ホグワーツ創設物語   作:奈篠 千花

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■第6章 純血主義の真実 前編■

5年目が終わると、初年度の生徒のうち、数名が卒業の形でホグワーツを離れることになった。

イドワル・デハイバース。

フロドリー・ぺべレル。

メドレイア・ぺべレル。

ロドリウス・レストレンジ。

四人と言えば実に半数だが、まあ、この年は元が少ない。

 

家庭の事情は色々あれど、イドワル、フロドリー、ロドリウスについては、継嗣なために、五年を掛けて魔法を学んだなら、後は家の跡継ぎとしての勉強と仕事をという実家からの意向が強かった。

メドレイアについては、兄が戻るのに女子だけ残すのは、嫁の貰い手もなくなるという当時の感性がものを言っている。

まあ、嫡子という点では、残りの四人も同じなのだが、イグネイシャスとオッファンは、そこまで実家がうるさくなく、ヘレナはここが地元で本人の意見を聞く前にロウェナが継続を決めてしまっていた。

ヘレナはそれを負担に感じていたが、またしてもこの親子はそれを話し合ってはいない。

アルタイルは、意外にもブラック当主のカノープスがまだ若いことと、もうちょっと勉強したいという本人のたっての希望で残留になった。

 

卒業そのものは試験の後、6月のいい日和を選んで、牛を一頭潰して作ったご馳走と、いつもはつかないお菓子を用意して、つつがなく祝われた。

5年も共同生活をしていれば、特にそれが最初の数の少ない頃からと言えば、思い入れも違う。

仲の良かったイグネイシャスとオッファンなどは鼻をすすりながら別れを惜しんでいたし、アルタイルとロドリウスなどは、時期は違えども東部に変えれば2年後にはまた会うことになると分かりながらも、目元が赤くなっていた。

当然、レイブンクローのヘレナとイドワルも、同じ寮だった程度には別れを惜しんでいたはずだったが、ーー実のところ、そこに火種があった。

 

イドワルが、卒業後の婚約を、実家に根回しした上でロウェナに申し込んだのだ。

彼はヘレナ本人には言わず、飛び越えて親から話を持って行った。

確かに、距離があって、嫡子同士ではあるが、親のロウェナ本人が他所の領主と共同でない婚姻を結び、別居を成立させている。

かつ、その男性は自領の後継については妾に産ませている、となれば、イドワルが考え抜いた末に、自分にも希望があると思ったのは仕方がないかもしれない。

だが、考えて見てほしい。

いくら自分に自信がないとは言え、7年一緒にいて、告白するでもない無口な男が、突然自分にはなんの相談もなく、母親に結婚の申し込みに行っていたとしたら。

その上、理解があると言えば聞こえはいいが最初から別居婚で両方の後継、二人以上の子を期待され、さらに保険として自領に妾を囲って子供を産ませるつもりだと、本人からではなく、母親から聞いた年頃の娘の気持ちを。

それで喜ぶ女はかなり珍しいだろう。

 

卒業式の後、ヘレナはロウェナに呼ばれ、イドワルからの婚約の申し込みとそれを了承する旨の決定を聞いた。

ヘレナはそれを聞いて絶句し、ほぼ生まれて初めて母親に食ってかかった。

「な、なんで、なんでそんなこと勝手に決めるの!?」

ロウェナは、自分の結婚も領地の利害で親が決めたので、なぜヘレナが憤慨するのかさっぱり分からなかった。

そういう意味では、ロウェナは夫を盟友として愛したことはあっても、まったく恋をしたことがなく、さらに、どちらかというと予言者の資質まで併せ持った学究体質だったことが災いしたと言える。

ロウェナは、ヘレナのことを娘として深く愛してはいたが、ほとんど説明することもなく、親が選んだ相手と結婚させるのは当然と思っていて、ヘレナがなぜ理解しないのか分からず、むしろ、ヘレナのことを好きな相手がいて申し込んできたのは幸運だったのに、頭の悪い娘だとすら思った。

「なんでそんなに物分かり悪いの?

あと2年、卒業するまで待ってくれるんだし、あなたの領主位もちゃんとしてくれるって言ってるし、どうせ結婚はしなくちゃいけないんだから、いい条件の人を選んだ方がいいでしょ?」

そういうことではない、と、ここでヘレナが理路整然と母親に説明できるくらいなら、そもそもこの母娘はここまで行き違って居ない。

そんな風に母親は行き違い、たまたまではあるが、ロウェナには他の懸案があって気が逸れた。

 

懸案というのは、だいぶ離れてはいるが、ロウェナの所領のうちにある城下町のいくつかのことである。

ここ数年、城下では大ごとというには小規模の諍いごとが多い。

普段ならロウェナのところまで届かないようなものまで、同一の人物が関わっているとして届くのは余程のことだ。

『赤毛の大剣を携えた大柄な男』。

それもホグワーツの休みに合わせて報告が増えるとなれば、ロウェナには否応無しに心当たりがあった。

特に、昨年、往来で赤毛の男と揉めた青年が命を落とし、その兄と郎党のまとまった人数がその後敵討ちに行くと言って行方不明になった事件は影響が大きかった。

 

人の命の軽い時代だからこそ、一族と郎党の命は重い。

さらに、それが底辺の農奴まがいの小作人ではなく、いくらか余裕のある中産階級の息子たちとなれば親族郎党が騒ぐのも当たり前だ。

彼らが疑っているのは、くだんの赤毛の男が領主ロウェナ──、この時代魔法使いであるとまでは一般に喧伝していなくとも、魔法が使えることはそこまで隠されていない。

赤毛の男が怪しげな術を使えることは城下の者たちの共通認識になっていて、赤毛の男が消えた先、敵討ちに行くと兄の青年が向かった先が、狩場として領主の禁足地になっているあたりではないかと、抑えきれない騒ぎになっているのだ。

ロウェナはホグワーツでゴドリックに厳しく問い糺しはしなかったが、十中八九、赤毛の男はゴドリックだろうと思っていた。

 

ロウェナは街へ言っては小競り合いを起こすこと全般について、何度もゴドリックに苦言を呈したが、ゴドリックは

「分かった、分かった。」

と軽い返事を寄越すばかりで、事態は一向に好転しなかった。

 

 

 

 

 

 

6年目を迎えると、この頃、各寮の生徒にも色が出始めた。

組分け帽子を導入したことによる当然の帰結なのかもしれないが、意外なことにその特色を最初に鮮明にしたのはグリフィンドールでもスリザリンでもなく、レイブンクローである。

人の性格というのは、それほど単純に色分けされるものではなく、どの寮の資質も持っているが、より要素の強い資質で分けられているのだとすれば好奇心と想像力と探求心がレイブンクローの特徴で、それらは学校という場で非常に表出しやすかった。

 

「先生、この魔法はどうして、こちらのこの魔法と類似に見えるのに、これほど効果が違うのですか?」

これはいい例のレイブンクローの質問だ。

「先生、ラックスパート…。」

これは教師が返事に困る類の発言だ。

まあ、それはともかく、寮の特色が出て困ったのは、グリフィンドールにお調子者という評価では収まりきれない悪ガキが集まり始めたことだった。

違うタイプの友人に囲まれていれば諫められていた悪戯も、同じタイプが集まれば悪のりする。

所詮、学生の悪戯と言っても魔法が加われば洒落にならない結果を生むこともある。

 

グリフィンドール生の悪戯に対して、スリザリンの生徒はお互いに助け合い、徒党を組み、頭を使って頭脳戦で対抗した。

グリフィンドールとスリザリンの、歴史的な最初の対立が、純血主義云々でなかったことは後世には伝わっていない。

そもそも、その時代、ホグワーツそのものに、イドワル・デハイバースのような本当にごく少数の例外を除いて、グリフィンドールにもスリザリンにも、純血の生徒しかいないのが普通だったのだから、その意味での対立が現れるのは、もっと後世のことである。

 

そんな日々のなか、いつもの昼食時、大食堂でゴドリックが、週末街に降りるつもりだと口を滑らした。

当然、この時代にまだホグズミードはないので、ゴドリックが言うのは、ロウェナの所領の街のことになる。

ロウェナは眉根を寄せた。

まだ街は赤毛の男を探して落ち着いていない、今、街に降りるのはやめて欲しかった。

「ちょっと待って、ゴドリック。

街に行ったらまた騒ぎになるんじゃないの。

急ぎの用があるんじゃなかったら、控えて欲しいんだけど。」

ゴドリックは軽い調子で

「あー、まあ気をつけるからよ。」

と返答し、真実味が感じられない。

 

「ゴドリック、あなた、どうしても出掛けるって言うなら髪の色を変えるか隠すか変装して行きなさい。

それにお目付役もいるでしょ。

サラ、お願いね。」

ヘルガが話を振ったのに、いきなりお鉢が回ってくるとは思っていなかったサラザールが

「は?」

と間抜けな声を出した。

「ヘルガ、いや、私は特に街に用はないよ?

いっそヘルガが付き添う方がいいんじゃないかな?」

サラザールは、ゴドリックを止めるのが一番得意なのはヘルガだと思っているので、正直に答える。

だが、ヘルガは首を振った。

「マグルの前でホッピング・ポットでお仕置きするわけにはいかないでしょう。

まあ確かに抑えられないわけじゃないかもしれないけど、マグルの街で、おばさんがおじさんを抑え付けてお仕置きしてるのとかは、だいぶん外聞が悪いし、非常識に見えるでしょう。

男性に頼む方がいいけど、うちの息子含めて、教師陣でも中々この人のお目付役は難しいのよ。」

魔法界はどうかすると魔法では魔女の方が強いこともあり、女性の地位はかなり高いが、マグルの間では中々そういうわけにはいかないことをサラザールも知ってはいた。

男尊女卑、男権主義の中世真っ只中である。

どんな世界でもおばちゃんが強いのは世の真理だが、そういう次元の話ではなく、明らかに上流階級のおっとりしたふくよかな貴婦人に見えるヘルガが、屈強な男性であるゴドリックを小突きまわしていたら、やっぱりマグル的には珍妙な光景なのだということは予想された。

 

「ちょっと待てや。

お目付役ってなんだ。

子供じゃないんだから、そんなもんいらねえよ。」

当のゴドリックから、抗議が出たが、サラザールはヘルガの意見に深く納得してしまっていた。

「なんだ、ゴドリック。

前に一緒に出掛けようぜと言ってたこともあったが、あれは社交辞令か?

実はやっぱり私と出掛けるのは嫌なんだな?」

むしろ、サラザールこそが、ゴドリックとの同道は思わぬハプニングを招き寄せそうで、こちらからご遠慮申し上げたいのだが、最近、そこはかとなくロウェナの心労が絶えず、ヘルガが心配しているのも察せられたため、まあこの際仕方ない。

数年以上の付き合いがあれば、一場面に限ればゴドリックを手玉にとることもできるわけだが、四六時中一緒にいるわけにもいかないし(いたくもないし)、ゴドリックが羽目をはずす機会は一瞬では終わらないので困ったものなのである。

 

「外出、サラザールと──、ううん、確かに一緒に行きたいんだがなあ。

だがほらなんつうか心の準備がな?」

ゴドリックの反応は解し難かった。

振られ続けた惚れた女に、思いがけず誘いを承知してもらった童貞ではあるまいし、率直に言って気持ち悪い。

なおゴドリック本人は童貞どころか下半身の節操はほとんどなく、責任を取る気のないかつ知る気もない子孫がすでにあちこち発生しているのは、それこそ全くもって知りたくもない情報である。

「何かよく分からんが、誘いは上面だけだったということか?」

サラザールが駄目押しのように尋ねると、ゴドリックが慌て出した。

「違うぞ、社交辞令じゃない。

俺はサラを親友だと思ってるからな!

よし週末、一緒に行こう、何でも欲しいものを買ってやるから!」

 

私は、貴様の女でも子供でもないんだが、とサラザールは多分思った。

その週末、二人きりで外出、とはならず、おそらくこのやり取りを傍で聞いて心配したブラックのアルタイルとアルナイルがサラザールにねだって、こぶ付きで外出することになった。

 

 

 

 

 

週末の外出は、途中までは意外にも和やかに進んだ。

この時代基準で言えば立派な青年という年齢だが、長寿の魔法族基準で言えば純然たる子供である二人がいたのもあるし、相手が世慣れた成人男性であることを忘れたかのような、ゴドリックのサラザールに対するエスコートっぷりも相俟って微妙な雰囲気になる場面もあったが、サラザールもアルタイルたちも普段ここまで純然たるマグルの街に接することが少ないために、結構楽しむことができたのだ。

ヘルガの強い主張と魔法により、ゴドリックの目立つ赤毛は黒く染められており、それだけでだいぶ印象も変わっていた。

それで終われば、ロウェナの悩みも減り、ヘルガの心配も報われ、サラザールの行動も満足のいくもので終わっただろうが、そうはいかないのがお約束である。

 

ゴドリックも彼一人でいるときよりかは多分おとなしく、その週末は小規模ながら市が立つ日だったらしく、並べられた行商の品物にサラザールが魔法薬の材料になるものを安価で見つけてご機嫌よろしくなっていた。

一応、言っておくとこの時代はまだ英国では魔法族だけの通貨はなく、マグルのものを流用して使っていた。

理由は簡単で、通貨を誰が発行及び鋳造させるかを考えれば分かると思うが、まだ、英国統一の魔法省はないの である。

ロンドンにある魔法評議会が最大の勢力ではあるが、各地に小規模の氏族会や民会があり、政府と言える状態ではない。

統一政府である魔法省の誕生は18世紀を待たねばならず、固有の金貨など発行している余裕はないのである。

魔法族は、金、銀、銅を通貨として、自分たちでものを流通させる時は、マグルの金貨や銀貨、銅貨を目方で測って通貨がわりにしていたのだ。

 

まあそれはそれとして、そろそろ帰ろうかという雰囲気の時になった時、こちらを見て、こそこそと話をする男らがいた。

3人ほどのその男らは明らかに堅気という雰囲気ではなく、剣呑な様子だったので、サラザールは最初、それなりに身なりの良い自分たちを狙った物盗りかと思った。

マグルに紛れる格好はしているつもりだったが、布地などの質の良さや洗濯が行き届いていることなどは、ハウスエルフに汚せとも言えないので如何ともしがたい。

だが、どうも様子が違う。

こちら全員というより、怪しんでいるのはおそらくゴドリックだ。

「兄さんたち、ちょっと遊んでいかないかい。

良い小遣い稼ぎになる遊びがあるんだぜ。」

様子見なのか、そのうちの一人がそれとなくこちらの後ろに、もう一人が横に回り、一番人相が無害そうな一人が話し掛けてきた。

「いや、今日はもう帰るところだから、機会があればまた寄らせてもらう。」

サラザールたちが何を言う暇もなく、ゴドリックが返答した。

 

相手はゴドリックを窺っていたが、なにかを確認して、人違いだったと思ったらしく、やや気を抜いた様子で

「そうかい、そりゃ残念だ。

またの機会があるといいが。」

そう言って距離を取った。

市場の向こう側で集まった3人が「奴か?」「いや目の色が違う。」「くっそ、赤毛の野郎、変装かと思ったんだが。」「落ち着けよ。俺らの街で好き勝手しやがって。今度見つけたらぶっ殺してやる。」と話し合っていたのが、魔法で聞き耳を立てていたサラザールには筒抜けである。

その時点で、サラザールはゴドリックが目の色まで魔法で変えていることにやっと気づいた。

あの3人が言っている「赤毛の野郎」は、ほぼ間違いなくゴドリックで間違い無いのだろう。

 

気付いた時点で、サラザールの気分は急降下した。

ただ、マグルの多いこの街中でゴドリックを糾弾して言い争いなどしては、その内容でも口論ということでも人目を引く、とそのことを気にして、[[rb:天馬>イーナソン]]をマグル避けを掛け、念のため普通の馬に偽装して繋いだ街の外れまで来るまで耐えた。

アルタイルとアルナイルも何かを察したらしく、心配そうにしている。

ゴドリックは天馬のところまで戻ると、繋いでいた紐を緩めて、手綱をそれぞれに渡してきた。

「まあそれじゃ戻るか。

夕食には間に合うだろ。」

態度の変わりないゴドリックに、サラザールが尋ねたかったことを聞く。

「その前にゴドリック、一つ説明して欲しい。

あの声を掛けてきた男たち。

本当にお前、面識がないのか?

あれは賭場の者たちだろう。

お前、マグルの街で一体何をしている?」

 

ゴドリックがの視線に翳りが走ったような気がするのは気のせいだろうか。

「ああ?

大人の男なら賭場くらい行くだろうが。

今日は子供がいたから知らんふりをしてやったが、普通に遊んでるだけだぜ、俺は。」

そうは言うが、サラザールは魔法使いの「普通」が、どう足掻いてもマグルの「普通」にはなり得ないことを知っている。

ゴドリックのような気性の男なら尚更だ。

今日の男たちの反応からして、以前ゴブリンから買ったような恨みの理由が、彼らの方には正当にあるのだろう。

「普通なわけないだろう!

お前、マグルと必要以上に関わるな!

マグルがお前に敵うわけがない、いちいちマグルを相手にするのはやめろ。

まったく関わるなと言うんじゃない、決闘だの、賭博だの、マグルがお前に勝てるわけがないのだから、いちいち打ち倒して歩くのはよせ。」

 

ゴドリックの表情に、今度ははっきりと皮肉な表情が浮いた。

「いいや?

慈悲深いサラザール。

身内に優しいお慈悲を、マグルなんざ気にせず、俺にも分けてくれよ?

マグルが弱者なんて、俺はとんでもない誤解だと思うね?

アイツらは結構残酷で容赦なくて、抜け目がないもんだ。

油断して掛かると寝首掻かれるのはこっちだぜ?

あいつらが自分の力を過信して挑んで来るんなら、なんでも手を抜かずお相手して差し上げるのが正道ってことだろ?」

そう言ったゴドリックはひどく酷薄に見えた。

 

「まあこのままだと面白くない話になりそうだからな。

俺は先に帰るぜ。

サラはそいつらとのんびり帰って来りゃあいい。」

ゴドリックはひらりと天馬に跨ると、そのまま上空へ飛び立った。

「サラおじさん、今の──。」

「ゴドリック先生、ちょっと──。」

アルタイルも、アルナイルも、今の会話に顔色をなくしていたが、言い掛けて適切な言葉を見つけられず、語尾が濁った。

 

「──アルタイル、アルナイル。

ゴドリックの言葉を真に受けてはいけない。

あいつはーー、奴はなにかがいびつだ。

とにかく、私たちも帰ろう。」

この日の外出は、何か大きなことが起こったわけでもないのに、ひどく後味の悪いものになった。

 

 

 

 

 

 

ホグワーツの、創設の4人の仲に翳りが見え始めたころ、逆に腰を据えた者もいた。

ヘルガ・ハッフルパフである。

ホグワーツは、4人で思いついたとは言え、本来はロウェナのヘレナに最高の教育を受けさせてやりたいという動機から始まった。

ヘルガはそれに賛同し、最初はロウェナへの友情から力を貸した。

彼女の数人の子供たちも既にある程度大きくなっていて、子育てがひと段落ついていたと言うのもある。

だが、実際に続けて行くうちに、彼女はこの事業が本気で好きになっていた。

彼女は数人の子供を育て、子育ては大変でもあったが最後はいつも楽しかった。

子供が育っていくのを見るのはなんて楽しいんだろう!と彼女は思っていた。

だからこそ、今の不安定な雰囲気に、ここで投げ出したりはできない、と思っていた。

 

「母さん。この薬草、こっちでいい?」

変わり者で結婚する気もなさそうだと思っていた息子が、ホグワーツで教鞭をとることに同意し、薬草栽培まで手伝ってくれている。

ヘルガの夫であるウェールズの一地方の領主は、ヘルガのやりたいことを認めてくれて好きにさせてくれているが、女好きでもあったので、今ごろは若い女にうつつを抜かしていて羽根を伸ばしていそうだというものなのだが、そこのところは追求すると、ヘルガの精神衛生上も、やりたいこと的にもあまり良い結果にならなさそうなので、触らないでおく。

当然息子も心得たもので、たまに父親と連絡を取っていても、余計なことを母親の耳に入れることはない。

ヘルガは、英国では前代未聞の、魔法族の学校という事業に骨を埋めるつもりさえあった。

「子供は親の思い通りの育つものじゃないわ。

でも、だからこそ本当に立派になることもあるし、思いもかけないようなものになることもある。

そういうのも全部楽しいのよ。」

彼女が教えるのが本当に好きだと、息子にからかわれたとき、彼女はそう返した。

 

そんな彼女はロウェナとヘレナの意志の不疎通にはある程度気付いていたが、こちらはまだ親子関係のことなので、時が解決すると思っていた。

ロウェナがヘルガに相談していれば、イドワルとヘレナの縁談は段階を踏めと駄目出しをされていた可能性が高いが、ロウェナは肝心なことは独断専行するきらいがあり、ましてや縁談の話はホグワーツではなく領主としての権限の話だと思っていたので、ヘルガはその話は聞かされていなかった。

 

ヘルガはまた、ゴドリックとサラザールの、一般に流布している「親友」というには微妙な距離感を気付いてはいたが、ヘルガはマグルの街に頻繁に降りるわけでもないので、ゴドリックの所業の数々を正確に把握していなかった。

だが、この時、ヘルガが二人の仲を仲裁しようと思ってもそれが可能だったかは分からない。

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