サンシャイン栄。
ジョーが通りにある病院を見上げている。
佇むジョーに人影が近づき、ジョーも人影に気付くと軽く手を挙げて挨拶する。
「……やぁ。誰かと思えば君か。や〜……はは。ここにジプスはいないみたいだねぇ。……それじゃ、他の所を探してみよっか?」
誤魔化すように薄笑いを浮かべてこの場を去ろうとするジョーに、人影が問いを投げかける。
「……病院に用事でもあるのか?」
「あ〜……ソレね。はは、気になっちゃう? え〜っとね……実はさ、入院しててね、彼女。あの病院にいるんだけど」
「お前の彼女が……?」
意外そうな声色で人影が問うと、ジョーは照れくさそうに頬を掻きながら話し始めた。
「うん……そうなるねぇ。もう何年くらいになるだろ? 結構長い、かな。それでさっき、チラッと行って、様子を見て来たんだ」
「それで、どうだった?」
「あ、なんか大丈夫みたい。病院だから頑丈っぽいし、あの地震の影響は少ないらしいね。ここら辺は悪魔もまだ居ないって、看護師さんが言ってたよ」
「……彼女には会ってないのか?」
「あ〜、ははは。痛いとこ突くねぇ。会ってはないんだよ、彼女には。いや……ほらさ? 今、会っても逆にアレじゃない?
その、アレだよアレ。なんて言うか……さ?
ねぇ、分かるでしょ?」
途端にジョーは挙動不審になり、無理矢理誤魔化そうとしている……その様子を見て、人影が何かを言おうとすると、それを察したのかジョーが強引に話を切りあげる。
「まぁー一安心ってコトで……。
それじゃあ、行こうかな。はは……」
ジョーはそそくさとその場を立ち去った……。残された人影は暫く病院を見上げた後に、その場を後にした……。
☆
「一旦ジョーさんの事は置いといて……つまり、名古屋じゃ暴動が起きてたってワケか……それで名古屋支局を占拠されて、局員たちもバラバラになって……連絡がつかなくなった、と……これどうするよ、響希?」
……取り敢えず、その鳥居純吾って奴も探そう。今は戦力が欲しい。
「あ〜、そうだよな……あの様子だと暴徒ってあれだけじゃなさそうだし……ってなると、他のジプス局員も探した方がいいのか」
そうだな、名古屋が今どうなってるか……それが分からないと解決しようがない。
「え、ホントに? そうしてくれると助かるかな。私も探してみるから……! それじゃ!」
アイリはそういうと俺達が止める間もなく走り去ってしまう。
「……じゃあ久世くん。私達も行こう? 急いだ方がいいよ、きっと……」
……そうだな。
全員でその場を後にした……。
☆
名駅、ペルミナ。
ジョーが足を止め、地下街を見回している。人影が近付くと、ジョーは気さくに手を挙げて挨拶し、近くのベンチに来るように誘う。
「あぁ、君か。こっちは進展ナシだよ。
ん〜……ちょっと休憩しよっか。名古屋って久しぶりだからさ、つい見入っちゃうなぁ。ここも彼女と、よく来たもんだ」
「久しぶり? そうなのか?」
一人語りを始めるジョーに付き合って、人影もまたベンチに座った。
「そうそう、いっつも待ち合わせ遅れるから、よく彼女に奢らされたモンだよ。……あれ、言わなかったっけ? 俺、名古屋出身なんだよね。あんまり帰ってないけど、一応……」
「少なくとも俺は聞いていないな……」
他愛のないことを話していると、人影にとっては聞き覚えのない男性の声が、背後から投げ掛けられる。
「お、おい……ジョー? ジョーじゃないか!?」
ジョーに呼びかけた男性が駆け寄って来る。
「おお……? 誰かと思えば……カッチン!」
「お前……! 名古屋にいたのかよ! よく無事だったなぁ……!」
「や〜ちょっとね。カッチンも、よく無事で。こんな所で会えるとはねぇ」
男はジョーの友人らしい。お互い曇りない笑顔で再会を喜び合っている……。
「お前、東京で何してたんだ? 全っ然、連絡よこさないから心配してたんだぞ」
「メンゴメンゴ。仕事がバタバタしててさ〜。すっごい忙しいんだ、あの会社」
「……その様子じゃ、彼女とも会ってないんだろ?」
「あ〜、いや、まぁねぇ? 仕事がさ?」
彼女の事を聞かれると、ジョーは途端に目を逸らし始めてしまう。そんな様子にジョーの友人は溜息をつく。
「人づてに聞いたんだけど、だいぶヤバイんだって? 最近また体調崩したって……」
「は……? 体調を崩した……?」
再会の喜びで浮かべていた笑顔が崩れ、ジョーは驚愕に目を見開く。
「……? ジョー? お前まさか何も……」
「……え? あ……あ〜そうね。うん、大変なんだよ」
「……」
「いや〜でもアレだよ。何とかなるよ、きっと。これまでもそうだったしさ……」
「……お前が支えてやれよ。ずっと会いたがってたんだぞ。……じゃあ、もう行くわ。ちょっと人を待たせててな。また無事で会おうぜ……!」
ジョーの友人は何か言いたげにしていたが、本当に急いでいるらしく振り返りもせずにそのまま走り去っていった……
「……体調を崩した……?」
「……まさか、知らなかったのか?」
「あぁ、いや〜……。ちょっと聞いてなくて……ま、まぁ取り敢えず、カッチンが無事で良かったよ。それじゃ行こっか。はは……」
ジョーは一瞬だけ暗い表情を見せた……
☆
栄、センタリングパーク。
ジョーと鳥居純吾なる人物を探しに名古屋を歩き回っているが、手がかりや情報が微塵も無い為、捜索の結果は芳しくないと言わざるを得なかった。
「ジョーさん、見つからないね。こんなに広いんだもん、時間かかりそう……」
今は本人じゃなくて手がかりを探す為に行動した方がいいかもしれない、が……アイリから鳥居純吾の外見を聞いてなかったのは失敗だったな……
「そうだよなぁ……写真とかあるとないとじゃ、探す手間も段違いだし……いっそ今からアイリ探すかぁ……?」
と、相談しながら歩いていると、進む先が騒がしくなってきたのに気付く。それも物音などではなく、人間の怒声などが主だ。
「クソッ……何じゃあコイツ! 全員で囲まな!」
「……! 久世くん、行ってみよう?」
……そうだな、どちらにせよあの言い方だと1人を複数で叩いてるようだし……見過ごせはしないか。
「まぁ……そうなるよな。もし囲まれてるのが鳥居ってヤツなら助けなきゃなんないし……もしかしたらなんか話聞けるかも」
幸いにして、声はそこまで遠くではない。足早に怒声のする方向へ走る。
「……落ち着け、大丈夫だ! 相手は1人だけやがやっ!」
先程と同じ怒声の声の主が、暴徒と思しき仲間に指示を出している。囲んでいるのは学生服を着た大柄の少年。その頭には黒いニット帽が。
悪魔と悪魔使いに囲まれているも、その顔は焦りや絶望とは程遠く、どちらかと言えば悲痛な表情を浮かべていた。
「痛かったらごめん……!」
窶れたサラリーマン風の男に謝りながらも、その拳は正確に顔面を捉える。信じ難い事に、殴られた男はその衝撃のみで吹き飛ばされ……携帯を落とした。
「ぐぁ……! コ、コイツ、強い……。こりゃいかんてぇ……!」
受けた一撃で鼻血が出たのか、鼻を抑えながら男は携帯も拾わずに尻尾を巻いて逃げ去った。
「アラハバキ!」
一瞬の逡巡を見せつつも、男が落とした携帯を踏み潰した少年がその名を叫ぶと、青銅色の土偶のような姿をした悪魔が召喚される。
────…………。
アラハバキと呼ばれた悪魔はその姿に似合わぬ俊敏性を発揮し、背後から忍び寄る悪魔に向き直る。察知された事に戸惑う悪魔はその場を離れようとするも、足が動かない。当惑しながら自らの足を見ると、急速に足元から肉体が氷結し始めている。それから間を置かず、アラハバキは抵抗の一切を許さずに悪魔を氷像へ変えてしまった。
少年は労うようにアラハバキ向けて頷くと、再び悲痛な顔をしながら氷像となった悪魔へ拳を叩きつけた。悪魔はそのまま氷片となり砕け散る。
「ひぃっ……わ、私も逃げなきゃ……!」
氷片となった悪魔の主は顔を恐怖に染めながら一目散に逃げていく。最終的には怒声を上げていた男が一人残り、苦々しげに舌打ちをする。
「あ……たわけ! こんなガキ相手に逃げるなて……!」
少年はその様子を気にもとめずに、いつの間にか女性が落としていた携帯を踏み潰し、暴徒の男へ向き直る。
「うっ……。この野郎……! これで勝ったと……」
流石に不利を悟ったのか後退りをし始める男は、少年の背後を見てニタリと凶悪な笑みを浮かべる。
「……おぉ〜い、こっちだ! おみゃーら、助けてくれ〜!」
「おぉ、ジプスがおるんか! 俺たちに任せとけ!」
更に一人、男の仲間と思しき暴徒が現れる。少年はそれでも余裕を持ち、油断なく拳を構えている。
「……また来た? でもジュンゴ、負けないよ」
「……! 聞いたか? いま、ジュンゴって……!」
「う、うん……でも、すごい。あんな数相手に1人で立ち回ってる……」
だがこのまま見てる訳にも行かないだろ、助けるぞ。
「え、あ、そっか。うん……!」
と、ここで油断なく辺りを見渡していたジュンゴが、こちらの姿に気付き声を投げかけてくる。
「……。
言葉少なに語りかけてくるジュンゴはの瞳は俺たちを見定めるように静かで、僅かにこちらへの期待も込められているように思えた。
久世響希、味方だ。
「……」
こちらも簡潔にそう伝えると、ジュンゴは嬉しそうに頷き、また暴徒へ向き直る。
「……味方。ジュンゴ負けない」
「ちょ……なんか暴徒また増えてね……!?」
「流石にこの量は一人だと厳しい、よね……」
新田さんの視線の先には、更にこちらへ駆けつけてくる暴徒達の姿がある。先程逃げた暴徒が増援を呼びでもしたのだろうか。
ジュンゴが囲まれる前にさっさと終わらせるぞ!
激を飛ばし各々が携帯を構える。
再び、暴徒達との戦闘が始まろうとしていた。誰もが、この場を見る男の影に気付かずに。
追撃奮闘GIRL&GUY、2話で終わらないんですか……?