どんなことをしていたのかな
綺麗な朧月が汚れた窓から顔を見せる。
ひんやりと冷えきった床、もう既に感覚もなくなった指先。
どうしてだろう。毎日願ってるのに祈ってるのに、今日も人間にはなれなかった。
「…っこんなのいらない!!」
尻尾と耳を全力で引っ張るけど、漫画みたいに上手く取れるはずもなくて、痛いだけだ。
「っ…もう、やだ」
私は人間に捨てられた身。
最初は、美しいだの珍しいだの、宝石のように私を見ていた目はいつからか、恐怖に怯えた目に変わっていた。
それから私は、骨董品のように扱われた。
「まだ痕、残ってる」
手首にくっきりと残っている手枷の痕。首元には未だにゴツゴツの首輪は健在している。
ビュー…
「っ、さむ」
冷たい風が強く吹き荒れる。
開け閉めができない窓をそのままにして、私は体を丸め目を閉じた。
「こんばんわ、子猫ちゃん」
いつの間に入ってきたのかわからないが、目を赤くギラギラと光らせた男の人間?がすぐ傍にしゃがんでいた。驚きで尻尾の毛が逆だった。
「…誰…?」
人間かと思ったけど、全てが異様な雰囲気を醸し出している。
「僕はドラキュラさ」
「どらきゅら…?」
ドラキュラって、人間たちが噂していた…血液を吸うんだよね…?
「そうだよ、my little honey?」
彼はしゃがみ、顔を近づけてくる。
近い…
「君のblood(血)、味見させていただくよ」
「えっ…いたっ!!」
彼の鋭い爪が私の頬を切り、生暖かい感触とじんじんとした痛みが交わる。
「んん♪…予想通りの美味しさだ…」
彼は幸せそうに頬を緩ませる。
「いきなり、何するんですかっ…」
「すまないね、君の存在を知ってから味見したくてしたくて堪らなかったんだよ」
もう一口と言うように、また口を頬に近づけてくるが阻止した。
「もうやめてください!」
「阻止するというのかい?この僕を」
「はい、阻止します」
「そんなことするとはね。素直に吸わせてくれればいいものを。君の体を引き裂いて食べてしまってもいいんだけどね」
「そんなこと私にしても、何も価値を得られませんけど」
「ふっ…君は怖がらないんだね、僕のこと」
「…怖くないですから」
もう怖いって感情はお腹いっぱい。何も感じなくなってしまった。
「…君の名前、なんだい?」
「私の名前?」
そういえば、名前なんかあったっけ。随分と呼ばれてないから忘れてしまった。でも何かあったような。…
「名前…あっ、ユキ…だった気がします」
「ふん、ユキかあ…いい名だ」
むかしむかし、私の主様が付けてくれた名前。大好きで大好きで堪らなかった主様。今はもう会えないけど。
「僕はジルド・レイ。レイって呼んでも構わないよ」
口角を上げて話す彼の目には眼光がない。何を考えているのかわからない。
「それじゃあ、味見したことだし…僕はもういくよ」
「えっ」
寂しくなる、また凍えてしまう。この今少しでもある温もり…消えてしまう。
「行かないで」
思わず、彼のジャケットの裾をクイッとつかんでいた。
「っ…!」
見上げれば、逆光に照れされて影がかかっていた彼の顔は驚きを隠せないような顔をしていた。
「…まだ、そばにいて…ください」
私は何言ってるんだって思うけど、まだ暖かい空間にいさせてください。
「…まったく、君は寂しがり屋さんかな?」
そう言うと、ばっとジャケットの中に入れてくれた。とても暖かい。急激の安心感が眠気を誘う。
「…名前の通り、君は冷たいね…どれだけ1人でいたんだ」
レイの暖かな体が私をギューッと包む。気持ちよくて、私は目を閉じた。
「…もうすぐで、6ヶ月間になります…」
「ろっかげ…っ…そうか」
「はい…」
「半年間こんな冷たい空間にいたのか…しかも1人で…。孤独、恐怖を通り越して無、か…」
温もりに溺れ、私は意識を失う。
「これからは、僕がそばにいるよ」
主様は、私に「ユキ」という名前を付けてくれた。ユキって呼ばれてそばに寄ると、必ず微笑みながら撫でてくれた。
主様…会いたいです…。
続く