ホグワーツ創設物語   作:奈篠 千花

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■第5章 グリフィンドールの剣 後編■

結局、休暇の時期は長くホグワーツ以外の場所で何があったのか語らなければ、物語の全容を把握することはできない。

今回は、再び、のちのゴドリック・ホロウ、西の荒野へ向かおう。

 

ぺべレル。

休みの間、フロドリーと、メドレイアは当然のことながら西の荒野の自宅に帰っており、家族と過ごしていた。

一族の中で、妙な研究に没頭している叔父のガラクタス・ぺべレルはややもすれば鼻つまみ者の扱いを受けていたが、フロドリーの父、ガラクタスの兄にあたるハウウェルは弟のことを心配しており、定期的に様子を見に行っていた。

ある日、父親が

「ちょっと出掛けてくる。」

と言った時、フロドリーは父親が向かう先が叔父のところであることに気付いて、父親と一緒に行くことにした。

フロドリーにとって、ちょっと扱いの難しい叔父は、結局のところ、父の跡を継いでいずれ家長となる自分が責任を持たなければならない相手だろうから今のうちに対応を把握しておきたいという気持ちもあったのだが、その他に、純粋に叔父の研究にも興味があった。

 

「ガラク、いるか?」

父親はさすがに家長だけあって、ずかずかと遠慮なく立ち入っていた。

距離はそれほどでもないのだが、あまり訪れることもない家なので、フロドリーは慎重に玄関から足を踏み入れた。

日常生活に気を使う奴じゃなくて、という父親の愚痴に反して、足を踏み入れた屋内は暖かく保たれ、綺麗に整理整頓されていた。

だが、その整然さはハウスエルフの手になるものだったということは、彼の書斎──、研究のためのプライベートスペースであろう場所に立ち入ったときの雑然さにより、簡単に推察できた。

「ガラク、ちゃんと食事は採ってるのか?

また痩せた気がするし、目の下が黒いぞ?」

父親から叔父への説教が始まる。

話が長くなりそうと思って、フロドリーが辺りを見回したとき、いくつかの背表紙に違和感を感じた。

どこかで見たことがある。

まあ、見たことがあるのは当然だった。

数年前、ホグワーツが図書の寄付を募ったとき、彼が父親と一緒にホグワーツに運び、今も禁書棚にゴドリック作の複製が並んでいる。

結局、ゴドリックは数年掛けてガラクタスの「ヤバい本」を本人に戻していたし、なんなら、似たような経緯でホグワーツに集まってきたdark arts系の本も複製してガラクタスに与えていた。

 

フロドリーは改めて、個人の所蔵としては破格のコレクションを見回し、非常に感銘を受けた。

ただ、それを顔や口に出すと、父親の説教の対象になるのは分かりきっていたから、とりあえずは表情を変えないように努めた。

彼はその日は何も言わずに普通に帰り、翌日、家族にはそのあたりに遊びに行くといって、叔父の家を訪れた。

まあ、「そのあたり」であることに間違いはない。

 

「叔父さん、いる?」

「フロドリー?昨日も来てたろう?兄貴に何か頼まれたのか?」

日を置かずに訪れた甥っ子に、ガラクタスは怪訝な顔をしたが、フロドリーは首を横に振った。

「違うよ。

ちょっと叔父さんの本も見せてもらいたいし、話も聞きたいんだけど、父さんいると聞けないでしょ。

だからこっそり聞きに来たんだよ。」

フロドリーの台詞はガラクタスを驚かせたが、結局のところ、彼にも承認欲求はあり、賞賛に飢えてもいた。

「──兄貴には内緒だぞ。」

彼はそう言って彼の研究成果を甥っ子に見せた。

 

「死を克服する研究?」

響きからして途方もない命題に見えた。

「そうだ。

まずは死なないようにすること、死んでも生き返れるようにすることなどいくつかの方向性は考えられるんだが、今のところは死なないようにする魔術の方が研究は進んでる。

昔から研究されてきた賢者の石──、こういうのもあるけど、それ以外にも手段はあるみたいで今はそちらを研究してるかな。」

ガラクタスの声には、純粋な追従者に対して、彼が孤独に真剣に追求してきたことの成果を披露できる喜びが滲み出していた。

結局、この点では、揶揄を抑えられないゴドリックはガラクタスにとって良い聞き手にはなれていなかったのだ。

「凄いね、それってどんなものなの?」

フロドリーは、ガラクタスの期待通り、純粋な尊敬を込めて叔父を見上げた。

念のために言っておくと、この時代、魔術はそれそのものが暗い深遠からきたと考えられていたので、それが暗い(dark)であるという理由だけで忌避する理由にはなっていない。

ガラクタスが変人、厄介者扱いされるのは、研究内容よりも、むしろそれに没頭して共同体(西の荒野の村落)の首長家の次男として当然期待される役割を放棄して、穀潰しと化していることにある。

「うん、それは名付けるなら分霊箱(ホークラックス)とでもいうかな。

これは自分の魂を分割して、別所に保管しておくことで、もとの肉体に何かあった時も死なないようにする魔法で──。」

その休みから、フロドリーは叔父の研究に興味を持ち、父親には、叔父の様子は自分が見に行くとも言って、彼の蔵書を読み、彼の話を聞いた。

 

 

 

 

 

 

新年の休みがおわり、後半の学期が始まった。

この時期、特筆すべきことは、のちのホグワーツに設置されることになる、一定以上の魔法力を持った子供の出生を感知する魔法装置の開発だ。

それは、魔法評議会が開発を推進した魔法具で、基本、魔法族のものである魔法力の発生、つまり魔法族の出生に関連して察知されるという理論の元で開発が行われ、それを元に全ての魔法族に教育を然るべく行うべき、という強硬派が現れたのだが、実際には、最初の段階では新たなる魔法力の発生を検知するというだけではそれが誰かも分からず、魔法検知が届きにくい場所から移動しただけの大人かもしれず、実用に供するにははるかに遠い代物だった。

これ自体は長い年月を掛けて改良され、機能が付け加えられて、現在、ホグワーツに設置されている、ホグワーツ入学対象者の一次名簿を出力する魔法具になっている。

この時代はまだそれには程遠い。

ただ、魔法評議会の横槍はともかく、その魔法具は、おそらく今後マグルの間に生まれた魔法族の出生も明らかにするであろうことで、ホグワーツの理念にひとつの問題が投げかけられた。

それはつまり、マグルに生まれた魔法族の入学に関する問題である。

 

「安易にマグル生まれを受け入れるのは危険だと思う。

今の段階ではやめておいた方がいいだろう。」

魔法界とマグルが完全に分断されていなかったこの時代でさえ、異端に対する反応は決して芳しくはなかったので、サラザールは厳しい表情で、教授だけが集まった会議の際、自分の意見を表明した。

「ええ、でも実際、うちの寮にはマグル生まれでもイドワルがいるじゃない?

彼はとても優秀よ。

いずれはマグルに生まれた魔法使いも受け入れるという考えは悪くないのではないかしら。」

ロウェナはその考えに現時点で唯一マグル生まれで入学しているイドワル・デハイバースを思い起こして考えた。

「いいえ、彼は優秀だけど、マグルの庶民は文字の読み書きもままならない者の方が多いから、みんながそういうものとは思わない方がいいかもね。

まあでも、もしいっぺん受け入れたなら、きちんと教えてやった方がいいとは思うのだけれど。」

浮世離れしたところのあるロウェナとは違い、地元でマグルとの付き合いも多く、世相に詳しいヘルガは存外厳しい意見だった。

「魔力はあるんだろ、そいつら。

がたがた言わないで、やる気があるんなら入学させてやったらいいんじゃないか?

駄目ならそこから振るい落としていけばいいだろ。」

ゴドリックの意見は一見前向きだが、かなり乱暴な意見ではある。

 

「振るい落とすってどうやるんだ。

マグルの子供を一旦入学させれば、その数年の記憶を全部なかったことにはできない。

殺すわけにもいかないだろうが。

マグルの庶民の子は学費だって払えないし、休みの時だってまともに家に帰れると思えないぞ。

純血の子とは常識だって違うだろうから揉め事は必ず起きるし、学内の揉め事ですめばいいが、中途半端な魔法でマグルの家で騒ぎを起こしたり、盗んだり殺したりしたらどうするんだ。

もっときちんと入学基準を決めて、少なくともイドワル並に大丈夫だと確認できた子だけにすべきだ。

まだ時期尚早だ。」

サラザールの意見は厳しいようだが、まず一族郎党、魔法族の身内を守る観点から言えばむしろ当時はこちらの方が常識的な意見だった。

「硬いな、サラは。

学校だってやってみなきゃ分からんことが多かっただろうが。

まずやってみた方が話が早いって。」

この話は膠着し、まだ生徒名簿を自動記録する魔道具も全く完成していないのに、意見の一致する気配はなかった。

 

ただでさえ剣呑な雰囲気が漂ったところに、ゴドリックは彼が新しくゴブリンから手に入れた剣を振り回してホグワーツを駆け巡った。

新しい剣は強く、本当によく斬れた。

当たったものであれば。

結局のところ、剣の銘から「グリフィンドールの剣」と呼ばれるようになるその剣は、ポルターガイストが斬れるかどうかを証明しなかった。

今まででもピーブズとの鬼ごっこは、ピーブズが追い詰められそうになると、都合よく壁をすり抜けたり、床や天井を突き抜けていなくなったり、そういう形で終わっていたのだ。

剣という媒体が同じなら、当たらなければ結果が同じなのは当たり前のことだった。

 

振り回す威力が上がっただけ被害が増え、派手な騒ぎにピーブズが上機嫌になるということが繰り返されて、残りの3人がゴドリックを止めて終わるか、ピーブズが逃げて終わるという頭の痛い状況だったが、何より業腹なことに、破壊魔のゴドリック本人は、細かいところまで元どおりにする繊細な修復呪文は苦手なので、修理に関してはものの役に立たないことだ。

サラザールが止めるのが一番効率的であるが、数々の仕掛けを壊されてロウェナが本気で立腹し、ヘルガがゴドリックに雷を落としたものの、沸点の低いゴドリックはピーブズに挑発されるとうかうかとそれに乗るので、あまり事態は改善しなかった。

 

そして、雰囲気の悪い中、その事件は起こった。

 

 

 

 

 

 

ゴブリンがホグワーツに侵入した。

 

その事情を知るには、前回、ゴドリックがゴブリンの王から剣を強奪した経緯を把握しておく必要がある。

ゴブリンの王は、魔法族やマグルの世襲制と違い、ゴブリンとしていかに鍛治や装飾、細工や加工技術が優れているか、さらに同族の支持を集められるかによって決定されていたので、ラグヌック一世も当代のゴブリン最高の技術を持ち、一族から非常に慕われていた。

当然、そのラグヌック一世が打った宝剣は秘宝扱いで、ゴブリンたちは全員、非常な憤りを感じていた。

だが、ゴブリンは魔法族をかけらも信用していなかったので、そもそも交渉で返却してくれと申し入れる気は最初からなかった。

ラグヌック一世は、苦渋を噛み締めながらも、血気に逸るものたちを諫め、奪われたものを上回るものを打ってみせると宣言して、誰もゴドリック・グリフィンドールの後を追わないよう申し付けた。

 

ゴルヌック一世の決断は同族の血を流させないための選択だったが、収まらないのは、その場に居合わせず、ゴドリックの桁違いの魔力と強さを実感していなかった若い騎士階級にあたる階層の青年たちだった。

彼らは一様に父親のように王を慕っており、ゴブリンの基準で最高の職人である王を非常に尊敬し、その最高傑作である王権の象徴たる剣が奪われたことに憤激した。

彼らは王が止めたにも関わらず、こっそりとホグワーツまで行き、秘密裏に赤い石の王剣を取り返そうと計画した。

ゴブリンは、例え魔法族が認めずとも十分に魔法の力があるので、ホグワーツ城は彼らを魔法の側の生き物として認め、彼らはホグワーツに侵入することができたのだ。

当然のことながら、ゴブリンの目的は剣の奪還であり、魔法族の子供の流血ではない。

そのため、彼らはできればゴドリックの居室の場所を突き止め、他のものに気付かれないうちに剣を取り戻して去りたかった。

それらは既に過去形である。

 

「こいつら、ホグワーツに侵入してただで済むと思ってんのかね?」

ゴドリックが、仕掛けておいた罠で拘束されたゴブリンの若者3人を見下ろしながら呆れたように言う。

ゴブリンが慎重でなかったわけではない。

彼らは禁じられた森を拠点にして、なるべく見つからないように広い城内を慎重に捜索していたが、ロウェナの設置した凝り過ぎた仕掛けの数々と、決闘の複数人の襲撃以来、自室に十分な魔法の罠を仕掛けていたゴドリックの警戒を乗り越えられなかっただけなのだ。

「最初から、見つかって無事で済むとは思っていない。

貴様のような奴に信義があるとは思っておらんわ!

この強盗めが!」

若者のうちの一人が、額に痣を作ったまま吐き捨てる。

ゴブリンの年齢は魔法族には分かりにくいが、おそらく3人の中では年長なのだろう。

 

ここはホグワーツの中庭で、中庭はゴドリックとサラザールとゴブリン、城壁の窓には生徒が鈴なりになって見物している。

この事態を、ここで続けることは賢明ではないと思いながら、サラザールはゴブリンの物言いが引っかかった。

「強盗?」

サラザールが聞き返したのに、ゴブリンが振り返って噛み付くように怒鳴った。

「そうだとも!

この男は、ゴブリンの里に勝手に入りこんで、無理矢理!

王の剣を奪って去って行ったんだ!」

その告発はゴドリックの破天荒さに慣れてきたサラザールに衝撃を与えた。

いくつもの品を強奪まがいに手に入れて来ているのは知っていても、それはあくまで決闘を了承した相手との賭けの結果だと思っていたものが──、隠された里(この時代ゴブリンの里が魔法族やマグルに隠されているのは半ば常識だった)に敢えて押し入り、王の剣を奪うなど、本当に盗人の仕業ではないか、と。

 

「おいおい、やめてくれよ、人聞きの悪い。

俺はちゃあんと代金は支払ったぜ。

それに、この剣の銘『ゴドリック・グリフィンドール』はきっちりゴブリンの名入れの仕事だ。

強盗呼ばわりされちゃあ困るなあ。」

ゴドリックはいけしゃあしゃあとそんなことを言い、ゴブリンの告発に衝撃を受けていた距離の近い一部の面々も、ゴドリックの台詞に、「確かに名入れしてあるのなら」と、再びゴドリックを疑う雰囲気が薄れつつあった。

「盗人猛々しい、金を置いて行ったからと済む問題か。

名入れの仕事は確かにゴブリンの仕事だがーー。」

ゴブリンが言い募ろうとしたのを強引にゴドリックが遮った。

「いい加減にしろ?

お前らは送り返す。

これ以上がたがた言うなら、乗り込んで行って、お前らのやったことの代償に、お前らの大事な大事な王様のお命頂戴してやってもいいんだぜ。

イェウヘン・ベス!」

ゴドリックは杖を振りながら聞きなれない呪文を唱えた。

ぐにゃり、と、ゴブリンたちの姿が歪む。

現代の呪文で言えば、おそらく姿眩ましを強引に他人に使ったような呪文だったと思われた。

 

「ゴドリック!無茶だ!」

サラザールが叫ぶ。

ゴブリンが消えて、彼らが無事にゴブリンの里に戻されたかどうかも分からない。

ゴドリックがブリテンの島中を歩いて会得した古い呪文の一つとは思われたが、それはサラザールが通常使用するものとは系統が違い、その正確な効果を推測できなかった。

ゴブリンが本当に無事に送り返されたのか、それとも肉塊となって何処か人知れぬ土地に放り出されたのかさえ推測することができない。

サラザールが息を飲んだ理由とは別の理由で、ゴドリックがゴブリンを送り返した強大な魔法に窓から覗き見ていた生徒たちからどよめきが広がった。

彼らには、ゴドリックとゴブリンの会話の詳細は伝わらず、興奮だけがさざ波のように広がった。

 

人は見たいものだけ見て、聞きたいことだけ聞く。

ゴブリン侵入の顛末はゴドリックが、自分がゴブリンから金を払って買った剣を、ゴブリンが惜しくなって取り返しに来たと伝えられ、あれだけの分量の会話では、多少違和感があっても、サラザールも生徒に否定して回るような真似はできなかった。

ごく数人、元から家族付き合いをしているブラック家の兄弟、レストレンジ、そしてバジリスクと親しいゴーントだけがサラザールの、正確に言い表せない疑念までを含めて、気をつけるよう伝えられたが、ホグワーツの人数も増え、既に200人を越えようとする規模の集団で、魔法評議会への対応もある事態の中、対立を表立たせるのは得策と言えなかった。

ゴブリン騒動の時には、ロウェナもヘルガも駆けつけるには間に合わず、実質、発言力のある創設者の中ではサラザールだけが不審を抱いた状況になったから、サラザールも生徒たちの前でゴドリックを問い糺すのは避けた。

 

 

 

 

 

 

普段、あまり個人的に他の教師の個室を訪ねることはないが、ゴブリン騒動から二週間ほど経った春の日、サラザールはゴドリックの部屋の扉を叩いた。

「おう、開いてるぜ。

勝手に入ってくれ。」

ゴドリックの部屋は相変わらず取り留めもないもので雑然としていて、生ごみが無いだけましというものだった。

フェニックスは気ままに窓から出入りしていて、窓からこちらに防水と温度保全の魔法を掛けているのが見て取れて、おそらく窓は常に開け放たれているのだろうと思われた。

「ゴドリック、掃除くらいしたらどうだ。

自分でしないなら、せめてハウスエルフに頼め。」

ハウスエルフに、彼らの業務の内容を逸脱しない範囲で仕事を頼むのは虐待には当たらないはずだった。

だが、ゴドリックは首を横に振った。

「まあそのうちな。

適当に座ってくれ。」

 

サラザールは、当たり障りのない整頓呪文を最低限かけると、客用であるはずの椅子の上を占拠していた本や品物が行儀よくひょこんと起き上がって、ひょいひょいと他の棚の空いた部分に収まりに行った。

彼は、ゴドリックが必要以上の操作を他のどの魔法使いもそうであるように好まないことを理解していたので、自分が快適に座れるだけのスペースを確保すると、そこが綺麗であることを一瞬のうちに見て確認してから腰を下ろした。

ゴドリックはそれらの動きに一瞬目を眇めたが、特に口を出すこともなく、自分が普段使っている、むしろそこだけしか空いていなかった椅子に腰掛けた。

「どうした、サラザール。

食堂でもなくて、改まって来るのは珍しいな。」

サラザールは今日はバジリスクさえ部屋に置いて来ていた。

 

「お前の方があまり人には聞かれたくないんじゃないのか。

ゴブリンが来たことについてだがーー、その剣は、本当に公正かつ自由な取引で手に入れたのか?」

サラザールが尋ねているのは、その経緯に脅迫や不正がなかったのかということで、ゴドリックはそれについて明言することを避けた。

「細かいことはいいじゃないか。

取引には間違いない。」

その答えは、サラザールに、少なくともゴドリックがゴブリンを脅して剣を手に入れたことを確信させるには十分な答えだった。

「お前・・・!

なぜ、あちこちで無用な恨みを買って来る!

ゴブリンは付き合い方さえ間違えなければ、我々の脅威にはならないだろうが。

マグルだって侮っていたら、お前、いつか痛い目にあうぞ?

魔法族はどうしたってもともと数が少ないんだ。

純血は純血でお互いに助け合わないと、足を掬われることになるかもしれん。

頼むからもう少し慎重に行動してくれ。

ここには何百人も魔法族の子供がいるんだ。

私たちは純血の魔法族の大人として彼らを守る責任がある。」

 

サラザールが訴えたことを、ゴドリックは、聞きはしたが返事はそれに対するものではなかった。

「──ふうん?

俺は別に子供らに悪いことが起きるようにって行動してるわけじゃねえよ。

ゴブリンでもマグルでもーー結局は同じ土を踏んで生きてるんだ。

運が悪くって弱いもんが割を食うのは仕方ないだろ?

俺も、お前も、──ロウェナもヘルガも間違いなく力がある。

力があるもんが欲しいものを手に入れるのも理の当然だろ?

だけどなあ、サラ、お前はなんか俺とは違うんだよなあ。

一体何が違うんだろうなあ?」

まともな答えになっていないゴドリックの返事を聞いた時、サラザールは背筋がぞわりとするのを感じた。

「そんな、そんなことを聞かれても私が知るわけはないだろう。」

前から時折感じていたことだが、ゴドリックにはそのやけに陽気な態度とは裏腹に、底知れぬ闇がある。

dark artsを行使するのとは違う意味で壊れた男を、サラザールはどう扱っていいのか分からなかった。

 

 

 

 

 

 

別の日、サラザールは、モーフィアス・ゴーントと、バシリスクを連れてホグワーツの湖を訪ねていた。

「モーフィアス、湖のマーミッシュに紹介しておく。」

今は放課後の課外だった。

「先生?

なんで僕に?」

モーフィアスは戸惑っていた。

彼も、自分が入学して来たばかりの時に、湖にマーミッシュが移住して来たことは覚えていて、滅多にないこととして記憶していたが、それで自分が呼ばれる理由が分からなかった。

「まあ聞けば分かる。

一年の時は、まともに聞く余裕もなかったろうけどね。」

湖のほとりでの呼び出しに応じて、数人のマーミッシュが姿を現した。

彼らが口々にサラザールに話し掛けるのを聞いて、モーフィアスも「あれ?」と思う。

 

サラザールが何事か返し、身振りでモーフィアスの方を指し示したので、地上の人間の身振りが通じるか分からないが、モーフィアスはともかくお辞儀した。

そのあと、サラザールが補足を入れていた気配がしたので、身振りの意味はやはり同じではなかったのかもしれない。

「聞き取れるかい?」

ただ、サラザールの質問した言葉の意味は分かった。

細かいところはわからないものの、マーミッシュの言葉は発音も文法もおそらく蛇語に大変似ていた。

蛇語は素養がないと全く聞き取れないことさえあるので、マーミッシュの言葉を学ぶのに、モーフィアスは他の者に優越した才能があると言っていいのだろう。

サラザールは何かを急ぐようにモーフィアスにマーミッシュ語を教え、バジリスクにも様々なことを教え、生徒にも純血の魔法族の伝統的な規範を含めて様々なことを教えた。

後々純血の魔法族の伝統や規範を細かく教え、魔法族以外との交流を慎重にするように説いたこの時期のことは、この時期に生徒だったものの記憶に強く印象付けられることになり、後世、それが強調されて、サラザールが排他的な純血主義者と呼ばれるようになるのはまだ先のことである。

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