「まぁ、こんなもんかね」
男は一通り暴徒達を蹴散らすと、武将のような悪魔を帰還させる。暴徒は既に全員が逃げ帰り、この場には男と響希達しかいない。
「お、終わったのか……?」
「みたいだね……」
誰だか知らないが、助かったな……
あのまま戦っていれば何れ悪魔共々消耗し、携帯を壊されていたのはこちら側だろう。そういう意味では、俺達は間接的にこの男に命を救われたも同然となる。
「はっ、なに……お易い御用さ。詳しい事情は知らねえが、見たところお前達が悪事を働いてるようには見えなかったんでな。ちょちょいっと手を貸してやっただけさ」
手で服の埃を払いながら、男は何ともなさげに言う。
「……しっかし世の中、荒んじまったモンだぜ。街も、人の心もな。俺も君くらいの歳の娘を探しているんだが、こんな状況じゃなかなか……おっと、すまん。大人の俺が弱音吐いてちゃ、カッコがつかねぇな、はは」
暴徒達が逃げた方を眺めながら、男は愚痴のようにそう零すと、何かに気付いたのか新田さんが男へ話しかける。
「あ、あの……娘さんを、探してるんですか?」
「ん……まぁ、そうだな。事情があってな……もう随分と会ってないが、街中こんな様子じゃ事情なんてあってないようなもんだ」
なら、ジプスで探してみれば見つかるかもしれないな……
何気なく口にしたジプス、という単語。それを聞いた途端に、一瞬だけではあるが男の動きがピタリと止まる。
「あー、なんだ。そのジプスってのはなんだか知らねえが……暫くは自分の手で探したくてな。じゃねぇと……親としてのメンツが、な」
自嘲する様な笑みを浮かべて、男は申し訳無さげな表情を浮かべ、断りを入れた。
「あ……そうですよね……すみません、余計なお世話を……」
「構わねえさ。気持ちだけ受け取っとくよ、ありがとな」
「いえ……寧ろお礼を言うのはこっちで……」
「そうそう、アンタのおかげで助かったよ」
「そりゃ良かった……んじゃ、俺はそろそろ行くよ、達者でな!」
男はこちらが何かを言うのを待つこと無く、迷い無い歩みで立ち去ってしまった。
せめて名前でも聞きたかったが……
「あー、そうだな。こっちも名乗ってないし……でも、あんだけ強いんだからまたどっかで会えるんじゃないか?」
「うん……あの人は簡単にやられたりはしなさそうだよね……」
だといいが……そうだ、ジュンゴは───
「いるよ……ジプス?」
階段を上りながら、アラハバキを従えた鳥居純吾が声をかけてきた。
東京支部からの応援だ。
「……。でも、服違う」
「そりゃお前もだろ……民間人の協力者ってヤツじゃないの? オレ達もお前も」
「……。確かにジュンゴも制服じゃ、無い」
「あはは……それで納得しちゃうんだ……」
「あ〜、いたっ! 馬鹿ジュンゴっ……!」
こちらの姿を見つけたのか、アイリがこちらへ走って合流する。ジュンゴは緩慢とした動作でアイリの方を見ると、何処か安堵した様な雰囲気を醸し出した。
「……。アイリ……無事だった。良かった」
「馬鹿じゃないの!? アンタの方が心配だっつーの!」
「……。……ジュンゴが?」
ジュンゴは戸惑っている……
まぁまぁ……無事だったんだからいいだろ
「ったく……すぐどっか行くんだから、少しは気を付けてよ!」
「あの……伴ちゃん、鳥居くんもきっと、心配してくれてて……」
「甘やかしちゃダメ! ソイツ、毎回なんだから!」
憤るアイリを宥めようと新田さんが話し掛けると、喚くようにアイリがジュンゴを指差す
「え……ご、ごめんなさい。でもきっと鳥居くんも……。あ……アレ?」
当のジュンゴは新田さんとアイリの言い争いなどいざ知らず、どこかへ向かって既に歩き出している……。
「ちょ……ちょっと、ジュンゴ!」
「……他の場所を助けに行くよ。みんな、バラバラだから。アイリも気をつけて!」
それだけ言い残すと、ジュンゴは走り去って行った……。
「……あ・り・え・な・いっ! 何なのアイツ〜!」
不思議な奴だな……普段からああなのか?
「うん……。いつもあんな感じ。悪いヤツじゃないんだけど……」
「……。……凄い人だね」
「ってか、ジョーさんの事ジュンゴに聞き忘れてた……! ……まぁ、あの様子だと知らなそうだけど……」
ジュンゴについて話し合っていると、突然全員の携帯が一斉に鳴り始める。
……メールだ
誰が言い出すでもなく、全員が携帯に届いたメールに目を通す。メールの内容は、内心でこの場の誰もが察していた通り、死に顔動画だった。
☆
多くの座席が並ぶ、舞台の無い劇場のような場所に、暴徒らしき人々とジュンゴが対峙している。多勢に無勢の中、ジュンゴは数多の暴徒と善戦するが……数に押され、血の中に倒れる。
暴徒達の中には、とてつもなく見覚えのある、縞柄のスーツの男の姿があった。
☆
「……! これ……ジュンゴ……? ウソ……」
「ヤ……ヤバイじゃん! どうすんだよ……!」
「アイツ死んじゃう、早く追いかけなきゃ……!」
「ま……待って、久世くんこれ……」
新田さんが指を差すのは血の中に倒れるジュンゴでは無く、その奥。縞柄のスーツの男。
……ジョーだな。
「やっぱり、ジョーさんは……」
「……!? アンタ達、コイツと知り合いなの!?」
ジョーと暴徒達が一緒に居るという動画に困惑していると、新田さんの手元を覗き込んだアイリが、驚愕の目線でこちらを見る。
「これ……これが赤い豚の悪魔を使ってた変なおじさんよ!」
「うん……元々、私たちと同じ東京支局からの応援だったんだけど……」
「あああ〜〜〜もう! 何がなんだか訳わかんねぇ……!」
……取り敢えずはジュンゴを探そう。そうすればジョーにも会える。
「そ、そうだよな……でも探すにしても、俺こんな場所知らねーし……」
「そうだ……伴ちゃん。この場所、知らないかな?」
「え、あ、うん……。それ、私も考えてたけど、ちょっと覚えてなくて……。映画館か劇場? なんかホールっぽいけど……。これだけじゃわかんないよ……!」
「くっそ……今度こそ手がかり無しか……」
「……! あ……そうだ! フミなら……フミなら分かるかも!」
フミ……? 誰の事だ?
「あ、うん。えっとね、
チャイナ服……若しかすると大阪のフェスティバルゲートで遭遇したあの女性だろうか……ふと視線を感じて横を見ると、新田さんが物言いたげな視線を向けてきている。おそらくは新田さんもあの女性が菅野史なのでは無いかと思っているのだろう。
「フミが見つかれば、携帯とか復旧出来るかもしれないし、電話も繋がるようになるかも……」
「そうか、そうすればジュンゴには死に顔動画の事とか伝えられるもんな……!」
「そっか、鳥居くんが死んじゃうのって1人で行っちゃったからだから……!」
1人で行かせなければ、死に顔動画の光景を阻止できる……行こう!
「そうだね、急がなきゃ……!」
「とにかく、フミを探そう! ジュンゴを早く助けないと……!」
俺達は全員でその場を後にした……
ストック枯渇したら不定期更新になるかもしれないからよろしくな……俺はアークナイツのイベントを走ります