ホグワーツ創設物語   作:奈篠 千花

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■第7章 避けられぬ決闘 前編■

ユリウス暦999年。

ホグワーツ魔法学校が創立されてから、7年が経つ。

翌年には千年期(ミレニアム)を迎えるとは言っても、イエス・キリストを讃えるわけではない魔法族にはたいした感慨があるわけではない。

ただ、最初に入学した生徒が、ホグワーツ在校の上限と定めた7年目を迎えるために、上級魔法試験、のちのN.E.W.T.の原型となる試験を実施することに決まって、慌しい雰囲気があった。

残って7年次を迎えるイグネイシャス・ウィーズルエンド、アルタイル・ブラック、オッファン・スティンチクーム・、ヘレナ・レイブンクローの4名。

人数にしてみれば、たったそれだけだが、その試験の難易度と成果は今後の基準にもなるし、彼らが今後出す成果は、魔法族社会へ学校という制度が本格的に受け入れられるかどうかの試金石ともなる。

緊張が漂うのは当然ではあった。

 

教科は千年後と変わらないものもあれば、変わったものもあったが、呪文と薬草、魔法薬などは確実に試験されなければならなかった。

のちに重要となる変身術はそこまで必修とも独立した科目とも見なされておらず、逆に千年後は軽んじる者もいた占星術と数秘術はこの時代には当然の必修だった。

試験は一年のうちに、教師の方の準備も、生徒の学習準備も考慮されて、それぞればらばらな時期に設定され、順次実施された。

前半の学期で、おおよそ三分の二の試験が行われ、優秀な生徒ばかりが入学している年度であることもあって、高等な魔法でもできないという生徒はおらず、全員が一流の魔法使いであるというお墨付きは出せそうだったが、それでも明暗はあった。

この前半の時点で、最終の成績を収めたのはアルタイル・ブラックで、のんびりと過ごしていたように見えたオッファン・スティンチクームよりもヘレナ・レイブンクローの成績が振るわなかったのである。

 

各学年ごとに成績を出すようなカリキュラムにはまだなっていなかったが、この結果には、ロウェナが眉を顰めた。

「ええ?

なんでオッファンやイグネイシャスより成績が下なの?

真面目にやってる?」

ロウェナはこれを嫌がらせではなく聞いているが、ヘレナは本当に別にサボっていたわけではない。

ヘレナは彼女自身はあまり快く思っていなかったが、5年生、O.W.L.の時までは授業時、なんだかんだ言って同じ寮のイドワルが、談話室で後輩の面倒を見るついでに、彼女の勉強も見ていたのである。

彼が卒業してしまい、勉強の仕方の要領を見失ったヘレナが、それ以降の魔法の理解に影響を来たしたのは当然だったが、彼女は本当に真面目に勉強はしていたので、母親の発言にひどく傷ついた。

おまけに、四人の成績順位は特に公開されなかったにもかかわらず、ロウェナの呟きを漏れ聞いてしまった生徒が、「これは内緒だけど」「ヘレナ先輩、試験最下位だったらしいよ」などと言い交わしたせいで、あっという間に下級生に噂が広まってしまったのもヘレナにとって耐えがたい事態だった。

 

「兄さん、一位だったみたいだね、おめでとう。」

アルナイルから、素直にお祝いを言われて、アルタイルは憮然とした。

成績発表していないのに、いつの間にか、成績順位が人口に膾炙していたからだ。

アルタイルはロウェナが口を滑らせた現場には居合わせなかったので、さすがにヘレナがロウェナに腹を立てていることまでは気付いていない。

弟には悪気がないのは分かっているので、アルタイルは弟には、なんとか持ち直さした笑顔を向けた。

「ありがとう、これでブラックの面目が果たせそうだよ。」

 

「うん、兄さん、流石だよ。

僕も来年は頑張らないとなあ。

進路も真面目に考えないとだけど。」

ブラックは、ある程度は分けるが、資産の分割を嫌って、原則長子相続にしてきた。

順当に行けば、アルタイルが跡をとるのだが。

「・・・その件なんだが、アルナイル──。」

アルタイルは、今まで話しあぐねていたこと、自分は魔法研究をすることと、人に教えることが好きで仕方ないこと、──できれば、このままサラザールについて、ホグワーツに残りたいことを、やっとアルナイルに相談した。

アルナイルは途中から目を見開いていたが、アルタイルの話を遮ることはなかった。

話を聞き終えると、アルナイルは深いため息をついた。

元から距離の近い兄弟である。

アルタイルが言い出したことに、アルナイルは納得するところがあったのだろう。

 

「ひとつ聞きたいんだけど、兄さん。」

アルナイルが問いかける。

「何?」

内心ではひやひやしながら、アルタイルが聞き返す。

「この話、もう誰かに言った?」

その問いにはアルタイルは首を横に振った、間違いなく、話すのはアルナイルが初めてだった。

 

「本当に?

父さんにも?

サラおじさんにも?」

アルタイルが頷くのを見届けてから、アルナイルは笑顔を浮かべた。

「仕方ないな。

僕が一番っていうのに免じて、父さんやサラおじさんのところには一緒に行ってあげるよ。

当主業も引き受けてあげないこともないよ。

その代わり休みはちゃんと東部に帰ってきてよね。」

兄弟はそれからもう少し具体的な相談をしたが、この後、新年の休暇に入る前にサラザールを説得するのは意外な難事業であることを知ることになる。

 

 

 

 

 

 

さて、この章でサラザールに直接関わらないものの、重要な役割を果たす人物がいる。

今までにもたびたび描写してきたガラクタス・ぺべレル、「三人兄弟」の傍系の祖にあたる人物である。

ここでは彼の研究について紹介しておこう。

 

魔法を明るい(光)か暗い(闇)かで規定するなら、彼の研究している魔法はほぼ全て暗い。

だが、暗い魔法が禁忌であるとの認識はまったく後世のもので、魔法という物そのものがヒト型生物の知力の暗い側面であり、それ故に自分の勢力を維持、拡大、隠蔽しながら発達してきたという事実から目を逸らしたものであると言える。

そのあたりの論議は哲学者にでも任せるとして、彼の研究は概ね、ひとつ死者を蘇らせる反魂術以外は、自分の生命をいかに保持するか、延命するかの術がほとんどだった。

こちらの方は、自分の魂の一部を取り出して何か堅牢な容器に保全しておくもの、延命薬を作って寿命を伸ばそうとするもの、他の生物に隷属刻印を繋げてその生命力を自分に取り込み、生命力の増大、活性化をはかるもの。

それらは、時代を経て研究され、一千年後にも受け継がれていたが、決して彼が一から創造したものではなかった。

それは魔法そのものの命脈に脈々と受け継がれ、それどころか、魔法そのものの根幹であったかもしれないのだ。

 

最初の魔法はのちに[[rb:分霊箱>ホークラックス]]として知られるものによく似ており、延命薬は賢者の石から精製される命の薬によく似ていた。

隷属刻印は、その主たる目的がすり替わっていようとも、ヴォルデモートが使用した闇の印(ダークマーク)と、理論的には非常によく似ていた。

 

フロドリーは、他の者から搾取する隷属刻印にはあまり気が進まなかったが、そのほかの考え、死から逃れるかとや、死から還るという考えにはひどく惹きつけられた。

だが、彼は去年ホグワーツを卒業してからほぼ成人としての扱いを受けており、父の跡を継ぐ一人前の大人として、地域の共同体(村落ごとの魔法評議会のようなものである)の会議や行事にも参加し、結構忙しくしていたので、なかなか叔父のガラクタスのところへ訪れる暇ができなかった。

 

新年の休暇の前は年越しの準備でなおのこと忙しく、やっとガラクタスの様子を見に行けたのは、新年を過ぎて村全体が落ち着いたころだった。

「ガラク叔父さん?」

来客があることに、入ってから気付いた。

「よう、フロドリー。

元気そうだな。」

ゴドリックは眉を上げて、フロドリーに声を掛けたが、フロドリーはガラクタスの屋敷でゴドリックに遭遇するのは初めてだったので戸惑った。

もちろん、ここはゴドリックの故郷で、ゴドリックはフロドリーの父親のハウウェルとも友人であったわけだから、いてもおかしくないのだが、不死鳥を従え、炎を得意とする豪快な性格のゴドリックが、とにかく暗い系統の魔術ばかりを追い求めているガラクタスをわざわざ訪れていたことを不審に感じたのだ。

「なあに、ちょっと見せてもらいたい本があってなあ。」

そういってゴドリックが見ている本は、装丁の印象から既刊の本ではなく、ガラクタスの研究成果をまとめた手書きのノート類だと思われた。

フロドリーは首を傾げながら、ガラクタスが意気込んで聞かせてくれる魂の一部保管の魔法の説明を聞いていた。

 

冬休み、動きがあったのはブラック家だった。

アルタイルが、ホグワーツに残って教師になりたいと言ったとき、カノープスはいい顔をしなかった。

それはそうだろう、長期的な視野を持ってホグワーツを支援したと言っても、嫡男がホグワーツに取られる事態は流石に想定していなかっただろうから。

だが、結局は、アルナイルが後押しをしたのもあって、カノープスが折れた。

サラザールは、本人がアルタイルの残留に苦い顔をしていたので、あまり積極的には後押しをしてくれなかったのだ。

だが、ともかく上級魔法試験の出来いかんにかかわらず、アルタイルはホグワーツに残ることができる運びとなった。

ホグワーツ側の方は、アルタイルの優秀さは分かっていたので、人格に問題のない優秀な教師は大歓迎だった。

 

 

 

 

 

 

問題は卒業も近くなった春の終わりに勃発した。

そのころには、生徒の上級魔法試験もほぼ終わり、最終成績を出す段階に入っていた。

そこで、のちのゴドリック・ホロウ、西の荒野の彼の故郷の村から、ゴドリック・グリフィンドールあてに、正式な申入れの手紙が入ったのだ。

ちなみに、ウィゼンガモットは、各地にあった魔法評議会に似た組織が、独立性を保ったまま、のちに魔法省に統合されたため、司法を縄張りとしたが、この時代は司法は各地の魔法評議会や民会などがそれぞれ管轄していた。

それは、西の荒野周辺を統治している評議会からの正式な証人召喚状であり、ホグワーツ校長というという体裁、つまり上司であるロウェナにも、内容を周知する手紙が届いた。

「証人召喚状?

ゴドリック、何やったの?」

証人としての立場での呼び出しにも関わらず、ヘルガの第一声にゴドリックへの信用は限りなく低い。

 

「何にもやっちゃいねえよ。

うーん?」

流麗な書体で見える位置に宛先と「証人召喚状」と書かれた、折られた羊皮紙の封蝋を開けて確かめたところ、大袈裟な文体で西の荒野地区での変死事件について、証人の喚問を要請するとある。

被害者は、二名。

一名がガラクタス・ペベレル、二人目は数年前に没落したマグルの貴族の娘。

しかし容疑者の名にも、重ねてガラクタス・ペベレル、とある。

「どういうことだ?

これは?

ペベレル?」

ロウェナあての書簡を一緒に読んでいたサラザールが疑念の声を上げる。

もちろんガラクタス・ペベレルは、ホグワーツに来たことがないので、ここにいる教師の中では、ガラクタスと面識があるのはゴドリックだけである。

 

「フロドリーとメドレイアの叔父だ。

──死んだ?

そうか、死んだのか?」

きょとんと、という形容が似合いそうな緊迫感のない呟きだった。

実感が湧かないということを考慮しても妙な反応だった。

「ゴドリック、あなた、これは正式な依頼よ。

支度したら、すぐに向かった方がいいわ。」

急がない旅なら、[[rb:天馬>イーナソン]]でもいいが、急ぐなら姿眩ましで直ちに出発すべきだろう、だが、向こうにどれくらい滞在する必要があるのか分からない以上、荷物その他の準備を怠るべきでもない。

「待ちなさいよ、一人じゃない方がいいわ。

サラザール、同行してくれる?

何があったか確かめて来て。

そもそも、ホグワーツにいたゴドリックになんで召喚状が届くのかも分からないし。」

ヘルガがサラザールに言う。

学期中に、教師が二人も抜けるのは歓迎される事態ではないが、5年生の試験も、7年生の試験も終わったこの時期なら、対応はさほど難しくない。

 

「分かった。

ロウェナ、ヘルガ、後は頼んだ。

ゴドリック、すぐに準備をしろ、でき次第、発つぞ。」

サラザールも何か思うところがあったのか、さして反論もせずに了承した。

「ああん?

サラも来るのかよ?」

ゴドリックは緊張感もなくぶつくさ言っていたが、それでも準備には取り掛かった。

 

簡単に姿現し、姿眩ましというが、迂闊に未熟なものが扱えば手足の一本や二本その辺に置き忘れて負傷する危険な術であることに昔も今も変わりはない。

一千年後と違って、免許せではなかったが、ゴドリックやサラザールくらいの魔術師ともなると、自分の故郷へ姿眩ましをするくらいのことは造作もなくできた。

ただ、ゴドリックは単に放浪も日常の一部であるがゆえに、サラザールは概ねブラック家や同郷の子供たちを連れていることが多く、子供たちの安全性を保つためと、旅の過程も教育であるという観点から、旅程で姿眩ましを使うことは少なかった。

翌日、ゴドリックの腕を掴んで一緒に姿眩ましをして、着いた先は西の荒野のゴドリック故郷の村だ。

どこなの家の庭に出た、と思ったら、ハウスエルフが屋敷の中から飛び出して来た。

 

「旦那様!

お帰りなさいませ、今は学校とやらの途中ではございませんか?

飲み物をお入れしましょうか?」

ハウスエルフのその反応で、その屋敷がゴドリックのものだと分かって、サラザールは一瞬入った肩の力を抜いた。

ちなみに、この飲み物とは、一義的にアルコール飲料、次に果実水、それから水であって、お茶という文化は全く普及していない。

ゴドリックは、ハウスエルフにサラザールをさす。

「飲み物もいいが、客だ。

ホグワーツで一緒のサラザール・スリザリン。

この土地にいる間はここに逗留する、間違って追い出そうとするんじゃないぞ。」

「あ?」

そう言われてサラザールは虚をつかれるが、ゴドリックの方が不思議そうに返した。

「あ?

うちじゃなかったらどこに泊まるんだ、この辺は田舎だから、宿を商売にしてるような家はないぞ。」

言われてみればその通りで、サラザールはこのあたりは不案内だが、庭から見える辺りを見回してみても、あまり、商業的に栄えた地には見えなかった。

「そうか、仕方ないな。

世話になる。」

そのあたりは割り切って、サラザールはさほど多くはない手荷物をハウスエルフに預けた。

 

「俺はいっぺん、ペベレルんちに顔出してから、評議会の爺さんたちのツラ拝みに行こうと思うんだが、サラ、お前はーー。」

どうする、とゴドリックが言い切る前に

「先生!

サラザール先生も!」

と、庭の生け垣の外から声がした。

「フロドリー!」

そこにいたのは、フロドリー・ペベレルで、考えてみれば、田舎基準とは言え、ペベレル家とグリフィンドール家はご近所さんなのだから、フロドリーがいてもおかしくはない。

フロドリーは、二年近く前、ホグワーツで顔を合わせていたときより、だいぶ大人びて見えた。

ただ、いくらか顔色が悪いようにも見える。

「フロドリー?

今からそっちに顔出そうと思ってたんだ。

顔色悪いな?大丈夫か?」

フロドリーは何かを言い掛けたが、明らかにサラザールを見て黙った。

「うん、父さんたちは家にいるよ。

評議会の爺さんたちも来てる。

今から来るなら予告しとこうか?」

そう言うと、フロドリーはゴドリックが了承したのを確認してから駆け戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

それからの出来事は非常に忙しなかった。

ゴドリックがサラザールと一緒にぺべレル家、ーフロドリーの実家の方のー、を訪ねると、現当主のハウウェルが難しい顔をしてゴドリックを出迎えた。

「率直に言おう。

ゴドリック、 お前、ガラクタスがマグルの娘をかどわかしたんじゃないかということに関して、関与を疑われてる。」

「んあ?」

事情を聞けば、今回の事件は、闇の魔術に傾倒し過ぎたガラクタスが、何らかの魔術を実行するために、生贄として若いマグルの娘を攫い、何らかの実験をした結果だと思われている。

だが、ガラクタスが試みた実験はそれが何であったにせよ、確実に失敗した。

後に残されたのは表情を恐怖に見開いたまま凄まじい形相で息絶えていた血まみれの娘の亡骸と、何をどうしたのか、その場にはそういったものは残されていなかったにもかかわらず、胸元に大きな鉤爪のような跡が残り、おそらく生きたまま心臓をえぐり出されて死んだガラクタス本人の遺体が転がっていた。

何が起こったのかの詳細は掴めない、と、ぺべレル邸に集った評議会の面々も厳しい表情で言った。

 

だが、ガラクタス・ぺべレルが一族の男子としての義務も放棄して、暗い魔術の研究に没頭していることは、この地方のものなら誰でも知っていた。

兄のハウウェル・ぺべレルが周囲の信望厚い人格者として知られているのと対照的に、ガラクタスは娘を結婚させたくない穀潰しとして認識されていたのだ。

「ゴドリック・グリフィンドール。

ガラクタス・ぺべレルは状況から、マグルの娘を誘拐して殺害したものと思われる。

それについて、貴殿は何か知っていることがあるのではないのか。」

元々、ハウウェル・ぺべレルの屋敷は地元の名士の家で、大人数での会食に使えるような広間がある。

設営された椅子とテーブルの配置は、完全に審問を意識したと思えるものだった。

サラザールは直接の関係者ではないが、本人が東部の名家の出であることと、ゴドリックが関わるならホグワーツを代表する者の一人として知る必要があると言う説明が受け入れられて、傍聴の立場で同席した。

 

ゴドリックは特に動じる様子もなく、いつもの調子で、

「何で俺が知ってるわけがあるんだ。

俺はここ何年もホグワーツにいたんだぜ?

そりゃあ幼馴染みだからな、休みに帰って来たときは、あの引きこもりを心配して様子を見に行くこともあるが、それだからって、何で俺が関係あると思うんだ?」

質問をした評議会の老爺は、横の老人と目配せをした。

「貴殿を招いたのはそこだ。」

どこだ。

「殺された娘は、近隣の地方の、だいぶ以前に没落した領主家の系譜だった。

嫡子が賭け事に入れ上げて身代を傾けて、嫡子本人は、貴様のせいだと貴殿に決闘を挑んで命を落とした。

領主はそれを補填しようと所領から厳しく税を取り立て過ぎた結果、領民の逃亡離散が相次ぎ、結局、領主一家自体が夜逃げした。

その際に、足手纏いになる乳飲み子の娘は尼僧院に預けてな。

ガラクタスがかどわかしたのは、その娘だ。」

老爺は、そこで一息ついてゴドリックの表情を窺ったが、ゴドリックは顔色ひとつ変えていなかった。

 

老爺は期待した反応が得られたわけではないようだったが、とにかくも先を続けた。

「その、没落した領主家の嫡子を、賭け事に誘ったのは、そもそもゴドリック・、グリフィンドール、貴殿ではないのか。

そして、その嫡子は、昔、そなたの妹を踏み殺し、卑怯な手で父親を斬り殺した男ではなかったのか?

貴殿は、その嫡子に娘がいることを知り、今回のことを企てたのではないのか?

或いは、ガラクタス殿の研究の贄にすべく唆したのではないのか?」

サラザールは息が詰まるような気がした。

ゴドリックの過去を詳細に知っているわけではなく、家族は死んだ、とくらいしか聞いていなかったが、あり得ない話ではないと思ったからだ。

だが、ゴドリックは落ち着き払って反論した。

 

「は!

そもそもなんの魔術かも特定できてないんだろうが。

推測だけでものを言ってもらっちゃ困るな。

俺が賭け事に誘った奴が嵌って自滅したからって俺のせいか?

俺のせいなら、その娘だって、その時点でどっかに売り飛ばしでもすりゃあ良かったろうが?

そんな手の込んだことをする必要がどこにある?

だいたい、見縊らないで欲しいが、俺は決闘も賭け事も四六時中してる。

それが特別だったなんざどうやって証明する?」

ゴドリックが言い切れば、証拠はなく、後は推論しか残らない。

 

凄惨な事件ではあったが、心が荒むようなやり取りの末に、何ひとつ証明できないまま、ゴドリックは解放されることになった。

「サラザール、ちょっと先に家に戻っててくれ。

フロドリーが案内してくれる。」

ゴドリックは、評議会から解放された後も、家長のハウウェルが話があると言って引き止めたので、先に戻ることになった。

考え得ることはいくらもあったが、決めつけることもしかねて、サラザールが黙ってフロドリーについて歩いていたとき、ゴドリックの屋敷の前まで来て、フロドリーがふと足を止めて振り返った。

「サラ先生、言っときたいことがあるんだけど──。」

 

「なんだ?

屋敷に入ってから聞こうか?」

「ううん、敷地に入ると、ハウスエルフに聞かれる。

そしたらゴドリック先生バレるから・・・。」

決して良い話ではない予感がしながら、サラザールは先を促した。

「評議会の爺さんたちには言わなかったけど──、やっぱりガラク叔父さん唆したのは、ゴドリック先生だと思うんです。

こないだの休みの時、ゴドリック先生来てて、僕、時々ガラク叔父さんの様子見に来てたんだけど、だいぶ長いこと入り浸ってて、ゴドリック先生が去った後、ガラク叔父さん何か凄い悩んでたんです。

研究一辺倒でだいぶ変わってたけど、やるべきかやらざるべきか、みたいに、ゴドリック先生と話した時から様子がおかしくてーー、何にも証拠とかないし、証明もできないし、ゴドリック先生は先生だしーー、評議会の爺さんたちにはとても言えなかったけど。」

フロドリーは、きちんと成人した議席を持つ魔法使いとして扱われ、先ほどの審問紛いの席にも同席していた。

 

「──フロドリー、それを何故今、私に言うんだい?

さっきは言わなかったのに。」

フロドリーは、顔色の悪いまま、恩師を見上げた。

「だって──、ゴドリック先生がもし何かやらかして止められるとしたら、サラ先生たちでしょう?

多分、この前の休みの時に、ガラク叔父さんが集めてた本の一部がなくなってるんです。

具体的にどの本って分からないけど、叔父さんが「とびきりヤバい」って言ってたあたりのーー多分、隷属とか蘇生とかと思うんだけど。」

おそらく問い質しても認めはしないだろう、と思いながら、サラザールはフロドリーに気をつけておくと約束した。

 

ゴドリックは、サラザールがフロドリーと別れてからもしばらくは戻って来ず、日が落ちてから戻ってきた。

時刻も遅かったので、サラザールはゴドリックとまともに話すタイミングを逸し、翌日ホグワーツに戻っても、むしろしばらくはその話題に触れないようにして、どちらもが過ごした。

無論、ロウェナやヘルガにはゴドリックが事態を説明したのだが、サラザールは否定するわけではないが、言葉少なにほとんど口を挟むことはなかった。

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