「
────キャァァァ!
金属を引っ掻くように甲高い悲鳴をあげながら、瘴気から現れたリリム達が光の塵へと姿を変えていくのを最後まで見ること無く、ダイチは瘴気の中心へ向けて走り、暴走した携帯電話に手を伸ばす。
「届けえっ!」
────させると思うか……ぬうっ!?
────邪魔はさせぬぞ……!
ボティスがダイチへ伸ばした手を、ハヌマーンが瞬時に蹴りで弾く。危機一髪、ダイチへ向けられた
────チィ……貴様も悪魔だろう……! なぜ人間なぞに従う!?
────知れたこと……! お前が自ら望んで人と敵対するのと同じく、我らは望んで人の側へ立つ……! それが、私の選択だ……!
ボティスとハヌマーンの力量差はほぼ無く、両者の戦いは長期戦に入るかと思われた。然し、ボティスを横合いから放たれた
間に合ったか……!
「悪魔はもう殆ど片付けたわ……次はアイツよ!」
────馬鹿な……こうもあっさりと……!
「こっちも、瘴気全部無くなったよ!」
「後はフミって人だ……抑えといてくれよ!」
────人間の分際で、我を出し抜こうなどと……。咽び泣いても許されると思うなよ……!
ボティスが怒気を振り撒いた途端、ボティスを中心として不気味な円が広がり始める。ハヌマーンが何かを察知して飛び退こうとするも、間に合わずに円から出る寸前で膝を着いてしまう。続いてハトホルが広がり続ける円の範囲へ入り、同じくへたり込んでしまった。
「何なのよこれ……!」
悪魔が、脱力してる……?!
「は、ハヌマーン!?」
「ハトホル……!? どうして……」
ボティスから広がる円は軈てボティスの元へと収束し、不気味な輝きと共にボティスの身体へと吸い込まれていく……。
────フハハハッ! 潤う、潤うぞ……まんまと盟約に囚われおって……やはり人間風情に下る悪魔など、人にも劣るゴミクズしか居らぬようだ……!
ボティスに吸い込まれた輝きは、徐々にボティスの傷を癒し始める。反してハヌマーンとハトホルは未だに息を切らして立ち上がるのにも精一杯な様子だ。
ボティスは嗜虐的な笑いを収めると、立ち上がる事を試みるハヌマーンとハトホルに目を向ける。
────フン……吸い尽くした抜け殻は用済みだ……死ねい!
半ば苛立ちが込められたジオダインがハヌマーンとハトホル双方へ向けて放たれた……が、ハトホルの方は白虎が吸収し、もう片方はカイチがハヌマーンを掬い上げるように動かす事によって両悪魔への被害を無くした。
俺とアイリはまだ戦える……今のうちにハヌマーンとハトホルを帰還させろ!
「お、おう!」
「うん……お疲れ様、ハトホル」
ダイチと新田さんがNicaeaを操作した事により、ハヌマーンとハトホルはその身体を青い光へと変えてその場から姿を消す。
────小賢しい真似を……貴様らが幾ら来ようと、このボティスを殺すことなど不可能だと、まだ分からぬか!
「そんなの、やってみないと分からないでしょ……! いくよ、カイチ!」
アイリの命令を受けたカイチが動き出す。頭を下げることにより湾曲した角を槍のように構え、ボティスに向けて突き刺さんと地を駆ける……しかし。
────単調な……護りの盾よ!
ボティスが片手を突き出し、薄い光の膜を生み出すとその膜がカイチの角を正面から受け止め、威力を殺してしまった。角での攻撃を殺されたカイチはボティスの目と鼻の先で、致命的な隙を晒してしまう。
「そんな……! も、戻りなさいカイチ!」
────みすみす逃すと思うかッ……!
悲痛な叫びを上げたアイリの命令は、何もかもが遅い。急速に集まった電撃の槍は、カイチが起き上がるのを待つことなく、カイチを穿つ。
「そんな……! カイチっ……!」
黒煙と共に起きる不快感を催す肉が焦げる臭い。カイチの元へ行こうとするアイリを手で押し留め、1歩前へ出る。
────ほう……? 今の光景を見ても、まだ抗う気が収まらんか。余程の自信家か、自らの勝算の計算も出来ない愚者と見える……!
……第三の選択肢を考慮しといた方がいいと思うぞ。
────ほざけッ! 貴様ら人間が我ら悪魔を従えている現状ですら、我を忘れんばかりだと言うのにッ……! 当の人間は身の程を弁えず、悪魔の力を己が力だと勘違いするッ! なんとも腹立たしいッ……!
怒号と共に、雷撃が迫る。咄嗟に身を躱すが雷撃の勢いは収まるところを知らず、絶え間なく雨のように
────ちょこまかと……! 幾らそうして足掻こうが、結果は変わらぬッ! 大人しくこの雷撃に撃たれて死ねいッ!
躱し、時に護りの盾で防ぎ……
無数の雷撃が更に勢いを増すかと行ったところで、炎の乱舞を隙を見て放つ。
────小癪なッ! 防げばいいだけの事よ!
例え炎の乱舞が全て当たろうともさほどの被害は受けないであろうボティスは、馬鹿正直にこちらの攻撃を防ぎに来る。が、それこそが狙いだ。盾で炎の乱舞を防ぎ終わった後は、大きな隙を晒す。
やれ……白虎ッ!
背後より音も無く忍び寄った白虎の、大きく開かれた顎がボティスの首筋を捕え、牙を立てる。
────ぐああっ!? き、貴様ァ……! クソっ、離せ!
離さない。言葉を理解している筈の白虎は、ボティスの言葉を無視し、更に顎に込める力を強くする。更に強く、強く、強く。
────き、さ、まらぁ……! ゆ、る、さぬ……! この、この報いは、いずれェェェ……!
ごきり、と何かが壊れる音がする。
息も絶え絶えになりながら怨嗟の声を吐いたボティスは、身体の形はそのまま首のみがひしゃげて死亡した。その身体は他の悪魔と同じように、光の塵へと姿を変えていく。
ふう……終わったな。
「だな……そうだ、フミって人は」
「あ……まだ、ぼーっとしてる……」
新田さんの言った通り、菅野史は相変わらず手元の機械の操作をやめる気配は無く、動きや瞳には生気がない。
「ホントだ……話しかければ戻るかな……? おーい! フーミー!」
アイリがフミの周りをちょこまかと動きながら、顔の前で手を叩いたり耳元で大声を出していると、突然フミが背後に倒れ込む。座席のようになっている機器類のおかげで思い切り頭を打つ、といった自体にはならなかったが、今度は気絶するかのように動かなくなってしまう。
「ま、まさかアイツ倒したら死ぬとか、じゃないよな……?」
「さ、さすがに違うんじゃ……?」
確かめてみるか? 脈拍とかは今でも調べられる
「そ、そうね……死んでないとは思うけど、一応ね……」
「うーん……?」
菅野史は呻くような声を上げたかと思うと、倒れた姿勢から勢いよく起き上がり、こちらを見つめる。
「うぉわっ!? お、起きた!?」
「フミっ……! 大丈夫!?」
「…………」
アイリの身を按じる声すら菅野史の耳には入っていないようで、相変わらずこちらを寝惚けた目で見ている。
「ん……誰」
ジプス、東京支局に協力している久世響希だ。
「ふ〜ん……見たことない。アタシ菅野史。何でこんなトコにいんの?」
「はぁ? いやだから、俺たちは───」
「アンタ達の話はしてない。なんでアタシがこんなトコにいんの? って言ったの」
「あ、ハイ……なんかすみません……」
そんなことも分からないのか、と言うフミの鋭い言葉にダイチは反論する勢いを失い、肩をすぼめて黙ってしまう。どうやらフミはかなり癖のある人物らしい。
「……覚えてないの? えっと、どっから話せばいいんだろ?」
「え、っと……昨日、大阪のフェスティバルゲートにいた事、覚えてますか? 私達は最初にそこで……その、悪魔を呼び出していたフミさんと戦って……それで、捕まえようとした瞬間にボティスって悪魔に連れ去られて……」
「ふ〜ん……アタシが? その悪魔と一緒に?」
「は、はい……それで、さっき無事にボティスを倒して今に至る……って感じです」
「あと! フミがいない間、名古屋支局が大変なことになっちゃったんだからっ……! 栗木ロナウドが支局に攻めてきて、局員はバラバラでっ……! ジュンゴもどっか行っちゃうし!」
「栗木ロナウド? 名古屋支局が? へぇ……そりゃ大ゴトだね」
「……そうだよっ! だからフミのこと、探してたのっ!」
「……ふ〜ん? アタシを探してた? 何のために?」
……鳥居純吾の死に顔動画がこの場の全員に届いた。加えて、東京支局のメンバーであり現在暴徒である程度の地位にいると思われる秋江譲の姿も、その動画内で確認された。
「……あ〜そういう事。ちょっと待って」
フミは俺の話を遮ると、手元のパソコンで何やら操作を始めた……。
「へぇ……ホントだ。アタシのパソコンから携帯の基地局がハッキングされてる。携帯電話が使えないのはそのせいだろうけど……何で?」
大方、悪魔のせいだろう。
「うん……さっきまで、フミさんには自我があるようには見えなかった……だから、ボティスが操ってたんじゃないかな。携帯電話が使えなくて困るのは、人間だけだから……」
「あ〜アイツ、妙に人間嫌いっぽかったもんな……」
「はぁ、確かに月曜の朝から今までの事、何も覚えてないわ。……ふ〜ん、まぁいいか。え〜と、それじゃあ……」
フミは再びパソコンを弄り始めた……かと思えば、すぐに顔を上げてパソコンから目を離す。
「はいできた、携帯使えるはず。あと……ジュンゴとアキエの居場所だっけ?」
「うぇ!? マジで……!?」
「あ……うん。……ホントだ、携帯直ってる」
「あ……じゃあこれでジュンゴに連絡取れるかも……!」
アイリはいそいそと携帯を操作し、電話をかけ始める……が、すぐに携帯から耳を離して首を横に振る。
「……ダメみたい。電話、出ないよ……」
「……こっちもダメだ、ジョーさんも出ない」
「そりゃそうでしょ。離反したヤツがどの面下げて仲間からの電話に出んの。ま、今のままじゃ居場所を見つける方法は無いね」
「えっと……フミさん。じゃあどうすれば……」
「あ〜……そうだね、まぁちょっと待ってて。今、こっちで探してみるから」
そうして三度、フミは手元のパソコンの操作を始める……が、どうも様子がおかしい。
「……? あれ? ……あ、ちょっと待った。ひょっとして……」
「……? ど、どうしたの?」
「……参ったねコリャ。パソコンのメモリがイカれたわ。処理速度、遅すぎ」
「……は? 何よソレ、どういう事?」
フミは言葉を選ぶように数瞬思考を巡らせ、嘆息しながら言葉を吐く。
「ん〜……ようするに、このままでも作業はできるけど、予想以上に時間かかるってワケ」
「だ、ダメじゃん! ジュンゴ、ピンチなんだよ!?」
「分かってるよ、うるさいなぁ。え〜っと、それじゃあ……」
アイリの叫びに片耳を塞ぐ仕草をしながら鬱陶しげに返すフミは、パソコンを軽く操作し始める。間を置かずにその場全員の携帯に着信が入り、1枚の画像データのみが添付されたメールが届く。
「こっちはこっちでやるからさ、アンタたちはパソコンのメモリ、探してきてよ」
「パソコンのメモリ……ですか?」
「そうそう、できるだけイイやつね。ま〜無いならないで、こっちだけでも何とかなるけど。あったら作業が早くなるからさ」
せっかく探し出したのが死体とか、嫌でしょ? と、フミは嘯く。
「っ……わかりました。それじゃみんな、行こう?」
「行ってらっしゃ〜い」
ひらひらと手を振り、パソコンに没頭して作業を始めたフミを残して、この場を後にした……。
ペルソナ3とかアークナイツとかしてたらストックが残り1個だったよ、なんでだろうね