諦観するのはもうやめた   作:万能型蛮族

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(26)動揺、不安、思案

 正直、動揺は俺もしている。

 単なる学生の身で背負うには

 あまりにも重すぎる役目だ。

 どうすればいいのか、

 何をすればいいのかすら不明となれば

 ダイチや新田さんのようになるのも

 無理はないし、実際俺だってそうしたい。

 だが、こうも思う。

 

 ────逃げてどうなる? 

 誰かがやってくれるのを待つのか? 

 ただ怯えて復旧を待つのか? 

 違うだろう。俺はそうじゃない。

 ()()()()()

 俺には(悪魔)がある、知恵(死に顔動画)がある。

 この力(Nicaea)は何故手に入れた。

 生きる為であり、逃げる為じゃない。

 

 会議室の椅子から立ち上がる。

 迷いを断ち切ると心が少しだけ軽くなる。

 絶望して逃げる以外にやる事はある。

 まずは、仲間を探すところから。

 

 ☆

 

 なんば、OCUT広場。

 思わず会議室から駆け出してしまい、

 戻ろうに戻れず、俺は途方に暮れていた。

 

 正直な話、あれが本当に起きたことだってのは理解している。しかし……

 

「信じたくねぇよ、なぁ……」

 

 明確な考えはなかったが、

 なんとかなると思っていた。

 いつか日常に戻れると思っていた。

 結局は、その考えが甘かったんだろう。

 あの映像を見てそんな考えは打ち砕かれた。

 

 あいつ(響希)の顔が思い浮かぶ。

 アイツはあの映像を見ても、

 表情ひとつ変えずに次に自分が

 どうすればいいのかを考えていた。

 

 なんでそんな事が考えられるんだ。

 歳も住む場所も同じで、なんで。

 そう思うと、途端にあの場から逃げた

 自分が滑稽に見えて来る。

 

 お前なら一人で世界でも何でも

 救えんじゃないのか。

 そんな馬鹿げた事でさえ、

 今はアイツならやれるんじゃと思える。

 嫌な考えだけが延々と頭を巡り、

 つい、口に出してボヤいてしまう。

 

「俺って……要るのかな……」

 

 そう呟いた瞬間、体が浮いて飛ばされる。

 何が起きたのかも分からず、

 無様に地面を転がる。

 肩が熱い、転がった時に切ったのか口の中に血の味がする。

 ……襲われたのか? 

 そう自覚した瞬間に肩に痛みが走る。

 

「痛ってぇ……! な、なんだよ!?」

 

 バッと顔を上げ、

 何が自分を殴ったのか確認すると、

 更に頭に衝撃が走る。

 身体が強制的に吹き飛ばされ、

 目の前が白くなりかける。

 辛うじて見えるのは緑色の肌をした鬼。

 

 ────オトコか……

 まァ、ハラのタシにはなるか

 

 肌を刺すような強烈な殺気。

 歪な音が無理矢理声として

 聞こえているかのような声。

 

 殺される。死ぬ。誰か、誰か。

 震える四肢を無理やり動かして

 這いずるように逃げようとするが、

 直ぐに距離を詰められ、

 首を掴まれてしまう。

 

 ────目を覚ませ。

 

 恐怖と息苦しさでもがく中

 声が聞こえた気がするが、

 再び顔を殴られ気にする暇もない。

 幸い呼吸はしやすくなったが、

 絶望的な状況には変わりない。

 

 ────ナンダぁ? ヤケにシブトいな……

 ヨワっちいニンゲンのクセに……

 

 殴り飛ばされて距離が離れたのか、

 先程よりは遠くから鬼の声が聞こえる。

 

 ────死ぬぞ、いいのか? 

 

 荒く息を吐きながら鬼とは別の声を聞く。

 

「死ぬ……? 嫌に、決まってるでしょ……」

 

 辛うじて声が出る事に、自分でも驚く。

 生き汚ねぇなぁ、と苦笑すら漏れてくる。

 

 ────ならば呼べ、我が名を。

 お前に『生きる意思』があるならば……

 力が足りぬと言うのなら、俺が力を貸そう。

 

 ここまで来て、語りかけて来る声は

 明確に聞こえるようになる。

 聞き覚えのある堅苦しい男の声。

 

「あぁ……そうだよなぁ……

 そうだった……悪ぃ、忘れてた……」

 

 勝手に落ち込んで……自棄になってた。

 自分に何ができるかとうじうじ悩んで、

 相棒(お前)を忘れていた。

 

「ぶちかませよ……ハヌマーン!」

 

 ────お安い御用だ! 

 

 ────ナニ……!? 

 

 ドカッという鈍い殴打音と共に

 ハヌマーンが悪魔を殴り飛ばしていた。

 緑色の鬼は拳がクリーンヒットしたのか、

 その一撃をまともに受けると動かなくなり、体の末端から光の塵へと変わっていく。

 

「ゲホッ、ゲホ……」

 

 ────……軽傷だが、少し動くなよ。

 

 ハヌマーンの手から風のように流れた

 淡い緑の光が殴られた箇所に触れると、

 微々たる速度ではあるが傷が治っていく。

 

「ふぃ〜、結局なんだったのか

 よく分かんねぇけど……助かったわ」

 

 ────治療は不得手でな。

 これくらいしか出来ん。

 後で新田とやらに見てもらえ。

 

「おう、そうするわ……あと、ありがとな。

 お前のお陰で……覚悟、決まったわ。

 こうやってクヨクヨしてたって仕方ねぇ、

 やるだけやってみよう……ってな。

 ヒビキとかにも謝んないと」

 

 ────その意気だ。

 また力が要るなら呼べ。

 

「おうっ……!」

 

 不思議と先程まで悶々としていた心が

 霧が晴れたようにスッキリとしていた。

 足乗りは来た時よりも軽く、

 志島大地は新世界へと戻る道を進んだ。

 

 ☆

 

 なんば、戎橋。

 新田維緒は自分が大阪に来て

 訪れた場所を何となく見て回っていた。

 

 自分が思っていたより、

 この災害の被害は大きかった。

 決してこの災害に対して

 楽観視していた訳では無いが、

 頭の何処かいずれ終わるものだと

 思っていたのは確かで。

 今日ここに来て、

 それが終わりの見えないものだと

 ハッキリと自覚させられた。

 

 もしかしたら今も友達や家族が、

 苦しんでいるかもしれない。

 そう思うと、胸が苦しくなる。

 

「何でこんな事に……

 なっちゃったんだろう」

 

 声に出しても仕方ないこと

 だとは分かっているけれど、

 何か作為的なものがあるのでは

 ないかと疑ってしまうほど現状は厳しい。

 

「自衛隊とか、警察とか……

 今は全然頼りにならないんだよね……」

 

 唯一この事態に対応出来るとするならば、

 やはりそれは悪魔を扱えるジプスだろう。

 しかし、どうしてもジプスに対しては

 疑いが拭えない。

 

 確かにマコトや自宅へ送ろうとしてくれた

 局員とは話をして、いい人だとは思う。

 でもジプスという組織、言ってしまえば

 峰津院大和の方針には何か裏が

 あるように思えてしまう。

 

「峰津院さんは、何かを隠してる……?」

 

 ジプスという組織全体で見れば、

 やっている事は人命救助や悪魔の討伐等、

 一般人にとってはありがたい行為だ。

 峰津院大和がジプスという組織の舵取りをしている以上、災害からの回復がジプスと峰津院大和の目的と考えるのが普通だ。

 

(大阪に行くって話になった時、

 峰津院さんは会議に行くついでとは

 言っていたけど、私達に災害の原因を

 調べさせる理由は何……?)

 

 少なくとも調査では無いだろう。

 学生と会社員だけで集められるような

 情報は局員が既に集めているだろうし、

 何よりあの映像をヤマトがあの場で

 初めて見た……なんて事は考えにくい。

 

「でも……今は、協力しないと」

 

 全面の信頼は置けなくても、

 ジプスが人助けをしているのは事実。

 考えなしで進む訳には行かないが、

 考えすぎで進まない訳にも行かない。

 

「ただ待ってても、

 この状況は変わらない……」

 

 だから、私も動こう。

 胸に渦巻く不安は未だ消えないが、

 前は向けるようになった。

 

 ジプスへ向けて足を進める。

 

 ☆

 

 アメリカ村、三角広場。

 秋江譲は階段に座り、

 ぼんやりと空を眺めていた。

 

 名古屋が崩壊していると言うのは、

 街並みを見て薄々気付いていた。

 確認する手段が無かった……

 いや、ヤマトに聞く機会はあった。

 結局今回も、目を逸らしていたという事か。

 

「ははっ……変わらないな、俺は」

 

 軽口を叩いても、思考は止まらない。

 この状況が名古屋にも

 広がっているとしたら、

 入院している彼女はしっかりとした

 治療をいつまで受けていられるだろうか。

 

 停電、薬の不足、病気の悪化。

 この災害が続く程に彼女は苦しむだろう。

 過去の自分を殴りたくなってくる。

 どうして名古屋に残らなかったんだと。

 今まさに苦しんでいるかもしれない

 彼女に付き添えない事が、

 何よりも腹立たしい。

 

「……戻ろう。そして、聞くんだ」

 

 ヤマトに名古屋行きを志願すれば、

 まだ何もしないよりは可能性がある。

 待っているだけでは、ダメだ。

 人に任せるだけだったら、

 本当に死んでしまう……俺も、彼女も。

 階段から立ち上がり、

 ジプスへ帰る道を進む。

 

 ☆

 

 新世界、ジプス本局。

 

 会議室での出来事の後、

 局長室で書類を片付けていると、

 軽くノックがされる。

 

『お仕事中失礼……水神です』

 

 水神茂久。

 私の補佐として交渉面を

 担っていた優秀な部下であり、

 嘗て自分の息子の為に

 ジプスへ反旗を翻した男。

 

 全ての目論見が失敗に終わった後、

 私の目前で自殺を図ったが……

 現在は元の補佐の位置へ戻っている。

 

「開いている……入れ」

 

 キリがいいところで仕事を切り上げ、

 入室の許可を出すと、

 水神は慣れた動作で入室してくる。

 

「聞きましたよ、

 彼らに各地の映像を見せたそうですね?」

 

「……答え合わせにな」

 

「またまた……人が悪い貴方のことだ。

 精神的に現状を突きつけて耐えられるか

 試した面もあるのでしょう?」

 

「否定はしないがな、必要な事だ」

 

「あんまりでは無いですか? 

 あの年齢の子供には余りにも酷だ」

 

 思わず手が止まり、

 部屋の中から音が消える。

 

「死んだ息子の影を重ねでもしているのか

 知らんが……ジプスに所属した以上、

 この程度の同様で使い物に

 ならなくなるのは困るのでな」

 

「……八生の事、

 まだ覚えていらっしゃったんですね……

 てっきりもう忘れしまっているものだと」

 

「……フン。

 悪魔が憑依したという珍しい事例だ……

 そうそう忘れられるものでもないだろう」

 

「まぁ……そうですね……彼らと

 八生を重ねてしまっているのは事実です。

 ですがあの年代の子は精神的に不安定だ。

 あまり重圧を加えると……壊れますよ」

 

 貴方が例外なだけです。

 と言い残し、水神は背を向けて退室する。

 

「……心得ているとも。

 だが、今必要としているのは……

 その重圧を乗り越える人間なのだ……!」

 

 ヤマトの昂る感情に呼応するように、

 カタカタと部屋の小物が震える。

 

「壊れるなら壊れればいい……

 私の期待に応えられない人間はクズだ。

 久世響希……君はどちらだ?」




4000文字近くなので時間かかっちゃった

デビルサバイバー未プレイ者用に解説コーナーした方がいい?

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