ホグワーツ創設物語   作:奈篠 千花

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■序章 ホグワーツの夜明け■

 

ユリウス歴982年、スコットランド。

山と森に囲まれた国土にある、とある城で今日は盛大に魔法使いたちの宴が催されていた。

このレイブンクロー城の主は、ロウェナという魔女で、今日は彼女に娘が生まれて跡継ぎを得られたため、それをこの島国全域に知らしめるために、 多くの魔法使いを招いたのだった。

ただ、主役は娘、ヘレナ・レイブンクローだとはいっても、生まれてまだ1ヶ月、首も据わらない幼子なので、ロウェナは会場に一旦は連れてきたものの、娘を奥の部屋で休ませ、寝かせるために、挨拶もそこそこに一度席を外した。

娘のお守りをあれこれハウスエルフに頼んで、会場に戻ると、思わぬ騒ぎが起きていた。

 

「はっ!

お前が床に頭擦り付けて謝ったら許してやらないこともないぜ!」

相手を挑発するように、嘲笑いながら剣を振り下ろして斬りかかるのは、赤毛の頑健な男で、その男にロウェナは見覚えがあった。

グリフィンドールのゴドリック、赤毛翠眼の粗野な男は、剣を携えて一見騎士に見えるがその実凄腕の魔法使いだ。

のちに湖水地方と呼ばれることになるイングランドの西の方の生まれで、血の気が多く、喧嘩っ早いことで知られていた。

もっともこの当時、魔法族、マグルを問わず売られた喧嘩を買わないような人間は侮られて当然、という風潮だったので、ゴドリックが特別ということではないのだが、やはり突出してそういう話が多いことは確かだろう。

 

「ばかばかしい!

貴殿などに許していただかなくて結構、むしろ、貴殿こそ地に頭を打ち付けて平身低頭するべきだな。」

そう言って、売られた喧嘩を買ったのは、灰色の髪の見知らぬ青年で、こちらはロウェナに覚えがない。

訛りからすると、よほど東の生まれかもしれない。

この直感は、後で騒ぎが収まってから聞いた時、青年が、名はサラザール・スリザリン、生まれは東の湿原、かつてのイーストアングリアと呼ばれた地域の出身だと答えたことで正解と知れた。

ともかく青年も、背が高く肩幅は広いが、痩せてひょろりとした外見の割には売られた喧嘩は買う方らしい。

 

この時点でロウェナは青年の名を知らなかったが、今後はサラザールと表記することにする。

サラザールは、やや短めの、何かの骨で作ったと思われる素材の杖で、自分の前にくるりと円を描いた。ゴドリックが振り下ろした剣はそれに刃先を巻き込まれ、サラザールはそのまま刃ごとゴドリックを床にたたきつけようとしたが、ゴドリックが力任せに剣を引き抜いたので、成功はしなかった。

「見かけより骨があるようだな!

だが、二撃目はどうかな!」

ゴドリックは再び勢いをつけて斬りかかる。それはマグル相手であれば十分致命的な重さの乗った一撃だったが、サラザールはひょいと杖を一振りすると、軽く頭の上よりさらに少し上、剣を振り回してもぎりぎり届かない位置までふわりと浮いて攻撃をかわした。

 

「馬鹿の一つ覚えに当たってやる義理はないな。

魔法というものを教えてやろうじゃないか?」

サラザールは前方足元、つまりゴドリックの方へ向けて杖を軽く振った。

すると、不思議なことに、彼が杖を振った跡と覚しき部分から無数の白い針が飛び出して、雨霰とゴドリックに降り注いだのだが、ゴドリックはそれらの針を火を纏わせた自分の剣で薙いだ。

薙がれた針は火に当たったものは燃え尽きたが、燃えなかったものも床に落ちる前には消えた。

 

「何だお前、少しはやるな?

だが、まだまだだ!」

針の攻撃を薙ぎ払って、ゴドリックは妙に楽しそうに笑って、剣を構え直した。

そこからは魔法の応酬戦になった。

悲鳴も上がるが、周囲の客は逃げ惑うよりも壁際に避難して見物に回っている。

魔法使いはなんだかんだで血の気が多い者ばかりで他人ごとと思えばいい見世物になっているのだった。

ロウェナだってこれが自分の城で起きた出来事でなければ笑って、指をさして煽りに回っていただろう。

ゴドリックが振り回した剣が近くのテーブルの上を薙いで、食器類と銀製の燭台が落ちる。

燭台に立ててあった蝋燭の炎は、注意深く状況を見ていたサラザールが喚んだ水流で消えたが、水流はもののついでにゴドリックを水浸しにして行った。

 

被害がこれ以上広がる前に、いい加減止めるべきだと感じて、ロウェナは声を張り上げようとしたが、そのとき、肩をポンとたたかれた。

振り向くと、赤毛碧眼のふくよかなご婦人がにこやかな笑みを湛えて、手にポットを携えて立っていた。

「ロウェナ姫、殿方はいつでも羽目を外し過ぎるもの。

ひとつ、ここは私に任してくださるかしら?」

強いウェールズ訛りで、先ほど言葉を交わしたばかりでまだ名前は記憶のうちにある、確かウェールズの魔女でヘルガ・ハッフルパフといい、それに、どうしても単調になりがちな宴会料理について、こっそりと助言をもらったと、厨房担当のハウスエルフが跳ねていたのが印象的だった。

「お客人の手を煩わせるのも気が引けるのだけれど。

正直、見た限りあの二人の振る舞いはともかく魔力が強いことに間違いはないわ。

何かいい手があるのかしら?」

ヘルガはいよいよ笑顔で、手に持ったポットをかざし、緩く振った。

「もちろんよ、貴方。

多少笑い話になる解決法かもしれないけど、血みどろよりは、その方がいいのじゃないかしらと思って。」

もちろん、多少の騒ぎなら笑い話ですむが、ヘレナの祝いの席で人死にが出るのは好ましくない。

ロウェナはできるだけやわらかく鷹揚に頷いた。

「ではお願いするわ、 ヘルガ。」

ヘレナは、名を覚えていてもらえているとは思わなかったのか、ちょっとだけびっくりしたように目を丸くして、それから茶目っ気たっぷりに笑った。

「任せておいて?

ハッーフルーパフ(軽く吹き飛ばしてあげる)は伊達じゃないわ。

血を流させるようなことはしない。

あなたに恥をかかせるような真似はしないわ。」

おそらく、このとき、ロウェナとヘルガの裏切らぬ友情は成立した。

 

「おゆき!

ホッピング・ポット!

聞き分けの悪いやんちゃ坊主にお仕置きよ!」

ヘルガが、ポンとポットを放ると、にゅっと足が生えて危なげなく、なんとゴドリック・グリフィンドールの頭上に着地した。

「うわっ、何だこれ!?

うわあ、何しやがる!」

それから起きたことは喜劇だった、少なくとも見ている者にとっては。

足の生えたポットはゴドリックの頭の上で容赦なく飛び跳ね彼の頭を踏みつけたのだ。

stump

stump- stump-stump

ぼさぼさの赤毛をポットが跳ねて踏み荒らす。

まさか自分の頭を剣で斬り飛ばすわけにもいかないゴドリックは、頭の上で腕をめちゃくちゃに振り回したが、目があるわけでもないポットが、器用にゴドリックの腕を避けて、ポンと肩によけ、そしてまた跳ねて頭に戻る。

こうなると、もう当然喧嘩どころではない。

喧嘩相手のサラザールさえ、目を見張って、浮いていた中空から、ふわり、すとんと降りてきた。

「くっそ、お前、蛇の!

この忌々しいポットを何とかするのを手伝えや!」

ある意味図々しく、たった今まで喧嘩して相手に言い放つゴドリックの神経の太さはさすがだが、言われたサラザールがはいそうですかとそれを聞き入れるわけもなかった。

「何を言う、赤髭の?

たった今攻撃の魔法を打ち合っていた相手に助太刀するほど、私は寛容ではないのだが?」

この言葉には、最初から見物していたらしい人々が何やら頷いていたから、サラザールが喧嘩を買ったのだとしても、最初に仕掛けたのは間違いなくゴドリックなのだろう。

魔法のポットは、不思議なことにサラザールには見向きもせず、ゴドリック目掛けて向かって行き、捕まえようとするゴドリックの腕を器用にすり抜けて、彼の頭の上を跳ねたり踏み荒らしたり、散々な有り様だった。

 

「どうやらここまでだな。

館のご主人もさぞかしご立腹だろう。

暴れたければ開けた場所で相手をしてやるから、とりあえず大人しくするんだな、赤髭の。」

周囲も笑ってはいるが、収束を察してか、人も気ままに散り始めた。

サラザールは、骨の杖を一振りすると、それまでに彼らが散らかした、ーー大半ゴドリックが散らかした食器や家具を元通りに修復し、優雅にロウェナとヘルガへ向き直って一礼した。

「レイブンクローの姫におかれては、見苦しい騒ぎをお見せしたこと、大変申し訳なく思っています。

私は、東の湿原から来た、スリザリンのサラザール。

お世継ぎの姫の祝いの席を汚すつもりはなかったが、そこの赤髭に喧嘩を売られたのでな、おめおめと引き下がるわけにはいかなかった。

騒ぎにしてしまい、申し訳ない。」

思いのほか、礼儀正しい挨拶がきて、ロウェナは衣服の裾を捌き、軽く礼を返した。

「あなたが謝罪するには及ばないわ、サラザール。

私がこの城の主のロウェナよ。

どうやら先に手を出したのがゴドリックなのは見ていたわ。

あなたがなるべくこの城のものを壊さないようにしているのもね。

気にしないで、宴を楽しんで。

どうせ、後、一週間は続くのだから。」

ロウェナがサラザールと穏やかに言葉を交わしている傍で、それとは対照的に、ゴドリックがヘルガに気付いて喚き散らしていた。

「げっ、ヘルガ!

分かったぞ、この仕様もないポットはあんたの魔法だな、さっさと解けよババア!」

確かにさして若くはないがババア呼ばわりされて、ヘルガの口元がひくりと引き攣った。

「よくぞそんなことをお言いだね、生憎だけど、アンタが態度を改めないと、ポットは離れないよ。

さっさと剣を収めて、一言ちゃんと謝るんだね。

だいたいこれは一体なにが原因の喧嘩なんだい?」

呆れたようなため息をついて、ヘルガがゴドリックに尋ねると、ゴドリックは息巻いて

「そんなのは決まってる!

原因はーー、原因はーー。」

言い掛けて、妙に威勢が削がれて行く。

 

「原因はーーー、なんだっけ?」

元々赤毛で顎髭まで生やしていなければ色白の、恐らくは一見の印象よりは若い顔からすっと赤みが引いた。

しかも、ゴドリックが問い掛けた相手は、なんと自分が喧嘩を仕掛けた相手ーー、当のサラザールだった。

「は?

まさか、もう忘れたのか?

私が取った料理が気に食わないと言ってケチをつけてきたのはそちらだろう?」

サラザールさえ信じられないと言った風情で唖然としているが、ゴドリックは、ああ、と悪びれずにひとつ頷くと、何事もなかったように剣を鞘に納めた。

「そういえばそうだった、こいつが目の前でサラダなんか摘まみやがるからよ。

男なら、肉だろ、肉!

だいたい、地から生えたもんなんざ、下(げ)に近いってのは常識だろうが?

根性叩き直して、教えてやろうと思ってな?」

そこまで言ったところで、頭の上で一応大人しくなっていた足生えポットが、ポーンと真上に高く跳んで、まっすぐ同じところに、ドンッと着地した。

 

「ぐえっ!」

蛙の潰れたような声で、ゴドリックが呻く。

「ゴドリック、貴方、ちっとも進歩がないのねえ。

ここで暴れられたら困るから、ちょっと別の部屋でお話しましょうか?

ロウェナ、申し訳ないけど、どこかお借りできる?」

やんちゃな息子を窘めるようにゴドリックをあしらって、ヘルガがロウェナに聞いた。

なお、他の客は終了した魔法合戦からは早々に興味が離れ、思い思いに飲んだり食べたり、魔法談義に花を咲かせたりしている。

よくも悪くも、すべての魔法族は、大変マイペースなのである。

「部屋なら余っているわ、案内するわね。」

ロウェナが先に立つと、サラザールも名乗りを挙げた。

「乗りかかった船だ。

私も行こう。

この男、腕だけは立つようだからな。

また万が一頭に血が上ったりすれば、人出がいるだろう。」

 

ゴドリックだけはどこ吹く風で、呑気に

「おっ、お前も来んの。

へー、良かった、お前、腕は立つもんな。

さっきは見直したぜ。」

などと言っている。

喧嘩とお説教から始まる、これが後世に名を残すホグワーツ創設者四名の出逢いだったとはーー、現代には伝わっていない。

 

 

 

全くタイプの違う四人だったからか、きっかけはともかく、その後も定期的に交流は続いた。

まだ、煙突飛行も箒で飛ぶことも確立されていない時代だが、力のある魔法使いなら、転移に近いことも、飛べる魔法生物を飼い慣らして騎乗に使うこともできる。

なお、郵便局もまだなかったが、フクロウに手紙を持たせることは普通に行われており、この四人ほどの魔法使いになると、だいたいは個人で数羽は飼っていた。

女の友情は難しいとよく言われるが、ロウェナとヘルガは既にどちらにも配偶者がいたのが良かったのか、それとも全くタイプが違ったのが良かったのか、彼女らは意気投合し、既に何人もの子どもがいて一番上の子が成人しようとしているヘルガにロウェナがよく、育児の相談を持ち掛けるようになった。

話は赤ちゃんが夜中に起きて泣くのだが大丈夫であろうかなどというところから始まり、段々と熱を帯びて、我が子に最高の教育を受けさせてやりたいという風に変わっていく。

「でも、子どもにそれぞれ必要なことを教えるのは大変なのよね。」

「本当にね!

ヘルガは大変じゃなかった?

だってうちは一人だけだけど、あなたのところは何人もいるじゃない?」

「大変だったわよ!

専門的なことは誰か詳しい人に教えてもらおうと思っても、なかなかウェールズまで家庭教師に来てくれる人もいないしねえ!」

 

盛り上がっているところに、食卓のこちらでご相伴に預かっていたサラザールが口を挟む。

「学校があるといいんだがな。」

なぜ、ここにサラザールがいるのかというと、なぜか初対面の喧嘩以来、「お前意外と強いじゃねえか!見直したぜ!」脳筋思考でぐいぐい距離を詰めて来るゴドリックを、動機が好意だと案外人がいいサラザールが邪険にし切れず、ずるずると友人関係になだれ込み、思いつきで行動するゴドリックに常識人のサラザールが巻き込まれると言った関係性が構築されたからだ。

つまり、思いつきで

「ヘルガの料理食いに行こうぜ!」

というゴドリックがサラザールを巻き込み、ヘルガのウェールズの屋敷に突撃訪問をかましたものの、当のヘルガは、こちらは普通にロウェナのところに遊びにきていたので、

「なんだよ、あっちにいるのかよ!」

と、ゴドリック含め、四人がロウェナの城に集まるという結果になっている。

本来、相当な距離があるものを、短絡な移動手段があるのも考えものである。

「学校ね・・・、大陸にはそういうのもあるらしいわね・・・?」

ヘルガの呟きにサラザールが頷いた。

「まあ、マグルのものだがな。

ラテン語を教えたり、算術を教えたり、家庭では教えきれない知識を教えるんだ。」

学校にあたるようなものはブリトンではないのだが、あっても、教会がわずかにキリスト教に都合のいい思考や知識を教えるだけで、そもそもマグルの考え出した神を信じていない魔法族にはほとんど参考にならなかった。

 

「算術とかじゃなくて、魔法ならどうだ?」

ヘルガの料理に舌鼓を打って話を聞いていないとばかり思ったゴドリックがぼそりと口を挟む。

「魔法?

魔法学校か?

確かに世界に例がないわけじゃないが、誰が教えるんだ?」

サラザールが戸惑ったように、聞き返すと、意外にもロウェナが食い付いた。

「学校というのはいいかもしれないわね!

ここに当代一の魔法使いが四人も揃ってるんだもの。

入れ物を建てて、国中の魔法使いに声を掛ければ、子どもにきちんと最高の魔法の教育を受けさせたいと思っている親はいるはずだわ。」

ゴドリックは自分が言い出したくせに、「んあ?!」と目を剥いた。

「俺が教えるのか?

本気で?」

 

「入れ物と簡単に言うが、魔法使いの学校となるとかなりの広さがいるだろう。

マグルにも見られない方がいいだろらうし、場所のあてはあるのか?」

サラザールの現実的な疑問に、ロウェナが、笑みを浮かべた。

「場所なら、うちの領から適当に見繕えばいいわ。

私、この間、イボ(Warty)イノシシ(Hog)に湖の近くの崖まで案内される夢を見たのよね?

何の予兆かと思ったんだけど、この城から山二つくらい行ったところに、そっくりな場所があるわ。

そこに城を建てましょう。

設計は考えてみるわ。

何年か掛かるとは思うけど、うちの子どもがもう少し大きくなって、学校通えるくらいになったら、出来上がってると良いわよね。」

ロウェナに続いてヘルガが、

「子どもに系統だった魔法教育を受けさせたい親は必ずいるでしょう、私は小さい子どもがいる家に話を持ちかけてみるわ。南はだいたい分かるから。」

そう言う。

考えてみて、できる可能性が大きい思ったのか、サラザールが薄い酒でのどを湿しながらゆっくりと続けた。

「大きな話になりそうだから、国中の魔法族に協力を求めないといけないな。

東は私が話を通そう。

評議会の爺婆にも言っておかないと、おそらく後で揉める。

だが、あの当人たちも学校は欲しいと思っているはずだ。

各家の固有の能力や魔法さえ尊重する姿勢を見せれば、多分、大丈夫だろう。」

 

骨付き肉を骨ごとかじり、ゴドリックが面倒だという表情を隠さない。

「評議会の耄碌爺いどもか!

面倒くさいな、決闘で話が付けられたら簡単なんだが、そうもいかんからなあ。

ま、とりあえず、西は俺が声掛けて回ろう。

賛成しない奴は説得すりゃいいんだもんな?」

「ゴドリック、説得と決闘は違うからな?」

間髪入れず、サラザールの突っ込みが入る辺り、だいたい性格を理解してきたようだ。

 

「決まりね。

北は私の所管だわ。

そうと決まれば、学校の場所の下見に行きましょ。

この間、12人乗りの魔法の絨毯買ったから、乗ってみたかったのよね。

学校の名前は、イボイノシシから、『ホグワーツ』でいいかしら?

人に説明するにも、名前がないとやりにくいですものね!」

意気揚々とロウェナが出してきた魔法の絨毯はかなり広くて四人だと余裕があり、快適だった。

なお、この時代はまだ魔法の絨毯は禁止されていないが、絨毯自体がまだ貴重で珍しい。

 

それから開校までの日々は、本当に忙しく目まぐるしい日々だった。

湖が近いその崖の上は、城を建てるにはふさわしい立地だった。

学校を建てるにはどうかと現代人なら言うだろうが、そこがあいにく皆彼らは中世の人間だったので、戦争がない世界や子供が優先に守られる世界など夢想したこともなかったために、彼らはそこを最終的には何年も立て籠もれる要塞として設計した。

レイブンクローは、ホグワーツ城のありとあらゆる設計を考え、仕掛けを思いつき、計画は壮大なものになった。

彼らはそれぞれ、地元の魔法族に声を掛け、例えばサラザールは、現在のロンドン、ローマ人の作った街ロンディニウム(ちなみにこの言葉は沼地の砦、つまり湿原の要塞という意味を持つ)に住み着いていた、大陸から移住してきた黒の一族と呼ばれ、のちのそのままブラックという姓を名乗ることになる一族や、レストレンジー「奇妙な」とマグルから呼ばれそれがそのままのちに姓になった魔力の強い一族に声を掛けたし、ヘルガはマグルのウェールズのデハイバースの領主から息子がどうも魔法使いとして生まれて来たのではないかと相談を受けて、今学校を建設する計画があるが子供を預ける気はあるかと確認していた。

ゴドリックは西の荒野にある現代ではゴドリック・ホロウと呼ばれる生まれ故郷とその近辺でいくつかの魔法族の家族に声を掛け、ロウェナ声を掛けるだけでなく、魔法族の中でも富裕な家族には支援を依頼し、ハウスエルフの派遣を要請した。

この時代にはまだ、魔法省そのものがなかったので、ハウスエルフの契約は個人個人の家が個別に結んでいたのだ。

 

実に大きな事業で、有能かつ意欲的な四人の魔法使いと協力者、派遣された多くのハウスエルフの力を持ってしても、建物がなんとか形になるまで993年まで掛かった。

毎回、ロウェナの城から絨毯で飛ぶのも手間なので、最初に仮に建てた屋敷で寝起きして、皆でああでもないこうでもないと話し合って、わいわいやっていて、一番わくわくした時代だったかもしれない。

「おい、サラザール、そんなに細かくやっていたら日が暮れるぞ!」

「君の仕事は雑すぎるんだよ、力押しもほどほどにしたまえ。」

「まあ仲がいいわねえ。」

「口を出すだけ無駄ね?あれ。」

そんな風な四人の会話を聞いて、周囲がゴドリックとサラザールを親友だと評したのは間違ってはいない。

確かにこの時代、間違いなく彼らは親友だった。

 

そんな経緯を経て、ホグワーツ魔法学校が開校するのはユリウス暦で、993年夏の終わりのころのことになる。

 

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