ホグワーツ創設物語   作:奈篠 千花

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■第3章 蛇の舌 後編■

年末を迎えるのも三年目で、彼らも徐々にルーティンに慣れ始めていた。

ただ、この年初めて、年末年始とても家に帰れないという生徒が出た。

フクロウ便で明らかになったところ、彼女の両親は家で冬の風邪薬にあたる魔法薬を醸造していたのだが、良くない慣れによる手順の省略により、小規模の爆発に巻き込まれ、命の別状はなかったものの、少なくとも年末年始は休養に充てなければならず、娘を迎えに来る余力がないことが明らかになったのだ。

これが、東部のサラザール、南部のヘルガ、ちょっと信用は薄いが西部のゴドリックの範囲だったら一緒に送って行くこともできたが、彼女はスコットランド最北の生まれだった。

一応ゴドリックは身軽な自分が送って行こうかと申し出はしたのだが、明らかに気乗りがしない様子だったので、他の面子が彼に頼むのはやめておこうという話になったのだった。

彼女の滞在は、ホグワーツでもユールの飾り付けをするということに一役買った。

 

少なくともヘレナは下級生の少女の滞在を喜んで、口を開けば研究と成績のことばかり言う母親以外との休暇を楽しんでいた。

ヘレナの父親は近隣とは言っても馬で1日かかる距離に住んでいる別の所領の領主で、ロウェナも了解の上で妾を持ち、自分自身の後継と城を持っていたので、ヘレナが父親に会えることは年にに何回もなかった。

「あなたがいて嬉しいわ。

お母様はいつも研究に夢中で、あんまり一緒にいてくれないの。」

ヘレナはそう言って心の中で、一緒にいるときは私の成績が悪い理由を聞いてばかりいるし!と付け加えた。

「そうなんですか?

でも、ホグワーツに来た時、お父さんとお母さんと離れたのは寂しかったわ!

先輩はロウェナ先生と一緒にユールのご馳走を作ったりはしないんですか?」

「うちは、料理は全部ハウスエルフがしてるから・・・。」

ヘレナは何が気まずいのか自分でも分からないまま、小声で返事をした。

多分、ヘレナは上流階級の女性はほぼ自分で料理をしないという以外に、自分の母親が自分と二人きりで何かをしようとしたことがないというのが耐え難かったのだと思われる。

 

幸い彼女はその辺りの細かい機微に気付いた様子はなく、ごく無邪気に、同級生から聞いた噂話でヘレナに追い討ちをかけた。

「そうなんだ、うちは一人しかハウスエルフがいないから、全部は手が回らないし、やっぱりご領主のお家ともなるとすごいですね!

やっぱり、凄いものもいっぱいあるんでしょうね。

このホグワーツだって凄いもの。

そういえば、ロウェナ先生の髪飾りって、賢さを増す秘宝って本当ですか?

そんなのあったら、私もちょっとは呪文覚えるの楽になるのかなあ。」

若い女の子は打ち解けると饒舌だった。

 

ヘレナは前にも耳にしたことのあるその噂に、心臓が止まるような心持ちがした。

その噂は前にも耳にしたが、ヘレナはその後、何かの折に母親に聞いてみたのだ。

「お母様、その髪飾り綺麗ね。」

そういうと、ロウェナは複雑な表情をしながら、髪飾りに手をやった。

「そう?

あなたのお父様からもらったのよ。

だいぶ前、貴方が生まれる前よ。」

その返事を聞いて、ヘレナはそれ以上聞けなかった。

スコットランドの他領の領主である父親は姿さえめったに見ない。

「髪飾りはお父様からの贈り物らしいから、そういうんじゃないんじゃないかしら?」

そういうと、若い女の子の興味はすぐに色恋に移ったようで、

「まあ、素敵!

あんなに立派な細工なんて、愛を込めてらっしゃるのね!

でもそれだったら、ロウェナ先生の役に立つ魔法とかも込めてらっしゃいそうよ!

素敵ねえ!」

何やら想像のストーリーが、脳内で出来上がっているらしい。

 

だが、ヘレナは父親が魔法を込めているかもしれないという発想に衝撃を受けた。

その考えは、この後、長く彼女を捉えて放さない。

 

 

 

 

 

 

学期が始まってからしばらくは順調だった。

ただ、まだ、体育も運動の概念もない時代、体を鍛えると言えば狩りか決闘かみたいなところはあったが、初年度はイグネイシャスたちを引き連れて、頻繁に狩りに行っていたゴドリックが体がなまると言い出した。

三学年まで進むと、人数が百人近くなるので、実質希望者を連れて森を歩き回るのが難しいというのもある。

ただ、これはゴドリック自身が森を走り回っていないということを指すわけではない。

 

最初、ゴドリックは決闘クラブをやろうぜ!と言ったが、まだ呪文に完全に習熟していない生徒もいるので、という理由で、時期尚早と他の3人に反対された。

ホグワーツならクィディッチ、と思いそうだが、なにしろ千年以上前。

箒に乗る文化がスウェーデンで始まったばかりで、今の形のクィディッチは影も形もなかった。

 

代わりにというか、それ以前に魔法族に流行っていたのはクレオスシアンという名前の競技だ。

多少のスリルがないとすぐに飽きる魔法族のこと、クレオスシアンは頭に容器を載せて、上方から石や岩を投げ落とし、最終的に容器に受けられた物の重さを量って、重い方が勝ちという大変スリルにだけは満ちた競技だ。

もちろん、投げ落とす物の重量上限や、高度制限も一応あるのだが、エキセントリックな魔法族の、さらにクレオスシアンをやろうかというエキセントリック集団がルールを守るわけもなく、巨石に潰されたり、首の骨を折って死亡という事故が後を絶たない。

 

ゴドリックは、じゃあ、このクレオスシアンをやろうぜ!と提案したが、これは決闘クラブ以上に全員に反対されて実現しなかった。

スポーツ系のイベントについては、数世紀後、クィディッチが定着するまで迷走を繰り返すことになる。

 

 

 

 

 

生徒と教師の募集は引き続き行われたが、この年、改善すべき議題として上がったのは生徒の振り分けだった。

それまでは、面接とはいかないまでも、直接、最初の教師の四人が生徒に相対して所属を振り分けていた。

だが、二年目でもそれは大変な作業で、さらに三年目は大混乱を生んでいた。

ホグワーツは着実に拡大の傾向にあり、四年目にも同じくらいか、やや多い人数の入学希望の打診が届けられていた。

彼らは毎年恒例でこの振り分けを自分自身で対応しきれるとは考えなかった。

だが、彼らは自分自身で確実に受け入れたいと思う生徒の理想形があり、無作為に「選ばない」で寮に受け入れるという考え方は許容が困難だった。

 

彼らは授業が終わった冬のある日の午後、昼食の後、そのまま大食堂でその件について話し合っていた。

これについては、会議と言えるだろう。

結局その問題の解決の糸口をつかんだのはロウェナだった。

彼女は確実に天才だった。

「私たちは結局、生徒の資質を見て、話し合って、それから彼らの寮を決めるじゃない?

だから、それを代行する魔具を作れたら、私たちが言い争うこともないし毎回話し合う手間も省けるんじゃないかしら?」

ロウェナの意見を興味深そうに聞いていたのはサラザールだったが、そのような魔具が作れたら確かに諍いは減ると思うが、技術的にどれほど難しいのだろうかと思って質問した。

「確かに・・・、そんな魔具があれば寮分けも今後安定してやれるだろうが、意見を組み込むとか、資質を見るとか、そんなことのできる魔具が本当に作れるのか?」

ヘルガもサラも、似たような顔をしていた。

それだけ心に関わる魔術は難しいのだ。

 

「そこで、ペンシーブの出番よ。

あれに使われている魔法は独特で、未だに分からないところもあるんだけど、一部は解読したの。

あれも元はただの石でしょう?

それに呪文を掛けて、一種のレジリメンスを対象に掛け、更にそれを液状とはいえ保存を可能にするんだから、すごいことよ!

だから私たちも、ペンシーブでそれぞれの入寮希望者について、理念を焼き付けて、統合して、それに基づいた擬似人格を魔具に付与できれば不可能じゃないと思うの。

生徒の資質の方は、魔具の方に解読したレジリメンス呪文を応用して付与すればなんとかなると思うのよね。」

 

怒涛のように語られた言葉に対する反応は様々で、ロウェナの次に研究者気質なサラザールは、言われたことを反芻するように沈黙を守り、ゴドリックはどこか面白くなさそうに黙って聞いていた。

結局、口を開いたのはヘルガで、彼女は慎重に自分の疑問を口にした。

「貴女が言い出して出来ないとは思わないけど、ーーそんな強い魔法に耐えられるものが何かあったかしら?」

指摘されて、ロウェナが、決まり悪げにはにかむ。

「それなのよね。

永年保たせようと思ったら、結構強い呪文の重ね掛けになるから、試しに普通の椅子で試してみたら、あっという間に劣化しちゃって。」

可愛く言っても、内容は全く洒落にならない。

 

「ああ、確かにな。

そう言った呪文を組むことは不可能ではないだろうが、確かにそれに見合うだけの魔法耐性のある素材でなければ、最初の呪文ひとつでダメになりそうだ。」

サラザールが熟考の末、やっと言葉を発した。

彼はロウェナの理論を自分でも検討し、脳内で再構築して見たところ、複数の魔法使用とそれによる負荷と、さらにその負荷に耐え得る魔法素材の加工ができれば、その理論は可能だという結論に達した。

サラザールがロウェナの協力すれば、思いもかけない発明は更に複雑で精緻なものになるのは間違いない。

ただ、サラザールが現在持っていた手持ちのものは、彼の興味がその時点で魔法薬により向いていたと言う理由で、どちらかというと消耗品としての薬の醸造の原料となるようなものが主だった。

薬草学が得意なヘルガのコレクションも似たようなものだろう。

 

突然、サラザールは珍しく面白くなさそうに黙って座っているゴドリック・グリフィンドールのコレクションのことを思い出した。

「ゴドリック、何か心当たりはないのか?」

サラザールの突然の問いに、ゴドリックはちょっとだけ眉を上げた。

「何がだ?」

サラザールとゴドリックは、初年度の生徒と創設時の教師以外はその関係性の微妙な緊張感に気付いておらず、むしろゴドリックの軽快で親しげに見える雰囲気に、親友であるという評判さえ立っていたが、実際のところ、彼らは初対面から決定的に相容れない部分があった。

それでも、最初に魔法族のための学校を創設しようという話が出た初対面の時から既に10年以上の時が過ぎ、彼らがお互いに全く不信と警戒心だけで接するのもまた不可能な話だった。

彼らの会話は率直な言葉で交わされたが、交わされても相互理解が成り立ったと言えないことも多く、すれ違うことも多かった。

だが、また、それだけの年月の間に独特の気安さと、不思議な相互不理解とでもいうべ距離感が形成されているのも、単純に友情と言い難い形ではあったのだが。

 

「耐久性のある、そういうの。

休みとは言わず、あちこちで賭事だの決闘だので、自分じゃ使いもしないような魔道具やら金貨やら栗鼠みたいにかき集めて来ているのは知ってる。

魔法耐性があって、かつロウェナが呪文を掛けられそうなの、何か持ってるんじゃないか?」

今で言えばギャンブル依存症に近いものがあるのかもしれない。

ゴドリックは、そういったものをかき集めた自分の「秘密の部屋」に溜め込んでいて、実際に使うかどうかはともかく、獲得することに意義を見いだしている節があった。

ただ、現代では好戦的で浪費的で無駄と見なされがちなそれらの行為も、当時は男らしさと強さの象徴にしか過ぎず、むしろ、肯定的評価となって「ゴドリック・グリフィンドールは当時最強の決闘者であった」という伝説となって伝わっていく。

 

ともあれ、ゴドリックは手に入れた後の戦利品にはあまり興味がなかったので、大抵のものはゴドリックの秘密の部屋に打ち捨てられていた。

「ああ、言われてみればなんかあるかもな?」

ゴドリックは、正確には持ち物の一覧を頭に浮かべることもできなかったらしく、気のない返事を浮かべた。

「本当?

じゃあ、行ってみましょうよ!

何か使えるのがあれば、一気に計画が進むわ!」

ロウェナの興奮が組み分けの利便化によるものか、それとも前代未聞の魔道具開発に係るのかは今ひとつはっきりしない。どうも後者である気もする。

いずれにせよ、当時、秘密の部屋は、鍵はともかく、場所はお互い同士には秘密ではなかったので、彼らは全員でその部屋に行った。

 

「すご・・・、ちょっと集め過ぎじゃない?」

ヘルガがそういったのも無理はない。

ゴドリックの秘密の部屋はまともな家具ひとつあるわけでもない殺風景さの代わりに、雑然と詰まれた兜や鎧、小手、宝箱、宝石、金貨までが無造作に投げ出されるように散らかっていたからだ。

「整理の出来ない男だな・・・。」

サラザールが思い切り嫌そうに顔をしかめていたが、ゴドリックは涼しい顔で言い切った。

「違うぞ、サラ。

整理出来ないんじゃない。しないんだ。」

「余計最悪だ、片付けろ!」

 

「それにしても、色々混ざってはいるけど、これだったら、本当に使えるものもありそうよ?

しばらくは、午後は品物探しね。」

さすがに物量の多さにロウェナが溜息をつきながら、辺りを見回した。

4人総掛かり(ゴドリックは非常にやる気がなかったので、実質3人)で探して、一週間以上掛かったのだが、その価値はあった。

そのまま物色していては埒があかなかったので、彼らは結局、棚や大きな箱を用意して、検分の終わったものはそこに収納したり、放り込んでいったりしたのだが、最終的にいくつかの品物が候補に挙がったからだ。

 

兜、盾、小手。

それらの品はエンシェントドラゴンの鱗であったり、何か非常に稀少な魔法生物の骨であったりした。

そして、帽子。

尖った形の布の帽子は、外観はさして上等そうには見えなかったが、その日たまたまサラザールの頭に巻き付いていたバジリスクがその希少性に気付いた。

「サラ、サラザール。

それ、そこにある何か。

強い。

強い力を感じる。

匂いがする。

それが役に立たない?」

バジリスクは、多くの時間を秘密の部屋で過ごしたが、時には、サラザールが盲目の呪文を掛けて周りに被害が及ばないようにしてから、彼の肩や腕や首に巻き付けて一緒に外出していた。

バジリスクは人間の言葉を解さなかったが、サラザールか、モーフィアスが居合わせれば通訳をすることができるので、サラザールは、今彼らが力のある魔法をかけても大丈夫そうなものを探しているということを子蛇に伝えていた。

サラザールの灰色の髪は長かったが、蛇が肩口あたりで巻きつくと絡まるので、彼は今一本の三つ編みにして後ろに垂らしていた。

バスリスクは面白がって三つ編みに巻きつくように登り、最終的にサラザールの頭の周りを巻くように収まっていたので、まるでそれは蛇の冠のように見えた。

 

ゴドリックは文字通り目を眇めて蛇を見たが、何も言わず、暗黙の了解で彼は今日は不死鳥を連れていなかった。

サラザールは、バジリスクに言われた辺りで手に取って確かめていた。

「サラザール?

どうしたの?

その辺り、あんまり使えそうなものがありそうにも見えないんだけど。」

ロウェナの問いに、サラザールはとんがり帽子を手に取って振ってみせた。

「これが、この子が力があると言ってる。

知ってるとは思うが、バジリスクには視覚以外にも特殊な感覚があるんだ。

多分素材が特別なんだとは思うが、形状的には趣味の悪い帽子にしか見えないな。」

サラザールの言葉に、レイブンクローが受け取って確かめる。

ゴドリックはその帽子をみて頭を捻っていたが、一つ思い出したようで、「ああ!」と声を上げた。

「何か心当たりが?」

サラザールが尋ねると、ゴドリックは首を振った。

「いや、ちょっと前にイングランドの南の方で手に入れたんだったとは思うが、小汚い爺さんが被ってた帽子だったと思う。

道を譲る譲らんで賭けをしたんだが、当然爺さんが負けてな。

金目のものは何も持ってなさそうだったから帽子をよこせと言ったらそれだけは勘弁してくれと言ったんだよな。

だったら絶対それが一番大事なんだろと思って取り上げたんだが・・・、やっぱ貴重なのか?」

サラザールはゴドリックの言っていることが不愉快だったが、それを顔に出さないように努力した。

 

「これは──、凄い。

今はもう絶滅した古代種の、大蜘蛛の糸だと思う。

糸の形に縒るのも大変な作業だろうに、それを普通のの布のように見せかけて、帽子に仕立てているなんて!

これだったら魔法もよく絡むだろうし、逆にどんな魔法にもよく耐えるでしょう!

それは千年紀を十分に過ごすでしょう!」

ロウェナがまたちょっと予言者入りを仕掛けていたが、今回は瞬間的なもので、すぐに彼女は帽子を引っ掴んで、実験をしたいようだった。

「ちぇ、せっかく手に入れたのにな?」

吝嗇という感覚とはまた別に、ゴドリックは自分の所有権に妙にこだわるところがある。

だが、それはそれとして、とんがり帽子の形のそれは、生徒を選り分ける手段として、十分に耐えられそうなので、使わない選択肢はなかった。

 

それから、午前は授業、午後は組分け帽子に費やす日々が続いた。

各人の希望や理想、理念や思想、そういったすべてのものをペンシーブに詰め込んで、なんならペンシーブがただのポルターガイストに擬似人格を与えた過程をも参考にし、ロウェナが呪文を組んで、ヘルガとサラザールが確認する作業が続いた。

ゴドリックは最初のペンシーブへの入力以来気が向けば手伝っていたが、呪文をよく省略したりして、感覚で使いこなしている天才型なので、精緻で地味な作業にはあまり向かなかった。

これらの作業は、今で言う学習型人工知能の作成とバグ取り作業によく似ていたが、彼らにはその予見もなかった。

 

結局、最終的に、彼らの理念をつぎ込んだとも言える組み分け帽子が完成したのは学期も終わろうかという5月の末のことであり、終わったときには作業量の多かった3人は揃ってほっとしたのであった。

「とりあえず、完成ね。

間違って誰かが触らないように、ペンシーブのある部屋に置いておきましょうか。」

「賛成だ、学生が悪戯したら泣くに泣けん。」

「あそこなら、私たち以外入れないものね。それがいいでしょうね。」

ただ、三人は忘れている。

三人以外にもう一人自由に入れる人物がいることを。

 

三人が去った後、完成を聞いたゴドリックはペンシーブの部屋へ足を運んだ。

彼は帽子に刻まれた魔術式をしげしげ眺めた後、鼻歌交じりに式をいじり始めた。

「クソ真面目な式なんか組んで、人生には遊び心が必要だろ?」

そういって、彼が刻んだ式は中核部分には掠りもしなかったが、来期頭、いざ組み分けを行おうというとき、突如として組分け帽子が珍奇な歌を珍妙な節で歌い始め、ほかの三人は相当にぎょっとすることになる。

 

 

 

 

 

 

それから、生徒たちのことも話そう。

と言っても、さしたる事件があったわけではない。

人が増えて、生徒たちが各寮にそれぞれまとまった人数住むようになって、どうしても、それぞれのまとまりに色が付き、確執が生まれ始めたという話だ。

後世の人間は意外に思うだろうが、この時点では、純血主義というものはまだ明確に形をなしていなかった。

なぜならば、悪名高い魔女狩りはまだ始まっておらず、魔法界そのものがマグル界と完全に袂を分かたっておらず、宮廷や各地の領主の屋敷で、魔法使いや錬金術師として雇われることもあるような時代であったからだが、更に言うならば、ホグワーツ急行もない時代、例え、マグルの家庭に魔法使いが生まれたとしても、せめて片親が魔法族でなければ、ホグワーツの存在も知りようもなく、毎学期、ホグワーツに安全に送り届けることなどほぼ不可能であったため、完全に両親がマグルの生徒は、この時点で未だ、レイブンクローのイドワルひとりだったということもある。

マグル生まれと純血(両親に本当の意味でマグルがいない魔法族など実在しないわけだが)の確執は、もう少し時代が下って、学校がマグル生まれの魔法使いにも魔法教育を受けさせようと、積極的に捜索と勧誘を始めたあたりから明確になるのだ。

 

それでは、この時代、何がきっかけだったのか。

このあたり、どうしても、各寮に組分けされた生徒の気性の違いが軋轢を起こしたとした言いようがない。

「一年生がまた喧嘩したんだって?」

学年末のこの季節、図書館から借りてきた第二原本から最上級生のアルタイルが、同じく上級生のイグネイシャスに話し掛けた。

「そうなんだよなー。

なんか大食堂の自分たちがいつも座る席に座ってる奴がいたからって、席はいっぱいあるのに、なんでそんなことで喧嘩をするのか分かんないよな。」

イグネイシャスが溜息をつきながら呪文を唱える。

ちなみに彼が何をしているかというと、次年度用の教科書の複製作業、要するにみんなで先生のお手伝いである。

現在は教科書の複製作業を業者に頼めないか本屋にあたってはいるが、そもそもこの時代には「出版業界」なるものはヨーロッパには存在しない。活版印刷が最初に普及したのはアジアであり、9世紀ごろ中国ではすでに大量の木版印刷物が流通していたが、ヨーロッパではもっぱら羊皮紙への手書きの複製が主流であったため、そもそも「書店」はその時点で並べているほとんどの品が「古書」であり、さらに「本屋」であるだけで高級店であるという時代である。

著作権の概念はかけらもない時代であるというのを念頭に置いて、彼らの作業がこの時代で違法ではないことは理解しておいて欲しい。

 

「寮で席を分けるっていうのは?

そしたら最初からて近づかないわよね?」

占星術の基礎概念の本を、ハウスエルフが手渡してきた白紙の本に複製の呪文で写しながら、メドレイアが提案した。

「うーん、でもそれだったら僕らも一緒に食べれなくなるよ、それも面倒じゃない?」

イグネイシャスとよく一緒に行動しているオーファンが首をかしげる。

イグネイシャスはグリフィンドールで、オーファンはハッフルパフだったが、彼らはよく一緒のテーブルで食事をしていたし、最上級生は寮を問わず、人数の少なさでよく一緒に行動することがあったから、分けられるのも確かに不便な話だった。

「寮ごとになったら、下の子ばっかりと一緒になるんでしょ。

ちょっと面倒くさいなあ。」

微妙な発言はロドリウィスで、やや甘えたの性質があって、三年生になってもそれが特に変わるわけもなかったので、彼は下の子の面倒を見るのが面倒くさがった。

「オッファンは相変わらずだね。

学校とかなくても、下の子に教えるのは[[rb:純血>かぞく]]の義務だっていうのに、そういうわけにもいかないでしょ?」

真面目なフロドリーが諌めるが、なぜか微妙に反発したのはヘレナだった。

「何よ、義務って。

別に好きで長子に生まれたんじゃないしーー。」

多分それは単なる独り言だったのだが、本当にたまたま、皆の呪文の切れ目が重なったために、小声だったのに、妙に大きく響いた。

 

沈黙が落ち、皆の手が奇妙な気まずさで止まった時、諌めるようにイドワルが

「ヘレナ──。」

と呼んだのに、ヘレナが弾かれるように反応した。

「な、何よ、分かってるわよ!

そんなこと言うもんじゃないって言うんでしょ!

ちょっと口に出ちゃっただけなのに、いつもいつも言わなくても分かってるわよ!」

ヘレナはそのままパッと立ち上がり、図書館から駆け出していった。

「あー、タイミング悪かったな。

ヘレナ最近カリカリしてないか?」

アルタイルが作業を再開させながら溜息をついた。

「どうする?

追いかける?」

メドレイアが戸口の方を見るが、作業は再開させている。

「いや、ちょっとそっとしといたほうがいいんじゃない?

夕食までには頭も冷えるだろ、多分。」

オッファンがそういって、そっとイドワルの方を見る。

イドワルにヘレナを責める気がなかったのだろうが、微妙に相性が良くない、と常々思っていた。

「まあね。

話戻すけど、これからまだ人数増えるだろう?

もしかして、生徒のまとめ役とかをきちんと決めたほうがいいのかもなと思うんだよね。」

フロドリーの言葉に、アルタイルもイグネイシャスも、他の面子も確かに、と頷いた。

「そうだな。

ちょっと先生に相談してみようか?

まあとりあえず、今はこれ、できるところまでやってしまおうか。」

アルタイルがそういって、他の面子も特に反対はなかった。

この思いつきが、後々、監督生制度に繋がるわけだが、何しろこの時点ではまだ年齢もばらばらな三学年しかいなかったので、案でしかなかった。

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