クリスは泣き叫んだ、結局自分のやってきたことは忌み嫌う大人と同じ事
それに気づかされてしまった
「ふふふっ、ハハハハッ!うがァっ!?」
高笑いを浮かべるトレギアをリクが殴り飛ばした
「やっぱりお前は許せない、人の心を弄んで!」
「チイッ!」
トレギアは再び消えていく
リクはクリスの肩を揺さぶる
「クリス!」
「…殺してくれ…リク…」
「!!」
「もう…私なんか…居ない方が平和になる……頼むよ…いっそ…ツッ!?」
クリスは思ってもみなかった衝撃に襲われる
リクがクリスを平手打ちしたのだ
「ごめん…でも馬鹿な事言うなよ!!!君はどうして力を持つものを踏みにじろうとしたんだ!君はどうしてそれを行おうとしたんだ!!」
「それは…私が…弱者を」
「違う!自分と同じ気持ちを他の子に感じさせたくない!だからじゃないのか!?親の居ない気持ちが痛いほど分かるから、あの時一緒に父さんを探してあげたんだろ!!」
クリスは泣きながら叫ぶ
「でもそれだけだろっ…!私がしてきた事なんて、誰も間違ってるなんてっ…教えてくれなかった…!」
「ならこれからは僕が教える!僕が支える!君が挫けそうな時は僕が!だから…生きて…一緒に戦おう…クリス…!ジーッとしてても…ドーにもならないから!」
これが他の大人だったら信じられなかっただろう
だが、他の世界から現れ、敵として立ちはだかった癖に、どこまでも自分を心配してくれた、似た境遇の彼なら信じられる
そんな気がした
クリスは…涙を拭い立ち上がった
リクも立ち上がる
「アタシはここだ…だから、関係ないの奴らの所になんて行くんじゃねえ!」
それと同時に、ノイズが襲い掛かる
「Killter Ichiva……げほっ、ごほっ……!?」
「くっ…この勢いじゃフュージョンライズできない…!」
聖詠を唱えようとした途端、まだ呼吸が整ってないからかむせてしまった一方のリクも意外にもノイズの攻撃が激しく、隙が出来ない
その最中で、上空からノイズが強襲してくる
「……!?」
「危ない!!」
上空から襲い掛かるノイズに、リクはクリスを庇うように抱える
「あ……」
上空から槍のように襲い掛かるノイズ
それに背を向け、リクは胸にクリスを抱えて、そのノイズの攻撃から庇おうとする
「リ……」
「ふんっ!」
次の瞬間、突如としてアスファルトがせり上がり、それが盾となってノイズの攻撃を阻止した
「はっ!」
すかさずそのアスファルトが砕け散り、散弾の如くノイズに浴びせられる
それを行ってのけたのは……
「弦十郎さん!?」
風鳴弦十郎だ
アスファルトは震脚でめくり取り、砕くのはただの拳打
それだけでも、彼が人間離れしているのは窺い知れる
「いやいやいやいやいや!??えええぇ!?」
驚きを隠せないリクを他所に、ノイズが再度三人に向かって攻撃をしかけた
それを震脚でめくり上がらせたアスファルトで防ぎ、弦十郎はリクとクリスの二人を抱えて建物の屋上へ向かう
「大丈夫か?」
「えっ、あっ、はい」
「……」
弦十郎の人間離れした所業に未だ茫然としているクリス
「それと…いつまで抱き合ってるつもりだ?」
「は?」
「へ?」
何やら言いにくい様子でそう言ってくる現状に指摘されて、二人は改めて、互いに抱き合っている事に気付く
「な……離れろ馬鹿!?」
「いった!??」
何故か鉄拳がリクの胸に炸裂した
「何するんだよ!?」
「うっさい!さっきの返しだ!!」
何故殴られたのか分からないリクと顔を真っ赤にしてそっぽを向くクリス
そこで、飛行型のノイズが三人を追いかけるように飛び上がってきた
「こっちは任せろ…お前とならやれる気がする…!」
「分かった…怪獣は任せて…ジーッとしてても…ドーにもならねぇ!」
ウルトラマンジード!!
プリミティブ!!!
Killter Ichaival tron……
地面に降り立つジード
弦十郎を守るように立ったイチイバルのクリス
2人はお互いを見ると自分にしか倒せない敵に向かっていく
「デヤァッ!」
ジードはお得意のジャンプニーキックを繰り出した
だがペダニウムゼットンの特徴は強固過ぎる防御力だ
逆にこちらの膝を痛めてしまった
更には
ペダニウムゼットンが突然消えたかと思うとその姿は死角に現れ、火球を打ち出した
背中側にまともに食らってしまい、そちらを向くがまたその姿は消えている
そう、テレポーテーション能力
これを打ち破るに最適なのは、強固な防御力と重いパワーを誇るマグニフィセント
だが、発動条件が厳しすぎる
リクはせめてもの足掻きでソリッドバーニングへとチェンジしなんとか持ちこたえる作戦に出た
その頃、未来は片側が崖の下り坂に向かって走っていた
危険とわかっていても、誰かの為を辞められない響を助ける為、未来もまた戦っているのだ
だが、その足にも限界が来ていた
『もう……走れないよ……』
走って走って、疲れ果てて、怪獣と巨人の戦いの衝撃もあり、未来はとうとうその場に崩れてしまった
その背後から、タコ型ノイズが迫る
『ここで、終わりなのかな……』
迫るノイズを見て、未来はそう思ってしまう
『仕方ないよね……響……』
ノイズが飛び上がる
『だけど……』
ノイズが、落下してくる
未来が、再び立ち上がる
『だけど……!』
理由は、単純
『まだ響と流れ星を見ていない!』
果たしていない、約束の為!
そして響もまた、自分の守るものの為に飛んでいた
『戦っているのは私ひとりじゃない、シンフォギアで誰かの助けになれると思っていたけど、それは思いあがりだ…!
助ける私だけが精一杯なんじゃない、助けられる誰かも……一生懸命…!』
2年前の出来事が頭を過ぎる
《生きるのを諦めるな!》
『本当の人助けは自分一人の力じゃ無理なんだ、だから…あの日、あの時、奏さんは私に…生きるのを諦めるなと叫んでいたんだ!今ならわかる気がする…!そして……』
未来の元に向かいながらジードを見る
『リクくんが怪獣と戦って助けてくれている、私達がノイズと戦ってリクくんを助けている!』
未来の姿が見えた
響はガジェットを操作して拳を構える
『そうだ…私が誰かを助けたいと想う気持ちは、惨劇を生き残った負い目なんかじゃない…!二年前、奏さんから託されて、私が受け取った……命なんだッ!!
だから私はそれを…未来の、リクくんの、翼さんの、クリスちゃんの、皆の……
そして……私自身の
響は思い切りノイズに向かって振りかぶった
ノイズは炭素となり、爆発四散した
そして、宙に投げ出されていた未来を救い、パイルバンカーを起動して着地の衝撃を殺した…はずだったが勢いあまりそのまま土手を転がり落ちてしまった
転がりきった後には制服姿の二人の姿があった
「ぁーーいてて…!ぁぁ…」
「ああ〜…痛い〜…」
沈黙が流れた
「あはははは!
「うふふふ!」
そして、2人は笑い合う
「かっこよく着地するって難しいんだなぁ…」
「あっちこっち痛くて…でも生きてるって気がする、ありがとう、響なら絶対に助けに来てくれると信じてた」
「…ありがとう、未来なら絶対に最後まで諦めないって信じてた、だって、私の友達だもん…!」
友達…その言葉が未来の心に突き刺さり、緊張の糸がほぐれた
「…!ぅぅ…うわぁぁぁん!」
未来は響に抱きついた
「うわぁぁぁっとっとぉ!」
「ぅぅ…怖かったぁ…怖かった…!」
「私も、すごい怖かったぁ…!」
未来は胸の内を打ち明ける
「私…響が黙っていたことに腹を立ててたんじゃないの、誰かの役に立ちたいと思ってているのは、いつもの響だから……でも、最近は辛いこと苦しいこと、全部背負いこもうとしていたじゃない…私はそれがたまらなく嫌だった…!また響が大きな怪我をするんじゃないかって心配してた…!だけど、それは響を失いたくない私の我がままだ…!そんな気持ちに気づいたのに、今までと同じようになんて出来なかった…!!」
「未来…それでも未来は私の…」
「ドゥァアッ!?」
突如ジードの悲鳴が聞こえ衝撃が走る
「っ!リクくん!」
「へっ、あれリクくんなの!?」
未来は困惑した様子だ
「響っ…仲直り…出来たんだねっ…」
こんな時だと言うのにリクは響と未来の心配をしている
そんなリクに響は声をかける
「リクくん、私の新しいフォニックゲイン受け取って!」
響は拳の中に眠っていた紫色の光をジードに向かって投げた
ジードはカラータイマーからそれを受け取る
「紫…つまり…!」
リクはカプセルを取りだし光を吸収した
今最も欲しかった希望のカプセルが起動した
「ジーっとしてても、ドーにもならねぇ!」
【〜♪優勢2】
融合!
スイッチを入れると、僕の師匠として、いつも助けてくれた父さんの宿敵、ウルトラマンゼロが現れる
「シェェヤッ!!」
それを確認し、カプセルを腰の左側の装填ナックルに填める
アイゴー!
それから現れたのは僕の父さんのライバルで、光の国の大隊長、ウルトラの父
「ジェアアッ!」
それも装填ナックルに填めると、ジードライザーのトリガーを入れる
HERE WE GO!
装填ナックルを外しジードライザーで読み込むと、心臓の鼓動のような音と共に、二重螺旋が水色と緑色を彩る
フュージョンライズ!
「守るぜ!希望!!」
僕はジードライザーを構えると再びトリガーを引いて叫ぶ
「ジィィーードッ!」
ウルトラマン、ゼロ!
ウルトラの、父!
ウルトラマンジード!!
マグニフィセント!!
【〜♪ウルトラマンジード マグニフィセント】
ドッシリと構えたその姿
鎧を着込んだように見え、さながら頭部は知らない人からすれば牛の形のカブトを被っているような姿になった
ウルトラマンジード、マグニフィセント
僕は改めてペダニウムゼットンに向き合う
ペダニウムゼットンは真正面から火球を打ち出した
僕はそれを拳ひとつで無効化した
「強い…」
響や未来もその姿に見惚れている
真正面からがダメならとペダニウムゼットンはテレポーテーションで色んな方向から火球を打ち出してくる
僕は敢えてそれを受け続けた
幸い強固な鎧のお陰で先程のようなダメージは無い
そして、火球の爆発で煙が巻き起こり僕の姿が相手から消えた
さぁ…反撃開始だ!
【〜♪優勢1】
僕は頭部のツノからエレクトリックホーンを発動し、緑色の電撃を空中全方向に繰り出した
するとペダニウムゼットンにあたり、その体が痺れ始めた
僕は相手の方に飛び出すと右、次は左、そして、両腕でと連続パンチを繰り出した
ペダニウムゼットンもさすがにフラフラで火花が起こっている
「よーし!いけぇ!」
響の声が聞こえる
僕は拳と拳をうちつけそれを少しずつ開く
緑色のエネルギーが溜まっていく
そしてそれをL字に腕を組み、一気に解き放った
「ビッグバスタウェイ!!」
緑色の光線はペダニウムゼットンのバリアを打ち破り、しばらく本体を焼いた後、爆発四散させるのだった
「やった〜!リクくんが勝った〜!」
響が飛んで跳ねて大喜びしている
「響、あれ、なんていう名前なの?」
「あれはね、ウルトラマンジードって言うんだよ!」
「ジード…ジード!!」
僕は未来と響の方をむく
「…色々言ってごめんなさい!貴方に当たっても、何も解決しないのに、私…!」
僕は近付いていき、膝を立てる形で座った
「大丈夫…気にしてないよ、仲直りできてよかったね、響、未来」
「よーし!記念に写真撮ろう!」
「え?今?!」
「今だからだよ!はい寄って寄って!いくよ〜はい、チーズ!」
僕も範囲に入っているのですかさずピースを取った
そして、撮影が終わったあと、僕は空へと飛び立った
「まだ…すげぇ力を持ってんだな…でも、それを守る為に使ってる…」
クリスはまっすぐに誰かのために力を使えるリクを少し羨ましく思いながらマグニフィセントを見送り、歩いていった
【次回予告】
【〜♪優勢1】
クリスはまた姿を消してしまった
でもその心は少しずつ開いていけてるはずだ
そんな最中、僕は響、未来、翼さんとデートをする事に?!
なにこれ、どういう事?!
そして、後日僕は翼さんのライブを初めて見ることに、その会場は、全ての始まりの会場だった
次回、戦姫絶唱シンフォギア 響くぜ!絶唱!!
「防人の始まりの歌」
「私はこんなにも、歌が好きだったんだ」