ホグワーツ創設物語   作:奈篠 千花

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■第4章 組分け帽子の誕生 後編■

冬になり、新年を跨ぐ休みで学校から人を引き上げるのも毎年のことになりつつあったが、その年、珍しくゴドリックはホグワーツに残った。

だいぶ潤沢になったホグワーツの図書館の本をじっくりと確かめたかったのも本当だろう。

図書館は、dark artsを含め、正規に買ったもの、寄贈図書と種類も冊数も相当に充実してきた。

そして、それとは関係なく、近隣の城下、つまりレイブンクローの所領であるが、目に付いた食堂や酒場に入って頻繁に賭事や決闘を行うのはやめなかった。

それは密かに、為政者としてのレイブンクローにとっては悩みの種だったが、サラザールや生徒に知られない事件が、新年すぐに後半の学期が始まる前にあったことを、先に記してからこの節を始めよう。

 

新年を迎え、ゴドリックは退屈して、街に繰り出していた。

街というのはつまり、レイブンクローの所領の街で、ゴドリックはことさらに名乗ってはいなかったが、大きな態度と喧嘩っぱやい性格からそれなりの有名人となっていた。

その日、ゴドリックが「決闘」した相手は若い男で、それなりに腕に自信のある相手だった。

決闘という言葉で今では曖昧にされがちだが、この時代の決闘は血なまぐさいものであり、相手が死ぬことも十分にありえた。

特にゴドリックの武器は剣で、それが振るわれる時に相手が無傷だなどとどうやったら考えられるだろうか?

つまり、その日、ゴドリックは一人の若い青年の命をホグワーツ近郊の街で奪った。

四六時中相手にとどめを刺しているわけではないから、その青年はゴドリックが彼を放置して立ち去った後、駆け付けた兄に事の次第を伝え、復讐を願う時間があった。

兄は、ゴドリックの身辺を探り、彼が人里離れた廃墟と目されている城跡を拠点としているらしいことを突き止めた。

無論、この評価は、マグル避けの魔法を設定した上での評価であるので、一般の住民にはそう評価されているという話だ。

普通だったら、マグルの兄はホグワーツを訪れても廃墟があるようにしか見えず、それで終わる。

今回不運だったのは、その兄が、いわゆるマグル生まれ、魔法力を持ちながらマグルの両親の元に生まれたため、自分が魔法使いだという自覚のない魔法族だったことだ。

ホグワーツは本人の自覚の有無に関わらず魔法族を弾かない。

青年の兄は徒党を組んでホグワーツに向かい、ホグワーツは彼を魔法族と認識して、姿を隠すことをやめた。

廃墟の代わりに立ち上がった城に、青年の兄は困惑したが、弟の仇を討つことは、家族としても男としても期待された義務だったので、彼は城内に足を踏み入れた。

城内には誰もいないように見えた。

今回はロウェナとヘレナも元々の居城へ戻っていたし、ハウスエルフは見知らぬ男たちの集団に姿を見せないようにしていた。

ただ一人、ゴドリックを除いて。

ゴドリックは男たちが城に入ってきたことを、物音とざわめきから知った。

ゴドリックは己の剣をあらため、獰猛に笑った。

相手に見覚えもなかったが、人数と武装で敵であることはたやすく知れた。

「おまえさん方、誰をお探しかな?」

階段の上から悠然と現れた赤毛の体格のいい男に、侵入者は一斉に刃物を抜いて構える。

「貴様だ!

先だって、弟を殺したのは貴様だろう!

その血をもって償わせてやる!」

兄は目当ての人物を見つけて精一杯自分を鼓舞して言ったが、なにぶん相手が悪かった。

「あ、あー?

弟?

よく覚えてねえや、ま、いい。

そんな人数ってことは、こっちも容赦はいらないってことだよな。」

兄は憤激して斬り掛かったが、返す返すも相手が悪かった。

ゴドリックは、これは「決闘」ではなく「襲撃」だと認識し、形ばかり保っていた礼儀や作法を振り捨てて、剣と魔法で彼らを翻弄し始めた。

あたりは見る間に血の海と化し、ゴドリック以外に立っているものはいなくなった。

いや、いない訳ではない。

いつの間にかピーブズが質の悪いけたけた笑いと共にそこにいた。

ゴドリックはピーブズを無視してハウスエルフを呼びつけると、死体の片づけを言いつけた。

「おい、これ、適当に片付けとけ。

ヘルガたちに知れるとうるさそうだから、分からないようにしろよ。」

言いつけられたハウスエルフは困惑したが、彼らは主人の命令には逆らわないようになっている。

「知られないようにとはどのようにーー。」

「いちいち聞くな。

言われたことだけしてろ。

余計なことも言うな。

聞かれたことにだけ答えてればいい。」

結局、分からないようにという指示を彼らなりに守って、彼らは死体をホグワーツの一角に埋め、床や壁の血糊を掃除した。

他の教師や学生が戻ってくるころには痕跡はまったく分からないようになっていたが、それらのことは、学期が始まってから思わぬ影響を及ぼすことになる。

 

 

 

 

 

 

レッドキャップが発生した。

 

それは、学期が始まってしばらくの間、発見されなかった。

ホグワーツは広大で、未だ生徒や創設者以外の教師にも把握されていない箇所はいくらもあった。

地下、ハウスエルフが現在使用されていない城の片隅の、土がむき出しの地下室の一角に数名の遺体を埋めたことは、ゴドリックと、数えていいのならピーブズ以外誰も知らなかったが、レッドキャップは殺人の気配を嗅ぐ。

彼らは魔法生物なので、森を通って敷地内に入り込み、人殺しの気配を嗅ぎつけた。

最初に来たのは一匹だったのかもしれないが、彼らは人に気づかれないうちに何匹も移り住み、繁殖期を迎え、数十匹以上の群れに膨れ上がった。

レッドキャップは鼠算式に増えるので、次の繁殖期を迎えたら、手に負えないほど増えることは確実だった。

レッドキャップは数が増えるにつれ、彼らの縄張りを広げ、じわじわと地上に近づきつつあった。

その種はマグルには非常に危険だが、魔法使いであれば防御呪文や逸らし呪文で対処できる。

だがここは学校で、まだ十分に呪文に熟練していない子供たちがいることを考えれば、それは十分に危険だった。

 

「レッドキャップ?

間違いないのか?」

生徒から、教師がその報告を聞いたのは、春から夏に変わろうとする初夏の頃だった。

朝食のテーブルには相応しくないかもしれないが、必要な報告だった。

「間違いないのか?

地下に繁殖してるって。」

サラザールは信じられないというように、目を瞬かせた。

「間違いないみたいですよ。

幸い、遭遇したのはレイブンクローの上級生だったので、彼女は目眩ましの呪文で存在を気付かせないようにして、魔法生物を確認したようです。」

ヘルガの息子は真面目な様子で、遭遇した場所や数を、学校の責任者、つまり上席の教師である創設者に報告した。

サラザールは彼のこういった気負わない態度は気に入っていたし、普段は気楽に話せる相手でもあったが、今回の報告は顔をしかめざるを得なかった。

 

「何かしら、移動の群れでも迷い込んだのかしら?」

ロウェナも眉をひそめたが、心当たりはないようだった。

「いずれにしても、子どもたちがいるから、早めに片付けないとね。

現状を確認しましょう。」

ヘルガはため息をつくと、ベル一振りでハウスエルフを呼び出した。

「ねえ、ホグワーツにレッドキャップが湧いたみたいなんだけど、どのあたりにどれくらい湧いてるか分かる?」

ハウスエルフのかしらというものがあるのなら、それに相当するであろう年老いたエルフは、問われたことに流暢に語り出した。

「はい、分かります、奥様。

地下の、土がむき出しで外と繋がっております区間に、およそ59匹が棲息しております。」

「なんだとテメエ!

分かってたんなら、なんでさっさと言わない!」

ゴドリックがハウスエルフに文句を言うと、ハウスエルフは嫌そうにも見える表情でゴドリックを見上げ、抑揚のない調子で言い切った。

「それは旦那様の言いつけでした。

聞かれたことにだけ答えよとの仰せでした。

私どもは聞かれませんでした!

誓って!

旦那様はお尋ねになりませんでした!」

ゴドリックはそれを聞いて、彼の指示を思い出したので、余計なことを言うのは止めた。

 

「とりあえず、午後はレッドキャップ狩りね。

子どもたちは寮に帰そうかしら。」

ロウェナが思案するのに、ゴドリックが乗る。

「おう、そうしようぜ!

さくさく全部片付けてやらあ」

ゴドリックが立ち上がったところで、ヘルガが止める。

「午前は授業よ、駆除は午後だから。

そうね、それに、実習がてら最上級生だけは連れて行ってはどうかしら?

下級生は危ないけど──、四年生なら大丈夫じゃない?」

「そうだな、最上級生ならな。

引率を決めて、下級生は避難指示を出して午前中は準備の時間もいるだろう?

用意万端にして、腹拵えして、──午後だな。」

サラザールも同意する。

不承不承ゴドリックは座り直した。

 

レッドキャップ討伐はさほど難しくなく済んだ。

それは殺人妖精ではあったが、熟練して強大な魔法使いの前ではそれほどの脅威ではなかった。

生徒も実践を学びつつ、地下を歩き回ってレッドキャップを片付ける。

ピーブズがはしゃぎながらその様子を見ていたり、面白がってレッドキャップの妨害や足止めをしたりしていたが、概ね順調に討伐は進んだ。

一番面倒だったのは、数の確認でレッドキャップを積み上げて数えたが、残しておけばまた繁殖する。

1日では終わらず、数日を掛けて行われたそれらは非常に面倒ではあったが、ハウスエルフが不可解な彼らの魔法で総数を明確に把握していたので、確実に終わらせることができた。

 

レッドキャップ騒動は一見それで収束したかのように思われたが、それはサラザールに疑念を残し、また次の騒動の火種になった。

「先生?」

サラザールと組んでレッドキャップの胴を呪文で横薙ぎにしていたアルタイルがサラザールに話し掛けた。

手分けしていたので、その場所に他のものはいなかった。

「なんだ?」

サラザールが杖を振って返り血を防ぎながら問ひ返す。

「レッドキャップ、どうして湧いたんでしょう?

死の気配がないと巣は作らないんですよね?」

正しい。

正確には魔法族やマグル、ゴブリンなどヒト属の殺された死の気配だ。

そしてそれは、サラザールが授業で教えたことの一つでもあった。

 

「ヘルガやロウェナは、何か人型の魔法生物が入り込んで、移住で漂泊中のレッドキャップの餌食にでもなったのではないかと言っている。」

結局、サラザールが言ったのはこれだけだった。

サラザール自身も、おそらくヘルガとロウェナもそんなことは信じていない。

そして今期を通してホグワーツに残っていたのは、赤毛の教授一人だったという事実に言及することを避けた。

アルタイルは、何か言いたげな顔をしたが、結局それを言葉にすることは避けた。

 

 

 

 

 

 

レッドキャップは、ホグワーツの誰よりもピーブズを喜ばせた。

ピーブズは何かが起こること、ハプニングが大好きで、誰かを困らせるのも大好きだった。

ピーブズは実はそれまで定まった形を決めておらず、大男や老婆、青年や少女とにかくさまざまな姿で現れ、時には人の姿ですらないことがあった。

ポルターガイストに性別はないし、生まれたこともなければ、真実の形での生命も持っていないが、レッドキャップの目撃以来、ピーブズは好んで醜い小男の姿を取ることが多くなった。

さらにレッドキャップの出会い頭に襲うという習性を、出会い頭に生徒たちに悪戯を仕掛けるということで再現したので、物理的に非常に迷惑な存在になりつつあった。

 

「ピーブズを取り除くことは、実質不可能だ。」

サラザールは、ポルターガイストの性質をある程度把握していたので、ピーブズのエネルギーがどこから来ているのか察していた。

ホグワーツが魔法族の学校であり、これほど多くの制御しきれない魔法を持つ子供が集まる場所では、一度形成された擬似人格を持つポルターガイスト、ピーブズにエネルギーが流れていくのを阻止するすべはほぼない。

もちろん、全く手段が考えられないわけではないが、地区にロウェナがその手段を取ることを望まないのは簡単に予想された。

「まあ無理でしょうね。

でもちょっとは躾が必要かしら?」

ヘルガも同意する。

「子供が怪我したりしてるものね。

困ったものだわ、仕掛け部屋でも作って押し込めようかしら。」

こちらはロウェナ。

「それはいい手だと思えないな。

仕掛けは時間が経てばどこかに綻びが出るし、ピーブズには無限と言っていい時間があるから、いつかは鍵を破るだろう。

その時の暴れっぷりを考えたら、あまりいい考えじゃないだろう。」

サラザールが指摘する。

 

「まあ、試してみるか。

前からあれは目障りだったんだ。

叩っ切れるか試してみたい。」

ゴドリックが、名乗りをあげるが、他の教師は懐疑的な視線を送った。

ピーブズの存在は、現世的な肉体とは一線を画しているので、相当に直裁的なゴドリックの剣や魔法の威力は、この件に関しては信頼がおけなかった。

「やめておいた方がいいんじゃないの。

何か壊したら自分で直してもらうから。手伝わないわよ。」

ヘルガが警告しても、聞くような男ではない。

「何もやらないよりましだろ?

まあ、ある程度脅せられればいいんならなんとかなるだろ。」

楽天的なゴドリックの見通しは、今回に限ってはいい結果を生まなかった。

「うわ、ひっどい、また壊したよ、あの壁。」

「え、ちょっと、階段の手すり取れた。」

「あんまり近づくなよ、流れ魔法が飛んできたら危ないから。」

これらは、ゴドリックがピーブズを魔法と剣で追い回していた時の見物していた生徒たちの感想である。

結果から言うと、ゴドリックのピーブズ狩りは、盛大なる失敗に終わった。

 

ゴドリックは何日もかけてピーブズを追い回し、ダメージを与えようと試みたが、物理的な剣の攻撃と、彼の判別しやすい攻撃のための魔法はポルターガイストであるピーブズととことん相性が悪かった。

生徒や教師はゴドリックとピーブズがやり合っている付近を避けて通ったが、何しろ、彼らは縦横無尽に暴れ回っているので、完全に避けて歩くのは難しいのだった。

更に、この状態のゴドリックが自分の分担の授業をまともにするわけがなく、彼の授業は自動的に自習になっていたので、創設者含む他の教師で手分けして教えていた。

 

その日、ブラック家の第三子、ペルセフォネ・ブラックは、スリザリンの同級生の女の子とおしゃべりしながら、ロウェナがややこしい呪文を掛けた流れる階段を下りていた。

彼女が階段の中ほどを降りようとしているとき、突然の声が掛かる。

「おわ、危ねえ、どけよ!」

一応言っておくと、ペルセフォネはその直前に、ピーブズとゴドリックはどのあたりにいるらしいという話を聞いてから、関係ない辺りを歩いていたはずである。

ペルセフォネの聞いた話が間違っていたわけでなく、この場合、ピーブズとゴドリックのやり合いながらの移動範囲と速度が並ではないのだ。

「ケーケッケ!

これは俺のせいじゃないもんね!」

ピーブズの哄笑が響き渡る。

「落ーちる、落ちる!

娘っ子が落ちる!ライオンのせいで落ーちる!」

ゴドリックが階段の下をすり抜けようとしていたピーブズに向けて撃った爆発呪文が、流れる階段の裏側に誤爆したのだ。

「きゃああ!」

階段の下部がべきりと崩れて少女たちが投げ出される。

 

「やっべ!」

ゴドリックは階段が崩れたのには気付いたが、走り抜けながらピーブズに斬りかかっていたから、少女の落下に対応はできなかった。

「ペルセフォネ!」

階段の下の廊下を、少なくとも彼女が見える距離でサラザールたちが歩いていたのは幸運だった。

サラザールは、彼の寮の生徒たち、アルタイルやアルナイル、ロドリウスたちと廊下を歩いていた。

アルナイルがいち早く気付いて悲鳴を上げ、アルタイルが反射的に走り出したが、走るのでは間に合わなかった。

サラザールは呪文を唱える暇も惜しく、杖さえ取り出さず彼の魔法を蜘蛛の巣状に展開した。

それは彼女と彼女の友人をそっと受け止め、衝撃を緩和して、彼女たちをふわりと床に降ろした。

「ペルセフォネ!

大丈夫か、無事かい!?

良かった怪我がなくて・・・。」

駆け寄ったアルタイルが心配のあまり彼女を力の限り抱きしめる。

ペルセフォネは恐怖で泣きそうになって

「お兄ちゃん、怖かった・・・、怖かったわ。

叩きつけられると思ったら、ふわって浮かんで降ろされたの。」

ほんの少し遅れて駆けつけたアルナイルもぎゅうぎゅうとペルセフォネを抱きしめながら、ふわっとした魔法を行使したであろう自分たちの担任教師を見た。

 

サラザールは、杖無しの無言呪文で力を行使して急激な力の消耗に見舞われてはいたが、改めて杖を取り出して廊下の向こうでばつが悪そうにしているゴドリックと壁から半身を出してケタケタ笑っているピーブズを睨みつけていた。

「貴様、──何か言うことはないのか。」

サラザールが杖を向ける。

魔法使いが杖を向けると言うことは喧嘩を売っているにも等しいが、やましい心当たりがあるゴドリックは怒る代わりにがりがりと頭をかいて、目を逸らした。

「いや、まあ、なんだな。

怪我がなくて無事で良かったな!」

ピーブズは当然反省の色などかけらもなく、醜い小男の形で、壁を出たり入ったりして、

「怒られた、おっこられたー!

オレのせいじゃないぜー!

オレはかっわいいイタズラしかしてないぜ!」

と跳ね回っていた。

「き、さ、ま、は、謝ることもともにできんのか!」

サラザールの怒りに呼応して、頭を冷やせとばかりにゴドリックの頭上から大量の水が降り注いだ。

「ピーブズ!

分をわきまえろ!

その気になれば、貴様が飽きて泣くほどの時間を、壁に塗り込めて話せないようにしてやるくらいのことは造作ないのだからな!

それとも貴様の核(コア)を完全に破壊してやろうか、ロウェナは文句を言うだろうがな!」

サラザールの怒りはそのままピーブズにも向き、精神を制御する魔法を扱う要領で、ピーブズが抜け出せない「見えない網」を作り、高い天井からぶら下げるようにピーブズを吊り上げた。

「げっ、げっ、なんだこりゃ、放してくれよう!

なんでオレを縛れるんだよう、謝るからやめてよう!

こん畜生、抜け出したら覚えてろよ、寝てる間にけちょんけちょんにしてやるからな、覚えてろよ!

許してようごめんよう!」

思ったことが隠せずにそのまま表出するピーブズは、基本精神体である自分が拘束されたことに混乱して、謝罪と罵倒を器用に繰り返していた。

ゴドリックが捕まえられなかったのに、サラザールが簡単にできた理由は彼らが得意な魔法の指向性の違いによるものが大きいが、ゴドリックは吊り下げられたピーブズを見て、びしょ濡れのままここぞとばかりに剣を構えた。

 

「このゴブリンもどきが。

ちょうどいい、叩っ斬ってやるぜ。」

ゴドリックが吐き捨てた言葉は、サラザールの神経を逆なでし、さらに怒らせるには十分だった。

「やめろ、ゴドリック。

お前の剣じゃ、ポルターガイストは斬れない。

本当はお前、分かってるんだろう。

あれは2、3日吊っておく。

お前は面白半分で遊んでたんだろうが、生徒を危険に巻き込むな。

一歩間違えば大惨事だったんだぞ。」

ゴドリックは、苦虫を噛み潰したような表情から、十分に理解していたと思われるが、とうとう謝ることはなく、

「くっそ、なんでも斬れるって触れ込みの剣だったんだが。

俺の剣じゃあ斬れないってんなら、斬れる剣を調達してくるだけだ。

ゴーストだって斬れる奴がどっかにあるはずだろ。」

サラザールには許容しがたいゴドリックの反応だったが、ゴドリックはサラザールが何か言うことができる前に、くるりと踵を返して、そのまま立ち去り、その日は夕食にも姿を見せなかった。

 

「先生!」

生徒たちが駆け寄ってくるのに、サラザールは生徒の方へ心を向け、ペルセフォネと彼女の友人の無事を確認することを優先した。

彼はそれから、自分が水浸しにした廊下とゴドリックが破壊した階段の修復を生徒と手分けして行い、騒ぎ立てるピーブズはそのまましばらく放置した。

趣味の悪いオーナメントのように吊り下げられたピーブズはしばらく生徒の魔法の練習の的となり、サラザールのことを本気で憎んだが、就寝時含め、サラザールに仕掛けようとした「悪戯」は、ピーブズの魔法痕を認識したサラザールが迎撃用の魔法トラップを敷いていたせいで、概ね全て返り討ちにされて終わった。

ピーブズを的にした精神系のものも含めた魔法の練習は、スリザリンが得意だろうと言う大方の予想とは違って、レイブンクローのイドワルが一番ピーブズを的確に捉えていた。

これに関しても、ヘレナ本人が周囲に隠していたので気づかれはしなかったが、彼女は密かに劣等感を募らせていた。

 

そしてヘレナ。

彼女は組分け帽子の存在を見て、今あれが使われていたら、自分はレイブンクローであったことはないのだろうと悩んでいた。

ゴドリックが明るい冗談のつもりで歌わせた歌は、思いのほか彼女の心を刻み、勉学と創造性などは自分にはなく、純血と言う理由でスリザリンに行くか、誰でも受け入れるハッフルパフだったのだろうと、起こらなかった過程を夢に見ることで、誰にも相談できない気持ちを抱えて過ごしており、そして、母親のロウェナはそれが全く自分自身が抱いたことのない感情ゆえに、ヘレナの気持ちを察することはできなかったのだった。

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