とりあえず、夏は暑い。
後期の授業は、6月までとした。
7月と8月は夏休みで、ざっくりとした幅で、概ね9月1日に学校に戻っているように、という形で、がちがちに固められた形でなく、次の学期を決めた。
教授陣も、ここが地元のロウェナ以外は帰省した。
ヘルガは南に、ゴドリックは西に、サラザールは東に帰省して、サラザールは彼の小さな娘が父親の顔を忘れかけていたので、次の学期はホグワーツに戻るのをやめようかと思うぐらいに嘆いた。
夏休みの間に、学校で学んだ生徒の成長ぶりが知れ渡って、また何組かの家族が自分の子弟を預けるということも言ってきた。
これで、次年度新入生がいないという事態は避けられるようだ。
また、彼らは前の年度を解散する前に、全員が家庭教師のように生徒を教えるのではなく、せっかく教科書にする本を決めたので、受け持ち教科を決め、生徒をある程度まとめて学校らしく授業をしてみようと話した。
二年目。
この年には結局初年度の倍の人数が入学し、そのすべての名簿を書き出すことは徒労に終わるだろうからやめておくとして、この年の入学に、イングランド中部からモーフィアス・ゴーントが、東部からアルナイル・ブラックが入学して来たことは書きとめておく必要があるだろう。
モーフィアスはロウェナが担当して鷲の紋章のレイブンクローに、アルナイルは兄のアルタイルと同じく蛇の紋章のスリザリンでサラザールが担当することになった。
そう、この年、今後生徒が増えることを予想して、夏の間に四つの寮の設備を整えていた。
薬草の扱いと魔法薬の扱いに長けたヘルガとサラザールが地下を希望したのは無理もないことで、通年急激な温度変化がないことと、成分を変質させる直射日光を避けることは、もはや必然の命題であったと言えた。
「秘密の部屋を作ろうと思うのだけど。」
ロウェナが言い出したのも突然だった。
生徒が部屋に引き上げて、彼ら、教師、大人四人だけで話しているときに、思いついたらしい。
「やっぱり作業部屋も欲しいし、万一の時の避難部屋も欲しいじゃない?
自分のアイディアとか希望があったらそれでもいいけど、場所は重ならないようにしたいし、とりあえずいくつか作りましょ。」
避難場所というのは災害時の話ではない。
この時代では戦争時の逃走経路や隠れ場所、籠城場所のことである。
なにしろ血生臭い中世、現代とは基本の感覚の物騒さが違うのであった。
「あぁ、そりゃいいな。
武器を置ける部屋が欲しいんだ。
杖もあるし、剣の予備も槍もあるしな。」
そう言ったのはゴドリックだった。
彼は決闘が趣味で鎧や兜も持っている。
そして独身で、最近は生活の拠点がホグワーツに移りつつある。
大切な私物を厳重な警戒をもって保存できる部屋を求めるのはむしろ必然だった。
「そうねえ。
子供たちが薬草を悪戯すると困るものねえ。」
「まあ、材料の中には危険なものもあるからな。
邪魔されない研究室も確かに欲しいし、まずは希望と案を纏めるか。」
ヘルガとサラザールも薬草や魔法薬の扱いには慎重を期していたから、部屋のアイディアは歓迎された。
それらのうち、サラザールが作成した「秘密の部屋」は千年ののち、魔法薬には直射日光がよくないからという当初の理由は忘れ去られ、単にバジリスクを隠しただけの部屋として表舞台に登場するのだが、他の三人の秘密の部屋については、理由どころか、あったことさえ忘れ去られているのだから、年月とは容赦ない。
秘密の部屋の作成もさることながら、生徒の人数が増えて、授業自体の繁忙、課外の生徒同士のちょっとした揉め事、それ以外にも成長期の子供らが生活することによる思わぬ雑事ーー、つまり背が伸びて服が入らなくなったとか、そういうことに対処しなくてはならないことが一気に増えた。
当時の衛生観念では水は貴重なもので、毎日風呂に入る習慣は一般的なものではなかったが、密かにローマ経由の文化、温泉とお風呂が大好きなサラザールが、新陳代謝の激しい十代が集団で発生させる臭気と雲脂にキレた。
何しろ彼らは魔法使いである、サラザールはロウェナに頼んで、生徒用の男女別の大浴場を作り、魔法で湯を張る設備を作り上げ、石けんを備え付けて、少なくとも最低で週に二回は絶対に入浴するよう全員に申し渡した。
男子生徒は、似たような気持ちでいたブラック兄弟とレストレンジがとっつかまえて入れたし、女子は「美容にいい。」と聞けば手間はなかった。
「なんだ、そんなカリカリしなくてもいいじゃないか、な、サラ?」
大変馴れ馴れしくサラザールと肩を組もうとしたゴドリックは、
「臭い!
ゴドリック、貴様は肉ばかり食べてて、本気で獣臭いんだ!
最低でも一時間はみっちり入って汚れを洗い流してからじゃないと近付くな!」
と、にべもなくその手をはたき落とされた。
うっかり、
「臭い?臭い・・・?」
と本気で落ち込んだゴドリックはさておき、ともあれ、教師という立場の人間が足りないことは確かだったので、人を教えたことのあるーー、家庭教師や大陸での学校教師経験者を優先して、教師を募集することにした。
これも、インターネットどころか、郵便も雑誌もない時代、保護者や有力者への書簡、当時既に原型があったダイアゴン横丁の魔法族が利用する薬屋などに貼り紙をしてもらうなどのなんとものんびりした方法で求人は行われた。
ホグワーツでは授業料というものの相場が分かっていなかったが、志しはともかく、すべてが四人の、特にロウェナの持ち出しではすぐに財の底がつくのは分かっていた。
初年度の入学者の保護者は金額の多寡はともかくとしても、寄付やハウスエルフの移譲や何かで少なからずホグワーツの地盤を作るのに何かを供出していた。
継続的に子供達を預かって世話をしていくのに、善意の寄付という形だけでは息詰まるだろうというのは、やや楽天的すぎるゴドリックでさえそう認めた。
どういう形にするかというのを話し合って、大陸を参考に、ともかく年単位で最低金額の授業料を定め、金銭的に余裕のある家庭には寄付を募るということで落ち着いた。
それでは、いったいいつまでを在学期間と定めるかという話は、前に成人年齢という話を出したが、現代でもそうだが、地域と文化によって、大人と認められる年齢はバラバラである。
マグルの庶民では、10歳にならずとも働ける年齢になれば否応なしに社会の一員として働き始めるし、ローマでは15、イギリス中世あたりは、貴族の場合、馬上槍試合に確実に体格が耐えうる21であったりした。
もっとも、彼らがこんな俯瞰的な視点をもって議論したのではなく、彼らは彼らの時代の彼ら自身の常識をもってしてそれぞれ意見を出したのではあるが。
「教えてたら、結構みんな飲み込みがいいわ。
4、5年もしたらいっぱしの魔法使いになるんじゃないかしら?」
ヘルガが生徒から提出されてきた課題を見ながら感心したように言う。
「それだったら、5年目くらいに決闘でもやらせて実力を試したらいいんじゃないのか?
それで大丈夫なら卒業ってことにすればいい。」
ゴドリックの発言を一部否定しながら、サラザールがそれに意見を言う。
ちなみに、今はペンシーブ部屋に集まって話をしているが、なぜかゴドリックは距離をとろうとするサラザールの真となりに座って、サラザールのやや長い灰色の髪を弄っている。
まるきり構ってもらいたい子供の所作だが、サラザールは最初律儀に拒否していたところ、余計にゴドリックが構ってくるので現在は完全無視に徹している。
「決闘はともかく、5年という区切りはいいかもな。
ちょうど成人ころだし、実技を含む試験をいくつかやって、大丈夫そうなら卒業可にしようか?」
ここで、後のO.W.L.の原型が考えられた。
「基本はそれでいいけど、もう少し残って専門的に学びたいと言う子も出るのではないかしら?
残る子は残して、2年くらいで上級試験を設けましょうよ。
希望者も多分いるわ。」
天才肌で研究者気質なロウェナも提案する。
ここで、後のN.E.W.T.に該当する試験形式も考えられた。
後のホグワーツを形成する様々な要素が着実に一つずつ形成されつつあった。
「兄さん、図書館のここから奥は立ち入り禁止じゃないの?」
今年入学したブラック家のアルナイルは、兄のアルタイルに話しかけた。
二人は図書室に来ていた。
新入生のアルナイルは図書室では一番手前の棚以外のものはまだ触らないよう言われていた。
だが、課題で分からないところがあったので、兄のアルタイルに質問したところ、図書室に連れて来られたのだ。
「このあたりは大丈夫だよ。
一番奥は寄贈本の原本が置いてあるから触らないよう言われたけど、それ以外は写本だから持ち出さないなら見ていいって、サラおじさんに聞いてきた。」
人前では「先生」と呼ぶものの、この兄弟は小さなころから近所のおじさん扱いで接しているため、油断すると呼び方が以前に戻る。
「教科書としてまでは写本を作らないけれど、一番奥以外は参考書代わりに見ていいって言われてるんだ。
一番奥の一番上の棚は写本も作らなかったらしいけど。」
まだ空きの多い図書の棚の中で、中程にある本を一冊ずつ丁寧に引き出して内容を確認し、違うと分かったら慎重な手つきで戻すということを繰り返しながら(この時代、本というのは本当に高価で貴重な品なのだ)、アルタイルが言うと、弟のアルナイルは「写本も作らなかった」という部分に気を引かれて、兄に質問した。
「写本を作ってないのもあるの?
どうして?」
アルタイルは、三冊目に取り掛かっていた手を止めて、声を潜めて答えた。
ここには彼らしかいないのに、なぜかつい声を潜めてしまう話題というのはあるものだ。
「他の奴には言うなよ?
何冊か、かなり危険なdark artsを取り扱った本が置いてあるから触らないよう言われたんだ。
生徒に教えるかどうかはまだ協議中なんだって、サラおじさんが言ってた。
去年入学の奴らは、選別に居合わせた、っていうか、一緒に立ち会ったから知ってるけど、今年入って来た奴の中には、やんちゃなのがいるだろ?
遊び心で手を出したら、死ぬより危険な目に遭うって、聞いたら喜んで試しそうなのが。」
言われて、アルナイルは同級生の顔を思い浮かべる。
入学して1ヶ月も過ぎれば、さすがに自寮の仲間は把握出来るが、他寮の生徒までは覚束ない。
だが、確かに冒険大好きな獅子寮と、探求大好きな鷲寮の生徒の中に、いかにもそういったことが好きそうな面子がいたのは覚えていた。
「あー、タイル兄さんが心配してること、確かに分かる気がする。
分かった、黙ってるよ。」
「頼むよ、ナイル。
あ、あった、ほら、ここの魔術理論。」
彼らは、羊皮紙の本の一冊一冊が重いのもあって、本棚と本棚の間に座り込み、まるで隠れているようになっていた。
そのとき、がちゃりと図書室の扉が開いて、だれかが入ってくる気配がした。
足音が重くて、大人つまり、教師の誰かだと思う。
二人はちょっとびっくりしたが、正直重くて大きな本を抱えて、立ち上がって出て行って挨拶するのが面倒くさかった。
二人は一瞬目を合わせると、その一瞬のアイコンタクトで、軽く頷きあって、声を出さずに動きを止めた。
気付かれたら挨拶すればいいやと思っていたが、足音の主は、死角になった二人に気付かず最奥まで通り過ぎ、案外と乱暴に本を扱う音がして、しばらくすると、また来た道を辿って出て行った。
二人は足音が去った後、同時に息を吐いた。
どうやら、知らぬうちに緊張して、息を止めていたようだった。
「兄さん…。」
アルナイルの言いたいことが分かって、アルタイルも頷いた。
悪いとは思いつつ、持っていた本のページを広げたまま、床に置く。
立ち上がって、音がしていたほうの棚に行く。
まず間違いなく、音がしていたのは禁書棚だった。
「兄さん…、あそこ。」
浮遊魔法が使えなければ手の届かない高さにある位置の本に明らかに空欄がある。
写本すら作らなかった禁書を、誰かが持ち出した。
「あの辺って、兄さんの言ってた禁書の辺りだよね?
どうしよう、先生方に聞いた方がいいのかな?」
アルナイルの戸惑いに、アルタイル自身も戸惑っていなかったわけではないが、強烈に兄として、弟を落ち着かせてやらないと、という気持ちがわいてきた。
「あまり大きな声で聞いたら、ほら、さっき言った連中にも知れちゃうから。
サラおじさんにこっそり聞いてみるよ。
先生方なんだから、禁書で確認したいことがあってもおかしくないし?」
アルタイルの浮かべた笑顔に、奇妙な不安を掻き立てられていたアルナイルは多少ほっとしたようだった。
ただ、アルタイルには、入学1ヶ月のアルナイルと違って、あの武人特有の、やたら重い足音に心当たりがあった。
ゴドリック・グリフィンドール。
おそらく。
ゴドリックは、生徒にdark artsを教える気はないと公言していた。
それがなぜ本を必要とするのか?
アルタイルは、はっきりとしない不安感を拭うことができなかった。
サムイン祭の季節が訪れようとしていた。
魔法界とは言え、マグル文化の影響を受けるのは避けられず、20世紀には現代的なハロウィンに変化していたが、本来は祖霊を祀り、この時期には先祖の霊が帰ってくることもあるーー、と、要するにケルトのお盆である。
ともあれ、マグル文化の影響を受けるのに数世紀単位で時間が掛かる魔法界のこと、サムイン祭がキリスト教に取り込まれて変容する前の形であるから、お馴染みのtrick or treatはないものの、とりあえずお面を作って、ご馳走を用意して、大広間で皆でわいわいやろうという話になった。
実は去年も軽く祖霊儀式くらいはしていたのだが、去年は教師生徒合わせても12人しかおらず、今年は一気に総勢50人に届きそうな勢いなので、多少息抜きになるようなことをしようと、ゴドリックが言い出したのだ。
そうは言うが、ゴドリックは何かというとすぐに訓練だ模擬戦だと言って生徒を決闘に巻き込んだり、体がなまると言ってはすぐに狩りに繰り出したりもするので、普段、息抜きをしていないなどということは全くない。
とりあえず、週一もうけた休日(現代の日曜日)に、近郊(と言っても今の感覚では数百マイル単位)の街で、マグル、魔法族問わずに決闘を売ったり買ったりするのはやめてほしいと、珍しくロウェナが思っているが、これは一応、近郊も彼女の所領で、ゴドリックがまさかロウェナの賓客ーー、同僚とは知らない領民から、酒場で決闘騒ぎを起こしたイングランド訛りの赤毛の騎士が色々ものを壊したのに、弁償しないで去っていったなどという苦情が上がって来ることがあるからだ。
これはことさらにゴドリックが特別なのではなく、中世の上流階級はナチュラルに下々のことは眼中にないだけのことである。
そんなことはさておき、大広間では大きな祭壇を設えて、牛を一頭、働けなくなった年寄り牛でもないのに、生贄用に潰していた。
潰した後は、ご馳走用にハウスエルフが回収である。
子供たちま普段口に入る肉は豚なので、固いお年寄り肉でない牛さんには歓声を上げた。
これがマグル社会であれば、屋内の豪華なお部屋で屠殺など後がまともに使えなくてもっての他だったろうが、呪文一つで臭気も血糊もすべてが綺麗になる魔法文化は大変便利である。
「狩りならまだしも屠殺じゃあなァ。
あんまり勇壮な感じもしなくないか?」
儀式に使った槍の血糊を呪文で拭ったゴドリックは、血沸き肉躍る狩猟などとは違うので微妙な顔をしていたが、サラザールから
「何を言ってるんだ。
これが儀式のメインじゃないか。
主役をお前がやらないで誰がやるんだ、似合っていたぞ?」
と煽てられて、
「そ、そうか?
かっこよかったか?」
と、機嫌をなおしていた。
ゴドリックが気付かず、アルタイルたちスリザリン生は気付いたが、サラザールは「似合ってる」とは言っても「かっこいい」などとは一言も言っていない。
ともかく、生徒たちはここ一週間で自分たちでそれぞれ作ったお面をかぶって、きゃっきゃわいわい追いかけっこに興じている。
お面の出来は、板に目の穴を開けただけのものから、妙に完成度の高い立体的なお面まで、本人たちの技量とセンスに造形がかなり左右されていたが、奇妙な光景であることに変わりはなかった。
大広間と、同じフロアの廊下と扉をわざと開けておいた部屋いくつかなら走り回ってもいいと許可したら、各寮、勝手に鬼を決めたらしく、鬼はいつの間にか牛の足の骨(きちんと肉も筋もこそいで綺麗なもの。ハウスエルフが気を利かせたらしい)を振り回して、わーきゃー走り回っていた。
牛の脚は四本なので、確かにちょうどいいかもしれないが、子供たちの羽目を外した姿を、サラザールは苦笑しながら見守っていた。
「?」
ふと、サラザールは、違和感を感じた。
今、生徒に紛れて、奇妙な面を被った小柄な人物が出入りしたが、アレは生徒ではない。
それ以前に。
「サラ、気付いたか?」
ゴドリックが、槍を置いて、手慣れた剣を手にしていた。
「アレは・・・、人間じゃないな。
戻ってきた祖霊(ゴースト)でもないようだが。
なんだ・・・?」
ヘルガは肉の焼き方について、ハウスエルフに采配をするために、厨房に去っていて、その場にいなかった。
突然、ロウェナがふらりと立ち上がって、手の甲を上に杖腕をすっと上にあげた。
「ロウェナ?」
ロウェナの、数年に一度起こるか起こらないか分からないレベルの予言者体質に思い当たって、サラザールはロウェナが言うであろう言葉に耳を傾けた。
「渾沌(カオス)より生まれ出ずる、未だかつて生きたことのない者!
死を知らぬ者!
凝りて形を作り、生を知らぬまま、生者とともに千年紀(ミレニアム)を歩むだろう!」
ロウェナの言葉を聞いて、サラザールはもう一度、彼が見つけたものに視線を戻そうとした。
「生きたことがない者?
そりゃ、不生者ってことか?
リディラクスやらディメンターやらのお友達ってかよ!」
ロウェナの言葉を聞くや否や、ゴドリックが飛び出した。
「ゴドリック!
子供たちを傷つけるなよ!」
サラザールは、トランス状態から醒める巫女が、概ねそうであるようにぐらりと自分の身体の制御を失って後ろに仰け反り倒れようとしらロウェナを抱きとめ、狩りだ!とばかりに駆け出したゴドリックに声を掛けた。
「うわっ、何!?
ゴド先生なんだよもうー!
びっくりするなぁー!」
木の板に穴を開けただけのような仮面でも、赤毛と声と口調でイグネイシャスと分かった。
だが、生徒の中で一番ゴドリックの狩りに付き合わされているせいか、ゴドリックの唐突な行動にも慣れていた。
「おう、イグ!
てめえら付き合えや、アレ!あいつ!
人でもゴーストでもねえ、一狩り行こうぜ!」
「えっ!?
あれっ、ホントだ知らない子だ!」
仮面をつけていたせいか、のちにピーブズと呼ばれるポルターガイストの形状、身長が子供のものと大差なかったせいか、ゴドリックに言われて彼らは初めてそれが見知らぬ何かだと気付いた生徒たちは、ばっと、ピーブズから距離を取った。
「クーケケケケケ!
気ヅイたのかよー!遅エヨー!
なんカ変なことヤッてんなー!混ゼロよー!」
ピーブズは皆の驚きにひるむどころか嬉しげに跳ね回っていた。
お気づきかもしれないが、ピーブズも発生したばかりは、そんなに流暢な喋り方でもなかった。
「おう、混ぜてやるぜ!
叩っ斬ってやる!」
そう言ったゴドリックがピーブズに飛びかかったが、倒すどころか、ピーブズは翻弄するようにひょいひょい動き回り、それにつられたゴドリックの振り回した剣があちこちを破壊する。
子供達も大騒ぎで物を投げ付けたりして、新しい遊びと思っている節がある。
ロウェナは我関せずで、というより、予言の後なので意識がない。
サラザールはロウェナを被害の及ばなさそうない長椅子に寝かさせると、騒ぎを収めようと嫌々杖を取り出したが、正直どこから手をつけていいか分からなかった。
「サラザール、これはどう言った騒ぎなの?」
いつのまにか、牛肉の調理からヘルガが戻って来ていた。
サラザールは、ロウェナの予言と現れたピーブズのことを説明した。
話を聞いたヘレナは、だが、損害甚だしい周囲を見回して、注意深く首を振る。
「そう・・・、事情は分かったわ。
でも、この損害は、ポルターガイストのせいじゃないわね?」
サラザールは頷いた。
元凶は目の前で剣を振り回して被害を拡大しているし、釣られた子供達が集団で囃し立てて回るせいで、更にひどいことになっている。
全く隠す気もない。
ヘルガは再び懐からポットを取り出した。
「おゆき!ホッピング・ポット!」
その日、ゴドリックの額には三個ならず瘤ができ、大広間には史上初めてピーブズの不愉快な高笑いが響いたのだった。