菅野史を探す為、道行く人に話を聞きながら名古屋の街を歩いていると、新田さんがある公園の前で立ち止まる。
山田公園と言うらしい公園には目立った遊具はなく、それなりに広い敷地の中央に芸術的なオブジェが立つのみだった。
「おーい、どしたー?」
「そこの公園に何か用?」
立ち止まった新田さんを不審がったのか、少し先に進んでいるダイチとアイリが声を掛けてくる。
しかし、新田さんは2人の声が聞こえていないのか、ぼうっとした様子でそのまま公園の敷地に入ってしまう。
「ちょっ……新田さん……?」
「何してるのよ……! 今はこんなところで止まってるヒマは無いでしょ!」
焦りから随分と棘のある態度のアイリを手で留め、新田さんを追うために俺も公園へ向かう。
……先に行っててくれ、俺は新田さんと後から向かう。
「お……おう? まぁそれならいいんだけどよ……」
「もう……! 早くしてよね! 行くわよダイチ!」
「ちょっ……ペース考えろって! 兎に角先で探してるからな、サッサと来いよ〜!」
2人はそれで納得したのか、そのまま先へと進んでいく……新田さんはオブジェの程近くで立ち止まり、公園全体を眺めている。
その視線はどこか悲しげに思えた。
小走りで近づくと、新田さんもこちらに気付いたのか慌てて目尻を拭いた。
「あ……ごめんね、急にこんなとこに寄っちゃって……」
新田さんは無理に作った笑みでこちらを見る。そしてゆっくりと視線を公園に戻すと、ぽつぽつと事情を語り始めた。
「……ここね、前に来たことあって。何年か前に……家族旅行で。愛知万博って覚えてる? あれの帰りなんだけど……『次いつやるのかな?』とか、『また家族で来ようね』とか、そんな話を……して……」
話している内にその時の光景を鮮明に思い出してしまったのか、新田さんは目を伏せる。
……大丈夫か?
「あ……うん、ごめんね。困るよね、こんな話されても……。みんな大変だもん……、私だけが落ち込んでる訳にはいかないし……」
新田さんは胸に手を当てて深呼吸をすると、先程より目に活気が戻る。
「……うん、もう大丈夫……。私……頑張れるよ。話を聞いてもらったら、ちょっと楽になったから……もう大丈夫……きっと」
そうか、良かった
「……それじゃフミさんって人、急いで探さなくちゃね。私たちが頑張らなくっちゃ……」
……そうだな
家族の死を間近で体験してしまったせいか、今の新田さんは親しい人の死に対して敏感になっているきらいがある。本当は無理をさせる真似はさせたくないのだが、現在人手が足りないのも事実。これが原因で無茶をしなければいいが……
一先ず立ち直った新田さんと共に、公園を後にした……
☆
その後無事にダイチとアイリに合流し、俺達は久屋大通の名古屋テレビ塔前に到着した。
「着いたわね……目撃情報だとここにフミっぽい人がいるらしいけど……」
「チャイナ服着た別人とかやめてくれよ〜……!」
「あはは……それは無いんじゃないかな……」
……どうやら人違いってことは無さそうだ
「…………」
名古屋テレビ塔の内部に入る扉付近に、堂々と鎮座するのは大阪でも目撃し、戦闘したあのチャイナ服の女性だ。相変わらずこちらを気にもせずに手元の機械類を操作し続けている。
「今は悪魔はいないみたいだけど……」
「あれだよな、フェスティバルゲートに居た……何してんだ、あれ?」
「やっぱり……アレ、フミだよ……!」
……話し掛けてみるか?
「いやでも……なんか様子変じゃねぇ?」
「え、あ……ホントだ。フミは変な人だけど、あんな風にぼーっとするのは……」
遠巻きに眺めながら相談をしていると、フミの真正面に陣取るかのように一体の悪魔が瞬時に現れる。
「……! 久世くん、あの悪魔……!」
新田さんの言う通り、その悪魔はフェスティバルゲートでフミと戦った際、寸前でフミと共に消えた拘束具を身に纏う悪魔だった。
────…………! うぬらは確か……。おのれ、二度までも邪魔をするか。即刻、排除する……!
拘束具を身に纏う悪魔、ボティスは瞬時にこちらの存在を察知すると、手を振り払う。その動作たったひとつで、テレビ塔前には悪魔が溢れかえってしまう。
「響希ぃ……! どうするよこれ!」
やるしか無いだろ……全員構えろ!
「仕方ないわね……やるよ、カイチ!」
「行くぞ、ハヌマーン!」
「お願い、ハトホル!」
俺も白虎を呼び出し、その背に跨る。
テレビ塔前はベンチや噴水のある公園のようになっており、悪魔達は比較的散らばっている。目的の為にはフミさえこちらの手に渡れば良いが、悪魔を放置するのは得策とは言えないだろう。
アイリと俺で遠い悪魔を処理する、ダイチと新田さんは最短距離でフミを保護してくれ。
「あのボティスって悪魔はどうするよ!?」
「う、うん……多分今の実力じゃ勝てないよ……?」
ボティスは無視でいい、アイリと俺が速攻で悪魔を排除して、ボティスの妨害に入る。その間にフミを連れて行ってくれれば充分だ。
「わ、わかったぁ!」
「やってみる……!」
「響希だっけ……あたしのカイチは早いよ、足引っ張らないでね!」
こっちのセリフだ……行くぞ!
全員が一斉に動き出すと同時に、相手の悪魔もこちらに向けて壁のように迫ってくるのが見える。その中には日曜日に相手をした、ハクジョウシの姿が。
悪魔も着実に強くなってるって訳か……だが。
白虎は悪魔の群れの寸前まで突進するかのように駆け、悪魔の一体を踏み台にして大きく跳躍する。
自然、悪魔達の注目は目立った動きをした白虎と俺に集まり……白虎の図体で隠されたカイチとカイチに乗るアイリに気付かない。
「あたし達を無視とはいい度胸ね……! そんなに倒されたいならやってやるわよ……!
白虎に目を取られる悪魔達を、文字通り火炎の波が襲う。全ての悪魔とは行かなかったが、マハラギを喰らった悪魔は全て光の塵となっていく。
悠々とマハラギの範囲外に着地した白虎は、燃える悪魔の行く末に微塵も興味を示さずに次の悪魔に狙いを定める。
────!? ──!! ───!?
声帯ごと千切られた猫又は声にならぬ叫び声を上げながら、光の塵となる。光の塵の爆発で漸く白虎の存在に
次……お前で最後だ。
☆
────ヒーホー!
「あっぶねぇ!」
ダイチがジャックフロストから放たれた
────はぁッ!
────痛いホー……
対し、ハヌマーンは危なげなく相対していたジャックフロストを片付けて見せる。戦うダイチを遠くで見ているのを見ると、手助けする気は無いようだ……。それを見て逆に奮起したダイチはジリジリとジャックフロストとの距離を詰め、拳を振り上げる。
「やってやるぜ……百裂突き!」
────やられたホー……
まるで手が分裂したかのように無数の拳撃を放つ百裂突きは近距離まで迫っていたのもあり、ジャックフロストに間違いなく全て命中する。仰け反りながら光の塵に姿を変えるジャックフロストを見て、ダイチは小さくガッツポーズを決めた。
「よっしゃ!」
「こっちも終わったよ……!」
「フミさんの所までは後もうちょいだな……!」
────小癪な……人間風情が、このボティスの邪魔を出来るなどと、思い上がるなよ……!
苛立ちが多分に含まれたボティスの言葉と共に、ダイチと新田さんのすぐ下の足元に瘴気が発生する。
「うぉぉ!?」
「きゃっ……!?」
足元から掬い上げるように、地に着いた足を押し退けて瘴気から悪魔が出現し始める。
────フン、死にたいようだな……ならば望み通り、殺してくれよう……!
同時に、ボティス自身もフミに1番近いダイチと新田さんに狙いを定めた。
「くっそ……響希達はまだかよ……!」
「志島君、ボティスは相手しないで今は逃げ回ろう……! ボティスがフミさんから離れれば、久世くん達がフミさんを解放してくれるはず……」
「そうするしかないっぽいな……!」
────下僕共よ……この人間を残らず殺せ!
悪魔と悪魔使いが、再び激突する。